この弱すぎる竜王国に爆裂娘を!   作:れんぐす

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おまたせー!!

……あれ?待ってない?


開演の爆裂は高らかに鳴る───後編

 「今日、私たちの竜王国は、滅亡の危機に瀕しました。警報で気づかれた民の皆様がほとんどかと、私は思います」

 

 行政の中心地、竜王宮の演説台。魔法で声量を増幅し、大きくない王国全土へそして演説台下に集った数千の国民に、ドラウディロン・オーリウクルスはその麗しの声音を届ける。

 

 警報で避難した民の多くが戻り街に活気が戻り始めた夕刻は、最も演説に適した時間帯だ。

 多くの国民が王宮に視線を向け始めたのを感じ、ドラウディロンは息を一つ飲む。

 

 「隣国、ビーストマンたちの国の精鋭兵士数百体が、私たちの竜王国目指して侵攻を行ってきたのです。さしたる武力を持たない私たちの国では、どれだけ健闘しようとも、さして時間をおかずに滅んでしまうことは必至でした」

 

 ドラウディロンはそこで言葉を切り、嗚咽混じりの声を作る。涙を浮かべ、悲しげな表情を見せる。ドラウディロンを目視できる国民はそう多くないが、表情は声に、はっきりと表れる。

 

 「……常日頃は、本来の無理をどうにかお願いして、冒険者のみなさまに防衛を依頼させて頂いていますっ!法国の白き精鋭の方々にも、戦っていただいています。けれど……今回はっ──あまりにも規模が違ったのです!」

 

 ドラウディロンは見た目の幼さによる庇護欲を煽るため、腕を広げてビーストマンの規模や強さをアピールする。

 

 「……残念ながら、ついに本腰を入れて私たちの安寧を滅ぼしにきた、ということなのでしょう。女王としてはあまりにも情けない話ではありますが、かの軍勢は私たちの竜王国を三度滅ぼしてもなお、勢いを止めないほどの力を持っていました……」

 

 悲しげに沈む声が国全体に伝わり、国民の気持ちもどんよりとした雰囲気が伝わってくる。

 ドラウディロンが呼吸をすると、全ての国民が次の言葉を待つ、風すらもない静寂を感じた。

 

 ドラウディロンは纏った暗さを切り替え、幼くも凛々しい女王としての勇声を響かせた。

 

 「皆さんが避難するまでの間、命をかけて戦ってくださった冒険者・クリスタルティアの皆様方、軍の皆様方に心よりの感謝と拍手を!」

 

 ドラウディロンは王宮の前に整列した軍と、蘇生が完了して全員が顔を揃えた『クリスタルティア』を示す。

 

 途端、割れんばかりの拍手喝采が巻き起こった。

 小国とはいえ、国民の殆どが拍手をすればここまでになるだろう。空気が揺れ頭を揺さぶるほどの騒音と化した拍手に、しかして冷静にドラウディロンは次の言葉を紡ぐ。

 

 「そして──」

 

 次の言葉を聞くために、徐々に拍手の音は小さくなっていく。完全に静かになってから──ドラウディロンは胸に詰まったような涙声で話した。

 とても悲しげに、重苦しく。

  

 「私たちのため、──そして大切なもののためにこの戦いで尊い命を落とされた、全ての戦士に、祈りを捧げましょう」

 

 ビーストマンの動きを監視する砦にいた兵士たちは、そのほとんどが死んだ。

 家族や恋人を遺して逝った者も多い。為政者であるドラウディロンにとっては、書面上の数値が減少したに過ぎない。その上、竜の血を引いた宿命として長命であるが故、人の生き死は絶え間なく目にしてきている。浸る悲しみさえもない。

 『心優しき我らの女王陛下は、兵士の殉職に胸を痛まれている』という国民からの判断を得るためだけの演技。嘘泣き。

 

 涙声を作ることには慣れた。けれどドラウディロンは、こうして自分の感情を欺き、民を騙すことには、未だ抵抗を感じるのだった。

 

 

 国中が静まり返り、王宮前の国民は手を合わせる。

 十秒ほど静寂をとった後、ドラウディロンは涙声を捨てて、希望に満ちた笑顔を見せた。

 

 「私たち竜王国は、今までビーストマンたちに度々攻め込まれてきました。時に領土を奪われ、時に命を奪われ、けれど抵抗する手段も乏しく、死と紙一重の平穏の中で、ビーストマンたちの侵攻がありませんように──と、毎日毎日祈って生きてきました」

 

 両目を伏せ、かつての辛酸を舐めるような日々を思い返してドラウディロンは話す。

 

 「けれど、それも今日で終わりです」

 

 目を開き、眼下の国民を見渡す。多くの双眸と目が合う。今か今かと待ちきれない熱気を感じる。

 

 国民は期待している。彼女の紹介を。

 

 

 「今日の主役を紹介します。ビーストマンの軍勢を、たった一人で退けた天才魔法詠唱者(マジックキャスター)。──そして私の愛しい妹、めぐみん・オーリウクルス!」

 

 ドラウディロンの隣に、めぐみんが立つ。

 オーリウクルス家の紋章が縫い付けられた黒いドレスに、魔法詠唱者(マジックキャスター)であることを語らんとする黒い帽子。

 堂々とした立ち姿からは高貴さよりも力強さがにじみ出て、ドラウディロンのか弱そうな美しさとの対比により、その印象はより濃く出る。

 さらに、眼帯をつけ、意匠の凝った杖を手にしためぐみんの姿を目にした国民は、受ける感慨に多少の差はあれど、皆こう想った。

 

 竜のごとき威風を纏った、黒くて小柄な救世主──と。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 「それで、今後の予定はどうするのですか?私としては、一日一度の爆裂魔法と快適な衣食住とお小遣いが満たされればそれで良いのですが」

 

 「それについては心配せずともよい。ワシの……竜女王の名において、めぐみん殿には可能な限り、不自由はさせぬと約束しよう。部屋は今の客室よりも大きく豪華に、家具は腕のいい職人が誂えたものを。他に望むものがあれば部屋付きの使用人に声をかけると良い。──あぁー疲れた疲れた」

 

 王宮内部にある休憩室の一つ。ドラウディロンは年寄り臭い声と共にソファへどかりと座った。質の良いクッションが小柄なドラウディロンを沈みこませる。

 

 「めぐみん殿は今後当面、ワシの妹として、王族の身分を持つ。しからば当然ながら、王族としての暮らしをしてもらわなければならぬ。振る舞いや言葉遣いは旅帰りということで、ある程度融通が効く。さほど気にせんで良い。それよりも、じゃ」

 

 未だ熱気冷めやらぬ群衆を、めぐみんは窓から見下ろす。大きな歓声は窓ガラスを震えさせていた。

 

 「この国は現状、ビーストマンの侵攻を絶え間なく受けておる。……めぐみん殿の魔法で──」

 

 「爆裂魔法です」

 

 「……爆裂魔法で、ある程度戦力を削げたであろう。削げたと信じたい。しかして侵攻がいつ再開されるかはワシにはわからぬ。可能ならば先手を打って奴らを叩いておきたい。理解してくれるか?」

 

 ソファに埋もれながらも理知的な輝きを湛えた瞳で、ドラウディロンはめぐみんの背を見る。

 

 「国に直接打撃を与えたいのだ。ワシの言わんとすることは理解してくれるか?」

 

 「ビーストマンの国へ直接の爆裂魔法、ですか?」

 

 「──奴らは国を築いているとはいえ、行政など存在せぬし法も秩序もない。弱者が強者に従い、人を襲う。つまり実態は、魔物の巣とさしたる違いはないのだ。抵抗を感じるか?」

 

 めぐみんはビーストマンに接触しているため、彼らが人語を理解することを知っている。その国に爆裂魔法を撃つことは、人間にとって害とはいえ、文明を一つ破壊してしまう可能性を孕むことを意味する。

 そんなことを少女ひとりに委ねることをしてもいいものか、そもそも引き受けてくれるのか。ドラウディロンは悩んだ結果、本人に相談することを決めた。

 しかし、尋ねられためぐみんはさほど気にしている様子はなかった。

 

 「──ドラウさんが何を気にしていらっしゃるのか、私にはわかりません。魔物は魔物です。人に害をなすのであれば、ねこそぎ倒してしかるべきではありませんか?」

 

 めぐみんの平然とした物言いに、ドラウディロンは虚を突かれる。

 

 「そもそも爆裂魔法は、とても大きい、もしくは広い範囲の標的に向けて放つことで、最高の力を発揮できる魔法です。心置き無く爆裂魔法をぶちかましていい魔物の巣があるとなっては、私としてはいてもたってもいられないですね!」

 

 「そ、そうか……」

 

 目を爛々と煌めかせて楽しそうな表情をするめぐみんに、ドラウディロンはわずかな恐ろしさを感じた。

 そして鼻歌を歌いながら外の群衆を眺めていためぐみんだが、ふと気づいたようにドラウディロンの方を向き直る。

 

 「魔物の国だから力をお貸しするのであって、当然ながら人が住む国にはそんなことしませんよ。例えこの国に敵対的な国であっても、人の住む国に向けて爆裂魔法を撃てと頼まれたら、それは丁重にお断りさせていただきますとも」

 

 

 その時、部屋の扉がノックされる。ドラウディロンが入室許可を出す前に、無表情の宰相が入ってきた。

 

 「……入って良いとは告げておらぬがな?」

 

 「入っていけないとも告げられておりませんので」

 

 「ああ言えばこう言う……!そもそもオマエは──」

 

 「シャラップ。法国の方々が大会談室にてお待ちです。会談の支度はお済みですね?」

 

 「……はいはい、無論じゃ。めぐみん殿も良いかな?」

 

 ドラウディロンはゆっくりと立ち上がってドレスの皺を払うと、めぐみんを見やる。

 

 「──ええ、まぁ。適当にドラウさんに合わせればいいのですよね?」

 

 「それで問題ない。爆裂魔法について尋ねられた時には、秘密だとか適当なことを言って誤魔化してほしいのじゃ。それさえ守れればあとは適当でよい。旅帰りで破天荒になったという設定じゃからな」

 

 「……了解しました。任せてください!」

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 漆黒聖典第五席次"一人師団"は、法国側に用意された席の二番目に座っていた。隣の上座は使者の長が座り、逆側には第三席次と第十一席次が続く。

 

 誰も、何も話さない。

 

 なまじ魔法に秀でているが故に漆黒聖典の異常な力を察知してしまった使者の長だけが、恐れからか時折カチカチと歯を鳴らす音

 使者の長の額から吹き出る滝のような汗が、顎からその服へポタリと落ちる音。

 使者の長が、頻繁に漆黒聖典の顔を横目で伺う。そして所在なさげに袖が擦れる音。

 暇を持て余した第十一席次のあくび。

 

 やがて第三席次が机の下で組み合わせていた手を解いた時、大会談室の厚い扉が開いた。

 

 姿を見せたのは、幼くも艶やかな竜女王、ドラウディロン・オーリウクルス。

 そしてその後ろには、第五席次が見たことがない黒髪の少女が、ドラウディロンの白いドレスと対になる黒いドレスを纏い、凛として立っていた。

 

 漆黒聖典の三人が静かに椅子から立ち上がり、使者の長は遅れて焦りながら立ち上がる。

 二人が入室した後に女王の補佐役と思しき男が続いて入ってから、扉は閉まった。

 

 竜女王はしずしずと使者の長の向かいの席まで進み、固まった表情の使者の長に微笑みかける。

 

 「……ごきげんよう、法国の皆様方。遠路はるばる、ようこそお越しくださいました」

 

 使者の長が何か口を開く前に、第五席次が割って入って挨拶を代わる。

 

 「竜女王陛下もご機嫌麗しゅう存じます。申し訳ございませんが、この者は体調が優れぬようでして。──大丈夫ですか?」

 

 「あっ……あ、あぁ。問題な──」

 

 問題ない、と言いかけたところで、第五席次は対面の竜王国に気取られないほどの高速で使者の長へ接近し、拳をみぞおちへねじ込む。そして気取られないようにその肩を支えた。

 

 「……竜女王陛下。大変恐縮ではありますが、どこか休める場所はございますでしょうか?」

 

 「まぁ……、分かりました。王宮の休憩室を用意しましょう。──誰か、使者様をご案内してくださるかしら!」

 

 竜女王の声を聞いて女官が駆けつけ、満足に動けない使者の長を三人がかりで連れ出したのを確認してから、竜女王は申し訳なさそうに告げた。

 

 「あの方は午前の会談にもいらっしゃった方ですね。……王宮でご用意した昼食が、お口に合われなかったのでしょうか?」

 

 「ご心配には及びませんよ。おそらくは過労でしょう。我がスレイン法国の人間、特に彼のように大きな責任を担った人間は、些か以上に働きすぎる傾向にありますので、それが祟っただけかと」

 

 「……それは!──私にはどうすることも出来ませんが、どうか、ゆっくりとお休みになられてほしいと願わせていただきます」

 

 「ええ。私から上層部に、彼に()()を出すように伝えておきますので」

 

 第五席次はそこで話を切り上げ、名乗りに入る。

 

 「貴国に派遣させていただいていた部隊、『陽光聖典』に本国の都合で別の任務が入ってしまったため、代わりに貴国の防衛とビーストマンの殲滅を我々が担うことになりました。私のことはファイブとお呼びください。──彼はスリー、そして向こうの彼女がイレブン。本来ならば我々の中に上下関係はありませんが、便宜上私が代表ということで通させていただきます」

 

 第五席次は爽やかな笑顔で、しかし高貴そうな印象を崩さない。

 紹介を受けたドラウディロンは、若干困惑したような仕草で第五席次に問う。

 

 「……失礼を承知でお聞きしたいのですが、わずか三名で、あの強靭で無慈悲なビーストマンたちを抑えることができると──そう考えてもよいのでしょうか?」

 

 「我々は皆、一人当千の猛者です。三人であろうと、かの陽光聖典の倍以上の働きをお約束いたします」

 

 第五席次が自分の胸に手を当て、自信を持って言うと、竜女王は安心したように、あどけない笑顔を見せた。

 

 「それなら心強いです!……どうか、私たちの国をよろしくお願いしますね」

 

 そして竜女王は補佐役の男と目配せをする。

 

 「あらためまして、私は不肖の身ですが、竜王国の女王を任されています──ドラウディロン・オーリウクルスと申します。法国の皆様におかれましては、どうかお見知りおき頂ければ幸いです。そしてこちらが私の妹の──」

 

 「我が名はめぐみん。オーリウクルス家に名を連ねるアークウィザードにして、長き修行の旅から戻りしものです」

 

 「めぐみん王妹殿下、でいらっしゃいますか。法国の人間として、お初にお目にかかります。御二方とも、お会いできて光栄です」

 

 第五席次が深く礼をしたのに倣って、第三席次と第十一席次も頭を下げる。それに対して微笑み返したドラウディロンは、再び補佐役の男に目で合図を出した。

 

 「──私はこの国の宰相を務めておりますもの。吹いたら飛ぶような人間ですので、名乗るような立派な名もございませんが、今回の会談におきましては、未だ幼き女王陛下の相談役として同席させていただきます。──それでは法国の皆様方、どうぞ席にお座り下さい」

 

 宰相の勧めで漆黒聖典が席につくと、遅れてドラウディロンとめぐみんも席につく。

 ドアをノックして現れた六人の使用人が全員の前に水の入ったコップを置いて退室していくのを待つと、第五席次は口火を切った。

 

 「──議論に関しては午前に概ね終わっていると聞き及んでいますので、それに関して書面に記したものをこちらに用意しました。ビーストマンの軍勢鎮圧のために派遣する部隊の変更の仔細です」

 

 第五席次は蝋で封がされた羊皮紙をドラウディロンに差し出す。ドラウディロンは両手で受け取ると、それをそのまま宰相へと渡し、確認を促してから漆黒聖典の面々を見渡した。

 

 宰相は書面の上から下まで目で流し、文面の一節を目に止めた。

 

 「以前は『防衛と守護』であった任務内容が、『鎮圧と撃滅』に変わっています。……攻勢に出られるおつもりと考えても差し支えありませんね?」

 

 「ええ。もちろんです」

 

 「たったの三人で、ですかね?」

 

 宰相の値踏みをするような視線に、第五席次は苦笑いを返す。

 

 「ひと月です。……三十日で、あの粗暴で野蛮なビーストマンどもの国を滅ぼしてみせましょうとも」

 

 「ひと月……!……たったそれだけで、私たちが長年苦しめられてきた脅威を制圧してしまうと、ファイブさんはそう仰るのですか!」

 

 第五席次の宣言に竜女王が驚きの声を上げる。

 

 「無論、それなりの対価は頂きます。現在お納め頂いている寄付金を、向こう半世紀。……脅威の永劫的な排除と考えれば、決して悪いものではないかと」

  

 「半世紀ぶん、ですか。民の苦労による血税を考えれば、決して安くはない買い物ですね。ですがとても惹かれます……!」

 

 「これについては、追って正式な契約を行うための使節を再度本国より派遣しますよ。──我々はあくまで、戦闘を生業とする者。外交は専門外ですし、そのために来たのではありません。契約に先んじて、信頼に足る力を披露するために今回派遣されたわけです──」

 

 第五席次は水を一口含むと、念のために毒が入っていないことを確かめてから飲み下す。

 

 「明日、かの国を軽く叩いてきましょう。……王妹殿下、ご同行願えますか?」

 

 第五席次はめぐみんを向いて、優しくはにかんだ。

 

 「王妹殿下は始原の魔法(ワイルドマジック)にてビーストマンの軍勢を撃退した、素晴らしい魔法詠唱者(マジックキャスター)であると、先の使者よりうかがいました。殿下であれば、我々の実力の程をご理解いただけるかと存じます」

 

 第五席次がめぐみんに差し伸べると、居眠りをしているかと思われるほどにぼうっとしていた第十一席次が、蒼い三つ編みと肉付きの良い体を揺らしながら、陽だまりを見つけた猫のような笑顔をめぐみんに見せた。たわわに実った胸の肉がゆさゆさと揺れ、正面の宰相は目を伏せる。

 

 楽しげな第十一席次にスマイルを返し、めぐみんはドラウディロンの反応を伺いつつ自信に満ちた声を上げた。

 

 「はい、私ならいいですよ」

 

 「お聞き入れくださり感謝致します。御身のご安全は、我が六柱の神に誓って保証させていただきますので、どうぞ気を楽にしてご観覧下さい。──陛下は反対されますか?」

 

 「……消極的な許可を出します。私の指名する者を数名、同行させたいと思います。また、日没までにはお戻りになられて下さい。それを条件にしていただけるならば、良いでしょう」

 

 「条件は全て受け入れます。では、明日の遅朝に王妹殿下と付き添いの方々をお迎えに上がることと致しましょう。──おや?」

 

 大まかな取り決めがなされたところで、大会談室唯一の大窓から見える夜空に、一筋の光が上がった。

 それはやがて弾け、花型に炎の尾を作って、大きな破裂音と共に闇へ消えていく。

 

 すぐに二つ、三つと追って同じ光が打ち上がり、大輪の花を咲かせる。

 

 絶え間なく続く轟音が、建物に力強い振動を与えるようになると、宰相が立ち上がって手をひとつ叩いた。

 

 「……本日はここまでとさせて頂き、法国の皆様にはまた明日、かの国と交戦した所感をお伺いしたく思いますが──明日の夜に再度お集まりいただいてもよろしいでしょうか?」

 

 「ええ。分かりました。我々の前に陛下とお話をさせて頂いた者達は明日の午前中に帰国となりますが、我々は明後日までこの国に滞在する予定ですので」

 

 「はい。その通り承っております。客室もご用意させていただきましたので、今日はそちらでお休みください」

 

 「宰相殿のお気遣い、痛み入ります。では、お言葉に甘えさせて頂きましょう」

 

 大会談室の扉が開く。席についていた全員が立ち上がると、漆黒聖典は法国式の敬礼を、竜王国側は宮廷式の会釈をした。

 

 「では、女王陛下。また明日、お目にかかります」

 

 「はい。今日はどうもありがとうございます。皆様、ごゆっくりお休みになられて下さいね」

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 「第五席次よ。──王妹殿下を、どう考える?」

 

 「……勇敢で、そして無知な求道者。今のところはそんな認識です。魔法に才の無い私では、力を推し量るのは難しいので」

 

 来賓館の談話室に通された漆黒聖典の二人は、盗聴系の魔法がかかっていないことを確認すると、息をついて向かい合わせにソファへ腰掛けた。

 

 「そういえば、貴方と第十一席次は既に、六本指を追った先で、かの方の始原の魔法(ワイルドマジック)を目撃しているのでしたね」

 

 「是だ。……魔法の力でいえば、私と第十一席次の二人をして、やっと押し込めるほどの力を持っている。単独では、正直なところ危ういな」

 

 「漆黒聖典の一員ともあろう魔法詠唱者(マジックキャスター)が恐れる使い手、ですか。──王族とあれば、法国に()()するのも難しいでしょうし、以後の竜王国とは、慎重かつ友好的な関係を築いていくべきと報告するべきでしょうかね」

 

 ペンと紙を広げ、なにやら書面を書き始めようとした第五席次だが、第三席次は興味なさげに壁掛け時計に目を移す。

 

 「(まつりごと)は使者に任せれば良いであろう。──我らの目的は示威にある。履き違えるでないぞ」

 

 「ご心配には及ばず、分かっていますよ。……そういえば、彼女はどこに?」

 

 第五席次は、姿の見えない第十一席次の行方を第三席次に尋ねる。

 それを待っていたとばかりに、第三席次は老人くさく項垂れながら答えた。

 

 

 「──『じょしかい』、だそうだ。……王室に迷惑を掛けなければ良いのだがな」




オーバーロード2期決定、おめでとうございます。(遅い)
もはや書いていたことすら忘却の彼方だった本作ですが、2期の報を受けてふと思い立ち、再び筆を取りました。

どうぞ、全く期待せずに次話をお待ち下さい。

感想もらえると次話を書く気力が出る……と思います。

前までの辻褄とか文章力とか、その他全部だいぶ置き去りにしてます。
「あれ、ここの設定間違えてね?」ってとこがありましたらご指摘いただきたく思いますので、どうぞよしなに。

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