フランちゃんは引きこもりたかった?   作:べあべあ

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第4話

 ついに耐えきれなくなったフラン。

 

(お姉さまが外出したときを見計らって……)

 

 外に出ると決めたフランは、準備を始めた。

 身を守る為の魔法はもちろんだが、姿の誤魔化し方が主になった。赤色の瞳と、奇怪な翼、人外だと疑われるには十分な証拠になる。

 

 ということで、ローブを羽織ることにした。

 翼は中になんか上手く隠して、瞳の色は魔法でなんとかした。

 

 準備が終わると姉の外出を待てなくなったフランは、姉が寝てる合間に行くことにした。

 

 フランは館を出ると、屋根の高さまで飛び上がる。

 あまり使っていない翼の感触を確かめながらの飛行。ここまで堂々と空を飛んだのは初のことで、なんだか気分が良くなった。

 空は曇っていて、ローブを羽織ったフランに日差しの影響は非常に少なかった。鈍色の空をいくフランは、自然と鼻歌まで歌っていた。

 手に持った地図をちょくちょく見ながら、目的の街までの大体の目安をつける。街の上で飛ぶわけにはいかないので、街の姿が見えればそれなりのところで降りる必要があった。

 しばらく飛行すると、街が見えてきたので地上に降り立ち、徒歩で進む。

 

 

 薄緑の草原をしばらく歩くと、街が近くに見えてきた。

 街は中規模程の大きさで、その周りを城壁で囲まれていた。

 城門には警備の兵が2人。

 

(怪しまれるかな……?)

 

 なにもかも隠している自分を思い、フランはフードを取った。

 薄黄色の髪に、魔法で変化させた黄色の目をした少女が現れた。

 

(これで大丈夫だと思うんだけど)

 

 ドキドキしながら門にまで進んだ。

 平然を装いながら門を抜けようとすると、声をかけられた。

 

「――おや、お嬢ちゃん。1人?」

「え、うん」

 

(な、なに……?)

 

「そっか、ちゃんと気をつけるんだよ? いいね?」

「あ、はーい」

 

 えらく可愛い少女が1人でいたから声をかけただけであった。

 おつかいかなにかだろうかと首をかしげた門番だったが、フランのは心臓が喉元まで飛び出たような気になった。驚きを表に出さないようにして、なんとか見た目相応っぽく装ったフランであった。

 

 街中は岩っぽく全体的にねずみ色だった。

 まず、フランは本屋を探した。

 が、この街はそこそこに広く、土地勘ゼロのフランは早くも迷うことになる。

 

(ここ、どこ……)

 

 とにかく歩き続ければ見つかると思っていたフランは、もうここまでどう進んできたかもわからなくなり、最悪このまま飛んで帰ることも視野に入れ始めた。

 

(人に聞いたほうがいいかもしれない)

 

 念のため人との接触は避けていたが、諦めた。これ以上さまようことの方が嫌になった。

 周りを見渡すと、いつの間にか裏路地にまで入り込んでいたらしく、人通りがなかった。曇り空の影響もあって、辺りは暗く、ひんやりとしていた。そしてどことなく砂っぽく、臭いが酸っぱい。

 

(ありゃ、どっちいけばいいのかな?)

 

 耳を澄ませ音を探ると、このまま真っ直ぐ進めば人が多い所へ行けそうなことがわかった。

 その様子を外から見ると、迷って立ち尽くす少女にしか見えない。

 そんな可哀想な少女に、良いころ合いだと近づいてくる者がいた。少し前からつけられていた。

 

「よぉ、嬢ちゃん。迷子かい?」

 

 フランが声の主の方を見ると、貧相な身なりをした男が見えた。

 

(臭い)

 

 身綺麗とはお世辞にもいえないその姿、フランはどういった人間かすぐに理解した。

 

「そうなの。おじさん、道教えてくれない?」

 

 そう男に尋ねるフランの目は嬉しげだった。

 実際に嬉しかった。

 

「――いいぜ」

 

 男は自身の後ろに親指を指し言う。

 

「ほら、こっちだ」

 

 フランは無邪気に微笑み、

 

「ありがとう!」

 

 と無邪気に言った。

 

 そして、フランが後ろへ歩みだし男の横にまできたとき、男はフランの肩を掴んだ。

 笑顔のまま首を傾げるフランに、男は卑屈な笑みで言い放った。

 

「馬鹿なやつだ。見た目からもしやと思っていたが、どっかの貴族の箱入り娘かなんかか?」

「まぁ、合ってるんじゃない?」

 

 フランは無邪気な笑みのままである。

 

「……まだよく分かってないようだな」

 

 男はそう言い終わると、力を入れ、逃げられないように自身の元へと手繰り寄せようとした。

 が、動かない。

 理解出来ない状況に男が身を硬直させた時、男の体は地に沈んだ。

 フランが、肩にかかっていた手をもげない程度に加減して下に向かって引いたのである。

 

「それで、道を教えてほしいんだけど。あ、ついでに本屋さんの場所も知りたいんだけど、教えてくれない?」

 

 笑みを崩さないフランに、男は恐怖を覚えた。

 

「お、おまえは――」

 

 言葉にならなかった。

 笑みが怖くてたまらなくなった。

 掴まれている手を切り離したいとすら思えた。

 

「ねぇ、教えてくれないの?」

 

 そう言うフランの口に牙が見えた時、男は自身の実情をはっきりと理解した。

 

「ば、化け物――」

 

 フランは口をはっきり開き、牙を見せつける。

 

「で、どうなの? 別にどっちでもいいよ?」

 

 生か死か。

 笑みのままのフランだったが、男には急かしているようにしか感じられない。

 早くこの恐怖から抜け出そうと、とりあえず大通りの場所を震える手で指した。

「ありがとねっ」

 

 掴まれた手が離されると、男は安堵のため息をした。

 

「っが――」

 

 男はもう息を吸うことはなくなった。空気の通る首筋には血で満たされた。

 

「まっず! なにこれっ」

 

 べーっと舌を出しながら、フランはこの場を立ち去った。

 

(お姉さまってちゃんと選んで捕ってきてたんだ)

 

 そんなことを思いながら。

 

 

 

 大通りにまで戻ってきたフランは、先ほどの男からの情報を頼りに、目的の本屋までやってきた。

 そして絶望した。

 

(なにこれ、しょぼい。なんていうか、すごいしょぼい)

 

 フランは失念していた。本屋なんて無かった。びっくりである。それでも諦めれずに、人に聞いてみると教会に置いてあるとのことだったので、教会へ向かった。

 

「おじゃましまーす」

 

 目鼻立ちが整いすぎたことからか、怪しまれずに本のある所までたどり着けた。

 しかしそこには、フランの求めるようなものはまったくといっていいほどになかった。

 

(聖書なんて読むかい! ご丁寧に鎖まで使ってるけど、こんなんほしいやつがどこにいるんだろう、……いやいない!)

 

 唾でも吐いてやろうかと思ったがとどまり、その場を去る。

 

(うぅっ、お姉さま、ごめんなさい)

 

 フランは心の中で涙した。

 

(まだレシピ本のほうがよかったっ。……ってわけでもないか)

 

 フランはさっさと街を出て館へ帰った。

 自室へ戻ると、そこにはレミリアがいた。

 

「フランっ! どこいってたの!」

 

 そういうレミリアはなんか涙目である。

 妙な気まずさにフランは目を逸らして、

 

「……トイレ」

 

 とだけ言った。

 この日、姉がひっつきすぎて大変な目にあったフランだった。

 

(……次はバレないようにしなきゃ)

 

 柔らかな重しにより体勢が変えれず、寝辛い思いをしたフランは寝床でそう思った。




この時代の本の扱いはよく分からないので消そうか悩みました。
調べてもいまいちピンとこなかったのです。

ありがとうございました。
優しい知識人の方々のご協力により、ちょこちょこーっと変えました。

綺麗ごとではなく、事実として皆さんとでこの作品は出来上がっていくのだと思いました。っわ、すごいいい人っぽい。

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