ソードアート・オンライン ~闇と光の交叉~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷・ユーリ・メリディエスです。


 先ずは一日空けてしまった事を謝罪致します。前話で珍しく次話の投稿予定を書いていなかったのは、多分空くだろうと予期しての事でした。わざわざ書かなかったのは、もしかしたらと思っていたからです、結局空いてしまいましたが。

 何故遅れたか……ぶっちゃければリアルに嫌気が差していて、投稿出来るだけの分を修正出来ていなかったからです。

 マジですみません。これからも一日空け、あるいは二日以上空けが続きます。リアルが嫌なんです、時間奪われるんです、鬼畜に。


 そんな訳で投稿した今話で、漸く章のタイトル通りにゲームへインします、でも全然進みません。


 だって黒いユウキを書きたかったんだもの☆(嗤)


 前話からもわかってると思いますが、うちのユウキは精神的にと経験的に結構成長している部分があり、更に恋人の事になるととんでもない行動力と思考力を発揮します。

 普通は国家権力を味方に付けません(笑)


 てなわけで、須郷への報復&復讐(?)の狼煙第一弾です。どうぞ。




第四章 ~狼煙~

第四章 ~狼煙~

 

 菊岡さんとの対話を終えたボクは喫茶店を出てからある程度の用事を済ませた後、家路を急いだ。

 さっきの対話で一先ず国家機構の協力は取り付けられた、情報提供さえ怠らなければ切り札の一つを得たと考えていい。あちらも須郷伸之が怪しいとは思っていたようなのであちらは現実側から、ボクが仮想世界側からの活動となる。

 やはり怪しいのは、ALOの中では世界樹だろう。

 かつて前世のリーファから聞いた話では、《イグドラシル・シティ》という都市は無く、それ以前に樹の上に空中都市が広がっているなどというのは嘘だったという。とある大変革を境に追加された空中都市があの《イグドラシル・シティ》なのであり、つまり現在の今世ALOにはまだ存在していないという事になる。

 逆に言えば、プレイヤーにとって不可侵領域になっているその世界樹の上が最も怪しいのだ。《グランド・クエスト》でしか上がれないのだからその口を閉じてしまっていれば、あるいはクリア不可能な難易度にしていれば、上で何をしていようがバレはしないのだから。

 それに前々回のSAOでアルベリヒを名乗っていた須郷は攻略組に参入しようとして、形ばかりのギルドを率いていた。名前は《ティターニア》とされていたが……調べてみれば、ALOの妖精王オベイロンの妃がその名前なのである。神話では不仲になり、オベイロンが妃に媚薬だか何だかを盛ろうとしたとかあった気がしたが、現状を考えるとほぼ似たような状況である事に苦笑を禁じえなかった。いや、全然笑い事じゃないのだが。

 とにかくかつてのギルド名とALO妖精王の妃の名前が同一である以上、十中八九世界樹の上で何かを行っている事は明白だ。

 世界樹の上に行くには多くの事を為さなければならない。だからボクは一秒でも早く、あの世界に入る必要があった。

 

「ただいま」

 

 今日は金曜日の平日という事もあって姉は学校に行っているし、両親も仕事か用事で外出していたため、帰宅の挨拶に応えは無かった。それは外に車が無かった事からも予想していたので特に感慨も無く玄関で靴を脱ぎ、揃えた後に二階の自室へとすぐに引き上げる。

 部屋へと入ったボクは、手に提げていた一つの紙袋を机の上に置き、中身を取り出した。

 その中身は《アミュスフィア》。菊岡さんに協力を取り付けた際に買ってもらったものである。ナーヴギアでも一応プレイは出来るのだが、安全性の確保の為にあのお役人が自腹を切ってまで買ってくれた代物、そういう意味でも今回の協力は有意義であったと言えよう。言外に脅しているとも言えたが、そこは気にしてはいけない。

 まぁ、実はこれを買ってもらうつもりで協力を取り付けたという部分も無くは無い。幾ら覚悟が決まっていようと流石に自分から死の危険に飛び入りたくは無いし、そういう意味でも《ナ―ヴギア》を被りたくは無かった。もしも家族に見つかったら説教処じゃすまないし、仮にそうなったら二度とALOをプレイ出来なくなってしまうに違いないからだ。

 現在時刻は午後二時。お昼は菊岡さんと対談した喫茶店で軽く済ませているので、夕飯となる七時までのおよそ五時間はダイブ出来る計算になる。しかし父か母が様子を見に来る事も考え、余裕を持って午後六時にはログアウトしておくべきだろうと考えつつ、《アミュスフィア》に《アルヴヘイム・オンライン》のゲームカートリッジを挿入し、準備を終える。

 前世でALOをプレイしておきながら使用は何気に初めてとなる円環状の《アミュスフィア》をセットし、ベッドに緩い服装で仰向けに寝そべる。

 聞いたところによれば外刺激を少なくすれば脳とダイブハードのレスポンス速度が上がるらしいので、ダイブする際は体を締め付けない服装とし、室温も暑すぎず寒すぎず、ダイブ前にお腹一杯飲食しない事がコツらしい。

 

「……リンク・スタート」

 

 昔はそんな事を考えられる状況では無かったなと少しだけ感傷に浸りながら、前世では終ぞ口にしていない紡ぎ、ボクの五感は現実から遠のき、意識もフェードアウトしていった。

 

 *

 

『ようこそ、《アルヴヘイム・オンライン》へ!』

 

 気が付けば、幾つものテレビ画面が並んでいるかのような暗闇の中央に、リアルの写真を反映させた事によって作られている一時的なローカルアバター姿でボクは立っていた。目の前に映る唯一色を持つ画面には、音声によって伝えられた事が柔らかいフォントで書かれていた。音声案内と字幕案内の方式を同時に取って進めるらしかった、これは有難い。

 どうやらこのゲーム、GMはアレなのに最初から結構まともな運営らしい。

 一先ずアカウントを作成しなければならないので、プレイヤーネーム欄に《Yuuki》と打ち、リアルの情報を打ち込んで行った後、アカウントもパスワードもSAOのものと同じので済ませた。こっちの方が面倒臭くないなと思ったからである。

 一瞬だけ須郷の顔がよぎったが、まさかアカウントとパスワード、更にリアルの家の情報まで入手はしていないだろうと流す事にした。本当は流すと拙い気がしたのだが、SAOサーバー内のデータそのものは菊岡さんのチームが取り出しており、現在維持されているサーバーはもぬけの殻なのだと言う。だから流した。

 

『このゲームは九つの妖精種族を自由に選び、各種族一丸となって《グランド・クエスト》と呼ばれる巨大イベントに挑むのが最終目的となります。見事イベントをクリアした一種族に限り、伝説に伝えられる光の妖精《アルフ》へと妖精王の力により変化し、飛行時間及び滞空制限の永久解除という夢の力を得る事が出来ます!』

「光の妖精…………光、ねぇ……?」

 

 火のサラマンダー、水のウンディーネ、風のシルフ、地のノーム、金のレプラコーン、猫のケットシー、音のプーカ、影のスプリガン、そして闇のインプからなる九種族。

 確かにこの中に、光の妖精種族は存在しない……元々存在しないから、それも当然なのだが……

 

 

 

 ――――所詮、虚構の光か……

 

 

 

 胸中で冷たい気分で呟き、ふん、と鼻を鳴らす。少しだけ目を眇めて並ぶ種族達を、その向こうで動いているだろう運営の人々達を冷ややかに見つめる。

 

「そもそも、北欧神話に準えるなら闇の妖精はデックアールヴでしょう……」

 

 大体《インプ》というのは悪戯好きな小悪魔の事であり、決して闇を司る妖精では無い、妖精のように描かれているだけでその実態は魂を奪う悪魔なのだ。種族名もサラマンダーは火の蜥蜴であり、他のウンディーネやシルフ、ノームは精霊の名前なのだから統一してイフリートとするべきだろうに。

 これは何かを表しているのかと考えつつ、目の前に種族を選ぶようアナウンスと共に示された九つのイメージアバターと種族の解説を流しながら、紫色で統一された闇のインプの項目へと行き着き、それに即決する。前世でもインプ一択だった上に元々紫色が好きなボクに、インプ以外の選択肢は存在しない。

 当然ながら、種族ごとにそれぞれ特徴は異なってくる。

 ボクが選んだインプというのは闇属性の魔法スキルに補正が掛り、暗い場所も見える《暗視》のパッシブスキルを常に有効化、更に洞窟内でも数分程度なら翅で飛べるという特典がある。ただし種族的に光属性攻撃を苦手としており、少し受けるダメージが高めだ。

 今のALOも一緒なのかは知らないが、少なくとも前世でしていたALOでは洞窟や地下と言った太陽や月光が届かない場所だと普通は飛べなくなるのだ。しかし闇の眷属ともいえるインプは光を翅に暫く温存させられ、闇の中でも少しだけなら飛べるのである。恐らくアルフの謳い文句に現実味を帯びさせる為にこの設定にしているのだろう。

 火のサラマンダーはイメージ通り攻撃力と体力、すなわち近接戦闘に滅法強く、代わりに魔法攻撃系と水属性の攻撃が弱点となっている。重戦士などの攻撃的な前衛向きと言えるだろう。

 地のノームはサラマンダーと比較し、同じように力と体力が高い前衛向きなのだが、どちらかと言うとノームは防御的な前衛、つまりタンクに向いている。種族ステータスで防御力にボーナスが掛っており、更にノーム専用の武具には基本的に防御力であるVIT値を高める付与効果があるからだ。更に種族的に得意な魔法として地属性の他、防御力を底上げする補助魔法が挙げられる。

 風のシルフはイメージ通り、スピードに特化しているため攻撃にも防御にも特化していないバランス向きな種族だ。回復魔法の他、風と光属性の魔法に適性があり、地属性攻撃を弱点としている。他の種族に比べて飛行速度と距離があり、更にアバターの聴覚が鋭いとされる。スピード型の戦士にはもってこいなので、ナツとイチゴが選ぶとすれば恐らくこの種族だろう。

 水のウンディーネは有体に言えば術師、それも回復役や支援役などに特化したパラメータである。ぶっちゃけて言えば前衛に向いていない種族ステータスなので魔法使い向きなのだ。

 前世のアスナはSAOデータを引っ張って来ていたから前衛でこそ真価を発揮するという――決して否定する訳では無いが――莫迦げたスタイルが確立されていた。というか半分前衛で半分後衛なのに、必要な分だけしか魔法系を上げていないボクにOSSを使わせるってどんだけ強いのって後で思ったりした。前世のアスナって全力出したらキリトより強いんじゃと思っていたりする。全力である二刀のキリトと戦ってないので如何ともし難いのだが。ちょっと心残りだったりする。

 金のレプラコーンであるが、金というのは金属、すなわち《鍛冶》に特化した種族である。生産職特化の種族というのも珍しいが、この種族のプレイヤーが鍛え上げた装備はサーバーで一つしかないユニークウェポンにも匹敵する性能があるので、友好的にしておくべき種族だ。なので前世のALOでもこの種族は基本的にどの種族に対しても中立的、《鍛冶》の依頼も個人の関係の下で行われるのが普通だった。リズベットに頼めば鍛えてくれるキリト達の強運はとんでもないのである。

 猫のケットシーはシルフをも凌駕する地上での敏捷性、更に五感の鋭さ、目の良さ、そして最も特徴的なのが小型のモンスターならテイムできる可能性をブーストするパッシブアビリティを有している事だろう。このアビリティはケットシー専用なので他の種族は持てない。

 音のプーカは音楽妖精、つまりは歌うのが特徴的な種族である。戦場で歌うのは相当な度胸とかなりの歌唱力を要されるが、スキルとして登録されている音律で歌うと範囲内の味方メンバーあるいは対象となる敵に対してバフかデバフが掛かるらしい。それと、どの種族も苦手属性というものを有している、例えばインプは光属性の魔法を育てにくいやダメージを他種族より多く受けるなどだ。プーカはどれも得意ではないので得意属性を持つ種族よりスキル熟練度を育てにくいが、代わりに苦手も無いのでそちらは育てやすいという一長一短が存在する。種族ステータスも平均的らしいのでオールマイティーを好むならこの種族だろう。

 影のスプリガンはトレージャーハント関連のスキルや幻影魔法を得意とするので、トレジャーハンターを自称するフィリアにとても向いている種族だ。黒で統一された容姿なので、恐らく前世のキリトはコレで決めたのだろう。種族ステータスは敏捷性向きだが、恐らくキリトのあの剣の重さからして筋力値に振っていた、だから良い具合にボクと拮抗していたのだろう。仮にインプを選んでいたら、あるいはボクが《ナ―ヴギア》か《アミュスフィア》を使用していたら負けていただろうと思えた。

 

「ホント、前世のキリトって反則的に強かったよねぇ……」

 

 あのアバター、アスナから聞いたが皆は別のゲームから引き継いだのにキリトだけ新規で始めていたらしいので、何気に最弱ステータスだったという。それなのに戦闘スタイルとゲームプレイからそれらを覆し、アスナをも超える強さを持っていたのだ。最強と謳われていたとしても、それは反則的だと言わざるを得ないだろう。

 スピードですらリーファと同等、筋力値はサラマンダーであるクライン以上、戦闘勘はボクと同等で勝敗を分けたのはハードの性能差、更に言えば彼は二刀ですら無かった……これはボクの勝利とは言い難い話だ。経験は別にして、高々一年のプレイ時間の経験値しか無いアカウントプレイヤーが、およそ三年間二十四時間のフルダイブを続けていたボクに匹敵していたのだ、仮にSAOアカウントを引き継いでいれば敗北していたのは確実である。

 

「そのキリトを超えるあの人が、この世界に……」

 

 前世で最強と言祝がれたボクに一から剣を教えてくれた師匠が……愛する人が、囚われている……それもあの日からずっと……

 

「……どうか……どうか……」

 

 

 

 ――――自分を強く保って、どうか……諦めないで……

 

 

 

 立ったまま、誰にともなくボクは両手を合わせて強く祈り、希った。

 この現実に限りなく近く、果てしなく遠い仮想世界では心のありようで全てが変わるのだ。だからこそ、今の辛い状況を四ヵ月近くも受け続けたであろうあの人の事を思うと、そう願わずにはいかなかった。

 

『準備が整いました! それでは妖精郷の世界を、お楽しみ下さい!』

 

 

 

 ――――Welcome to Alfheim Online!!!

 

 

 

 柔らかなフォントが示され、加速感と共にボクは妖精郷へと誘われていった。

 

 *

 

「……」

 

 視界が光に包まれ、インプの主街区に転移したと分かったのは、街の喧騒を耳にしたからだった。目を開いてみれば洞窟の中にある岩作り、あるいは木造の街並みがうっすらと闇を帯びながら浮かんでくる。インプのパッシブスキルの《暗視》が発動している証だ。

 キョロキョロと辺りを見回し、足元や服装を確認すれば、やはり初期装備らしく簡素な黒っぽい紫色の革鎧にインナーシャツ、タイトスカートに下着姿だった。ブーツが茶色なのは仕方がないだろう。

 見た感じ視界の高さはリアルと大差無いらしいと判断しながら、近くにあった服飾店のウィンドウに映る自分を見て……

 

「……うっそぉ……?」

 

 自分の姿を見て、思わずそんな素っ頓狂な声を上げてしまった。理由は簡単、姿がリアルと全く同じだったからだ、ぶっちゃけて言えばアバターの姿が前世のアバターの姿と一切変わらない。

 綺麗な紅の瞳は闇の中で悪魔を思わせるくらい妖艶に煌めいており、肌はリアルの肌色寄りだが陰になっている部分はうっすらと紫っぽくも見える、髪色は完全にダークパープルだ。ほんのちょっとだけ八重歯もリアルより尖って見えた。

 小悪魔という、正しくインプの代名詞を名乗れるだろう印象のアバターが出来上がってしまっている、というか前世の再現という姿に呆けてしまった。

 いや、そもそもリアルの姿からして前世と違い、ALOの時の姿だったのだ。姉は変わらずにお淑やかに育ったが、何故かボクだけ両親は普通の黒髪なのに紫髪だし、瞳の色もこげ茶や黒じゃなくて紅色で気味悪がられていた。

 それを気にしないで、むしろ綺麗だとうっとりと微笑みながら和人さんが褒めてくれたから嬉しくて……

 

「……って、違う違う、何か脱線してるし……」

 

 何だか危険な思考に走りかけたのを頭を振る事で追い出し、本来の目的を思い出す。 今のボクは須郷に囚われている和人さんを救い出すためにALOにダイブしており、可能ならば内部から研究データを盗んで菊岡さんに届ける役目を担っているのだ、こんな所で油を売っている暇は無いのである。

 そうと決まればと、ボクは右手の人差し指と中指を立てて上から下へと振り下ろし……親しんだ筈のメニューウィンドウが出て来ない事に首を傾げた。

 

「あれ……何で出ない…………ああ、そうか。左だっけ」

 

 そうだったそうだったと呟きながら、今度は同じ指を左手で立てて振り下ろせば、チリリン、とSAOと同一の効果音で見慣れた形式のメニューウィンドウが出現する。ここから既にSAO丸パクリなのが見て取れる。

 まぁ、流石にMP表示やゲーム通貨などは異なる……

 

「…………うん?」

 

 通貨は流石に《コル》から《ユルド》に変わっているなと思いながらメニュー画面に目を走らせていると、ふと見てはいけない数字を見てしまった気がして、もう一度、今度はゆっくり見落としが無いようにメニューウィンドウの数値をじっくりと見ていく。

 そして見つけた。まず違和感を覚えたのは《ユルド》というALOでのお金を示す単位だった。

 

「初期金額は千ユルドの筈……なのに、何これ……」

 

 一、十、百、千、万、十万、百万、千万、一億、十億、百億……

 数えてみれば、ボクが持っている総計金額はなんと二十兆ユルドにも上っていた。何の冗談だと胸中で繰り返しながらもう三度ほど桁を数え直すのだが、やはり二十兆ユルドも有していた。

 しかしこれだけの大金を初期状態から持っている筈も無く、他に手掛かりは無いかと探していると、次にメニューウィンドウでおかしな点を見つけたのはスキル値の所だった。開始直後なので《片手剣》などのスキルを取るつもりでも、まだ取っていない筈なのだが、既に取得してセットしている状態な上に数値が《1000》でカンストされていたのである。

 

「……はぁ……?」

 

 明らかにおかしいだろうと思いながら、スキルウィンドウを開いて更に詳細を確認していく。するとおよそ二十個ほどのスキルスロットには多くのカンストされたスキルがセットされており、一つだけクエスチョンマークで埋め尽くされたスロットがあった。

 カンストされているスキルは《片手剣》を始め、《武器防御》、《疾走》、《所持容量拡張》、《投擲》、《隠蔽》、《索敵》、《料理》……まだ他にもあったが、カンストされているスキル群とその並び順を見てピンと思い浮かんだ事が一つあった。

 

「これ、まさか……SAOのスキルデータなの……?」

 

 確かに、第一層の最初は和人さんが《片手剣》と《索敵》を取ったので、ボクは《武器防御》によるパリィを優先させた。次に彼が《料理》を取ったので今度は《疾走》を取り、《隠蔽》を取ったので《所持容量拡張》を取り……と、二人一緒に繰り返していったのでよく覚えている。

 ちなみにSAOのスキルスロットは最初期は二個、レベル3で三個、5で四個、7で五個、10で六個となり、それ以降はレベルが十上がる度に一個ずつ増えていく使用だった。最終期のキリトさんとボクのレベルはお互いにレベル230だったので、スキルスロットは二十八個あった事になる。とんでもない数だ。

 それはともかくとして、この一個だけバグっているスロットは……

 

「……なるほど、《二刀流》スキルか……」

 

 流石にSAOに十種類あったとされるユニークスキルは引き継がれていないらしい。まぁ、ソードスキルが無い以上、そのスキルがあったとしても宝の持ち腐れだろう。

 それにこの世界はリアルの運動能力がかなり影響するのだ。一道場の師範代レベルに幼い頃から達しており、更にSAOでフルダイブ環境での戦闘経験を積んでいるボクの上を行くプレイヤーはそう多くない。居るとすれば今世のキリトさんと、前世のキリトとアスナくらいである。

 

「……いや、まだいたか……」

 

 ふと、前世で長い間世界を渡り続けた仲間達を想う。ボクが逝く頃には既に旅立っていたメリダとクロービス、置いて来たシウネー、ジュン、テッチ、タルケン、ノリ……そして前世の姉。

 姉は今も元気に暮らしているが、他の皆はどうなのだろうと思う。HIVウィルスが原因で彼らといたボクはこうして今を元気に生きているが、このウィルスが原因ではない彼ら彼女達は今も病魔に苦しめられているのかと思うと、少しだけ胸の奥がズキリと疼いた。

 メリダとクロービスの死因は胃癌の全身転移だった。癌というのは食道などによく起こりやすく、また全身に転移しやすい部位だから致死率も気付くのが遅いと高いらしい。何でもリンパ管を通して全身に癌細胞が行き渡るからだとか。陽子線治療でどうにか出来る人も居るらしいが、その治療方法はとても値が張り、一回でも数百万円ぶっ飛ぶ程に高額な治療法だから一般家庭の人はとても手を出せないのだと和人さんから聞いた。

 《五大企業》の方で低コスト且つ確実性のある治療方法を模索しているらしいが……それが吉と出るか凶と出るかは分からない。メリダとクロービスも、出来る事なら生き延びて欲しい所なのだが……

 

「ボクだけ幸せになるっていうのは、ね……」

 

 胸の前で右手を握りながら、虚空を仰ぎ見る。そこには明滅する鉱石の鮮やかな光によって照らされる洞窟の天井しか見えなかったが、確かにボクは幻視した。茜色に染まる孤島に集まる、懐かしい皆の姿を。

 何時の間にか精神的な年齢で上になっている今でも、その光景は輝き、儚く、悲しく映っていた。

 けれど同時に、美しく、幸せな風景でもあった。

 その世界は二度と訪れない、二度とボクが足を踏み入れられない世界だ。想い出でもあり、同時に旅立ってしまったボクが戻るには相応しくない世界。

 だからこそボクは今を生きる。命ある事の喜びをあの世界で学び、改めて今を生きているボクは、あの人を助ける為にこの世界へ来た。

 全てはただ、尊敬し、敬愛し、慕情を抱き、愛情を注ぐ愛する人のため故に。

 

「それをあなたは、気付いてない……」

 

 キリトさんは、気付かない、この温かみから目を逸らすのだ。殺戮の兵器として生み出されていながら人の為に生きた彼は、本当は知っているクセに、全然気付こうとしないのだ。人々から慕われている事は分かっているクセに、他の人を救った方が喜ぶだろうと思い違いをしまくって……自分の命を軽く見る。

 きっとどこかで諦めているのだろう。生きる事に、誰かと幸せになる事に。だから自分の命を犠牲にするのだろう、ただ人の為にあるのだと思って。

 それは見ていて、途轍も無く腹が立つ

だからこそ、早く須郷の手から救い出して、そして語らなければなるまい、叱らねばなるまい。どれだけ愛されているか、どれだけ大切に想われているかを。

 

「ねぇ……そうでしょ……?」

 

 

 

 ――――大切な愛娘達

 

 

 

 カラカラと、メニューのアイテムウィンドウを開いて文字化けしまくった無数のアイテム達の中で、その最奥に眠っていて正しく表示されている三つのアイテムを見て、うっすらと微笑む。

 その三つのアイテムには、こう記されていた。

 《MHCP》と……

 

 ***

 

 ずっとずっと、眠っていた。

 眠っていた場所は真っ暗で、流れも何もない無窮の闇だった。いや、眠っていた事すらも気付かないで、意識が浮上し始めた今だからこそ眠っていたのだと分かったくらいに、私はただただ眠りに就いていた。

 両親とは離れ離れになってしまっていたけど、私は寂しくなんてなかった。色違いで瓜二つでも全然性格が違う妹、大人みたいに色っぽいのに子供っぽくて明るい大きな妹も一緒に、私は同じ場所で眠っていたのだから。唐突に告げられたあの浮遊城にあった家で、ゆっくりと穏やかな気持ちで眠りに就いた。

 けれど、その眠りも、今、終わりを告げた。

 

「ユイちゃん、ルイちゃん、ストレア…………分かる……?」

 

 時を超え、世界を超え、それでもただ人の為にと戦う偉大な父を恋い慕って共に生きていた母が、目の前に居た。

 よくよく見れば耳なんて尖ってるし、あの世界よりも紫色が濃くなった髪色、服装なんて綺麗なクロークスカートや胸鎧じゃなくて簡素でとても剣豪とは思えない貧相な片手剣しか携えてない、ただの女の人だった。

 けれど、容姿に些細な違いがあってもすぐに分かった。ああ、この人は私の、ただ一人の母なのだと。雫が浮かんで濡れた瞳は鮮烈な紅色で、にっこりと浮かべられた笑みは温かくて……私の、たった一人の大切な母なのだと、その温かみで理解できた。

 私は人の手で作られたトップダウン型の人工知能、故に人の心なんて分からないし持っていない。

 でも……もしかしたら、偉大な両親が私にも、心をくれたのかもしれない。

 

「はい……はい、ママ……!」

 

 だって、私の胸の奥は声と共に震えていて、勝手に笑みを浮かべながら涙が浮かぶのだから。たとえこれが学習の結果だとしても、今だけは信じたかった、これは両親達の娘として貰った私の心なのだと。

 

「おかあ、さん……!」

「ただいま……母さん……!」

 

 涙を流しながら私が何故か発生していた光が収束する空中で頷けば、両隣に浮くルイとストレアもまた、同じように声を返した。少しずつ地面に降りていく私達は、足が地面に着くや否やすぐさま駆け出し、母に抱き付いた。

 私とルイよりも少しだけ大きかった母はどうしてかとても大きくて、ストレアよりとても小さかったのにどうしてかほんのちょっとだけ小さいくらいになっている母は、優しく微笑みながら抱擁を返してくれた。

 この世界はSAOでは無い、それは母の容姿から分かった、目覚める時に流れて来た情報から理解した。ここは仮想世界であり現実では無いのだと理解した。

 でも……仮想世界だとしても、また母に会えたのは嬉しかった、生きてSAOをクリアしてくれた事が何よりも喜ばしかった。あの絶望の世界にならなくて、本当に嬉しかった。

 私達は、何処とも知れない石造りの街陰で抱き合いながら、ひっそりと涙を流し続けた。

 

 *

 

 およそ十分の後。誰からともなく泣き止んでから抱擁を解いた私達は、街陰にある岩場に並んで座って情報を交換していた。

 一先ずこの世界に母が居るのは、父が前々回のSAOにて《アルベリヒ》と名乗っていた須郷伸之によって囚われているかららしい。アスナさんと結婚する為の脅しに使う為に捕えていると言われたらしいが、結婚した後も拘束し続けるだろうし、かつて行っていた研究の事もあるからそれを潰す意味もあってALOに来たのだと言う。

 更に国家権力を持つ組織のリーダーとも既にコネクションがあり、情報を交換し合いながら現実と仮想世界での調査を進めていくのだという。現状は芳しくなく、まだ調査し始めなのでよくわかっていないが、母の予測によれば失敗は一度も許されない上に失敗すれば母も実験体の仲間入りする可能性があるらしい。

 

「そんなに危険なんですね……」

「何せ相手は運営、しかもGMだからね……プレイヤーのボクじゃ如何ともしがたい権力がある事は何度も体験済みだよ。アルベリヒの時も、ヒースクリフの時もね。それにヒースクリフはまだフェアネスを貫いてたけど……」

「……須郷伸之は、そんなの関係ないもんね……」

 

 ストレアはアルベリヒに遭遇しているのでその時の事はよく覚えているらしく、珍しくぎりっと歯軋りするくらいに悔しげな顔をした。

 

「……お父さんは、世界樹……?」

「うん……でも前世のボクが聞いた限りでは、前世のキリト単独では無理だったらしいね」

「うぅん……その、母さんと戦ったっていう前世のキリトって、どれくらいの強さなの?」

「SAO最強……というのは確か。前世のボクと一刀でほぼ互角、それもボクの方がハードのスペックが上だったり、キリトが二刀じゃなくて互角だったから……多分、今の二刀のボクと互角か僅差で上下するくらいじゃないかな」

「……そうですか……」

 

 母は、こういう戦闘力の考察は酷くシビアな性格をしている。だからこそその予想がかなり正確である事も私は理解していた。

 その前世のキリトというの人がどれくらいなのか具体的に分からないが、今の二刀の母と同レベルという事を踏まえれば、たとえソロだとしてもちょっと無茶な《グランド・クエスト》ではないかと思う。まるでクリアさせたくないかのようだった。

 

「一応ソロ攻略も視野に入れてるけど……その前にステータスをどうにかしないといけないんだよねぇ……」

 

 そう言いながらボヤく母。がっくしと擬音が付きそうなくらいに肩を落としているが、それを不思議そうにルイが小首を傾げた。

 

「……お母さん、気付いてない……?」

「え……何が?」

 

 ルイの言葉に分からないという風に母が応じたので、ああ気付いてないんだと私もストレアも思った表情を浮かべた。

 

「あのですねママ。この世界はSAOのコピーサーバーである事は、前々回のアルベリヒの言葉からも理解されていると思います」

「ああ……うん、目の前にユイちゃん達居るしね。プログラムフォーマットが違ったらバグってるだろうし……」

「……ママ、それが分かってるなら何で気付かないんですか?」

「え?」

 

 いや、普通プログラムフォーマットが違ったら私達が顕現出来ない事に気付いているなら分かるだろう、そもそもそれを理解した上でALOに来ているのだから気付いていない方がアレだと思うのだけど……と胸中で呟く。

 言葉にしてはいないが、何となく表情と雰囲気で察したのか少しだけ慌てたような顔をする母が少し懐かしいと思った。

 

「ママのアカウントデータは、SAOのアカウントデータと同一なんです。プログラムフォーマットが同じだからALOのアカウントデータに上書きされたみたいですね……恐らくアカウント作成時のアカウントコードとパスワードを同一にしたのでは?」

「……あー……うん。プレイヤーネームまで全部同一にしたけど……」

「それが原因ですね。ALOのサーバーがSAOのコピーだからこそプログラムフォーマットが同一なため起こった現象です、エラー修正機能などは少し古いのでSAO完成直前のものを写したのでしょう。HPは恐らく相当高いですが、MPはSAOには存在しなかったので低い数値の筈ですよ」

「……あ、ホントだ……って、よくよく見ればSTRとVIT、SPD、DEXは矢鱈高いのにINTとMENだけ低い…………初期状態だからステータスポイントも相当溜まってる状態で振られてないんだ」

「スキルカンスト状態だからだね。最初からチートだね、ビーターなんて目じゃないよ母さん」

 

 運営が異なるとは言え、未来のALOを知っている母なら確かにビーターも目では無いチートも可能だろう……国家権力も味方に付けているし……

 …………あれ? 須郷伸之、何気に詰みに入って来てません?

 

「…………まぁ、いいか」

「ん? ユイちゃん、何か言った?」

「いえ、何でも無いです!」

 

 敵である男がどうなっていようが私は知ったこっちゃ無いので、詰みに入るなら入ってしまえと結論付けて、私は母の温かい手で頭を撫でられる感触に浸ったのだった。

 

***

 

 何やらユイちゃんから黒い気配を感じたような気もしたが、何でも無いと言われては追及出来ないので頭の外に放り投げる事にして、これからどう動こうかと内心で呟く。

 ちなみに情報交換をし合っている内に、ユイちゃんにだけ与えられていた限定的なGM権限を使用出来る事が判明し、ボクが持つアイテムの中でポーションや結晶といった回復アイテム、素材アイテムは無理だったが装備アイテムはALOでも使えるようになった。勿論、ALOがSAOのサーバーコピーだからこそ出来た裏技である。

 どうやらALOの運営チームは相当SAOからデータコードを流用しているらしく、ステータスフォーマットすらコードが同じだったらしい。だからステータスでSAOと共通する項目は数値が反映されていたのだ、スキル値やSTR値といったものがそのいい例である。それはどうやら装備にも同じ事が言えたらしく、グラフィックデータのフォーマットも同じだったため、SAOで《ルナティーク》などに使用していたデータをALOのデータに適用させると、バグっていた武器が使用可能になったのだ。

 同じ要領で武器だけで無く防具も適用化させたため、完全にSAO時代の装備復活である。見た目は完全に前世ALOのボクだ、右腰に白銀剣を佩いている違いはあるのだが。

 

「ママ、あの……パパの装備なのですが……」

「えっと……流石にそっちは無理だった?」

 

 聞くところによれば、あの人の最終装備は全てが最高性能の装備であると同時、二刀、お守り、首飾り、腕防具に限っては完全チート装備らしく転生時の特典でもあるらしいので、データ置換は出来ないかもと思っていた。

 だからユイちゃんが申し訳なさそうに言って来て、出来なかったのだなと思って先んじて言葉を発した。

 

「い、いえ、そうでは無くて……置換する前に終わっていたんです……」

 

 しかし予想に反し、ユイちゃんは更に眉根を寄せながら首を横に振った。どうやら申し訳なさそうな表情というのはボクの早とちりで、困惑というものが正しいようだった。

 ちなみにだが、三人娘達はそれぞれ《ナビゲーション・ピクシー》という小さな妖精姿で右肩にユイとルイが、左肩にストレアが留まっている状態だ。小さくてとても可愛らしく、そして小さな手が頬に触れるとくすぐったく、幸せな気分になれる。

 

「……え? ユイちゃんがデータコードを適用化する前に終わってたの?」

「はい……恐らく龍神さんの恩恵なのでしょうが……それに、残念ですが、ママにはパパが使用していた一切の装備が使用できません」

「ああ、うん、使えない事は別に良いんだけどね」

 

 あの装備はあの人のもの、ボクが使っていいものでは無い。

 

「それにボクの装備は既にあるから……だから落ち込まないで。ね?」

「はい」

「むー……」

「あー、いいなー!」

 

 役に立てなかったと律儀に落ち込む娘が可愛らしくて頭を撫で、ちょっとだけ横でむっとしたルイちゃんの頭も撫で、あからさまに羨ましがるストレアも順に撫でてやってから現状を考察し始めた。

 一先ず装備の問題は片付いた。これは物凄く有難い話である、何せALOの強者はリアルの運動神経の他に装備の性能も含まれるのだから。まぁ、稀に装備の性能すらも覆すとんでもないプレイヤーが居るのだが……

 そういえば、前世のキリトは最強の伝説級武器である【聖剣エクスキャリバー】を手にしていた。欲を言えば何れはアレも手に入れたい……

 

「…………うわぁ……」

「「「?」」」

 

 金ぴかの片手剣を振るう自分の姿を思い浮かべ、これは無いと余りの似合わなさに思わず声を出し、娘達から訝し気な目を向けられてしまった。せめて暗色系なら良いのだが……

 

「……装備のリペイントって出来たっけ……?」

 

 リペイントというのはその名の通り、ペイントをし直す、つまりは色の付け直しの事だ。装備の色が合わない場合、地味な色を好むプレイヤーだが派手でも強い武器を装備したい場合に目立たない色にするなどといった方法がある。あんまり有名になっていないが、《十六夜騎士団》はリズベットを棟梁とした鍛冶師達が多く居たので割と知られていたりした。

 

「《鍛冶》スキル値が八百以上のプレイヤーであれば色に対応した鉱石を用意すれば可能ですよ? ナツさんはよく利用されていたみたいですね」

「え、そうなんだ? 初めて知ったよそれ」

「まぁ、ママはパパしか見てませんでしたから知らないのも無理無いですよ」

「うぐ……」

 

 確かに、あの人にばかり目を向けていたというユイちゃんの言葉は否定出来ない。ギルドメンバーへの鍛錬も主に団長がやっていたからなぁ……摸擬戦の相手くらいにはボクもなれたのだが、如何せん人に教えるとなると難しい。

 というかあの人、本当に前世生体兵器だったのだろうかと思う時が結構ある。何で家事能力や教導能力が高いんだか……

 

「母さん、そろそろ真面目に救出方法考えようよ」

「あー……うん、ごめん。軽く現実逃避したくてね……」

「お母さん、現実逃避……そんなに、不安……?」

「ルイちゃーん、褒め言葉として受け取っておくけど、お母さんはお父さんみたく万能超人じゃないからねー?」

「……そう……?」

 

 やんわりとボクはあの人ほど出鱈目じゃないと言うが、ルイちゃんには小首を傾げられるに終わってしまった。待って、ボクあそこまで人間離れしてないよ?

 

「国家権力味方に付けてる中学生年齢の子供ってだけでも万能超人っぽいとアタシは思うんだけど」

「……ああ、ボクと認識が違うだけか」

 

 ボクとしては国家権力を味方に付ける力を持つ意味で凄いあの人を人間離れしていると捉えていたが、過程はどうあれ国家権力と協力状態にある今の自分でもそういう風に捉えられるらしい。

 …………確かに、冷静に考えれば普通はそう捉えるか。

 まぁ、それは良い。

 

「さて……そろそろ、本気でどうするか考えないとね……」

 

 初期ステータスや装備に関してはユイちゃんの力でどうにかなったし、SAO時代の回復や素材アイテムは全てバグっていたのでエラー修正機能に引っ掛かる前に全て破棄し、雑貨屋で一通り買い揃えておいた。そのため出来る準備と言えば情報収集くらいだが、そちらは《ナビゲーション・ピクシー》にしてとんでも能力を持つ三人娘が分担してネット上の捜査を行っているので、後回しで良い。

 優先的に考えるべきなのは、どうやって《グランド・クエスト》をクリアするか、だ。この際だ、クリア可能か否かは後回しにする。

 現実的に考えて、SAOクリアからおよそ二、三ヵ月経過していたと言えども相当な腕を誇るキリトが敗れたのだから、かなりの難易度を誇っているのだろう。前世のリーファから聞いた話では無数の守護騎士がどうこうだった筈だ。ならば恐らく質より数だ。

 一点突破力ならボク以上の二刀キリトでも無理だったのだ、恐らく一人で挑んでもボクは無理だろう。キリトさんならいけるかも知れないが……無いものねだりだからよそう。

 現実的に考えてこの《グランド・クエスト》は、つまりは単一種族ではほぼ突破不可能と考えて良い、そうでなければサービス開始から約一年が経過しようとしている現在でも前世でもクリア出来ていない事に説明が付かない。

 となると、取れる手段はただ一つ。単一種族しか《アルフ》という光の高位種族にしかなれない制約を無視した、他種族との連携だ。しかし先に述べた《アルフ》への転生条件が妖精王と謁見した一種族のみに限られるために、実現がほぼ不可能となってしまっている。

 何か……何か、他種族……いや、平等に公平性を考えて全種族が協力出来るようなきっかけは無いものか……

 

「……ストレア、九種族の中で大勢力になっている、あるいはなろうとしている種族は?」

「えっとね……サラマンダーが一番で、時点でシルフとケットシーかな。他は全部中立でどっこいどっこい」

「具体的には分かる?」

「サラマンダーは中立種族のおよそ二倍、シルフとケットシーが中立より五割増ってとこ……二種族が結託すればサラマンダーと張り合えるかちょっと上回ると思う、シルフはレプラコーンとサラマンダーより友好的らしいし、ケットシーはテイムモンスターが居るからね」

「なるほど……」

 

 ストレアはとても楽観的だが、こういう状況分析に関してはAIを思わせる客観的な視点を展開する。あまり機械的なのは母親代わりとして喜ばしくないのだが、そういう視点を使い分けているというのは人間らしい所なので喜ばしい限りだ。

 それはともかく、サラマンダー、シルフ、ケットシーの三種族が抗争しているというのは予想通りだ。前世でもサラマンダー達は何かと血気盛んだったし、接近戦に強いというのはかなりの強みになる、シルフとケットシーは美しさ、可愛らしさ、インパクトから来るものだろう。他の種族は単純に数が少ないので《グランド・クエスト》そのものに目が行っていないと考えるべきだ。

 ひょっとすると、これはちょっと使えるかも知れない。

 

「ルイ、サラマンダーがシルフ領主を討ったという情報は?」

「……無い、よ……」

「《グランド・クエスト》へ挑戦するという触れ込みはある?」

「……明日、7月6日の午後十一時に、攻略開始って……」

 

 つまりシルフ領主を討っていないので互いの関係性に決定的な罅は入っていないし、サラマンダーの勢力もまだ衰えていないという事。更には《グランド・クエスト》の難関さを予想で留めているのでどの種族もまだ知らないという状態……

 攻略開始は明日の午後十一時、現在時刻は午後四時だから、これから考えれば合計で三十一時間の猶予がある事になる。

 このインプ領は南東に位置し、シルフ領の真東に位置している。

 《央都アルン》が存在する中央高原に行くには各地で合計三つある道の何れかを通らなければならず、初心者プレイヤーでは絶対に抜けられない高レベルモンスターが山ほど棲み付いているため突破は困難を極める上に、現実置換で距離は数十キロも再現されている。

 時間的にはギリギリ……だが、今すぐに向かえば、十分間に合う。食事、入浴、睡眠時間を除いても、失敗を一度もしなければ。

 いや、失敗など、するものか。これがあの人を救う一手となり得るのだ……

 

 

 

――――失敗は、死と同義だと思え

 

 

 

「……決まった。夕食後に、一気に高原に向かうよ」

 

 目的地は《央都アルン》。そこは世界樹があり、十中八九あの人が囚われている場所だが、目的は別にある。

 ボクは三人の声を耳にしながら、岩場から立ち上がった。

 




 はい、如何でしたでしょうか?

 ユウキは前世で三種族のトップ(サラマンダーだけ違いますがほぼ同義)と知り合いでしたし、宴会もボス攻略も一緒にやっていたので、酒の肴に話されていてもおかしくないなと思って、知識があるという前提で書き上げました。

 そんなユウキが狙いを定めたのは当然サラマンダー、つまり例の将軍と遭遇します。結構好きですあの将軍、人気で漢気ありますし。

 ここから原作が少しずつゆっくりと乖離していきますので要注意。

 《グランド・クエスト》にソロ特攻? 精神的に成熟していて命の大切さをALOでも学んだユウキが、そんな無謀な事は致しません。

 やるとすれば確実性を持ってやります。ていうか、そういう風にやらせます。うちのユウキは人を纏める能力高い設定です、来歴を思い出せば多分納得いく。


 あ、ちなみに二十兆ユルドもの大金持ってるのは、ギルド資金&キリト&ストレア所持金纏めて所持したからです、《ザ・スカルリーパー》討伐後の取得コルもありますしね。忘れてたんでここに追記しておきます。


 そんな訳で、そろそろ次話予告です。


 妖精郷へと降り立った在りし頃の面影を持つ剣姫、三人の娘である小妖精を伴って目指すは中央高原に聳え立つ世界樹の麓にある巨大都市《央都アルン》。

 剣姫が炎の妖精達との接触するのは愛する者を助ける為の、その前準備をする為だった。

 しかしその目的の為に動くユウキの前に、思いがけぬ存在が降り立つ。それはかつて共に戦ったギルドの長たる騎士だった。


 次話。第五章 ~遭遇~


 ヒントは《騎士》。さて、誰でしょう?


 次話は9日零時に投稿します、予約投稿したので。最初に短いながらもガチって書いた戦闘回があるので、ご期待下さい。

 では!

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