しばらくして。
幻想郷の空に赤い霧が発生した。
霧は濃さを増しながらどんどん広がり、やがて空を覆い尽くした。
日差しが届かなくなり、薄暗い上に、肌寒くなった。
霧の発生から少し経った頃。
紅魔館は賑やかになっていた。
(なんか騒がしい)
地下の自室にいるフランは屋敷の異変を感じた。
そしてすぐに分かった。
(今、やってるのかぁ。……こっそり行っても許されたりしないかな? ……うん、なんか普通に許されそう。やめとこ)
見に行きたい気持ちを抑えて、部屋に籠る。
やってみなければ分からないことだが、ぶっちゃけ勝つ自信しかない。
手加減に失敗して万一勝ってしまった場合、面倒なことになる。
「うー」
ごろごろする以外にすることが出来ずに、ひたすらごろごろ転がり続けた。本を読んで気晴らしも出来なかった。気が散って仕方がない。
大きな音。
(うー)
ごろごろ。
(あー)
また大きな音。
(気になるぅー)
ごろごろ。
(ぐぬぅー)
音が止む。
非常に長く感じる時をすごし、なんとか事が終わるまで耐えきった。
ようやっと一息つけたフランだったが、我慢し続けたせいでフラストレーションが溜まっていた。
(もう関係ないし、外に出てもいいでしょ)
フランはこっそりと外に出た。
空には赤い霧がまだ残っていた。
館の前の湖の上空を行く。
夜空のお散歩。
(霧が濃くて、よく分かんないなぁ)
上も下も霧だった。上は赤、下は白。
「今度は負けないわ!」
(――ん? なんか聞こえた?)
周囲を見渡すが霧が濃くよく分からない。
「ちょっと聞いてんの!?」
ほぼ真下に小さな氷の妖精が見えた。
「あたいを無視するなんて良い度胸ね! ボッコボコにしてやるんだから!」
(えええ)
あまり強そうには見えない。
(妖精だし)
「……なにするの?」
「決まってんじゃん! これよ!」
氷の妖精はスペルカードを提示した。弾幕ごっこ。
その光景を見たフランの頭に何かがよぎった。
(なんか知ってる気がする。つまり、……強い?)
この感じがした時は皆強かったことを思い出す。
「いいけど、名前教えてくれない?」
「チルノよ! あんたの名前は別にいいわ! あたいさいきょーだし!」
フランは警戒レベルを上げた。
「チルノ……」
(やっぱり知ってた。最強とか言ってるしすごい強いのかも)
「行くわよ!」
考えているフランに構わず始めるチルノ。
下から上へとフランとの距離を縮め、氷結弾を放つ。大きな石つぶてのようなものだった。
フランはそれを悠々と躱す。
(小手調べってわけね。――じゃあこっちも!)
フランは魔力弾を適当に十程生成し、チルノへ放った。
チルノはそれを慌てて避ける。
「あわわわ」
(……あれ?)
演技には見えない避け方に疑念が湧いたフラン。
「…………」
十五個ほどの誘導型の魔力弾を作り、放つ。
ぎゅるんっ。
「あばばば」
当たった。
チルノは目をバツにして、湖に落ちていった。
ぽちゃん。
「……なんだったんだろう」
無かったことにして、フランは進むことにした。
湖を超えると、森が広がっていた。
当てもなくふよふよと飛んでいると、向こうからこれまたふよふよと飛んでいる何かが、フランの目に映った。
「あなたは食べてもいい人間?」
フランは返答に困った。
とりあえず頭が弱そうに思えた。
「人間に見える?」
「んー、見えない」
(また変なのだった)
「じゃあね」
フランが去ろうとすると、呼び止められた。
「あ、今変なやつって思った?」
「……別に」
「さっきも似たようなこと言ってた人間に会ったわ。――でも今度はどうかな」
スペルカードを持って両腕を天に広げY字バランスしていた。
「……やるの?」
(相手になる気がしないんだけどなぁ)
「これ見えないの? もしかして鳥目? あ、これもさっき言った気がする」
(面倒臭いからさっさと終わらせちゃお。どう見ても弱そうだし。……でもなんか見たことあるような? そう、確か……)
「名前、ルーミヤだったりしない?」
「ルーミアなんだけど。人違いね」
(……強いのかな)
「人間じゃないけど」
突然、フランの視界が真っ暗になった。
吸血鬼の視力を考えればあり得ないことである。
(闇? そういえば闇を操るとかなんとかだった気がする)
ひょっとして無茶苦茶やばいかもしれないと、フランは焦り、百を超える魔力弾を生成しトルネードの如く周囲にまき散らした。
暗闇はすぐに晴れた
光が戻った視界には、ぷすぷすと煙を上げて地上へ落ちていくルーミアが映った。
「…………」
(もう帰ろ)
フランは精神的に疲れた。
(スペルカードルール、やっぱあんまり合ってないのかなぁ)
フランはしょんぼりしながら屋敷に帰った。