フランちゃんは引きこもりたかった?   作:べあべあ

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第18話 vs 魔理沙

 部屋に戻ったフランは、特にやる事も思いつかなかったのでとりあえずスキマの再現に取り掛かることにした。

 が、すぐに行き詰った。

 

(んー、やっぱ上手くいかない)

 

 気分転換に部屋を出ることにした。

 地下の廊下を歩くフラン。しかし道が分からない。まさか自分の家で迷子になるとは思わなかったであろう。

 

「ていうか広げすぎ」

 

(どうせお姉さまが、広ければ広いほどいいみたいなことを言ったんだろなぁ。――さて、そのお姉さまはっと)

 

 居場所、現在地を把握しようと、結界を展開する。

 フランの頭に屋敷の構造が入ってきた。

 が、

 

「あれ、いない……?」

 

 それっぽい反応がなかった。

 

(そういえば、自由に出歩けるようになったんだっけ?)

 

 館の敷地外のことである。

 

「……どうしよ」

 

 やる事がなくなった。とはいえ、元からなかったようなものである。

 

(でも、せっかく部屋を出たし)

 

 とりあえずパチュリーのところへ向かうことにした。

 

「おはよー」

 

 適当に挨拶しながらフランは大図書館へ入る。中は薄暗い。

 その中心にわずかな魔力光の元で読書をしているパチュリーがいた。

 パチュリーは本から視線を外し、フランを見た。

 

「なにかお探しかしら?」

 

 本でも借りに来たのだろうとパチュリーは予想したが、実際は何の用もない。

 

「いや、顔を見に来ただけ。そいやお姉さまがいないようだけど、どっかに出かけてるの?」

「博麗の神社のところよ。最近熱が入ってるわ」

「……ふーん」

「ところで、進捗はどう?」

「正直手詰まり。良いとこまではいった気がしたんだけど、なーんか上手くいかないんだよね。だからしばらくはゆっくりするつもり」

 

 パチュリーは人差し指に光を灯すと、そのまま内側に曲げた。

 すると、どこからかぱたぱたと小悪魔がやってきた。

 

「お呼びですか~」

「白紙の本を持ってきて」

「は~い」

 

 小悪魔はぱたぱたと飛び回る。やがて、見つかったのか一冊の本を持ってきた。

 パチュリーはそれを受け取ると、そのままフランに渡した。

 

「はい」

 

 と、一言。

 

(えー)

 

 似たようなやり取りは過去にも何度かあった。

 フランはこれの意味をちゃんと知っている。

 

「……読むのは好きだけど、書くのはあまり好きじゃないんだよねー」

「そう、よろしく」

 

 にべもない。

 

「それに今回のやつは結構難しいと思うよ。パチュリーでもきついと思う。そもそも不完全だし」

「じゃあ、早くお願い」

 

 逆効果だった。

 

「むぅー」

 

 そんな図書館に人間がやってきた。

 

「おーっす! 頂きに、――っと間違えた。借りに来たぜ!」

 

 黒と白の魔法使いだった。えらく豪快である。

 ウェーブのかかった金髪に、大きな黒い帽子。いかにも魔法使いというような恰好で、活発そうな感じだ。

 

「って、なんだ? なんか見たことないのがいるな」

「相変わらず騒がしいわね。というかあんたには関係ないわ」

「ああ? 隠すのはよくないな。オープンにいこうぜオープンに」

 

 眉を寄せるパチュリー。割とよくある。

 

「ってことで、これ借りてくぜ」

 

 その辺の本を適当にひっつかんでさっさと去ろうとする黒白の魔法使い。

 パチュリーがその本を見とがめた。

 

「――駄目よ」

「あ?」

「それは、まだあなたには早いわ」

 

 手に持った本をしげしげと見る黒白の魔法使い。

 

「そんなに強い力は感じないぜ?」

「そう装ってるのよ。本人の性格が色濃くでてる」

 

 黙って見ていたフランが口をはさむ。

 

「え、なにそれどういう意味」

 

 フランが前に書いた、いや、書かされた本だった。

 

「そのままよ。あなたは色々隠す癖があるわ」

「そうかな?」

 

 思い当る節があるようなないような。

 ぐらぐら首が揺れる。

 

「なんか話が見えないんだが。どういうことだ?」

「気にしなくていいわ。とにかくそれは持ってっちゃ駄目」

 

 なんだか面白くない魔理沙は反抗の意を見せる。

 

「そこまで言われちゃ引けねえな。是が非でも解読してやるぜ」

「はぁ……」

 

 その光景をフランは意外気に見ていた。

 

(屋敷の住民以外に気をかけるなんて珍しい。――っていうか、これ知ってる感じのアレだ)

 

 フランは二人のやり取りに介入する気になった。

 スペルカードを取り出し、前に出す。

 

「ねぇ、こうしない? 私が勝ったら、それは置いていく。どう?」

「あ? 交換条件になってないぜ? 私が勝ったらどうなるんだ?」

「――魔理沙の命が助かるとか?」

 

 邪気のない笑みで言うフラン。どういう効果を持つか、分かっててやっている。

 疑問持った魔理沙は胡乱げな目をしながら、

 

「……名前言ったか?」

 

 と、探りを入れた。

 しかし、フランはにこにことしたままで。

 

「勝ったら教えてあげる」

「それじゃあ足りねえな」

「じゃあコインいっこ付けてあげる」

「一個じゃ人命も買えねえぜ」

 

 フランの笑みに邪気が混じった。

 

「あなたが、コンテニュ」

「――待って」

 

 途切れた。声の主はパチュリー。

 

「まさか、ここでやる気?」

 

 と、不機嫌そうに。

 

「……防護魔法かかってるからいいじゃん」

 

 気持ちよくかっこつけるところで邪魔され、フランはふてくされながら答えた。

 パチュリーはため息した。色々と面倒になり諦めた。

 

「……ちゃんと加減しなさいよ」

「へいへい」

 

 フランは適当に返事すると、飛び上がった。

 

「――そんじゃ気を取り直して!」

 

 三十程の魔力弾を生成する。

 巻き込まれまいと、パチュリーは自分の周りに結界を張って、本を読み始めた。

 

「まずは小手調べだけど、このまま終わらないでね」

 

 しょんぼりした過去を振り返り言うフラン。

 魔力弾が魔理沙へ向かって放たれる。

 

「っへ! 楽勝!」

 

 魔理沙はホウキに跨るとすぐさま飛び上がり、そのまま襲い来る魔力弾を苦も無く避ける。

 だが後方へ置き去りになった魔力弾がUターンして、魔理沙に向かってきた。

 

「おおっと、そういう感じか。――だが甘い!」

 

 魔理沙は器用にくるくると回り避けていく。避けきると反転し、両手を重ね、魔力を練り上げる。

 

「今度はこっちの番だぜ!」

 

 言い終わるやいなや、両手を相手に向かって開く。

 すると、星型の魔力弾がフランに向かって放射状に広がっていった。

 

「っわ! 綺麗だね!」

「そりゃ、どーも!」

 

 薄暗い図書館の中での星型弾幕は綺麗だった。

 なんかテンションの上がったフランは、つい加減を緩めた。

 笑みに邪気が増していく。

 愉悦に歪めた目で、自身へと向かい来る星々の構成を見抜くと、その構成に干渉しようと腕を振るった。干渉され、その形を保てなくなった星型の魔力弾は星屑のように空気中に散った。周囲に散った星屑の残滓を集め、同じような星型に形成し直し放った。

 魔理沙は、狐に化かされたかのような気分になりながらも、それらを避けた。

 

「……どういうカラクリだ?」

 

 いつの間にか本から目を離していたパチュリーが口を出す。

 

「フランを常識で考えないほうがいい。馬鹿らしくなるから」

 

(――おい)

 

 フランは聞かなかったことにした。

 が、ちょっとむっとした。

 今度は自身の魔力を使って、同型の星型の弾幕を作る。その星々は見た目こそ同じものの、込められた魔力は一定ではなく、バラバラだった。

 フランが両腕をばっと大きく広げると、星々は散り散りになりながら飛んでいった。

 

「ん? どこ狙ってんだ?」

 

 避ける必要すらない軌道に、魔理沙はそのまま疑問を口にした。

 返ってきた答えは、

 

「だって星って綺麗じゃん?」

 

 要領の得ないものだった。

 

 放たれた星々は、図書館の各地に点在する魔力光による照明に当たった。

 それを見ているパチュリーは呆れた。パチュリーには、無駄に無駄を重ねているようなものにしか思えない。しかし、非常に高度なことだった。

 

 フランの行ったことは、魔理沙の放った星型魔力弾と同じ構成の魔力弾を生成し、周囲の照明の魔力光に向けて放ったわけであるが、それだけではなかった。照明である魔力光の魔力は均一では無くバラバラだった。つまり、そのバラバラの魔力に合わせて同等に配分された星型の魔力弾を寸分の狂いもなく、その一つ一つに当てて見せたのである。

 

 結果、図書館内はほぼ真っ暗になった。

 人間である魔理沙にとっては闇の中といえた。

 フランは翼の七色の結晶を輝かせ、飛び回る。闇の中に輝く虹が生まれた。そしてその虹の先から、星が生まれ出る。

 闇の中で光彩を放つ星々に、魔理沙は目を奪われた。

 魔理沙は、フランの「だって星って綺麗じゃん?」の発言の意味を理解した。

 空間を彩るだけの、威力、速度共に低レベルな弾幕。

 弾幕である星々の一つ一つが七色を持ち、進みながらその色を次々と変えていっていた。

 

「――にゃろう」

 

 舐められてると感じた魔理沙は、懐からスペルカードを取り出した。

 宣言。

 

『魔符 スターダストレヴァリエ』

 

 魔理沙はフランの放った星よりも大きな星をいくつか生み出した。小石と岩石程に大さに違いがあり、繊細で脆弱な星々は抵抗も出来ず大星に飲み込まれた。

 

 迫り来る大星に対し、フランは避けずに星型弾幕を出し続ける。どんどん出力を上げていき、フランの弾幕は、数、威力共に増していく。

 その連射的に放たれる無数の星々は、魔理沙の放った大きな星にぶつかり続け、その進行を抑え、やがて拮抗した。

 大図書館に光が荒れ狂い、視界を奪う。

 流星群の如きフランの星屑弾幕は、徐々に魔理沙の星を削っていき、やがて互いにはじけた。

 光がおさまると、一瞬の静寂が訪れ、またすぐに過ぎた。

 スペルが通常弾幕に負けた事実、魔理沙の取った選択、それは――。

 ――さらなる火力。

 

「一発、デカいのをくれてやるぜ」

 

 魔理沙は、ミニ八卦炉を取り出した。魔理沙の宝物である。

 小さいが異常な程の火力を持ち、山一つを焼き払うことさえ可能なシロモノである。ちなみに開運、魔除けの効果もある。あと、風も出る

 その八卦炉に、練り上げた魔力を注ぐ。

 魔力が満ち、辺りに光が溢れ出した。

 

「舐めてっと痛い目みるぜ!」

 

 宣言。

 

『恋符 マスタースパーク』

 

 八卦炉から放たれた光が、即座に周囲の空間を丸ごと埋め尽くた。

 その超大光線の周囲を星型の魔力弾が、敵を索敵するかのように漂う。

 

 フランはその光の中に呑まれた。

 強い熱を持った光の中をぐるぐると回転しながら、大図書館の中を飛ばされている。

 

(おおう、おおう、おおう)

 

 ダメージはさほど無い。薄いが強固な結界を張っている。

 アトラクション感覚で飛ばされる感覚を楽しんでいた。

 フランなりに、弾幕ごっこの際の楽しみ方を模索した結果だった。

 やがて光がおさまり、元の位置まですいすいと戻ってきたフランは、にっこりと笑って降参の宣言をした。

 

「――私の負けだね」

 

 図書館にはパチュリーが付け直した魔力光で光が戻っている。

 

「なーんか、勝った気がしないんだが」

「気にしない気にしない」

「まあ、なんだ。これは持ってくぜ」

 

 魔理沙は懐から本を取り出した。

 

「あ、それ忘れてた」

 

(どーしよ)

 

「どうしてもそれじゃなきゃ駄目? パチュリーに頼めば最適なのを選んでくれると思うよ?」

 

 ここまで止められると、さすがの魔理沙も気が引けてきた。

 

「……そんなにやばいのか? コレ」

「いや、そこまでではないんだけど」

「まだ早いってことか? だが、多少の無理は必要なんだ。そうでもないとあいつに置いてかれちまう」

 

 いい笑顔でそう言い切る魔理沙に、フランは止める気が無くなった。

 なので暗い顔して、

 

「……充分に気をつけてね」

 

 と、脅しをかけた。

 魔理沙は少し顔を引きつらせ、それ見てフランは満足した。

 

「あ、そうだ。ぱっちぇぱちぇ」

 

 パチュリーはまたもや眉を寄せた。

 

「その頭の悪そうな感じで呼ばないでって前にも言わなかった?」

「いいからいいから。んでね――」

 

 基本的にフランは人の話を聞かない。天真爛漫というよりは勝手気侭である。

 そのまま自分の用を話していく。

 

「――てなわけで、博麗神社とこの館に雨を降らしてほしいんだよね。パチュリーなら出来るでしょ? 私じゃそういうこと出来ないから」

 

 「私じゃ出来ない」、その言葉がパチュリーの自尊心を刺激した。

 

「……仕方ないわね」

「ありがとー」

 

(計画どーり)

 

 魔理沙は置いてけぼり感の中にいた。性格上、当然口をはさむ。

 

「お前らはなんの話をしてるんだ?」

「お姉さまがお熱な、れーむとかいうのとも遊んでみたいって話」

「お姉さまって、もしかしてお前あのレミリアの妹ってことか?」

「そーだよ」

 

 まじまじとフランを見る魔理沙。フランは腰に手を当ててポーズを取った。

 

「じゃあ、私、例の部屋にいるかられーむが来たら案内してあげてね」

「分かったわ」

「ここでやればいいじゃないか。なんでわざわざ場所を変えるんだ?」

「パチュリーの本に傷つけちゃうかもしれないじゃん。強めの保護魔法はかけてるけど、もしかしたらもあるし」

 

 もしかしたらとは、きゅっとしてどーかんのことである。保護魔法も何もなくなる。

 言い終わるとフランは自室へ戻っていった。

 

「興味があるな。霊夢とどうやるのか」

「やめておいた方がいいわよ」

「なんでだよ」

「魔法に魅入られた者にとって、フランは毒物になるわ」

「どういうことだ?」

「見れば分かるわ」

「やめとけって言わなかったか?」

「……そうだったわね」

「それに、そう聞いちゃあ引けねえだろ?」

「そう、それが魔法使い。毒を見れば近寄らずにはいられない」

「毒は甘露ってか?」

「――案内するわ」

 

 魔理沙はうなずいた。

 

「後でね」

 

 魔理沙は崩れた。


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