フランちゃんは引きこもりたかった?   作:べあべあ

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第15話 vs ゆかりん

 まず、フランは藍の使っていた火の玉に似せた魔力弾を放った。当然、挑発である。

 紫はそれをレーザーで迎撃し、撃ち消す。

 

(それさっき見たな)

 

 藍のものと同じだと、フランは見て理解した。

 

(なら――)

 

 まったく同じ構成を組み、レーザーを放つ。違いは妖力か魔力かのみ。挑発である。

 軽々と避ける紫だが、発した言葉には怒気が含まれていた。

 

「挑発も過ぎると身のためにならないわ」

 

 フランは余裕を感じさせる笑みを作り、答える。

 

「なんのこと?」

 

 挑発である。

 紫が扇を横に振るうと、百を超える妖力弾がその後ろから現れた。明るい闇のような光弾が、大きな雨粒のように夜空に停滞している。

 紫が扇を縦に下ろすと、妖力弾が嵐のようにフランに殺到した。

 荒れ狂う妖力の大雨粒を、フランは右に左に上に下に斜めにと、避けて避けて避けまくる。

 その全てを避け続けるフランの回避能力は凄まじいものだった。

 だが。

 

「お気づきかしら?」

 

 フランは周囲を見渡す。紫色の妖力弾に周囲を囲まれていた。虫が集っているかのように、ぐるぐると周囲を蠢いている。まるで球状の檻であった。

 それでもフランは挑発を止めない。

 

「どうかした?」

 

 平然と答えるフラン。

 紫は開いていた扇を静かに閉じた。合わせて、フランを囲う妖力弾が中心に向かって集束する。

 フランは両腕を開き、身をコマのように回転させる。

 すると、フランに殺到していた妖力弾が全てかき消えた。

 さすがに驚きを見せる紫。

 

「……どういう手品かしら?」

「タネあかしをする手品師はいないんじゃない?」

 

 フランはさらに挑発を重ねる。

 周囲に漂う霧散した妖力で紫の妖力弾を真似して作り、そのまま放った。

 紫は、空間に隙間を生じさせてそれを防ぐ。フランの放った物真似妖力弾は隙間の中に消えていった。

 紫は、いくつか仮説を立てた。

 

「……吸収して出す、そのような能力でもあるのかしら?」

「あぁ、そうゆう風に考えるんだ」

 

 まさか見ただけで構成を把握し、なおかつそれを再現しているとは思えない。どちらか一つだけでもおかしい。

 

「教えてはくれませんのね」

 

 フランは無言でにやりと口角を上げた。

 気になるなら吐かせてみろとばかりである。

 

 紫はフランの力を見極めようと、様々な妖力弾を生成する。

 

 フランはそれらをただ避ける。速度自体はレミリアに劣るが、避けるだけならば同じ高位の吸血鬼であるフランには充分に可能なことであった。

 フランの真価は眼である。注視するだけでそのものの構成を把握出来てしまう眼に、長年の魔法研究という名の暇つぶしにより向上した魔力操作で、一度見ただけでほとんどのものが再現出来た。

 つまりフランは数多くの妖力弾を避けながら、その構成を見ている。頭脳が理解したものを元に、魔力を練り、同じように構成する。

 そうしてフランはその全てを真似して紫に放った。

 紫は空間に大きな隙間を生じさせ、それらから身を守る。

 

 順調に思えるフランだったが、当人は焦っていた。

 

(あの変なのが分からない)

 

 見ることはできたが、どうにも理解できない。術式もなにもない、ぐちゃぐちゃの何かを見ているかのような感覚。

 

 そんなフランをよそに、紫は苛立っていた。挑発を受け続け、実際に何のダメージも与えられていない現状。紫の考えを変えるには充分だった。

 

「――痛い目をみないと分からないようね」

 

 力を見定めるのをやめ、ひとまず叩き潰すことに変えた。

 

「これならどうかしら?」

 

 紫は空間に多量のスキマを生じさせ、そこから暗い紫色の光がフランに向かって矢ように飛び出した。

 

(もう、ほんと分かりずらいっ)

 

 そんなことを思いながら、フランは斜め上へ高速で移動し躱そうとする。

 が、頭上から何かに叩きつけられた。

 

「ぁぐっ――」

 

 下方へ叩き落されるフラン。

 何が当たったのかと、落ちながら視線を上にやると、上空に隙間があり、そこから妙な形の複数の鉄のパイプが突きだしていた。

 

(――道路標識?)

 

 戦闘により研ぎ澄まされた思考能力が、記憶の中からすぐに正解を見つけ出す。ここにきてフランは、ようやく自分の敵の八雲紫について該当するものを見つけ出した。

 

(スキマ妖怪。なんか胡散臭くて、……なんだっけ?)

 

 地上へ落ちていく中、フランは色々と思い返していたが、その下にスキマが見え、思考を止めた。

 下のスキマから複数の道路標識が飛び出してくる。

 フランは物理結界を張る。

 衝突し、ぎゃりぎゃりといびつな音が辺りに響く。

 結界をさらに強化しようとフランが魔力を込めようとしたとき、フランの前方からスキマが生じ、岩が弾丸のように飛び出す。

 下を向いていて気づくのが遅れたせいで、思考に肉体がついてこなかった。フランはまともにそれを受け、吹き飛ばされた。

 

「――がっ」

 

 攻撃は止まらない。

 

 後ろへ吹き飛ばされるフランのその後方に待ち構えるようにしてスキマが生まれ、卒塔婆がフランに合わせて飛び出してくる。

 

 ――串刺し。脳裏に、過る。

 

(まずいっ)

 

 後ろの様子を知ったフランは身を反転させ、渾身の力で腕を振るい卒塔婆に横から叩きつける。卒塔婆は砕けたが、反転したフランの後ろからレーザーが迫っていた。

 一度見た攻撃。チラ見したフランは、片腕だけ向けてそのレーザーの構成を狂わせ壊す。

 その動作のために動きが止まったフランの周囲に、スキマが囲む。

 深淵から覗かれるような感覚。フランはぞくりと身体の奥が震えるのを感じた。

 

(……うぇ)

 

 もう何度も見た。それでも完全に理解までは出来なかったが、あやふやには掴めていた。

 スキマを見る。右手を開き、核であろう部分を移動させる。

 そして、右手を閉じる。

 フランを囲っていたスキマが一つ壊れた。

 

(――やった)

 

 確認すると、フランは目玉をぐるりと左から右へと移動させスキマを見回した。

 そして握る。

 

 ――破壊。

 

 フランの周りのスキマは一気に壊れた。

 

「っ――」

 

 驚愕を隠せない紫。

 構わずフランは超速で魔力を練り上げ、緋色の魔力弾を生成し、紫へ放つ。

 ナイフのような鋭利な魔弾は空間を貫き、紫へと向かう。

 紫は前面に大きなスキマを作り、それを防ごうとする。――が、壊される。

 発光。

 眩い光により、状況が分からなくなったが、すぐに光はおさまった。

 魔弾は消え、紫は無事だった。結界を張っていた。

 しかし、紫は自身の危機を悟った。正体不明の技。これは自分に届きうると。

 スキマが壊されるのだから、当然結界も壊せるのだろうという考え。

 

 フランは両手を目一杯に広げ、魔力を一気に練り上げる。放ったばかりの同じ鋭利な魔弾を百程作り、その切っ先を紫へと向ける。

 さらに高まっていく魔力。

 紫はこのままではまずいと覚り、フランに会話を試みることにした。

 

「……そろそろ満足したころではなくて?」

 

 下手に出るわけにはいけないが、なんとかなだめたい。元はといえばやったやられたである。

 

「そっちこそいいの?」

 

 藍のことである。

 

「無事なのでしょう? 返答がないだけで、繋がりは途切れていないようですので」

「そんなこと分かるんだね。でも、正解。気を失ってるだけのはずだよ」

「それはそれは。それで、私には戦う理由もないわけですが、……ここは引き分けということでどうでしょう?」

 

 フランの周囲の魔弾がぎりぎりと震える。

 

(戦う理由か……)

 

 フランは体の力を抜いた。

 魔弾が砂粒のように崩れていった。

 

「――いいよ」

「あら? よろしいのですのね?」

 

 意外そうな紫。

 

「疲れたし、そろそろお姉さまの様子が見たいし」

 

 久しぶりに体を動かしたフランはそれなりに疲れていた。

 

「少々手酷くいたしましたが、歓待の一つとでも受け取ってもらえば嬉しいのですけど」

「まぁ、明後日くらいには元気になってるんじゃないかな。やられたらやり返すみたいな感じだよね。……あれ?」

 

 何かに気づいたフラン。

 

「やり返したっけ……?」

 

 一撃も入れてない。

 

「いえいえ、とても素晴らしい攻撃でしたわ」

 

 もう続けたくない紫は平気で誤魔化した。しかし嘘ともいえない。

 なんだか気が済んだフランは追及しないことにした。

 

「んー、まぁいっか。――それじゃ、またね」

 

 フランは館に向かって飛んでいった。

 残った紫は静かに見送る。

 姿が見えなくなった後、ぽつり。

 

「――出てきなさい」

 

 紫の前にスキマが生まれた。中から、しょげた感じの藍が出てきた。

 

「申し訳ありません。不覚をとってしまい……」

 

 心底申し訳なさそうに頭を下げる藍。帽子が取れ、耳がしょんぼりと傾いているのが分かる。

 

「責めないから安心なさい。あれは、仕方がないわ」

「紫さま……」

「受け入れるとは言ったのだけど、少し様子見が必要ね」

 

 紫は、フランの去っていった方を見る。

 

「明日、貴方には使いに行ってもらうわ。これで今回の件は不問としましょう」

 

 藍はさらに深く頭を下げた。

 




禍根を残すとこの後にゆかりんと仲良くなりづらいかと思いましたので。
もう少し自然に引き分けにもっていきたかったところ。

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