フランちゃんは引きこもりたかった?   作:べあべあ

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第7話

 美鈴が館で門番をするようになってけっこう経った。

 

(器用だなぁ)

 

 門柱に寄りかかって寝ている美鈴。それをフランは目の前で見上げている。

 

(でも、この近さで気づかないって……。まぁいいけど)

 

「おーい」

 

 美鈴の顔の前で、フランは手を左右に振ってみる。合わせて地面の影が揺れる。

 起きない。

 

「めぇーりーん」

 

 呼ぶと、目が開かれた。

 

「はい、なんでしょう?」

 

 それはもう何事もなかったように。

 

「いやぁ、疲れてるのかなーって思って」

 

 フランははぐらかせて言う。

 

「いえ、精神統一です。気を集中させていたのです」

「ふーん」

 

(寝息聞こえてたけど)

 

「それでなにかご用でしょうか?」

「うん、ちょっと外出てくるから留守番よろしくねって」

「あぁ、かしこまりました。お気をつけて」

「うん。今度はうまい言い訳聞かせてね」

 

 飛び去ったフランを、美鈴は「あはは」と苦笑いで見送った。

 

 フランはたまに外に出ていた。本当にたまに。

 暇つぶし、気分転換、そんなところである。

 日が出てるうちは街へ、沈むとその辺を適当に飛び回わったり。

 街へ行くときは、おそらく無駄だと思いながらも本を探して街を巡ったりする。成果はない。

 ただの気分転換なのでそれはそれでよかった。

 人間も別に嫌いではない。好きでもないが。

 

 

 今日の気分転換先は街である。

 

「んー」

 

(せっかくきたし、なんかないかなー)

 

 深くローブを羽織ったフランは、ポケットのコインをチャリチャリ鳴らして街を歩いている。

 パンの焼ける匂い。呼び子の声。馬車の車輪の音に馬のひづめの音。

 

(この前来た時より賑やかになったなぁ)

 

 フランが前にこの街に来たのは百年単位で前だが、その辺の感覚が麻痺している。

 

(なんかどことなく街が白くなった気がするし)

 

 昔の記憶をたどるフラン。

 変化を見るのは楽しいもので、そのまま観光を始めた。

 あてなくその辺をひたすらぶらつく。

 

「っと、いけない」

 

 気がつくと日が傾いており、このまま観光を続けると門が閉まってしまうことになる。

 

「えーっと……」

 

 なにか適当に買って帰ろうとあれこれと考える。

 

(前は紅茶葉、その前はぬいぐるみ、その前は……)

 

 全部姉のレミリアに向けてのプレゼントだった。

 結局、日が暮れるまでさんざんぶらついた後、ケーキを買って帰った。

 街を出た辺りで、ローブを羽織った小さい少女を襲う浮浪者もいたが、すぐに大地の栄養になった。ケーキより魅力を感じないらしい。

 少し歩いて街から距離を取ると、ローブを取って腕に抱え、羽を広げ、空の旅に出た。

 

 

 館まで着くと、門前で美鈴がまだ立っていたのでフランはそこに降りた。

 

「ただいまー」

「フラン様、お帰りなさいませ」

「もう楽に喋っていいのに」

 

 美鈴は困ったように笑う。

 

「もしかして今までずっと立ってたの?」

「はい、お戻りするまでこうしているつもりでした」

「夜はお姉さまも起きてるからいいのに」

 

 苦笑いで頭をかく美鈴。

 

「まぁ、いいや。ケーキ買ってきたから皆で食べよ?」

「おぉ、これは。喜ぶでしょうねぇ」

 

 レミリアの事である。

 

「甘いもの好きだからね」

「ええ」

 

 一緒に行く二人の頭の中に、喜ぶレミリアの映像が流れた。

 館に入ると、フランはレミリアへ知らせに、美鈴は準備にいった。

 館はそれなりに見れるようにはなってきている。あくまで前よりかではあるが。

 館のあまりの惨状に見かねた美鈴が少しずつ掃除を始め、罪悪感にかられたフランがそれを手伝い、好奇心を発揮したレミリアが水浸しにするといった風。

 

「……フラン? どうしたの?」

 

 フランがレミリアの部屋に入った時、レミリアは寝起きだった。

 目元を指でごしごししながら、くわぁとあくびをしている。

 

「ケーキ買ってきたよ」

 

 レミリアは目をぱちくりとさせた。が、すぐに、フランが見せたものが洋菓子店の包装であることに気づき、理解した。

 

「街に出てたの?」

「うん」

 

(またか)

 

 これから先を思ったフランがそう思うのも無理はなかった。

 

「大丈夫だった? なんかよく分からない悪いのに騙されてない?」

「だから大丈夫だって」

 

(お姉さまじゃあるまいし)

 

「本当? お外は色々危ないから……」

「多分、危ないのは私たちの方だと思うよ」

 

 フランが外出するのは年に数回といった程度で、それ以外は籠って魔法の研究をしている。といっても最近は少し手詰まり気味で、それに耐えきれなくなると、外に出て気分転換をするといった感じである。

 

 コンコン。

 

「お茶の用意が出来ましたよー」

「はーい」

 

 フランが返事をすると、美鈴が質のいい木製のサービスワゴンに、ティーポットとティーカップを乗せて部屋に入ってきた。

 部屋にある白い丸テーブルにケーキを置くと、美鈴が三人分に分け、カップに紅茶を注ぐ。紅茶の香しい匂いが部屋に広がり、レミリアは気分良さそうに空気を吸った。

 

「美味しそうね」

「そりゃ、私が買ってきたんだからね」

「そうだったわね」

 

 くすくすとレミリアが笑い、それを見たフランも笑い、その二人の仲睦まじい様子に美鈴も笑った。

 

「もうあなたも長いんじゃないかしら?」

 

 レミリアは美鈴に気を向けた。

 

「そうですね、なかなか楽しくやっています」

「それはよかったわね。なかなか腕も上達してきたみたいで」

「ええ、非常に実りの多い日々ですよ」

 

 美鈴とレミリアはよく模擬戦闘を行っていた。目的は単純明快、実力の向上である。勝ち負けにこだわりすぎない、ただただ純粋に力をつけるためのもの。これによって互いの実力はいちじるしく向上した。そしていずれはフランとも再戦したいと考えていた。

 だが、美鈴は初めのあれ以来フランと戦ったことがなかった。

 要因はいくつかあったが、一番はレミリアの言葉だった。

 

「私よりフランの方が強いわ」

 

 その言葉は美鈴に抵抗なくすんなりと入り込んできた。決してレミリアを侮ってるわけでもない。ただ初めフランと戦った時に感じた、底の見え無さが脳裏に張り付いている。フランが普段まったく戦ったりしないところも不気味だった。

 実際は出不精気味のめんどくさがり屋ってだけなのだが。

 

 それは置いといて。フランは元気にケーキをパクついていた。

 

「あれ? 二人とも食べないの?」

「あ、いただきます」

「そうね、いただきましょう」

 

 食べながらの雑談中、レミリアがフランの興味を引くことを喋った。

 

「あ、そうだフラン」

「ん? なに?」

「今度、あなたにプレゼントがあるの」

「プレゼント?」

「ええ。きっと、喜ぶわ」

 

 なんだろうと考えるフランだったが、いまいちわからなかった。

 

(期待はしない)

 

 レミリアの思惑は置いておいて、その言葉通りにフランは喜ぶことになる。




時の流れが加速していきます。ゆっくりじゃなくてごめんなさい。

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