『無音』   作:閏 冬月

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第10小節 あの音は今、舞い戻る

「うぅ、頭痛い」

 

昨日の宴会でお酒を飲みすぎたので、ここまでになった。

本当に情けない。

 

「今日は彩葉のところに行こうと思ってるのに……」

 

この状態では上手く霊力を操れず、空を飛ぶことができるのはできるけれど、かなり不安定な飛行になってしまう。

昨日の内に、そのことを見越していた彩葉が目に見えないところで喜んでいるということはこの桜花、知らないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

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「〜〜♪」

 

私は今、少しご機嫌だった。

窓から見える博麗神社の裏山の風景はとても美しく、それを一人占めしているような感覚がある。

更には、いつもならこういう静かな時をぶち壊しに来る桜花も今日は二日酔いで、来ることはないだろう。

来るとしたら、魔理沙さんや霊夢さんといった大人の人だけだ。

まさに、静寂を愛し、静寂に愛された人って感じだ。

 

「あ、そういえば魔理沙さんが前にここに元々住んでいた人の音楽があるって言ってたから、それ聞こ」

 

ここに元々住んでいた『空音 いろは』さんは結構な綺麗好きで、一つ一つのことに対して整理整頓をしていたらしい。

なので、比較的簡単に見つけることが出来た。

本棚の中にあるので、レコード以外にも外の世界のものと思われる小説や魔道書もあった。しかし、その中でも一際目を引くものがあった。

表紙などは無く、糸で繋がれただけの本。見た感じ曲集だ。それの一枚目の上には、空音の音と書かれてあった。

 

「なんだろ。これ」

 

謎の既視感を感じながら、なんとなく開けた。

そこには、曲と呼べるかどうかわからない音符の数があった。何を奏でるのか、そんなことが分からなかった。

 

五線譜の上に、右手の人差し指指を乗せて、音符をなぞってみた。

すると、頭の中にメロディーが流れ込んできた。

 

「何?……これ?」

 

焦る。

私の中にある何かが共鳴しているような気がする。

 

 

 

 

 

 

 

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「おーっす!彩葉!引越して初日だが、どうだー?」

 

 

 

「魔理…沙?」

 

私の目の前に現れたのは、あの頃より少しだけ大人になった魔理沙の姿だった。

 

「おう。今起きたばっかなのか?そうだとしたら、彩葉らしくないなぁ」

 

今は、いつなの?そう考えると、何時までも答えが出ないような気がした。

手を見ると、前より、だいぶ小さくなった。身長も。

魔理沙を見上げることなんてなかったから。

 

「魔理沙、魔理沙なんだよね」

「なんだよ。そんなに確認してよ。それにお前、いつもならさん付けで呼ぶくせに今日はどうし おわっ!」

 

魔理沙に抱きついた。

魔理沙は困ったような表情を見せたが、子供を相手するような感じで、対処しようとしたがそんなこと、私が許す訳がない。

 

「魔理沙、私のこと覚えてる?」

「覚えてるに決まってるだろ?昨日も会ってんだぜ?」

違う。

「この子じゃなくて、私のこと」

「なあ彩葉。お前、何言ってんだ?さっきから意味が分からないんだが」

 

魔理沙は立ち上がった。

それに合わせて、私も立ち上がる。

 

「初詣に一緒に行ったりしたのに…」

「ん?何言ってんだ?私はお前と一緒に初詣に行ったりとかしたことないぞ?」

「今があのときから何年経ってるのか分からないからあれだけどだいたい15年前とかその辺りかな?」

 

そう、私が言ったとき、魔理沙は大きく驚いた表情を浮かべた。

私だって驚いている。また、私が生きているのだから。

 

「お前、『いろは』なのか?」

「当たり。久しぶりだね。魔理沙」


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