ソードアート・オンライン ~闇と光の交叉~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷・ユーリ・メリディエスです。

 タイトルから分かる通り……ですが、最初は予告に書いた通り、パーティーです。キリトが《料理》組として駆り出されます。

 本作ではキリトがSAOで《料理》スキルを完全習得した第一人者ですので、アスナより上という訳です。平行SAOではユウキが二番目、三番目にアスナという訳ですね。

 このパーティーは《ホロウ・フラグメント》のパーティーを参考に書き上げています。


 ではどうぞ。


 ちなみに、《笑う棺桶》は《ラフィン・コフィン》と読みます。



第八章 ~《笑う棺桶》掃討作戦~

第八章 ~《笑う棺桶》掃討作戦~

 

 デスゲーム開始から一年五ヶ月。最前線は七十層。キリト達が最前線から一旦退いて、もう二十層も進んだ。その間にも多くの出来事があった。

 まずいきなり子供が三人も現れた事だ。前回までなら誤魔化していたが、今回は二人も誤魔化さなかった。三人をMHCP……AIだと伝え、自分達の前に現れた理由を前々回と同じので話した。

 ギルド、および攻略組には真相を伝え、他のプレイヤーにはチャイルドシートというシステム的に与えられる子供という設定にした。実際にシステムとして存在しているらしいため、あながち間違ってもいない。まだ二人は未経験だから条件の一つを満たしてないものの、ユイ達がいるから別に良いかと思っていたりする。二人ともそっちにはまだ興味が無いし、そちらに興味を向けられるほど余裕がある訳でも無いからだ。

 最初こそリンドやキバオウが奇異の目で三人を見ていたが、今ではユイ達にも普通に接するようになった。ちなみに、ルイはキリトに、ユイはユウキに懐いており、行動の節々がそれぞれと似ている。本当の親子と見紛うばかりで、改めてキリト達が本当に最年少組なのか疑われるようになった。ストレアは二人共に懐いているのでどちらにも似ている。

 当然だが、三人を迎え入れた段階で三人を黒鉄宮地下の迷宮最奥にあるシステムコンソールに行き、三人のMHCP権限を凍結。ユイが所持していたGM権限の規模を縮小しつつ三人全員にコピーした。なので相手やボスのステータスをある程度参照出来るのだが、こは流石に他のプレイヤーには秘匿事項となっているので、知っているのは親子五人とヒースクリフこと茅場晶彦の六人のみとなる。

 続いてクリスマスイベント。これにはGMであるヒースクリフを除けば、そのタネと実物を知っているキリトとユウキのみ乗り気ではなかった。前回の記憶があるため、二人とも行きたくなかったのだ、嫌な思い出しかないから。特にキリトにとっては最早トラウマを呼び覚ます根源なので見向きもしなかった。

結局蘇生アイテムを取得したのはアスナ。モミの木の座標は変化していなかったので、キリトとユウキのヒントを頼りに探し当てて入手に至る。ボスである《背教者ニコラス》は、前回キリトが相手した時の壊れステータスでは無かったため、特に死者も出ていない。

 この日に、キリトとユウキは同じく興味をあまり持っていなかったリズベットと共に五十五層の南の山へ赴き、クリスタライト・インゴットを取得。【闇を払う者(ダークリパルサー)】を鍛えてもらい、チート装備を使用しなくても《二刀流》の本領発揮が出来るようになった。

 それまで所持していた【ダークネスロード】と【シャドウリーパー】も相当な業物なのだが、《二刀流》スキルに武器の耐久値が耐えられない事が多々あり、スキルをあまり使用できないという問題があった。今回のこれでその問題は解決したので、今まで以上に《二刀流》スキルを使えるだろう。

 そして最後。これは凶報となる。

キリトとユウキが記憶する中でも最悪に入る集団、殺人ギルド《笑う棺桶》の結成告知が、大晦日の夜に情報屋に伝えられたのである。見せしめのようなものとして、《シルバーフラグス》という十人規模の小ギルドが、リーダー一人を残して殺された。その一人は情報屋へ伝える為に残された。現在から約二ヶ月前の事だ。

 攻略組は少し軽く考えていたのだが、攻略組メンバーにも被害が入り始めた。既に《聖竜連合》と《血盟騎士団》にも三人ずつ被害があり、各ギルド長は漸くこのレッドギルド《笑う棺桶》を警戒が強く必要だと捉え始めた。無論、キリトとユウキは初めから厳重警戒を発し、必ず二パーティー構成で回復アイテムを常備させ、状態異常に耐性効果があるアクセサリーを渡したり、状態異常防御効果を底上げするスキルの取得を呼び掛けていた。それが功を奏し、未だに《十六夜騎士団》に死者は出ていない。

 《笑う棺桶》は最前線迷宮区には姿を現さない、少なくとも、今はまだ。大体は下層に下りた時に狙われるのだ。この犠牲になった六人も、素材集めに下りた時に襲われ、殺されたのである。下層に攻略組である自分達を殺せる奴はいないという慢心が招いた結果である。

 攻略組メンバーすら殺せる強さを持つ事に動揺した者は多かったが、攻略を止める訳には勿論いかないので、キリトが奮起して攻略を無理の無い範囲で進めた。これで他の皆も追従する形となる。自分よりも幼い子供が戦っているのに、ただ話に聞いただけで恐れてどうすると自らを奮い立たせて。

 そして攻略は続き、六十九層を無事攻略した。暗いニュースもあるが、明るいニュースの方が圧倒的に多い為、十層ごとに開く事が恒例となったパーティーが開かれることになった。

 そこで、キリトはとある話し合いを持とうとしていた。

 

 ***

 

「それでは諸君、飲み物は行き渡ったかね? ……大丈夫のようだ」

「だな。んじゃ、キリト。音頭頼んだぜ!」

 

 ヒースクリフの確認に全員がグラスを持ち、クラインがそれに頷いて俺に振ってきた。

 ……え。

 

「……え、お、俺なのか?! 聞いてないんだが?!」

「オイオイ、攻略組のトップはほぼお前で、このパーティーは攻略記念のやつなんだぜ? お前以外に適任が居るかよ」

「今までヒースクリフとかクラインがやってたくせに……はぁ……えー……それでは、これから七十層到達パーティーを始めたいと思います! それでは皆さん、ご唱和下さい! せーのぉッ!!!」

「「「「「第七十層到達! おめでとう!!!」」」」」

 

 パン、パパンッ! と用意されていた素材、製作過程不明のクラッカーが鳴り、全員で唱和が為された。

 今日に限っては無礼講、たとえギルド長だろうがとっつきにくいプレイヤーだろうが、今だけは関係ない。現に、あのヒースクリフに笑いながら話しかける剛の者までいる。ちなみにクラインとエギルは真っ先に話し掛けていた。

 後方支援のお陰で相当広くなった《十六夜騎士団》ギルドホームの大ホールで大きなテーブルを置き、そこで様々な料理をするパーティーが開かれた。

 言いだしっぺは俺、料理を用意したのは俺とユウキとアスナの三人。ユウキは前回までが悔しくて、アスナは負けたくないかららしい。最初期に俺の料理を食べて、少し対抗心が刺激されたようだ。

 相当な量を作っているが、瞬く間に無くなっていく。しかしかなりの量を作り置きしたので、まだ厨房に再び立つような事態にはならない。下層プレイヤーにコルを払って配膳のバイトを任せたので、攻略組が裏方に回ることも今は無いだろう。

 俺はそこそこ料理を食った後、グラスをジョッキに持ち替えて、アルコールが入っていない酒を飲んでいく。甘い炭酸水を混ぜたオリジナルで、そこそこイケる味となっていた。

 

「よぉキリト! 七十層攻略到達、おめでとさん!」

「ああ、おめでとう、クライン。これまで最前線で戦ってきて生き残ってるんだから、今思えば中々に感慨深いな……」

「確かになぁ……思えばあれから一年と少し……今もこうして一緒にいられるのも感慨深いじゃねぇか、なあ?」

「そうだな。クラインは最初期、フレンジーボアを中ボスと思って戦うニュービーだった。そう考えると相当成長したよな、クラインは」

「当ったり前ぇよ! もっと成長して、でけぇ男になってやるぜ!」

 

 快活に笑ってそう言うクラインは、俺にとっては眩しく見えた。闇を持った俺とは違う、純粋な心と魂を持っているクライン。本当に、成長したな……

 そんな感慨を覚えつつ、俺とクラインは別れた。

 続いてディアベルとキバオウがやってきた。

 

「やぁ、キリト君。楽しんでるかい?」

「そこそこ。やっぱり多少はしゃぐのも良いかも知れない」

「なんや、最近疲れとるようやから様子を見に来たんやけど、元気そうやないか」

「お蔭様でな」

 

 そう言って少し笑う。キバオウとは完全に仲良しとまではいかないが、今回のSAOではリーダー格の一人としてよく意見交換や情報交換をしているのでそこそこの関係を築けている。仲間思いなキバオウはとても仲間から信頼されているらしく、ディアベルも右腕に置く程だ。

 そのまま二、三言話し、俺は移動した。リンドは俺を避けているので、今度はヒースクリフに出会う。

 

「キリト君か。こうして話すのも、少し久しぶりかな?」

「そうだな。最近、俺は最前線にあまり出ないし、ボス攻略にはずっと出てないからな。いい加減に戻らないと勘が鈍りそうだよ」

「そうかね。まぁ、そろそろ戻った方が良いとも思う、あともう少しでスリークォーターだからきっと強いボスが居るだろう。私からディアベル君に進言しておこう……ところで、この後に、重大な話があるとメールをくれたね?」

 

 ヒースクリフが突然、声を小さくして話し始めた。メールは全ギルド長に回しており、内容はまだ明かしていない。とても大切な話だからだ。

 

「ああ、それはまだ話せない。ただ攻略に関して避けて通れない案件だ」

「ふむ……わかった、心の準備をしておこう」

 

 そう言ってヒースクリフは別の場所へ行った。

 その後、俺はギルドメンバーやアルゴと様々な話をした。主に俺とユウキのタッグ攻略や師弟関係の話だが。それをカタナが取材に来ていたので、相当娯楽に飢えているのだなと思った。

 ケイタ達やグリセルダ達とも話した。彼らも最前線で戦うことも多くなっているので心配になっているのだが、杞憂に終わっているようだ。このまま生きていて欲しい。

 そのまま時間は流れ、料理も減って宴もたけなわとなってきた頃にギルド長だけを集める。俺から話があると通達されているので、それに困惑は無いようだ。

 

「皆、集まってくれてありがとう。このパーティーを開いた理由、それは七十層到達を果たしたからだけじゃない。ここに全ギルド長を、安全にかつ確実に集めたかったからなんだ」

「キリト君、それはどういう事かな? まるで普段だと我々に危険があると言っているように聞こえるが」

「そりゃそうだ。ここにいる全員、攻略ギルドの頭であり、名の知れたプレイヤー。一人でも欠ければ士気は下がり、総崩れとなる…………俺がここで話すことは、最近活発になっているギルド《笑う棺桶》についてだ」

「「「「「ッ……!」」」」」

 

 全員が息を呑んだ。俺だって緊張している。ユウキがいないので、過去の俺に引き摺られそうになるのだ、ここで殺しを推奨するわけにはいかない。

 

「既に攻略組にも被害は出ている。このままで続けては士気が下がり、攻略速度も落ちるだろう。このままのペースなら二年が経つ頃にはもうクリアとなるけど……」

「しかしその者達が黙っているわけが無い、と……?」

 

 ヒースクリフの問いに、俺は静かに頷く。

 

「その通りだ。実際、俺も奴らと接触している」

「えっ?! キリト君、よく無事だったね?!」

「ユウキがいたし、なんとかなったんだけど……その時、首領のPoHが言ってたんだ。『殺しはSAOプレイヤーに与えられた特権であり、実際に殺すのはナーヴギアと茅場晶彦。だったらゲームらしく、殺しを楽しもうじゃねぇか。ゲームクリアなんぞされても有難迷惑なんだよ』って」

「なるほどな、そら絶対に妨害してくるわ。しかも最悪な方法で」

「ンなことさせてたまるかよ!」

 

 キバオウがしかめっ面で言い、クラインも同調する。

 

「それで、キリト君はどうしたいのかね?」

「……俺は、《笑う棺桶》を潰すべきだと考えてる。だからそのために、この場を設けた。まずはギルド長にだけ話して、情報が漏れないように……」

「ふむ……それは監獄に送ることが最優先なのかね?」

「ああ。とは言え、相手は殺しに躊躇いを持ち合わせていない連中だ。最悪、殺す事になるかもしれない。クリアした後も考えると、監獄に送った連中に関しては頭が痛くなるけどな……」

 

 ヒースクリフの質問に、俺も答えていく。だが本当に頭が痛くなる話だ。

 

「で、まずは聞きたい。皆はこの掃討戦に参加するか? 《十六夜騎士団》は…………いや、最悪俺だけでもするつもりだ。これ以上攻略を遅らせる訳にはいかない」

「《アインクラッド解放軍》の方は参加するよ。けど本隊じゃなくて、後方支援の方でね」

 

 ディアベルが答える。ちなみにシンカーは来ているが、ディアベルの配慮によってパーティーの方で楽しんでいる。

 彼は普段、ディアベルよりも仕事をこなしているし、そもそも彼の場合は戦う畑が違う。彼の代理のようなものとしてキバオウが来ているので別に構わないし。

 

「《風林火山》も参加だ、協力は惜しまねぇぜ」

「《聖竜連合》も同じくだ。仇は取る」

 

 クラインとリンドもやる気を見せている。少々リンドが危なっかしいが、それは周りが止めれば良いだろう。

 

「《血盟騎士団》も参加させよう。ただ、私は攻略のためにマッピングを続けようと思う、掃討戦だけにかまけるわけにもいかないのでな」

「そう言うと思ってたよ、ならヒースクリフは引き続きマッピングをお願いする。それで、ケイタやグリセルダはどうする? 強制はしない。命の危険が今回は大きすぎる」

「……悪いけど、黒猫団は参加しないでおくよ。まともに立ち向かえるとは思えない」

「こっちもよ。ちょっと怖がりな子もいるし、お言葉に甘えて参加は遠慮するわ……ごめんなさいね」

「いや、構わない。なら《月夜の黒猫団》と《黄金林檎》はヒースクリフと一緒に攻略を進めてくれ。ヒースクリフ、頼めるか?」

「なるほど、彼らとの協力でPKを阻止するのか……了解した」

 

 ケイタとグリセルダも辞退したが、それで良いとも思う。彼らは殺し合いを知らなくて良い。自ら危険に入る必要は無いのだ。

 

「じゃあ参加は《十六夜騎士団》、《血盟騎士団》、《聖竜連合》、《風林火山》、《アインクラッド解放軍》の五つが主だな。この作戦の詳細は随時、各自へメールを送る。決して他者に漏らさないようにしてくれ」

「それは良いけど、キリト君、アジトの場所は分かっているのかい?」

 

 ディアベルがそう問うてきた。《笑う棺桶》は他のオレンジギルドと違って巧妙にアジトを隠しているので見つけ辛い、現に今も目撃情報は無い。

 だが、蛇の道は蛇とも言う。情報収集ならば手馴れているメンバーがこちらに居るのだから。

 

「その辺の抜かりは無いよ。アルゴとカタナ、そして俺の三人で場所の特定をしてるとこだから」

「…………ユウキやユイちゃん達が知ったら怒りそうだな、キリの字よ」

「もう怒られてるよ、本気で泣かれもした。けど、納得してもらった上で、俺もやってる」

「お前ぇも懲りねぇ奴だなぁ……」

 

 クラインの苦笑に、俺も苦笑で返す。

 実際、本当に怒られた。ユイ達にも怒られた。何度も繰り返してしまうが、理由を話せば怒りを収めてくれた。泣かれてしまった。

 これで話すことも終わったので解散、深夜を過ぎても宴は続くことになった。

 

 ***

 

 会議兼パーティーから三日後。ラフィン・コフィンの根城と判明した第十層のダンジョンの前に、キリトをリーダーとした【ラフィン・コフィン掃討レイド】が集まっていた。

 構成は《十六夜騎士団》が第一~第二レイド。《血盟騎士団》は第三レイド。《聖竜連合》は第四レイド。《風林火山》と《アインクラッド解放軍》で第五~第八レイドとなっていた。つまり四十八人×八レイドなので、戦闘参加人数は合計で三八四人となる。

 加えて後方支援組もいるので、実際はもっと居る。

 

「標的は《笑う棺桶》、メンバー人数は五十三人。首領は黒いポンチョに中華包丁のようなダガーを使う男PoH。ヤツの右腕と左腕として、毒ナイフ使いのジョニー・ブラック、エストック使いの赤眼のザザがいる。この三人以外は、ハッキリ言って、能力的には雑魚だ」

 

 キリトの最終確認を聞いている者達は、何時に無く辛辣なことを言う彼に驚いた表情を向けた。

 

「ただし、麻痺毒は全員使えると思って良い。だから耐毒POTは絶対に切らすな。捕まえたら目を絶対に離さず、身動きが取れないように拘束する事。また、無力化しても決してそれで油断しないように。その油断が命取り、この作戦とレイドの瓦解する要因になる事を覚えておいてくれ」

 

 続けて放たれた言葉に、全員の気が引き締まる。歴戦の兵であるユウキ達でさえ緊張しているのだから、それも当然だ。

 ただし、気を引き締めた者と緊張したユウキ達が抱いている不安は、まるっきり違うものだ。

 

「……相手は好んで殺人をする奴らだ。今までのオレンジプレイヤーのような奴らとは、訳が違う。最悪、殺す必要があるかもしれない。もしそうなって、殺すのが怖いのなら……俺が、全ての責任を取る」

 

 キリトの言葉に、その可能性を考えていなかった、先ほど気を引き締めた者達は呆然となる。そして同時に、驚愕した。最年少であるキリトが人を殺すかもしれない事に、まったく恐れを抱いていないのだから。

 

「……恐れを抱いた者は、責めはしない、今からでもレイドから外れも構わない。ここから先は、血で血を洗う死地だ。覚悟が出来てない者はすぐに死ぬ。それでも行くと言うのなら……死ぬ覚悟を、死なない覚悟を……そして、人を殺す覚悟を決めるんだ」

 

 威圧を伴ったキリトの言葉に、全員が息を呑んで彼を見る。しかし誰もレイドを離れることは無かった。殺す覚悟はともかく、殺されるかもしれないことは考えていたのだ、それで逃げる訳も無かった。

 それを見たキリトは小さく頷くと、表情を真剣なままにしてダンジョンへ入る。黒と翠の二刀を抜いて、油断無く進む。

 予定では第一~第三レイドが中に入り、それ以外のレイドメンバーは外で待機。十分ごとに二パーティーずつ投入という手筈になっている。これは後ろからの挟み撃ちをさせない為の作戦だ。全員が高性能の耐毒POTを使用しているため、余程でないと麻痺にはならない。この大人数では混戦となるとまずいが、基本的に幹部級はキリトが相手をするので、そこまで問題ではなくなっている。拘束するにはこれくらいの人数が最適なのだ。というか過剰なのが丁度いいくらいに警戒しておくべきなのである。

 《笑う棺桶》がアジトとしている安全地帯まで来たが、プレイヤーの気配も姿も無い。

 それにレイドは混乱するも、キリトは冷静に対処した。

 一瞬で跳躍し、壁を蹴って走って最後尾へ。そして一番後ろの血盟騎士団プレイヤーを殺そうとしているオレンジカーソルのラフコフメンバーに斬り掛かった。

 よもやキリトが壁走りで対処するとは考えていなかったラフコフは動揺し、そのせいで対応が遅れる。そのメンバーに向かって二刀を構えつつ、キリトは口を開いた。

 

「殺人ギルド《笑う棺桶》、潰しに来た。出来れば監獄に大人しく入って欲しいんだが……」

「OH……まさか黒の剣士様が直々に掛かって来るたぁな……」

 

 そのキリトの前に、中華包丁のような肉厚のダガー【友斬包丁(メイトチョッパー)】を右手に持って構える男が来た。首領PoHである。その横には事前情報と同じ、ジョニー・ブラックと赤眼のザザも控えていた。

 

「ハッ! 人も殺せねぇガキに従うかよ! 誰が監獄に行くか!」

「お前は、許さない、邪魔……殺す、死ね」

「オイオイ、血気盛んなこと良いが、気をつけろよお前ら……アイツは、俺達と同じ目をしてやがるぜ」

「「ッ?!」」

 

 PoHの言葉に驚愕しつつキリトを見て、その美少女と見紛う少年から発せられる、抑えられた殺気に気付く。そして一瞬、寒気が走った。

 

「……答えはNO、と見て良いのか?」

「ああ。まだ殺し足りねぇんでな……だから、イイ声で啼いてくれよぉ!!! 黒の剣士ィィィイイイイイイイッ!!!」

「断るッ!!!」

 

 PoHの奇声とキリト怒号に感化され、凄惨な戦いが始まった。

 PoHのダガーを弾き、それに逆らわずにPoHは後退。それをキリトが追い、彼の邪魔をするラフコフメンバーをレイドメンバーが抑えていく。ジョニーはフィリアとアスナが、ザザはユウキが相手をすることになった。他の大部分も、イチゴやナツ達が相手をしていく。

 PoHとキリトの斬り合いは、出口に向けて走りながらも続いていた。

 

「HA! やっぱお前ぇは最高だぜ! こんなに殺し合いが楽しいのは初めてだ!」

「なら、とっとと終わらせてやるよ!」

 

 そう言い合いながら死闘を繰り広げていく。

 

 *

 

 掃討作戦開始より三十分。既に殆どのラフコフメンバーを無力化して拘束。残るは首領のPoH一人。

 ユウキ達は回廊結晶で五十二人を監獄へと送り、誰一人欠員のないレイド全員でキリトを探す。来た道を戻り、分かれ道となっていたもう一本の道へと進む。

 数分歩くと、断続的に続く金属音が響いてきた。それをキャッチしたユウキ達は急いで向かう。行き着いた先はダンジョンの最奥。ステンドガラスや神像があり、教会のような風情の広間。そのエントランスにあたる中央で、HPを減らしつつ戦う二人の姿があった。

 レイドメンバーが来た事に気付いた二人は、一旦距離を取って互いを見据える。

 

「年貢の納め時だ、PoH」

「……どうやらそうみてぇだな……けどな、俺は屈さねぇ。最後は死地で、人間の手で死ぬつもりだ。絶対に監獄には行かねぇし、ここで逃げ切ればまた殺しを始めるぜ」

「…………どうあっても、相容れないようだな……」

「ああ、だから……殺すつもりで……お前ぇの全力で来いよ」

 

 PoHの言葉を聞いて、キリトは諦めの溜息を吐く。そして二刀を構えた。ただし、それまでの構えと違い、PoHを殺すつもりだ。ユウキ達が来れば考えを変えるかと思っていたがそれは叶わず、逃げれば人を殺し続けると言ったのだ。

 ならば、自分が汚名を被ってでも殺そうと決めた。既に宣言した手前もあるから撤回などするつもりも無かった。

 

「……行くぜ……」

「……来い……!」

 

 短く言葉を交わし、それぞれが最強のソードスキルを放つ。

 《暗黒剣》最上位二十七連撃《メイト・チョッパー》。それに対してキリトが放ったのは《二刀流》最上位二十七連撃の《ジ・イクリプス》。片や宇宙空間の闇の如き暗闇を纏った肉厚のダガーで斬り掛かり、片や太陽のコロナの如き輝きを迸らせて二剣を乱舞した。

 PoHもユニークスキルを所持していたのだ。そして連撃数も全く同じ。全スキル中最多の連撃数を誇る二つの技が、ぶつかった。

 

「「オオオォォォオオォォォオオオオオオオオッ!!!!!!」」

 

 二人の咆哮、剣劇がぶつかり、光と闇が乱舞した。薄暗い部屋を白と黒に連続して染め上げながら互いの攻撃は命を奪おうと鋭く眼前の敵へと放たれ続けた。

 最終的に勝ったのは、キリト。PoHの短剣を折って、同名の最上位スキルも破っての勝利。トドメの一撃として、黒剣による重突進技《ヴォーパル・ストライク》がPoHを貫いた。PoHのHPは、当然ながら全損していた。

 

「これで、終わりだ」

「……お前ぇも、人殺しだ。俺達と同類だぜ……」

 

 PoHがそう言い、レイドは割り込まなかったことを後悔した。最年少の彼に、殺人の重荷を背負わせたのだから。もっとやりようはあった筈なのだから。

 

「そうだな……先に……地獄で、待ってろ……」

「ハッ……ガキのくせに、異常だぜ……お前ぇ…………あばよ……」

 

 その言葉を最後に、PoHは蒼い欠片に変貌し、空気に溶けて消えた。これでラフコフは壊滅したことになる。首領を除いた全メンバーを監獄送りに出来たのは、キリトの綿密な作戦が功を奏したからだ。

 しかし当のキリトは俯いていて、レイドメンバーは何を言っていいか分からなくなっている。その彼に、ユウキが近づいた。

 

「……キリトさん……」

「……皆、ご苦労様。帰ってゆっくり休んで……明日からまた、攻略を再開しよう……各々、解散してくれて構わない……」

 

 薄く微笑みを浮かべながらキリトは言い、その彼にユウキは心配げな表情を深いものにする。明らかに無理をしているからだ。今までと違い、彼は人殺しを極力避けてきた。リアルに戻った今後も考えての行動だが、それでも罪悪感は消えず、人を殺したという罪も消えない。

 だからユウキは、言葉で語らず、寄り添うことで支えることにした。

 そのユウキの優しさを噛み締めつつ、キリトは家路に就いたのだった……

 

 





 はい、如何でしたでしょうか?

 原作のキリトはこの掃討戦にて二人殺めており、《笑う棺桶》全体としては二十一人の死者が出ました。元の人数は三十数人でしたね、確か。

 本作では五十三人、死者はPoH一人となります。本文にある通りPoH以外のプレイヤーは全員監獄行きです。数は力、そしてリーダーが殺す事も厭わないでいると士気に影響しますよね、やっぱり。

 ほぼキリトとPoHの戦いしか描写してませんが、わざとです。原作はもっと緊張感がありましたが……三人称で語っていた程度ですし、私にはこれが限界でした。


 さて、今回は短いですが、ここで次回予告です。


 SAOでも上位に入る脅威を排したキリト、しかし人を殺めた事がきっかけで本著死を出せないまま攻略をしていく事になっていた。

 自分でもダメだと思っているもののどうしても心の傷に打克つことが出来ないでいるその時、キリトはユウキの死を幻視する瞬間に遭遇した。

 傷を押しのけ、キリトは全力で剣を振るい、その幻視は排される。

 しかし、それはもう一つの戦いを呼び寄せてもいた……


 次話。第九章 ~蒼と紅の殺意~


 次回は本日正午に投稿予定です。


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