「んあ……」
俺はふと目を覚ます。が、ぼやけた目で見える景色は薄暗い。空気は暖かくもなく寒くもないがちょっと涼しく感じた。しかも全身にあるはずの痛みも全くなかった。
(病院……じゃないな。薬っぽい匂いがしないし…)
ぼやけていた目が徐々に覚めて、はっきりと見えるようになって周囲を見渡してみるとどうやらここは洞窟のようだ。
見たところ、遠くに何か光るものがあるというだけの何もない空間に俺はいた。しかも服装は制服のままだ。
(死体遺棄?いや、そもそも死んでないし、あんな場所で起こった事故だからそれはない。大体に何で痛みがないんだ?……とりあえずあの光のところに向かってみるか)
そうと決まれば歩き出す。
解らないことだらけのままだが、あの光のところに行けば何かあるかもしれないと思ったからだ。
光のあるところに着いたのは歩き始めてから5分ぐらいだった。
そこにあったのは祭壇のような場所。壁面は知らない文字で埋め尽くされ、中央に置かれた台には白く光る水晶のような玉。遠くに見えた光はこれのようだ。
そして、その空間でひときわ目を引くのが台の前に突き立つ紫色の剣。
「なんだ…ここは…?」
剣から発される祭壇と言う場所にはありえないはずの雰囲気。俺は呑まれていた。
…れ……け
「…ッ!誰!?」
突如として響いた音に後ろを振り返るが、そこにはただ暗闇しかない。
…れ…抜け
再び響く音。しかもそれはさっきよりもより鮮明に、自分のすぐそばから聞こえた。
「まさか……
紫色の剣をおそるおそる見てみる。
我を抜け
やはりそうだ、この音はこの剣が響かせている。
俺は剣の柄を全力で握り、引き抜いた。
変化は突然――光に包まれた俺は目を固く閉じる。
そして光が収まったとき、ゆっくりと目を開けると、瞳には同じであっても違う景色が映った。
「これは――ッ!?」
慌てて見てみると――
さっきまで胸の高さにあった水晶の玉が足元に見えた。
全身が紫色の装甲に覆われているのが見えた。
引き抜いて右手に持っていたはずの剣は鞘のようなものに納められて左腰に差されていた。
両手の装甲腕に握られた幅広の刀身を持つ剣があった。
こんなものは見たことも聞いたこともない。
ましてや、ファンタジーの世界――
「おいおい……まさか、来ちまったっていうのかよ……!?」
「さて、どうしよっかな。この状況」
自分が違う世界に来たと認識したのに随分冷静だなと言うツッコミはなし。
帰れる方法もわからないっていうのにうじうじしてたって意味ないし、この世界がどんな世界なのかもわかっていない。
自分の今の状況は?この装甲は一体何だ?わからないことだらけじゃないか。こんな時こそ冷静にならないでどうする?
「考えられる方法は……イチかバチかで天井の岩盤をぶち抜くか、目の前の通路を通って地上を目指すか……ぐらいかよ」
前者は賭けにもなっていない気がする。そもそもコレが飛べるのかどうかもわからないし、何よりも地上までどれくらいの距離があるかわからない。
現実的に言えば後者だろう。ここが何かを祭る祭壇だとするのならば地上に出る道もきっとあるはずだ。
「……行くしかないか」
意を決して俺は通路を地に足を付けることなく進んでいくがすぐに立ち止まることになった。
「これは…サークル?」
広い部屋に出るなり目の前にはファンタジー世界よろしくの
乗れ、我は望む、外界を
さっきと同じ音が部屋の中でこだまする。
だがやはりその発生源はあの剣だった。
俺は剣を鞘から抜いて目の前に掲げて聞く。
「お前は誰だ?ここはどこだ?なぜ外に出ようとする?」
我が名は『ヴリトラ』……
我に見せよ、新しき世を……
「新しき世?お前、ここに封印でもされていたのか?」
問い返しても返答は帰って来なかった。
はぁ、仕方ないな。今は『ヴリトラ』と名乗ったコイツの言う通りにするしかなさそうだ。
半ばあきらめた俺は言われた通りにサークルの中央に立つと――
『神装機竜《ヴリトラ》の存在を認識しました。問題がなければ、転送を始めます』
《ブリトラ》の声とは違う機械的な音が脳内に直接響き、足元のサークルが目映い光を放つ。
反射的に瞼を閉じ――開けるとそこは、木漏れ日のさす森の中であった。
「外……なのか…――うおっ!?」
装甲が突然解除されたおかげで情けなくしりもちをつく俺。
大地の堅さを感じた気がした。
「っつ…。はあ、とりあえずここが外だとしてどうす――誰だ?」
「――!ばれ…た?」
数十秒して茂みの中から一人の少年が現れる。
《ヴリトラ》と少年、この出会いが始まりだった。
どうも、無勝の最弱です。
十話ほどの書き溜めはできているので、しばらくは定期更新の予定です。
オリ主とヴリトラのプロフは次話以降の前書きか後書きに書いていきますので。
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