『無音』   作:閏 冬月

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第15小節 陽友ではなく、陽友 彩葉として

時は少々遡り、今の音と過去の音が夢というとても都合の良い場所で相見えた時、過去の音が発したとある言葉が今の音には気になった。

 

その話もまた、別の機会にて。

 

 

 

 

 

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あの言葉の意味はなんだったのだろう。

空音 いろはさんは私があの人の魂を持っていることを理解しているからこその言葉。諭すのでもなく、注意するのでもなく、ただの覚え書きのような言葉だった。

いろはさんは今は忘れていても良いと言っていたため、本当に今は忘れていても大丈夫だろう。

 

そんなことを考えていると、コンコンと礼儀正しいのだが、回数を間違えているノックが弱く響いた。

なぜこんなにも弱々しいのか。私の知る限りでは桜花が全力疾走でここまで来た。こんなことぐらいしか思いつかない。その桜花は礼儀の「れ」の字も知らないような子だ。そんな子どもが回数を間違えていても、ノックをするような真似はしない。

誰なのだろうか。

 

扉を開けると、桜花の姿と最近では見たことがないが、人里にいた時によく見た少年の姿が見えた。

 

「次冠!?」

 

思わず、声が出た。

次冠の姿は妖怪にでも襲われたのかのように、ところどころ着ているものが破けていたり、切り傷があった。

 

「次冠、何しに来たの?というか、傷の手当てするから一旦家に入って」

 

「…………ねえだろ」

 

声が小さくて、よく聞こえなかった。もう一度、言ってほしいと言う前に、次冠は叫んだ。

 

「お前の家はここじゃねえだろ!」

 

何を言っているのか訳がわからない。あの母親は私のことを次冠や他の人には伝えていないらしい。家出したとか家を追い出したとかそんなこと言ってくれるだけで、次冠がここに来ることもなかったのに。

 

「今の私の家はここ。あの人たちはもう、家族じゃない」

「は?お前何言ってんだよ」

「私はもう、陽友家の1人じゃないんだ」

 

桜花は真剣な表情で私を見ている。少しだけ恥ずかしいとは感じる。親友が見てる中、厨二的発言をするのだから。

私は一旦、拍を置いて、息を吸った。

 

「私は陽友 彩葉。それだけであって、それ以上でもそれ以下でもない」

 

そう言った私はやりきったとか考えていた。

幼馴染である次冠に対して、自分の考えを正直に言った。どう捉えるかは、次冠次第だ。

 

「……なんだよ。それ」

 

「分かんなかったら、それでいいよ」

「誰もそんなこと言ってないだろ。お前のこと、カッコいいって思ったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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途中で来た魔理沙さんによって、次冠は帰っていった。

やっぱり、次冠は馬鹿だなぁと思うことは多々あったが、次冠は次冠で私のことを心配してくれてのことだということは忘れないでおこう。

 

「ねぇ、彩葉。少し聞きたいことがあるんだけど」

「何?桜花」

「前の彩葉は誰だったの?」

 

返答に困る質問だが、昔に交わした約束、「絶対に嘘はつかず、隠し事をしないこと」を守るとしよう。

 

「あの時は、私じゃなくて、いろはさんだったの」

「……訳分かんないけど、彩葉のことだし、信じるよ」

 

そう言って、桜花は笑顔の花を咲かせた。


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