夢を見た。
最初に見えたのは真っ黒な太陽とあたり一面を覆う炎と死。
建物だったものは崩れ落ち、文字通りこの一帯は火の海と化していた。
肌で感じるチリチリとした針でつつかれるような熱と異様に鼻につく何かが焼ける臭いがする。
臭いの源をみるとそこには真っ黒焦げになった人だったもの。
血と肉が焼けるような激臭が鼻を通り、腹のそこからくる嘔吐感を必死にこらえる。
息をしようにも炎で酸素が消え去り、くるのは喉を焼くような鋭い痛みのみ。
呼吸も満足にできない状況で目眩が襲い掛かり、歩くのを中断されそうになった。
痛みと熱と目眩により歩く速度はだんだんと遅くなる。
周りからは人々の悲鳴や助けを呼ぶ声などが聞こえるが、まるで聞こえないとばかりに歩き続ける。
何を考えてるいるのかも自分では分からずただただ、歩き続けていた。
どこかを目指しているわけでもなく、誰かを探しているわけでもない。
頭の中は空っぽであり、自分でも何をしているのかは分からない。
ただ、歩かねばと身体が勝手に前へと進み続ける。
色々な物を失い、色々な者も失い、色々なモノさえも失った。
置き去りにした人は数えてすらいない、
いたのかさえ分からない。
ただ歩くのみだった。
しかし、この小さな身はこの環境でそう長くは続かずついには崩れ落ちてしまった。
痛かった身体はさらに悲鳴を上げるが痛がる体力もない。
体感的には長いこと横になっていたが、実際にはそう長い時間経っていないのだろう。
しばらく仰向けになっていると雨が降り出していた。
これで少しは火がおさまるだろうと考えながら、幾分か戻ってきた酸素のおかげで多少呼吸が楽になった。
酸素がもどったからと言ってもこの身に残った傷が癒えるわけでもないし体力も戻るわけでもない。このままだといつか命の灯火も一緒に消えてしまうだろう。
火傷と怪我のせいで身体に降り注ぐ雨はあまり感じない。ろくに回らない頭はただただ現実を焼き付けるだけであった。
幼い身でも分かった。
このままだと死ぬと・・・・しかし、恐怖はなかった。否、感じることができなかった。この地獄がこの身を襲ってからは感情なんてものは消え、頭も心も空っぽになっていた。
しかし、何を思ったのかこの手は空へと伸ばされていた。まるで生を掴み取るように、希望を捨てないように、星々をつかむように。
だが、もとより限界であった体力であげた手はそう長く上がらなかった。力尽きるように落ちていくその手をみながら自分は助からないだろうと思った。するとガシッと誰かが自分の手を掴んだ感覚がした。落ちていく瞼を再び開けてみるとそこには心底うれしそうに、グシャグシャな顔で自分の顔を覗き込む表情が見えた。
「よかった・・・・・・」
っと小さく聞こえた。思わず聞き逃しそうなほど小さな声、まるでつぶやくようなその声は雨の音の中からかろうじて聞こえた。
「よかった。」
今度ははっきりと自分の手を両手で包みながら誰にむかってか言った。
自分を見ながら言っているのだから自分に言っているのだろうと思うはずだがなぜかそれ以外の誰かにも言っているように聞こえてしまった。
「生きている。」
虚ろな視界からは大人気なく泣くよく知る人物の顔が見える。
自分がまだ生きていると分かると確認するかのように生きていると呟き続ける。
「ありがとう・・・・・・」
自分の両手を掴んだまま
救われているのは自分のほうなのに・・・・・・彼はなおも自分に感謝していた。
確かに自分は彼に救われているのだろう。
しかし・・・・・なぜか“オレ”は彼こそが救われているように感じた。
「生きててくれて・・・・・本当にありがとう」
オレが救われることで自分が救われた。
そのように、オレは思えてしかたなかった。
その救われたような表情を最後に、オレの意識は闇へと沈むのであった。
伏線ってほどでもないけど ちょっとした何かが混ざってますね。当てれるかな?