最弱無敗の神装機竜~紫の機竜使い~   作:無勝の最弱

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第9話

 

「お前たち、授業を始めるから席に着け」

「ライグリィ教官。レン君がいませんが?」

 

遺跡調査を明日に控えた日の朝。

いつものようにライグリィ教官が授業を始めようとすると、クラスの生徒一人が質問した。

 

蓮はいつも授業開始の10分前には着席して教科書を開いて予習等をしているのだが、今日はその席に蓮の姿はなく空席になっていた。

 

「レン・フェルテか、あいつは休みだ。昨日の夜、実家の方から呼び出されたらしく、今日の授業は欠席すると本人から報告を受けた」

「クルルシファーさんは何も聞いていないのですか」

 

ライグリィ教官の説明を聞いて、さっきと別の生徒が(演技ではあるが)恋人であるクルルシファーにすかさず話を振る。

クルルシファーは目を閉じて首を横に振る。

 

「私も今朝、彼の置手紙を見て知ったのよ。彼がどうして呼び出されたのかまでは書いていなかったけれどね」

「そうですか」

「その話はここまでだ。授業を再開するぞ」

 

これ以上このままにしておくと話が盛り上がって収拾を付けるのが面倒になるかもと思ったライグリィ教官は手を叩いて注意を引き付けて授業を再開する。

 

「………はぁ」

 

クルルシファーはこっそりとため息を一つ零した。

 

『義父上に呼ばれたから行ってくる。ライグリィ教官にはすでに話を通してある』

 

蓮の置手紙にはたったそれだけが書かれていた。

 

(相談ぐらいしてくれればよかったのに)

 

誰にとは考えない。考えてはいけない。

クルルシファーはもう一度ため息をこぼした。

 

 

 

 

「レェェエェェェン!!」

「(スッ)レン・フェルテ。ただいま帰りました」

 

屋敷のドアが開くと同時に飛び込んできた人影をスッと身を引いて躱した蓮は続けて現れた女性に一礼して、自分の帰りを知らせた。

後ろでドサッとっていう音がしたが気にはしない。

 

「ご無沙汰しております。義母上」

「おかえりなさい、レン。それより『義母上』はやめなさいといつも言っているでしょう?『お母さん』もしくは『母さん』と呼びなさい」

「……。ただいま、母さん」

 

蓮の返事に満面の笑みを見せる女性はここフェルテ家屋敷の主であるエンバルケス・フェルテの妻のクレアだ。他の貴族と政略結婚する話が持ち上がっていたにもかかわらず、舞踏会で出会った今の夫へ恋をし、クレアからの猛アタックの末、互いに惹かれ合い、クレアの実家の反対を押し切って恋を成就させたらしい。

結構押しの強い性格で、よく振り回される(蓮を着せ替え人形にすること等)。

 

「よろしい。あなた、いつまで床とキスをしているおつもりですか?かっこ悪いので早く起きてください」

「レン!なぜ避けるのだ!?」

 

床にうつ伏せで突っ伏していた人――フェルテ家現当主エンバルケス・フェルテは妻の一声で起き上がるなり、蓮に突っかかってくる。

蓮はいたって真顔で答える。

 

「いや普通、いきなり飛び込んで来たら避けますって」

「いいじゃないか!一月ぶりの再会なのだぞ!?」

「母さん。本日はどのようなご用件で?」

「レェェエェェェン!!」

「そうね。久しぶりの親子の会話が玄関というのはふさわしくありませんから向こうでゆっくりと話しましょう。昼食はまだかしら?」

「はい」

「それでは少し早いですけど、昼食にしましょう。レン、こちらに」

 

クレアに手を引かれて蓮は部屋を後にする。

屋敷の主はほっぽっといて。

 

 

 

「それで、王立士官学園(アカデミー)の暮らしはどうかしら?」

 

昼食を終え、食器を使用人たちが片付けてもらっている傍でクレアが蓮に声をかける。

 

「良くしてもらっていますよ。レリィ学園長をはじめとした学園のみんなはいい人ばかりですから」

「そう、あのレリィが。でも確か、在籍するラルグリス家のご息女はとても男嫌いだと聞いています。彼女は納得しているのですか?」

「彼女を含めた学園の三年生の方々は王都に演習に出ていましたが、先日、学園に戻られました。しかし彼女だけはまだ王都の方にいるそうです。もし学園に戻れば表面化するでしょう。面倒が起きるのは確定的ですが」

「気をつけなさいね。相手は四大貴族の一家、ラルグリス家の令嬢なのですから。さて、もうそろそろ本題に入りましょうか。あなた」

 

そう優しく微笑むと視線を屋敷の主エンバルケスに向けるクレア。

エンバルケスはゆっくり一息ついて、先程までの表情とは打って変わって貴族としての顔を見せ、口を開いた。

 

「レン。単刀直入に聞く、ユミル教国のエインフォルク家のご息女とはどのような関係なのだ」

「ご存知でしたか……」

 

蓮にとっては予想通りのことだったが、どこまで明かせばいいか悩んでいた。

嘘を言って場を誤魔化すことはできない。エンバルケスもクレアも嘘をついたとしても大抵ばれてしまう。かといって、彼女のことをどこまで話してしまっていいのかがわからなかった。

 

(一言、相談してくればよかったかな…)

 

自分一人で何とかするつもりで相談しなかったというのにそんな後悔をしてしまう自分が悲しい。

……仕方がない、今の俺には必要なことだ。

 

「一言で申し上げれば、恋人役です。

ユミル教国よりの留学生、クルルシファー・エインフォルクは留学の目的の一つとしてアティスマータ新王国の有力者との婚姻または結婚を取り決めるようにとの命を受けておりました。

そしてこのたび、その進捗状況を確認するためにエインフォルク家より使者が参られることとなったのですが、彼女は使者の目を欺くため、自分に恋人役を頼んだのです」

「なぜ、引き受けた」

「義父上が申していた通りにしたまでです。他家がどうであれ、自分はそう教わったつもりですが?」

 

まっすぐに義父の目を見つめて答える蓮。

この時の蓮の脳裏によぎったのは学園に通うことが決まり、寮室への引っ越しをするために一度、フェルテ家の屋敷に戻ったときに言われたことだった。

 

『家を気にするな。

常に自分の正しいと思った道を走れ。

求められている力を間違えるな。

そして……好きな女子ができたら真っ先に報告しに戻れ!』

 

……。最後のでかなり台無しになった気がするが、それを除いた三つは義父上らしい薫陶だった。

 

俺は自分で正しいと思ったからクルルシファーさんに協力することにしたんだ。

 

「彼女の言葉に、目に、偽りはなかったのですね」

「はい。最初は少々疑っておりましたが、目的を話してくれた時の彼女と昨晩のエインフォルク家の執事との会談で確信いたしました」

「……ふっ」

「……良い目をするようになりましたね」

 

蓮の返答にエンバルケスもクレアも笑みを浮かべた。どうやら納得してくれたようだ。

 

「よろしい。レン、励めよ」

「ありがとうございます」

 

話がいい方向に纏まりそうになった時だった。

 

「ところで、レンは彼女のことをどう思っているのかしら?」

「ふぇ?」

 

クレアのぶっこみに思わず間抜けな声を出してしまった蓮。

すると、その夫もまた

 

「そうだそうだ。で、実際どう思っているのだ?彼女はとてもうつくしい少女であると聞くが、惚れたか?」

「ここぞとばかりにニヤけるな!」

 

さっきまでの空気はどこに行った!と言うかいつの間に調べたんだよ!

 

「あらいいじゃない。レリィからいろいろ聞いているわよ、かわいい少女ばかりで男性にとっては楽園のような場所だと。そして二人しかいない男子は二人とも人気がすごく高いとね」

「学園長……」

 

頭が痛くなってきた……。しかもこの状況だと逃げられない気がしてきた。

 

「「どうなのだ(かしら)?」」

「ま、まあ、クルルシファーさんは百人が百人、口を揃えるほどの美少女だと思っています……って、何を言ってんだ!?」

「はっはっはっ!いいぞ、実にいい。レン!恋人役などと言う役目が終わったらすぐに告白するのだ!男らしく!玉砕してもあきらめるな!」

「聞かなかったことにしてくれ!」

「ええ、母も歓迎します。近いうちに我が屋敷にお呼びしなさい、いえ、そうしなさい!」

「ぶっ!?よ、呼ぶって、母さん!?」

 

まさかの自爆。

エンバルケスもクレアも蓮の態度から惹かれ始めているという匂いを嗅ぎつけ、攻め立てる。

というか、屋敷に呼ぶって、ちょっといきなり過ぎやしませんかね?

 

その後、蓮は無理矢理に話を切り上げて明日に控えた遺跡調査の件と決闘の件について早口に告げた。その最中でも夫妻は口々に「よし!」とか言い始める始末だった。

 

「と、とにかく!俺とクルルシファーさんの関係はそう言うのじゃありませんから!」

「照れるな照れるな。よし、クレアよ、確か空き部屋があったな。早速そこを改装しようじゃないか」

「よい考え――」

「じゃないよ!?」

 

改装って何をするのさ!?と言うかこの二人の脳内では決定事項なのか!?

 

「ともかく、無事に帰って来い。そしてどさくさ紛れに――」

「何もしないわ!なに考えてんだこの当主!?」

「無事に帰ってくるのですよ。あわよくば婚i――」

「ストーップ!二人揃って何を考えてるの!?」

 

つ、疲れる……。つか、こういう性格だったっけ?

 

「とにかく!俺は自分で引き受けた役割を全うするだけですからね」

「ははは!手遅れになっても知らないぞ~?――さて、バルゼリッド・クロイツァーと言ったな、レン」

 

するといきなり、義父は表情をあの貴族としての顔に戻ってこう告げた。

 

「は、はい」

「お前の決闘相手、バルゼリッド・クロイツァー卿……クロイツァー家には旧帝国時代からいろいろと黒い噂があるが、バルゼリッド卿は特にあまりいい話を聞かん。心しておけ」

「わかりました。忠告ありがとうございます」

 

いきなりすぎて反応が遅れたが、蓮はしっかりと頷く。

その後は領内のことを軽く聞いて、屋敷を出て行った。

 

「よろしかったのですか?」

「クロイツァー家のことか?その時は大人が守ってあげればいい。それにレンは負けるわけがないだろ」

「そうですね。強い子ですからね、レンは」

 

異界の両親は遠ざかる蓮の背中が見えなくなるまで屋敷の外で見ていた。

 

 





準備話が二話続かないなど誰が言った?


前話といっしょこにしてもいいかなと思ったんですが、文字数的な区切りで別々にしました。

まあ、山も何もあったものでもないですがwww


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