バルゼリッドとの決闘を明日の夜に控えたこの日、蓮やルクス、リーシャを含めた『
今回の目的は大型の
しかし、今回の調査はいろいろイレギュラーな状況になっていた。
「ほんとにクルルシファーさんも行くんですか?」
「ええ。たまには協力しないといけないから」
まず、ユミル教国からの留学生であるクルルシファーが参加していること。
学園の規定で、他国からの留学生は本人の意向がない限りは戦闘を目的とした出撃、遺跡調査へは参加しなくてもよいのだが、今回はクルルシファー本人が強く望んだことらしく、参加していた。
蓮が気になって聞いてみても適当に流されていて、真意は掴めていない。――いや、蓮にはある程度の想像はできていたが、確信には至っていない。
「さて、未来のわが妻のお手並み拝見と行こうか」
そしてもう一つはこの男、四大貴族クロイツァー家の嫡男でアルテリーゼがクルルシファーの婚約者として選んだバルゼリッド・クロイツァー卿。今回は助力が必要だと判断されないまでは一切の手出しはせず、この調査同行で負った負傷等はバルゼリッド自身の責任として学園側に何の責任も発生しないという条件でレリィ学園長に許可を取っていた。
この男は何の目的をもって参加しているのか、全く予想はできないが、警戒だけはするようにはしている。
「総員構えろ!ゴーレムが来たぞ!」
リーシャの掛け声で、『
しかし――
「先に始めさせてもらうわ」
「な!?おい、待て!クルルシファー!」
突然、クルルシファーは単騎で
リーシャが止めに入るが、クルルシファーは止まらずに、凍結弾を放てる神装機竜《ファフニール》の特殊武装《
リーシャも諦めがついたのか、『
蓮やルクスもまたリーシャ達と共にクルルシファーの助勢を始める。
「……遅いわ」
クルルシファーは単騎であるにもかかわらず、正確な射撃を幻神獣に当てていた。
反撃が来てもクルルシファーを守るように自動防御の機能を持つ特殊武装《
そしておそらくは未来予知の能力を持つ《ファフニール》の神装《
「惚れ惚れするなぁ、これは……。スコープ等の照準補助なしでも関節部に確実に当てる精密性。俺のは大まかに狙いつけて撃ってるだけだからな」
「そうだね。でも、神装と特殊武装をあれだけ併用してるから消耗も相当のはずだけど……」
「王女様の話に嘘はなかったと言うことか」
リーシャが以前言っていた話によると――
「ああ、あいつの適正値は異常といってもいいほど、ありえなく高いんだ。そういう意味じゃあルクスやあいつも不自然なんだが」
皮肉の混ざった言い方だったが、そういうことらしい。
数分後、ついにゴーレムはその核をクルルシファーに撃ち抜かれて、土煙となって消えた。
『お疲れ様です。クルルシファーさん』
『これくらい、問題ないわ』
蓮は竜声でクルルシファーにねぎらいの言葉をかけるが、返答は簡素なものだった。
『それじゃ、遺跡の内部は僕たちに任せてください』
『そう言うことで、待っていてください。すぐに戻りますって』
『いいえ。私もこのまま、遺跡に降りるわね』
『!?』
だが、クルルシファーの言葉に驚愕と違和感を覚える。
一見いつも通りの冷静に見えるが、どこか余裕がない。
何かがおかしい。普段の彼女を考えれば今回のこの態度はおかしい。
『クルルシファーさ――』
『みんなっ!気を付けて――なにかいる!』
『レーダーによる敵影を確認。新手の
蓮が真意を聞こうとした直後、ティルファーとノクトから警戒の竜声が飛ぶ。
土煙が晴れるとそこにいたのは――
「あれは…ディアボロス、か!」
容姿は以前学園を襲ったガーゴイルに似ているが、立ち上がった大熊を優に超える巨躯、赤茶色の皮膚。そして、巨大な漆黒の翼。
小都市一つは滅ぼしてしまうほどの、凶悪な中型の幻神獣。危険度はガーゴイルの数倍と言われる。
「―ギエェアァアアェアー!」
ディアボロスは咆哮を上げながら空を蹴る。
「――ッ!?」
向かう先はノクト、咆哮に気を取られ身をすくませた『
リーシャたちは反応したが、いかんせん距離が足りない。
「クッ…!」
「ルクス…さん!?」
「いいから――逃げて!」
《ワイバーン》を纏ったルクスがブレードでディアボロスの豪腕を受け止めていた。
ノクトはすぐさま離脱。自分の腕では邪魔になると判断したからだ。
(このままじゃ――砕ける!)
一方ルクスの状況も悪い。タイミングと位置共に完璧だったルクスの受けだが、受け止めたブレードにはひびが走っている。
ディアボロスはその人外のパワーでブレード砕くために力を籠める。しかし、何かに気づいたようにディアボロスはルクスの機体を蹴り、その反動で以て距離を取る。
ドウンッ!
轟音の直後、リーシャの《キメラティック・ワイバーン》が放ったキャノンがルクスの前を通り過ぎた。
「―チッ!」
リーシャがたまらず舌打ちする。
「ギェアッ!?」
ダメージに反応し音を漏らすディアボロス、その左腕は凍結していた。
クルルシファーの《
その隙に、『
「さて、そろそろオレの出番かな」
余裕さえ感じられる声の主は同行していたバルゼリッド。
その身は、群青の神装機竜《アジ・ダハーカ》を纏い、分厚い装甲の機竜使いと化していた。
直後、両肩のキャノンに紫の光が収束し、発射される。《アジ・ダハーカ》の特殊武装、《
しかし、紙一重で敵には避けられる。するとその砲撃は『騎士団』のメンバーをかすめていった。
「バルゼリッド…」
「不満があるか、レン・フェルテよ?」
「チッ…!」
バルゼリッドの発言自体はどうでもいいが、この男は、周囲にいた『騎士団』を砲撃に巻き込む距離で発射した。仮に何があっても『事故』でもみ消す気だな!
「ふざけるのも大概にしろっ!でないと、私が先にお前をぶちのめすぞ」
「ふざけた真似はやめてもらえるかしら?」
リーシャも蓮とルクスのそばに戻ったクルルシファーの声にも少なからず怒りが混ざっていた。
しかし、バルゼリッドは気に留める様子もなく、《アジ・ダハーカ》の装甲腕をそっと《ファフニール》の肩口に乗せる。
「くく、つれないな未来の我が妻よ。だが、それくらい気が強くなくていい、それでこそ従えがいがあるというものだ」
「あなたより先に私が敵を始末する。それで問題ないでしょう」
「ほう、頼もしい限りだ。まだ余力を残しているとはな」
「待て!一度態勢を立て直す!」
涼しげな顔《アジ・ダハーカ》の腕を払いながら言い切り、クルルシファーはリーシャの指示を無視して《
「平気よ。私が先走りで迷惑をかけてしまったし。それに――時間が惜しいの」
蓮は感じた。クルルシファーの、その声と表情に感情を押し殺したことを。
そして慌てた。クルルシファーは高い精度の遠距離射撃を得意とすることに。
「今度こそ―仕留めるわ」
バルゼリッドに手を出させず、注意を引くための接近。
しかし、何事にも適材適所というものがある。囮役となるのは大抵近接を得意とする者だ。クルルシファーのように遠距離を得意とする者はよほどのことがなければ前には出ないのが常である。
だが、それは普通の遠距離タイプの話だ。至近距離での攻防となれば未来予知の神装があるから、分はクルルシファーに少なからず
そう。
「…ッ!?どうして《ファフニール》の予知が――?」
「!?―ルクス!バルゼリッドを見ておけ!」
交錯の刹那、クルルシファーの横顔に動揺が走る。
蓮がとっさに反応し、《ヴリトラ》を最大出力で飛翔させる。
さっきまで一切の隙を見せなかったクルルシファーに生まれたその決定的な隙を幻神獣は見逃さない。
「グルルァァ!」
「――――」
幻神獣から放たれた地獄の如き炎がクルルシファーに迫る。反射的に《凍息投射》を撃ったものの、その冷気は炎に呑まれて消えた。
「チッ!」
とっさに蓮が炎とクルルシファーの間に突貫し、クルルシファーは炎を免れた。
蓮も炎に巻かれることを避けたものの、追撃の拳を双剣の腹で受け、地面すれすれまで押し戻される。
「ぐっ…どうしてこうバカ力なのかね…ッ」
「蓮!?」
ルクスが叫ぶと同時、リーシャ達『騎士団』のメンバーによる集中砲火が放たれる。だが、これもまた回避される。
「やれやれ、やはりオレの助けが必要じゃないか」
《アジ・ダハーカ》から再び放たれた《
「む…?」
「なっ…!?」
「え…?」
蓮とルクスとクルルシファーは同時に漏らしていた。
リーシャを始めとした『騎士団』も皆、一様に驚いていた。
《ファフニール》の神装《
ディアボロスは空中にいた。遮るものはない。
なれば、先の砲撃を躱されることは予想できても、避けた方向まではわからないはず。
しかし、バルゼリッドはそれを成した。
「…どうして?私は――」
クルルシファーの声は表面上、いつもの冷静な声。
しかし、蓮やルクス、他の『騎士団』メンバーでさえも見たことがないほどに狼狽えていた。
突如使用不能となった神装《財禍の叡智》、そして
この二つが普段から冷静沈着な少女の顔を、動揺で歪ませていたのだ。
「ギエァァァァ!」
先程の一撃が致命傷となったであろう幻神獣は断末魔の声を上げ、後は崩れるだけ。
しかし、突如、その体が膨らんだ。
『――ッ!?まずいッ!全員障壁を展開しろ!自爆するぞ!』
その光景の意味することを悟ったリーシャの竜声が響いた直後、幻神獣の体に赤い亀裂が入る。すぐにルクスはクルルシファーに視線を向ける。
「障壁を張ってください!幻神獣が自爆します!」
「どうして……動かないの?私の《ファフニール》が――」
クルルシファーの機体はガタガタ震えていた。自動防御の特殊武装《
使い手の消耗による、制御の混乱――暴走。
「――っ!クルルシファーさんっ!」
「クソッタレが!!」
機体の制御が効かなくなり、憔悴しきったクルルシファーにリーシャの声もルクスの声も聞こえてはいなかった。
直後、幻神獣の体が閃光と共に爆散する。
ルクスが呆然とするクルルシファーの盾になるべく正面に立ち、蓮がその二人の前に出て障壁を張る。
しかし、後ろの二人を気にして範囲を広げた障壁で幻神獣の自爆による爆風と衝撃に耐え切ることはできずにルクスとクルルシファーと共に吹き飛ばされた。
蓮が最後に見たのは爆発の色ではなく、まばゆい白だった―――。
改めて思いましたが、戦闘時ってルビ振り多いなぁ……。
今回は連続で投稿します。
理由としては近い内に授業の発表があるので、それで来週は忙しい可能性が大だからです。
修正点や感想を待っています!