平和な世界での守護者の投影   作:ケリー

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無銘の英雄

――― 体は剣で出来ている(I am the bone of my sword.)

 

血潮は鉄で、心は硝子(Steel is my body, and fire is my blood.)

 

幾たびの戦場を越えて不敗(I have created over a thousand blades.)

 

 

ただの一度も敗走はなく(Unknown to Death.)

 

ただの一度も理解されない(Nor known to Life.)

 

彼の者は常に独り剣の丘で勝利に酔う(Have withstood pain to create many weapons.)

故に、その生涯に意味はなく(Yet, those hands will never hold anything.)

 

その体は、きっと剣で出来ていた(So as I pray, UNLIMITED BLADE WORKS.)

 

 

背中が見える。

 

薄暗い荒野の丘の上に・・・・・そのものはいた。

180を超える長身に鍛え抜かれた身体。

灰のように枯れた白髪に黒いボディーアーマー。

上下で分かれている真紅の外套。

背中には無数の剣が突き刺さって__否、突き出ていた。柄もなくただ見えるのはその刀身のみ。

 

その様はまるで生えているかのよう。

 

背中から生えている刀身のみと思われていたが柄のある剣が二つ、その両の手にはあった。

大極図が描かれた白と黒の中国刀。

表裏一体のようなその剣だけはその背中から生えているのではなく握られていた。

 

 

血液が身体全体を覆い、両手の中国刀から一滴、一摘一定のリズムで重力に従い流れ落ちていた。

かなりの血液を失って見えるそのものはそれでもなお、その両足を地面に縫い付けてるように立っている。

 

まるで決して倒れないと、

 

決して落ちないと

 

決して諦めないと言わんばかりの気迫がその背中から伝わってくる。

 

死んでもおかしくないような重症なのに、

立つことさえ辛いのにその赤い背中は崩れ落ちることはなかった。

 

時間が流れる感覚さえも忘れてしまいそうなほどの光景の奥__そのものの対角線上には巨大な歯車がまるでそこにあるのが当然とばかりに空に浮かんでいた。

それだけではなく、周りには幾つもの剣が荒野に突き刺さっていた。

十や百ではなく、千でもない。

 

数えるのが馬鹿になるくらいの大小様々な剣がまるで墓標のようにそこにあった。

地平線のかなたまで続いていくその光景は、いったいどこまで続くのか。

例えるのならそれは無限。

 

無限とも言える剣たちが淡々と荒野の至る所に突き刺さっていた。

 

しかし、目に映るのは剣だけではなかった。

 

剣の下。

 

目に見える範囲には何千もの死。

剣の下敷きにされるように、人間のようなものが地に身体を伏せていた。

面積すべてを覆うほどの刀剣が身体に突き刺さっている。

あたり一面は血の海。

炎のように赤く、薄暗い世界では、目に見える範囲すべてに死が充満していた。

 

脈があるように見えるものは一人もいない。

 

丘の上にいるもの以外に生き物の気配はなく、あるのは操り師をなくした人形のように倒れ付す人のようなもの。

 

そのような世界にいるのにただ一人立っているそのものは、堂々と、まるで王のように一番高いところにたたずんでいた。

 

そのものが勝者であるかのように

まるでこの世界が自分のもののように、独り、そこに存在していた。

 

残酷な光景の中にいるのに、その背中を見ていると不思議と恐怖はわいてこない。

しかし、安心とは別に、その背中からは痛いほどに悲しみを感じられた。

 

この場にいることが苦痛であるかのように。

 

 

 

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世界には、色々な伝説や神話がある。

アーサー王伝説、

アルスター伝説、

伝説の剣客、

ギリシア神話などとそのような話は数知れず、世界の様々な場所で語り継がれている。

 

伝説の中には様々な人物が登場し、大抵の者では成し得ない偉業をこなしてきた。

そのように通常では困難な出来事を乗り越えてきたものを人はこう呼ぶ。

 

 

『英雄』と。

 

 

伝説に登場する人物はそれぞれ自分の名前が未来へと語り継がれていた。

その身はもうこの世にはなかろうと、その名は今でもこの世界を生き続けている。

 

しかし、

 

名が当たり前のように出てくる伝説の中ではその名が定まらないものもいた、そもそも名すら明記されないものもある。

 

その中でも、特に謎に包まれている伝説が一つ・・・・・世界の至る所にあった。

 

 

 

そのものは遥か昔、人類が絶望を味わった時代にふと、なんの前触れもなく現れた。

 

人類が人ならざる者によって襲われていた時に救世主が姿を見せた。

 

ある時代、死人(しびと)が急に現れ、その数を殖やしていった。

その繁殖速度は異常で、人々にはそれを防ぐ方法が皆無であった。

 

その死人は人よりも身体能力が高く、攻撃は当たることが殆どない。

たとえ当たったとしてもその傷口はすぐに塞がり返り討ちにされてしまう。

もうなすすべもなく人類は滅んでいくのかと思われたその時。

 

ある一人の男が舞い降りた。

 

漆黒のボディーアーマーに、上下に分かれた真っ赤な外套、手には黒塗りの巨大な弓と細長い剣のような矢。

髪は人のものではなさそうな白髪であったとされている。

 

顔や肌の色は誰も覚えてはおらず。語られる場所によってその容姿は様々であった。

 

唯一覚えていたのは獲物を狙う鷹のようなその双眼のみ。

 

見た目の情報はそれしかなく、話によっては差異が激しかった。

 

しかし、容姿での異なりはあるが、そのものが残した伝説はどれも同じであった。

 

曰く、彼のものは驚異的に増えてきた死人が人類を滅ぼそうとした時に風のように現れ、たった一人でその全てを殲滅したらしい。

 

彼のものが使う武器は数知れず、それはまるで無限のように浮かび上がり、雨のように降らせていたとか。さらにはそのものが矢を弓につがえれば矢は外れることなく吸い込まれるように全ての敵を射殺し、従えるようにある剣を使って死なぬはずの死人たちを次々と葬っていった。

 

様々な武器を使う彼であったがその中でも多く目にされていた武器がその身長を超えるような大きな弓と両の手で振るう黒と白の陰陽剣であった。

 

無限の武器を手にして、その身を焦がしながらもそのものは生き残り、全てを殺しつくした。

 

その姿は様々な国で目撃され、どのように大陸をこえていたのかは不明。

故に、どこのものなのかも不明。

 

まるで瞬間移動のように新たなる絶望の地へと足を踏みしめ、その全てを消し去っていった。

人々にとってはその姿はまさに救世主であった。

 

しかし、名前も出身国も容姿さえも一切不明であり。

その全てが謎につつまれていた。

 

彼のものがどのように姿を消していったのかも分からず、残るのは命が終わった死人のみ。

 

だが正体は不明でも彼が残していった功績は多く、人々は彼を英雄として祭り上げ、未来へと語り継ぐのであった。

 

名も分からぬその英雄は『錬鉄の英雄』、『無銘の英雄』、『無限の剣の担い手』、『紅い弓兵』、『不死殺しの救世主』、そして

 

 

『正義の味方』として今もなお語られるのであった。

 




いつかになるかは分かりませんが、キャラ設定も書きます。


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