『無音』   作:閏 冬月

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第7小節 次に進むために

あの後、すぐには雨は止まず、私と桜花は走って博麗神社に向かった。

そこには、洗濯物を取り込んでいる霊夢さんがいた。

 

「お母さん!」

「桜花?それと…彩葉ちゃん!?彩葉ちゃんは早く中に入って。それと桜花、洗濯物取り込むの手伝って」

 

 

 

 

 

_______________

 

 

 

 

 

 

「で、なんで彩葉ちゃんがここに来てるの?」

 

…言いにくい。

自分から話すのは中々に傷つくものがある。

しかし、話さないと霊夢さんに伝わらない。

 

「彩葉、言いにくいんなら話さなくていいよ。私が話しておくから」

 

桜花が気をつかって、そう言ってくれたが私が話さないといけない。

あの出来事は多分、一生忘れない出来事になりそうだ。

 

「大丈夫」

「そう?」

「彩葉ちゃん、話しにくいんだったら話さなくてもいいのよ」

「いえ、ここで話さなければいけないんです。それに、私にはもう帰るべき場所なんて無いんですし」

 

 

 

 

〜少女説明中〜

 

 

 

 

「で、家を追い出されたのね」

「はい」

 

霊夢さんの確認に対して頷いた。

全ては家のルールを破って、博麗神社に来ていた私がいけないのだ。

桜花はお母さんに酷く憤慨しているが、違う。

 

「それは彩葉ちゃんが悪いわね。家のルールを破ってるんだから」

「お母さん!彩葉は悪くないよ!向こう側が私たちのことを悪く言ったからそれを庇っただけだよ!」

 

桜花は私を庇うけれど、違う。

桜花が反論しているのはまた違う観点だ。

霊夢さんは桜花の言葉を噛みしめるように何度か頷いた。

そして、言った言葉は私に向けてだった。

 

「確かにそれはありがとうと言っておくわ。けれども彩葉ちゃん。1つだけ聞きたいの」

 

私は少しだけ息を呑んだ。

 

「あなたはどうしたい?」

 

どうしたい…とは?

私の頭に浮かんだ問いに答えるように、霊夢さんが付け加えた。

 

「あなたは、家に帰りたいのか、もう家出っていう感じになるのか」

 

理解した。

それは、もう答えは決まっている。

 

「家には、もう帰りたくないです。これからは、陽友家ではなくて、陽友彩葉として生きていきたいです」

「判ったわ。取り敢えず今日はもう夜になりそうだし泊まっていきなさい」

「…………はい」

 

霊夢さんはフッと微笑んで、台所へと向かった。

その微笑んだ顔はとても美しかった。

 

 

 

 

 

 

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言っちゃった感が私の心の中で渦巻いている。

これまで、あまりお母さんやお父さんに反抗したことは無かった。やり過ぎた反抗期と言ったところだ。

今は夜だけれども、なんだか眠れなかった。

少しだけ境内を歩こうとしたが、隣で寝ている桜花に服の裾を掴まれ外に出ることができなかった。

 

「はぁ。桜花、ゆっくりと休んでね。私のことを友達って言ってくれて、ありがと」

 

私は桜花が掴んでいる服の裾から、優しく桜花の指を1つずつ解いていった。

 

 

夜風は冬の気配を感じさせるほど冷たく、私の頭を冷やしてくれる。

眠気が来たので、桜花の寝ている部屋に戻ろうとすると、話し声が聞こえてきた。声の質は霊夢さんと誰かだ。

 

声のする方へと足音を忍ばせて、近づくと会話の一部が断片として聞こえてきた。

 

「……ろ!格安で………!」

「神社…家計に………してよ…」

「大丈夫……」

「お願いね」

 

霊夢さんが別れの言葉を言うと、霊夢さん以外の声は聞こえなくなった。

ある程度、気配が遠ざかったところで、霊夢さんに近づいた。

 

「霊夢さん、どうしたんですか?」

「ああ、彩葉ちゃん。なんでもないわよ」

 

私は一抹の不安を抱えながら、寝床についた。

 

 


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