フランちゃんは引きこもりたかった?   作:べあべあ

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第23話 vs いろいろ 2

 ある日のパチュリー。

 

「ちょっといいかしら」

 

 フランの自室にやってきた。本を二冊持っている。

 

「ん、なぁに?」

 

 パチュリーは、ベッドの上でごろごろしていたフランに一冊の本を手渡した。

 フランは上半身だけひょいっと起き上がると、中身を開いた。

 ――真っ白。

 

(なんじゃこりゃ)

 

 フランはこてんと首を傾げた。

 しかし、よーく見ると。

 

(なんか術式が施されてる)

 

 パチュリーがぼそぼそと説明を始める。

 

「それは日記よ」

「日記?」

「そう、日記」

 

 意味が分からない。

 

(まさか日記をつけろってわけじゃないよね?)

 

 いやしかしこの変な魔女ならば言い出しかねないと、フランは次なる説明を待った。

 

「その日記に書いた文字はこっちの本にも記載されるわ」

 

 パチュリーは、フランに渡していなかったもう一冊本を見せた。

 

「つまり交換しなくてもいい交換日記みたいなものなのだけど」

「うん」

「……どうかしら?」

 

 フランは上に掲げてみたりして、本を見回す。

 

(ふむ)

 

 試しにと、本を開き、指に魔力をともして適当に文字を書き込んでみる。

 

『おはよー』

 

 パチュリーが自身の持つ本を開けて見せると、そこには、

 

『おはよー』

 

 と書かれてあった。

 

「なるほど。面白いね」

 

 別におべっかではない。

 

「これ文字が転移してるんじゃなくて、書き写してるんだね」

「そこに書かれた文字は情報として処理されて、もう一方へと情報のみが伝わり新たに文字として浮かびあがらせるのよ」

「なんか懐かしい? いやちょっと違うか」

 

 なんだか昔似たようなものを知ってた気がしたが、出てこなかった。

 そのフランの妙な様子を、パチュリーはいぶかしんだ。

 

「……もしかして?」

「いや、違うけど」

 

 もしかして既に作っていたのでは? という疑問はすぐに解消された。

 気にせず適当にぐにゃぐにゃと落書きを始めるフラン。

 しかし、パチュリーの方の本にはなにも写らない。

 

「文字情報しか抜き取れないのよ」

「あぁ、そっか。そういうことか」

「外の世界にあるふぁっくすとかいうものについて書かれた文献があったから、試しに効果を真似して作ってみたのだけど」

「で、ここが欠点ってことね」

 

 フランは日記帳をひらひらとさせた。

 

「でもいいね、これ」

 

 ザ・引きこもりグッズ。

 直接会わなくても簡単に会話できる優れもの。

 

「よかったら使って」

「うん、そうする」

 

 用を終えたパチュリーが去ると、さっそくフランは本の解析を始めた。もはや癖である。

 

 

 

 

 それが一段落すると、部屋から出た。

 とりあえず姉の顔でも見ようかと、フランは感応型の結界を広げた。

 

(部屋かな?)

 

 自分の家であるはずなのに地理がまったく分からない館。そんな館をぶーくさ言いながら進んでいく。

 

(また妖精が増えた気がする)

 

 目が合った。

 

「ひぇっ、残虐悪魔だー」

「うぎゃー」

「ぎえぴー」

 

 通りすがっただけで、妖精が次々に逃げていく。

 フランは理由を逃げる際の言葉から察した。

 

(……どうしてくれようか)

 

 今会いに行っている姉への復讐を誓うフランであった。

 そうこうしてると、目的の部屋に着いた。

 

 コンコン。

 

「入るよー」

 

 ガチャ。

 

「あっつ」

 

 部屋は暑かった。

 扉を開けただけで暖風が襲ってきた。

 

「ちょっと早く閉めて、早く閉めて」

 

 急かす声。

 声の主はフランに気づいた。

 

「あら、フラン、久しぶりね、早く閉めて」

 

 中に入り、扉を閉めるフラン。

 

「どうしたの? その恰好。新たな何かに挑戦中?」

 

 レミリア・モコモコ・スカーレットがそこにいた。暖炉の前で火にあたりながら、もうとってもモコモコしている。何枚重ねで服を着ているのか、謎である。

 

「風邪ひいちゃったのよ」

 

 ずびび。

 

「あれ? お姉さまって何だっけ? 吸血鬼っぽい何だっけ?」

「いや普通に吸血鬼だけど。風邪引いてるのはアレよ、寒いからよ」

「なに言ってんの、この蝙蝠」

 

 確認済みモコモコ物体の横で待機していた咲夜がフォローしようと口を開いた。マスクをしているため、その口は見えはしない。あと、マスクが妙に似合っていた。

 

「最近ずっと寒いですからね。長引く冬のせいでしょう」

 

 まだレミリアに慣れ切っていない咲夜は墓穴を掘った。レミリアのフォローなんてことをすると、基本厄介事に巻き込まれるのである。

 

「そうよ、この長い冬が悪いのよ。あ、ちょっと咲夜、何とかしてきて」

「……え? 今、なんと?」

「だから、このくそ寒いのを何とかしてきて」

 

 咲夜が遠い目をしている中、レミリアは春がどうたらとなんか言っていた。

 

「……承りました」

 

 どうしようもないと、咲夜は悲壮な想いで命を受けた。

 そこに、助け舟? が。

 

「んじゃ、私も行こっかな」

「え!?」

 

 モコモコが一瞬浮き上がった。

 

「だ、駄目よ! 外は寒いのよ!」

「でも、お姉さまが心配で心配で早くどうかしなくちゃって……」

 

 目元、口元を手で覆うフラン。

 

「フラン……」

 

 レミリアは簡単にほだされた。

 

「分かったわ、気をつけてね……」

 

 フランの手の奥の目と口がにやりと歪んだ。

 

「……まぁ、咲夜がいれば安心よね?」

「――お任せください」

 

 ということになった。

 

 

 

 

 

 

 

 雪、雪、雪。

 なんと世界は白かった。

 

「さっぶ!」

「大丈夫ですか?」

 

 気遣う咲夜。赤マフラーが似合っている。

 

「咲夜は寒くないの?」

「メイドですので」

「なにそれ」

 

 などと変な会話をしながら二人は寒空を行く。

 

(咲夜って結構アレなのかな? まぁそれはそれとして、これはさすがに荒れすぎじゃない?)

 

 もうとにかく思いっきり吹雪いていた。白の世界に白い粒が踊り狂っている。

 

「これどう考えてもおかしいよね。日本じゃない」

「……何か元凶が近くにいるのかも知れません」

 

 進んでいると、なんか冬っぽい感じの妖精がいっぱい出てきた。

 

「んー、あれかな?」

「どうでしょうか。とりあえず倒してきます」

 

 咲夜が妖精の群れをさくっと倒す。

 が、どんどん出てくる。

 が、それもさくさくっと倒していく。

 

「ああもう、こんな雑魚いくら倒しても何にもなりゃしない!」

 

(さ、咲夜?)

 

 なんか雰囲気が変わってきた咲夜にフランはちょっとびびった。

 

「さっさと黒幕の登場願いたいものだわ」

 

 咲夜さん押せ押せモードである。

 戦闘時の咲夜を初めて見たフランは内心引いていた。

 

(咲夜の変な一面を見ちゃった、いや見てしまった気がする)

 

 そこに、

 

「くろまく~」

 

 なんか出てきた。

 防寒具とは思えないような軽い服装であるが、それなりに暖かそうである。服の色は寒色であるが。

 

「あなたが黒幕ね。では、早速」

「ちょい、待って! 私は黒幕だけど、普通よ」

「こんな所に黒幕も普通もないわ。そもそも、あんたは何が普通じゃないか分かってるの?」

「例年より、雪の結晶が大きいわ。大体、三倍位」

「ああそうね」

「あとは、頭のおかしなメイドが空を飛んでることくらいかな」

「そうね。やっぱり、あんたが黒幕ね」

 

 完全にいない者となっていたフランは、傍観を決め込んでいた。実は弾幕ごっこ初観戦にわくわくしている。

 が、これもさくっとすぐに終わった。

 

「黒幕、弱いなぁ。次の黒幕でも探さないとね」

 

 レミリアに鍛えられた咲夜はかなり強かった。

 

「あ、フラン様、次に行きましょうか」

「そっすね」

 

 明らかに今思い出された気がしたフランは、思わず変な受け答えをした。

 ということで、去った。

 

 

 しかし、どこまでいっても雪に雪に雪だった。

 

「雪すごいねー」

「はい、現在地が分からなくなるくらい」

「え? もしかして迷ってる感じ?」

「いえ、何となくくらいには」

 

 そのうち、人間のような何かが棲みそうな所に出た。

 

「なんか変な家みたいなとこにきたね。なんかこれ完全に迷ってない?」

「いえ、おそらく合ってるはずですが……」

 

 なんか人型の猫っぽいのが出てきた。

 

「ここに迷い込んだら最後!」

 

 フランは素直に聞いた。

 

「最後なの?」

「ここに迷い込んだら最後、二度と戻れないわ!」

「え? なに? やっぱ迷ってるの?」

 

 フランは咲夜を見た。

 咲夜は気まずそうに目を逸らした。

 空気を読まない猫っぽいのは会話を続ける。

 

「そりゃここは迷い家だもん」

 

 咲夜は、わざとらしく音を鳴らしながらナイフを構えた。

 

「あんな化け猫の言うことを信じてはいけません。とりあえず私が倒しておきます」

 

 咲夜は相手を見据え、フランと目が合わないようにして言い切った。はたから見ればすごく真剣な感じである。

 が、フランは見逃さない。

 人が誤魔化した事は嬉々として突っ込みにいくのが楽しみである。

 

「さっきのくろまく? は咲夜がやったし、次は私がやるよ」

「ですが」

「その代わり次お願いね!」

 

 そう断定気味に言われると、咲夜はうなずくしかなかった。

 

「はい、ターッチ!」

 

 へいへい、と両手を出すフラン。

 咲夜は控えめにその手に自身の両手を合わせた。

 

「はい、決定!!」

「はい決定って、なに好き勝手言ってるのよ。二度と戻れないって言わなかった?」

 

 フランは不満気な化け猫を見やった。

 

(なーんか余裕で勝てそうなんだけど、どうしたらいいのかな)

 

 ちらりと咲夜を見た。自分がやりたいオーラが抑えきれてなかった。

 

(はぁ……)

 

 フランは投げやりに言った。

 

「なんでもいいから、さっさと何かしてきていいよ。すぐに終わるから」

「っな!」

 

 化け猫は怒り、その勢いのまま妖力弾をフランへと放った。

 フランは虫を払うようにしてそれを弾いた。

 

(どうせなら、なにか戦果がほしいけどなぁ)

 

 フランは腕を組み考え始めた。

 その間、妖力弾がフランに殺到しているが、その全てが結界に弾かれている。

 

(――そうだ!)

 

 フランは思いつくと、急に真面目な顔をして、胸の前に一つの魔力弾を生成し始めた。

 その間にも弾幕がやってきているが、相変わらず結界に全部弾かれていた。もはやフランの意識外のことになっていた。

 

(よし!)

 

 魔力弾の生成を終え、フランは真面目な顔から、にやり意地の悪い顔になった。フランの胸の前には黒々とした大き目の魔力弾が生成されていた。

 

 そして、放り投げた。

 

 高い誘導性能が、逃げる化け猫に向かってぎゅるんぎゅるん曲がりながら追っていく。その光景を楽しむか迷ったフランだったが、早く結果が見たかったので適当に追加の魔力弾を放って、妨害し始めた。

 それからすぐに化け猫は黒い魔力弾に当たった。

 

「に゛ゃっ!」

 

 変な悲鳴をあげた化け猫の周囲に、薄い黒の結界が張られた。

 

「おめでとう、結界をプレゼント! 力を込める程、強度が増すよ。やったね!」

 

 フランは愉快気に言った。

 化け猫はその言葉で完全に舐められていることを真に自覚した。

 ぎゅっと握り拳を作り、威を発した。

 

「このままじゃ終われない!」

 

 スペルカードの宣言。

 

『仙符 鳳凰卵』

 

 …………。

 

 ……。

 

 なにも起きなかった。

 

「あれ?」

 

 間。

 

「あれ? 言わなかったっけ? 力を込める程強度が増すって」

 

(霊夢のアレを食らって参考にしてみたんだけど、ちゃんと発動してるみたい。よかった、よかった)

 

「ああ、ごめん。言い忘れてたけど、それ勝手に力を吸うから気をつけてね」

「えぇ!?」

 

 そうしてる間にふらついてきた猫。

 

「つまり別に何もしなくても勝手に吸われてくから、早くなんとかした方がいいよ」

「ちょっ」

 

 慌てて次のスペルカードの宣言をした。

 

『翔符 飛翔韋駄天』

 

 すると、倒れた。

 

「あれ? 使った分だけ大きく吸い取るって言わなかったっけ?」

 

 返事はない。

 まぁいいやと、フランは咲夜に話しかけた。

 

「じゃ、次いこっか」

「……はい」

 

 戦闘時のフランを初めて見た咲夜は内心引いていた。互いに互いで引いている。

 咲夜は質問した。

 

「あれは当たるとどうしようもないのでしょうか?」

「え? その人の特徴を上手く活かせばどうにかなるんじゃないかな? てか、ぶっちゃけ力技でも、結界が吸い取る量と速さを上回る攻撃すれば壊れるしね」

「はぁ」

 

 それってどのくらいだろうか? そう思ったが咲夜は口にはしなかった。

 

 

 

 そうこうしてるうちに、魔法の森の上まで来た。途中から森の上をぐるぐると回ってるだけな気がしないでもなかった。

 

「なんか、無駄に時間を過ごしてるような気がする……」

 

 と、ぼやく咲夜。

 一応役目を負っている咲夜と、遊びに来ただけのフランとの違い。ぶっちゃけフランは好きな時に帰っていい。

 そんなフランは、咲夜の少し後ろからついてきている。

 

(ん? なんかいる)

 

 雪で視界の悪い中、フランの目が何かを見つけた。

 それとは関係なしに、咲夜が呟いた。

 

「うちのお嬢様は大丈夫かしら?」

「他人の心配する位なら自分の心配したら?」

 

 なんか出てきた。

 

「ああ、心配だわ。自分」

「で、何が心配なの? 自分」

「服の替えを3着しか持ってこなかったの。自分」

「持ってきてたんだ」

 

 なんか変な感じの魔法使いである。手に魔本を持っている。

 金髪で肌の色は薄く、人形みたいな姿をしている。肩の上に浮かんでいる可愛らしい人形が、表情の薄い本人とでギャップを感じさせる。

 それはそれとして咲夜は平然と会話を続ける。

 

「あと、ナイフの替えも」

「持ってきてるの?」

 

 人形っぽく首を傾げる魔法使い。

 

「あなたは悩みが少なそうでいいわね」

「失礼な! 少ないんじゃなくて、悩みなんて無いわ!」

 

 急に激する魔法使い。

 少し離れて見ているフランはちょっとついていけない。

 

「って、言い切られてもなぁ。で、そこの悩みの無いの」

「はい?」

「この辺で春を奪った奴か、冬をばら撒いた奴を知らないかしら?」

「大体、心当たりはあるけど」

「どこに居るの?」

「そんな瑣末な事は、どうでも良かったのであった」

「どうでも良くない」

 

 もはやアホの会話である。

 実際はちょっと、そう、ほんのちょっとだけ天然である二人が会話しているだけなのだ。きっと。

 それはさておき、疎外感すら感じてきたフラン。

 そのままフランの存在が忘れられたこの場で弾幕ごっこが始まった。

 

「――先に行っとこ」

 

 その呟きは雪に混じり地表で溶けた。


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