フランちゃんは引きこもりたかった?   作:べあべあ

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幻想郷で常識に囚われるとは何事であるか


番外編 その2 フランちゃん、○○を買う。

 歯切れの良い。

 そんな声と、それを支える音楽が空気を揺らしていた。

 場所は紅魔館地下。

 泣く子も黙るかもしれないフランドール・スカーレットの自室である。

 音は、黒い箱から出ていた。

 部屋の主たるフランは、そこから出る指令通りに体を動かしていた。

 リズミカルである。

 黒い箱にあるガラス窓ような所から光が点灯しており、それが模様を描き、人間や空間を形作っていた。白い空間で妙な服を着た人間が「いっちにいっちに」などと声を出しながら体を動かしていた。

 なんでもこれは『テレビジョン』とかいう物で、遠くの景色の霊を映しだすことが出来る。人間の姿が映っていた物は例が宿りやすく、霊気入れとして役に立っているとのことだ。(求聞史記より)

 これは『一体型』とかいうやつで、画面の下についた穴にある暖簾(のれん)のようなフタを開けると、中に黒い長方形の箱があるのが見えた。『VHS』とかいうものらしい。日本語で『今日からあなたもスリムに。簡単エクササイズ集』と書かれてある。画面にも『パート6 二人で行うエクササイズ』と、読めるように光が点灯していた。

 何故これがフランの自室にあるか、それは少し前の日の事。

 

 

 

 例の如くフランは暇だったので、なんとなく某神社に遊びに行った。

 お日柄は悪く、日傘を持っての飛行になった。日焼けしそうだった。

 やがて神社の姿が見えると、すごい気だるげに掃除をしているというかホウキを左右に動かしているだけにも見える巫女が見えてきた。

 傍に降りると、おみくじの小吉を引いたときのような微妙な表情で

 

「……あんたか」

 

 と、言われた。

 なんかいつもと感じが違うと思ったフランは、普通に聞くことにした。

 

「どったの」

 

 疑問の返事はなく、「んー」といういかにも考えてます的な声だけが巫女さんから発せられていた。

 突如、

 

「――っは」

 

 巫女さんは何か思いついたような顔すると、急に歓迎の意思を示した。

 

「いやなんでもないのよ。それにしてもよく来たわね。お茶出すから、ゆっくりしていくといいわ」

 

 通常あり得ない霊夢の歓待だった。

 

(あ、これ絶対なにかある)

 

 フランは気が引けながらも中へ入った。

 案内された先には、普通の魔法使いと白と緑の巫女服を着た少女がちゃぶ台を挟んで座っていた。

 なんか疲れた様子の魔理沙に対して、テンションが高い様子の白緑の巫女。

 目が合うと、ぱちりと、まばたき。

 目ざとい魔理沙が立ち上がりフランに近づくと、肩に手をやり「後は任せたぜ」といって部屋を去っていった。

 

「――え?」

 

 振り返ると、赤白の巫女も消えていた。扉の閉じられた音が響いた。

 視線を戻し、一気に怪しさ満点になった緑の巫女を見ると、なんか目が輝いているのが分かった。

 

「えっと、初めまして?」

 

 なんか目が合わせれなかったので、視線だけをその周辺に向けた。

 勢いよく立ち上がる音がした。

 畳、机ともに大きな音を立てた。

 フランは思わず身を引いた。

 

「初めまして!!」

 

 大きな挨拶ともに、手を掴まれた。

 いや、ぎっしり握られた。

 顔が近い。

 

「私、東風谷早苗といいます!! よろしくお願いします! 私はこの通り、巫女をしています。といっても、ここじゃなくてですね、山の方にある神社っていうか、あ、山っていうのは妖怪の山で、あっ巫女っていっても私も実は神さまだったりしなくはないんですけど、っとそうじゃないですよね、あなたの名前を教えてもらってもいいでしょうか? 羽とかありますし、人間じゃないんですよね? あ、もしかして妖精さんとか? どうですあたってたりしますか? あとうちにも来たりしませんか? もちろん歓迎いたしますよ? そうそう、最近――」

 

 フランは理解した。

 出ていった二人が間違いなく裏切ったことを。

 いや、裏切ったというか初めから敵だったのだと。

 自分は生贄のようなものだったと。供物なのだと。

 

「ねぇ――」

 

 フランは笑みを浮かべた。有無を言わせないような威圧感もそえて。

 

「はい、なんでしょう?」

 

 にっこにこの緑の巫女、早苗に伝わった様子はなかった。

 フランは笑みを濃くした。

 

(どうしよ)

 

 フランは何も言わずに部屋を出た。

 当然のように、付いてくる気配を背で感じながら、例の敵二名を探した。

 敵は縁側にいた。

 

「やぁ――」

 

 手を上げて挨拶をした。

 

「元気そうだね(ぶっとばすぞ)」

 

 敵二名は何事もなかったように、挨拶を返した。

 

「いや最近体調が悪いのよねぇ……」

 

 霊夢は魔理沙を見た。

 

「逃げるなよ」

「逃げれないから言ってんのよ。ここどこだと思ってんの」

「有名な妖怪神社だろ」

「ああん?」

「お、やるか?」

 

 ふところからスペルカードを取り出す魔理沙。

 これ幸いと霊夢もそれに応えようとした。

 

「せい!」

 

 フランは右手をぎゅっとした。

 

 ――爆発音。

 神社の境内に小さなクレーターが出来た。

 

「そういえば負けたままだったし、私も参加しようかな?」

 

 霊夢は即座に倍増するであろうクレーターを直すまでの労力を考えた。

 

「――やっぱのんびりが一番よね? ね、魔理沙?」

「おう、そうだな……」

 

 魔理沙は気づいた。ここ自分の家じゃない。

 

「――ということで、私はここで帰るとするかな」

「え?」

「そんじゃ、またな」

 

 魔理沙はホウキにまたがり、飛び去ろうとした。

 

「いやいやいやいやいや――」

 

 霊夢が魔理沙の服を掴んだ。

 

「なんだよ、はなっ」

 

 魔理沙は固まった。

 霊夢の必死の表情を見てしまった。

 しかし魔理沙は意思を曲げなかった。

 

「いや、私は、このあと、香霖の所に……」

 

 悪手だった。

 

「こーりん?」

 

 と、フランの声。

 

「ああ、霖之助さんのところですね! 私も行こうかな――」

 

 と、早苗の声。

 今の今まで悲壮な表情をしていた霊夢の顔には、邪悪な笑みが浮かんでいた。

 

「じゃ、魔理沙。三人でいってらっしゃい」

 

 ナチュラルにフランも混ぜられていた。

 身軽に逃げるつもりが、マスパ級を二つ背負わされになって魔理沙は焦りに焦った。

 

「あ、いや、その――」

 

 霊夢は完全に勝ち誇っていた。

 

「強く生きるのよ」

 

 魔理沙は転んでもただでは起きない。いや、転ぶくらいなら平気で誰かの背中を使う人間だった。

 

「そういえばなんかお腹痛いかもしれんわ。さっき飲んだ味の薄いお茶みたいなやつのせいかもしれん。場所は早苗が知ってるから、二人でいけるよな?」

 

 お腹をさすりだす魔理沙。そして混ぜられたままのフラン。

 

「――ってことで、二人で行ってきてくれ。あ、勝手に店の物取っちゃ駄目だぜ?」

 

 悪いなこーりん。そんな思いで最後に言葉を一つ付け足した。だが、おそらく誰にも伝わることのない言葉であろう。

 

「そうですか、それは残念です。仕方ないですね、では二人で行きましょうか!」

 

 早苗はフランの手をぎゅっ! と握った。

 

「あ、そういえばお名前は?」

「……アリス・マーガレット、みたいな感じ」

 

 変な抵抗したフラン。ちょっと性格が悪かった。

 

「あ、そうなんですか? アリスさんの親戚かなにかで?」

「うん、そんな感じ」

「へぇ~。それじゃ、行きましょうか!」

 

 しかしまったく影響がなかった。

 早苗さん。ちょっとテンションが高くてお喋りなだけで、悪い子ではない。悪い子ではない。

 

 人里から魔法の森方面に向かうと見えてくる奇妙な建物が香林堂だ。店の入り口にはたぬきの大きな置物がお出迎えしている。ちなみにたぬきの置物には「他(タ)の者より抜き(ヌキ)に出る」という意味合いがあって、商売繁盛に縁起が良いとされているらしい。

 縁起というものは幻想郷においても人々中に根付いている考え方である。例えば、見れば幸運が持たされるというウサギがいる。迷いの竹林に生息しているらしい因幡てゐとかいう妖怪兎である。実際に発見したという人間にどんな幸運が訪れたかを問うと、もう見ただけで幸運じゃないかと言うので、実際のところどうかは正直眉唾ものである。

 という話はここまでしておいて、早苗+αは香霖堂に入った。

 

「ごめんくださいーい」

 

 扉を開けると、扉の上部に付いた鈴のようなものがからんころんと鳴った。

 来客の知らせの効果があるが、その音が響き渡った店内からは何の音もしなかった。

 

「霖之助さーん?」

 

 早苗の声。

 フランはきょろきょろ見渡したのち、ずかずかと店内へ入っていった。

 店内はかろうじて並べてあるといえる程度の物置のような状態だった。タヌキの置物が泣きたくなるような商売っ気のなさである。

 見渡している内に、簡素な台の上にあった物に目が留まった。

 

(これ、防犯ブザーじゃん)

 

 手に取ると、下の紐を引っ張った。

 何も起きなかった。

 

(ん? あぁ、そうか)

 

 紐を元に戻すと、今度は電気に変換させた魔力を込め、紐を引っ張った。実はけっこう凄いことだったりする。

 それはさておき、店内に、びりびりと、もの凄い電子音が鳴り響いた。

 

(うるさっ)

 

 あまりにもうるさかったので、すぐに戻した。

 

「あ、それ防犯ブザーじゃないですか! うわぁ~懐かしぃ~」

 

 寄ってきた早苗は、フランの手からナチュラルにブザーを取ると、懐かし気に目の前にかざした。

 眺めていると、背の高い男が近寄ってきた。

 

「おや? それは……」

 

 早苗さんは見せびらかすように、男の目の前に防犯ブザーをつきだした。

 

「ふっふっふ~ん。これはですねぇ、防犯ブザーですよ! 前に使い方が分からないっていってたから私が使い方教えてあげたやつですよ!」

「あぁ、あの時のか。結局何も起こらなかったやつだね」

「ところがどっこい! とぉりゃぁ!」

 

 早苗はカッコつけながら勢いよく紐を引っ張った。

 そして音に備えて顔をそむけたが、

 

「……あれ?」

 

 何も起こらなかった。

 おそるおそる顔の前に近づけたのち、指先でちょんちょんとつついた。

 ぶらんぶらんと揺れるだけだった。

 

「どうして……?」

 

 早苗はフランの方を見た。

 フランは顔をそらした。気持ちは先ほどブザー音に備えた早苗と似ている。やってくるであろう音に備えている。

 

「……さっき、これ、鳴ってましたよね?」

「そーだっけ?」

「そうですよ」

「んー?」

 

 首を右に左に傾げて見せた。一番被害の無い方法を模索している。

 

「たまたま、じゃないかな?」

 

 話をそらそうとした。

 

「そうそう、これ面白いよね」

 

 そう言ってフランは、近くにあったものを適当に手を取った。

 

 

 

 

 

「それはそうと、ここにあるのって売り物なの?」

「まぁ、一応ね」

「一応?」

「一応」

 

 フランはじーっと霖之助を見た。

 そして思い出した。

 

(あぁ、そういえば……)

 

 その時、ふと目に入った物があった。その名を『パーソナルコンピュター』

 即座に手に入れるための算段を始めた。

 下手な事を言えば非売品化してしまう。

 ということで、とりあえず確実な方法を模索することにした。

 

「あれも売り物なの?」

 

 フランが指さした先には黒色のブラウン管のテレビがあった。

 

「ああ、『テレビジョン』だね。それは売り物だね。予備もあるし」

「じゃあ一個売って」

「いいのかい? それは――」

 

 霖之助はテレビジョンの説明をした。

 フランは何も口をはさまずにただ黙って聞いていた。にこにこと笑顔を顔に張り付けているが、内心では早苗が余計なことを言いにこないか警戒している。その早苗は『たまごっち』なるものに執心中だった。当然電源は入らない。

 中々終わりそうにない説明に早苗と同じようなものを感じ始め、フランは話を中断させようと口を開いた。

 

「――で、いくら?」

「んーそうだねぇ……」

 

 …………。

 

 

 

 交渉は上手くいった。

 

「それじゃこれはもう私のものだね?」

 

 フランは念を押した。

 そしてにやりと笑い、

 

「ごめん、それちょっと貸して」

 

 と、早苗に手を伸ばした。

 早苗は防犯ブザーのことだと気づき、しれっとポケットに確保していたブザーを取り出し、フランに渡した。一応、ちゃんと後でお金を払うつもりだった。

 フランは受け取ると、

 

「えいっ」

 

 ブザーを鳴らした。

 すぐに紐を元に戻し、音を止めると早苗に返した。

 驚いた様子の二人を見て気をよくした。

 

「実はこれ、ただのテレビジョンじゃないんだよね」

「え?」

 

 フランはテレビに上手いこと電流を流し、電源ボタンを押した。

 画面には霖之助と早苗が映っていた。それも斜め上から見下ろしたような構図で。

 

「――ほんじゃね」

 

 画面から推測した視点の方向を見る二人。

 何もない、と天井の隅を見て思った二人が振り返った時にはフランとテレビジョンは無かった。

 

 

 

 

 そんなわけで持ち帰ったテレビジョンに入っていたストレッチのビデオを再生しているフランである。ストレッチを終えると、一緒に体を動かしていた終始笑顔だった者に手を振った。その者は手を振り返し、笑顔のまま部屋を出ていった。

 フランはぐぐっと背伸びをして、体の軽さを確かめると、一冊の本を開いた。

 そして書き込んだ。

 

『さとり様へ。引きこもりで鈍った体をほぐすことが出来るいいものが手に入りました。今度持って行きます。ぜひ、お試しください。多分、良いことがあると思います』

 

 

 

 その書き込みを見たピンク髪の妖怪は呟いた。

 

「え、……持って行く?」




ということで続きを書くとおもうので、完結済みを一時外しておきます。

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