風速5センチメートル   作:三浦

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ぼくのかんがえたよしもりはつよくてモテモテでかっこいいんだ!


時音

001

 

 

 

私の幼馴染みは、謎だ。

昔はやんちゃで泣き虫なまっすぐバカだったのに、いつの間にやら妙に達観したクール系になっていた。

 

前におばあちゃんとその話をしたら「ふん、墨村は気に入らないけど、バカなだけじゃ守れない人もいるって気付いたんでしょうよ、墨村は本当に気に入らないですけど」と散々悪態を吐いていた。吐いてはいたのだが、その頃ぐらいから良守にだけは若干優しくなった気がする。

 

「おー、時音」

 

「うわ、相変わらず気だるそうな声」

 

「悪かったな低血圧で」

 

「別に責めてるワケじゃ......ていうかあたしと同じ時間に登校?珍しいじゃん」

 

「あ?あー、たまには早めに出ようかなって。したら前に時音いたからさ」

 

この全身からアンニュイな雰囲気を出しているのが良守だ。ワックスで髪を整え、耳にはピアス穴が開いている姿は生意気だが、中学生にしてはお洒落なのだろう。中等部がピアスってたぶん校則違反だけど。

 

ともかく、ウチの男子の中じゃまあまあ上の方にランキングしているらしい良守だが、みんなが言うような大人なだけの男じゃないのを私は知っている。

 

 

「あれ?あんたちょっと伸びた?」

 

「おう、そのうちゼッタイ時音も超すから」

 

たとえば背に敏感なとことか、

 

「そういや昨日のチョコケーキどうだった?」

 

「ああ、美味しかったわよ。お母さんも喜んでた」

 

たとえばお菓子への情熱のすごさとか、

 

「あっ猫」

 

「ほんとだ、飼いたいな...無理かなあ....爺さんがなあ......」

 

たとえば猫が大好きだとか、とにかく色々だ。

 

「じゃ、また後でね」

 

「ほいよ」

 

といった感じで良守とはなにかと一緒にいるので、あいつのことも少しずつわかってきた。

 

「おっはよー時音!」

 

「あ、おはようまどか」

 

このまどかにしたって良守のことを大人ぽくて色気があるなんて言っているのだ。分かるけど、そうじゃない部分も知ってると思うとなんだか悪くない気分だ。

 

「はー、いいご身分ねぇ時音」

 

「またそれ?だから良守とはそんなんじゃないって」

 

「そんなんじゃなくてもいいの!それでも私だってあんな幼馴染みほしかったよ〜、アホな兄貴なんかよりそっちがよかったよ〜」

 

毎度思うけどお兄さんが聞いたら泣いちゃうんじゃないだろうか。

 

「私はキョーダイ、ちょっと羨ましいけどね」

 

「うーん、ま、お互いないものねだりかぁ」

 

どっちかって言われたら、私は良守を選ぶけども。

 

 

 

002

 

 

 

「それで、よかったら放課後英語科の職員室に来なよ」

 

昼ごはん前の現在、私は三能先生と共に廊下を歩いている。

 

「お気持ちは嬉しいんですけど、放課後は用事があるので......もっと自分のを読み込んでから借りに行こうと思います」

 

「真摯だね、君は。ではその日を心待ちにしているよ」

 

「はい!ありがとうございました!」

 

笑顔を向けて職員室に入っていく三能先生。あの人はあまり好きじゃないし、なにより怪しい。

 

今はまだ確証がないので様子見しかできないが、このところ頻発している集団失神事件の犯人が彼ではないかと私は推察している。

 

一人で後を追うのも不自然なので以前良守に高等部に来てもらって(私たちが幼馴染みなのは友人には割と知られている)尾行したが、良守曰く「たまに別人みたいに無機質な顔になるのが気になる」らしい。

その意見には私も賛成だ。

 

「時音ー、ご飯食べないの?」

 

っと、ちょっと遅くなりすぎたかな。まどかに呼ばれちゃった。

 

「ごめんごめん!今行く!」

 

ふぅ、やっぱり頭使うと良守のお菓子が恋しくなるなぁ。

 

 

 

003

 

 

 

結果から言って、三能先生は異能者だったが悪い人ではなく、集団失神事件の元凶は三能先生(正確には彼の能力である蛇)に取り憑いた傀儡蟲という妖だったのだ。

 

先生自体はちょっと変だけどいい人(良守は彼のことをやけに遠ざけようとしていた)だったので、もう心配はないだろう。

 

それよりも心配なのは良守の将来だ。

なんでもなにわ屋という店の裏メニューで、滅多に食べられないハズの幻のチョコレートケーキというものを私に一つくれたのだが、その時の会話を聞いてほしい。

 

「美味しそうだけど......いいの?すごいレアなんでしょ?」

 

「俺の分もあるからいいんだよ、日頃の感謝ってことで」

 

「でもそこそこしそうだし......」

 

「それでもいいんだよ。お前のお菓子食ってるときの幸せそうな顔、好きだしな。俺も嬉しくなる」

 

である。どこで覚えたのそんな技!と小一時間問い詰めたい気分になったが、その時は精神的余裕が無かったため「ふ、ふーん......」としか言えなかった。ちなみに味は7層構造による複雑で奥行きのある味わい、その全てをもってチョコレートの味と香りが生かされていて、要約するとめちゃうまなケーキだった。

 

「なぁ」

 

「ん、なに?」

 

言い忘れてたけど今は放課後で下校中だ。って言う相手なんていないけど。

 

「お前今食べ物のこと考えてただろ」

 

......バレてるし。

 

「別に......でもなんで?」

 

「そういう顔してた」

 

「そういう顔ってどういう顔よ」

 

「そういう顔はそういう顔」

 

「......あたしのこと見すぎ、変態」

 

「何年幼馴染みやってると思ってんだよ、変態じゃなくても分かるようになるって。みんなが知らないお前のこととかな」

 

「それって良守が人一倍身長のこと気にしてるみたいな?」

 

「そうだよ、時音が朝ごはん食べれてない時頭ん中で“思い出し食べ”してるみたいな」

 

「なん......!てかそんなのしてないし!もう家着いたし、じゃあね!」

 

「フッ、はいはいまた明日」

 

「フン!」

 

足早に門を通る。ちゃんと怒ってるように見えたかな。

白尾に「ただいま」と声をかけ通り抜け、戸を開ける。

 

「ただいま」

 

これが私の日常。高校生なんて大人っぽく振舞ってもボロが出ちゃう16歳の私は、結界師なんて使命よりもずっとちっぽけで平凡なもので、

 

「良守の笑った顔、かっこよかったなあ......」

 

女というのはいつだって俗なものである。

 

 

 

 

 




うそ、私の文字数、少なすぎ....?
ていうかケーキの品評ネタ、わかってくれる人いるかなあ。

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