処刑人がいつもいる場所、八雲 紫から隠れるために作った、閻魔の目にも入らないほどの世界の隅っこ。魂の漂流場所。
かなり前にここに来たある魂を1つ思い出す。
続く未来が隠れた場所へと飛ばした魂のことを。
その隠れた未来というのは今のことだ。
完璧に近いと思われる今回の博麗の巫女と妖怪の賢者が手を組んで起こした異変。それを砕くには外側からではなく、内側からでなければいけない。しかし、内側から砕く場合には内側で生まれた魂では砕くことは出来ない。外側の魂が必要となる。
そのために、過去から内側へと、一つのバグを混入させた。しかし、それだけでは足りない。1つ潰れてしまえば、もう終わりだ。念のための保険だ。
処刑人はもう1つのバグを幻想郷へと送り込んだ。
その内容は、今となっては跡形もなくなった幻想郷から送り込まれた者。
この2つのバグを大きく作用することを願いながら、ここに閉じこもる。
「禊、出て来なさい」
どこにいるかは分からない、しかし、どこかに隠れていることだけは分かっているような口調で八雲 紫は処刑人に語りかける。
こうとなっては、処刑人は彼女には逆らうことが出来ない。処刑人は彼女の前へと現れる。
「禊、一つ聞きたいことがあるのよ。空音 いろはという過去の存在を知っているかしら?」
嘘はつかない主義だ。首を縦に振る。
「なら話は早いわね。あれを混入させたのはあなた?」
?!
処刑人に焦燥が奔る。いつ判明したのか、時操異変と呼ばれるようになったあの異変の時なのか。いや、あのときはただの陽友 彩葉というなんの変哲もない、博麗 桜花の友人であった。その時点では彼女には分からないはず。
なら答えは1つ。陽友 彩葉ではなく、空音 いろはとして八雲 紫と個人的に接触したということ。
分からないように、奥の歯を軋ませるが、もう後の祭り。
ここは毅然と振る舞うのが正解である。
焦燥を“絶”ち、首を横へと振る。
「そう、それならそれでいいわ。閻魔の方の記憶消去のミスかもしれないわ。ならば、夕顔 禊、貴方に命令するわ」
「あの害虫を、処刑しなさい」
焦りなんてものはない。ただ、頭を垂れるだけ。幾千、幾万と処刑をしてきた。その骸の中に一つ加わるだけだ。
「エラーを起こさないよう、頼むわよ」
処刑人はあくまで幻想郷のシステム。形では八雲 紫の部下という状態である。しかし、彼の目において不要と感じたり、紛い物と判断したものは幻想郷の判断と同じだ。ただ、粛々と刑を執行するのみ。
「禊」
自らの名をつけた抜刀は、八雲 紫の傘を斬っていた。
「なんの、真似かしら?」
「……、お前が今やっている行為は今の幻想郷を壊す原因にしかならない。よって、処刑する」
「私のことを、処刑出来るとでも思っているの?」
「出来る。お前が存在を持っている限り。存在と無の境界を弄るのであればそれでもいい。お前は消えるだけだ。紛い物の結界が生み出した、紛い物の八雲 紫」