ソードアート・オンライン ~闇と光の交叉~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちは、黒ヶ谷・ユーリ・メリディエスです。

 今話はタイトルから分かる通り、ハーフクォーターボスとの戦闘です。

 初回SAOではユニークスキルホルダーであるキリトとヒースクリフが、崩壊した戦線を一時間二人で保ちましたね。あの後にヒースクリフとのバトル回でした。

 今回もやはり初回SAOと違う展開にしています。ほぼバトル回ですが、文字数的にちょっと少なめです。

 ではどうぞ




第六章 ~第五十層ボス攻略~

第六章 ~第五十層ボス攻略~

 

 キリトは今、第五十層迷宮区二十階にある、ボス部屋前の安全地帯で休息を取っていた。彼だけでなく、《十六夜騎士団》や《血盟騎士団》など、主だった攻略ギルドのメンバーが大勢いる。ざっと百人は下らないほどの大人数だ。

 ボス部屋の前でこれほどの大人数が屯している理由は基本的に二つ考えられる。一つはボスの情報を得る為の偵察戦をする隊、そしてもう一つがボスを討伐する隊だ。ちなみに今回の場合はボス討伐レイドである。第一レイド、第二レイドと分かれており、レイド参加の九十六人以外は、殆ど後方支援部隊となる。武具の損耗回復担当の生産職やアイテム補充担当の調薬師などだ。

 その中には、控えの戦力、およびボス戦見学として《月夜の黒猫団》と《黄金林檎》の姿もある。彼らは、キリトとユウキが頼み込んで連れて来たのだ。もう少ししたら共にボスと戦うから、そのために雰囲気だけでも味わってもらいたいと言い、それをヒースクリフとディアベルが了承した。キリトの頼みごと自体が珍しいこともあったが、純粋に戦力が増えることも嬉しかったためでもある。よって今、彼らは、自身が戦うわけでもないのに緊張で固まっている。そしてキリトを見て、最年少なのに胆力があると思い、内心で凹んでもいる。しかしそれが意識を大きくする為の燃料ともなるので、一概に悪いと言えるものでもなかった。

 第一レイド、第二レイドと二つのレイドを用意する事は普通無い。何故なら、ボス部屋に入れるのは一レイドまで、つまり八人パーティーが六つの四十八人までだからである。それ以上はシステム的に不干渉領域になってしまうのだ。勿論、一人抜ければ一人入れるので、今回はそれを利用して入れ替える作戦を用意していた。

 今回のボスは《ザ・サウザンドアームズ・オブ・スタチュー》という、前回、前々回とも違うボス名だった。ボスそのものは同じだったが。特性も同じで、これまでのボスの中でも最多の多腕を活かしたソードスキルは、途中で剣を折るなどして止めなければ延々と続くものだったり、腕一本一本が個々に独立していてスキルディレイが当て嵌まらなかったりなど、今までの戦法では戦えないボスだった。ここで長期戦、あるいは即座の消耗戦を想定してレイドをもう一つ作ったのである、一つでは前衛の入れ替えが間に合わない可能性もあったからだ。

 そして今回の要となっているのはキリトとユウキ、そしてヒースクリフである。

 前回同様、二人にユニークスキルが発現したのだ。キリトは《二刀流》、ヒースクリフはやはり《神聖剣》。

 実は、《二刀流》の発言はヒースクリフからすれば早すぎるとしか言えない。数週間前に解禁したとはいえ、既に発現していたのは予想外だったのだ。しかも完全に使いこなしてすらいる。

 しかし、それもまた面白いと思う。リアルでの彼を少し知っているが、彼はどこか自分と似ている部分があった。少なくとも、この世界の適応率という点では自分と同等か、それ以上。つまり、自身と同じ土俵に立てる存在とも言える。それが嬉しいのだ。彼ならば、自身の正体を見抜いてもおかしくはないのだから。

 ヒースクリフはそう考えつつ、自身の装備のチェックを繰り返し行う。基本的にフェアプレイを貫いているので、管理者権限によるズルはある一点を除いてしていない。装備やアイテムも全て自前、レベリングだって自力だ。つまりヒースクリフが攻略組でも最高ランクのタンクと評価されているのは、他のプレイヤーより情報や仮想世界に通じているアドバンテージを含めても実力という訳である。

 キリトとユウキは装備の最終チェックをしているヒースクリフを視界に収めつつ、この後どうするかを話し合っていた。無論、ヒースクリフを茅場晶彦と暴露するかである。幾つか話していった結果、今回はまだ暴露しない事に決めた。

 理由は、【不死属性】表示の有無と、それが出る判定が分からないからだ。もし出なかったら、それだけで攻略組にはいられず、ギルドに所属する全員に迷惑を掛ける事になる。それに今回のSAOでヒースクリフは大して目立っていない、だから現時点で暴露すると問答無用で消されるか、あるいはそのまま第百層に行ってしまうかのどちらかが考えられたのだ。前々回は運が良かったのかも知れないと二人は考えていた。少なくとも今回ほどキリトとユウキの二人は目立っておらず、その分ヒースクリフが目立っていたからだ。今回は彼の役回りを幾らか奪っているので判断付かなかった。

 だから、いずれ来るであろう、デュエルを待つのだ。《初撃決着》か《半減決着》かでHPを半分まで削る。もしくはその手前まで追い込み、ヒースクリフにシステムのオーバーアシストを使わせる。それを暴露のカードとするのだ。そうすれば不自然では無いし、現時点でデュエルする話は上がっていないからまだ先の話になる。

 無論、それまでに出る死者は多くなるだろうが、それを犠牲にしつつその選択をした。勿論二人はその選択を取りたくなかったが、現在はキリトとユウキ、《十六夜騎士団》の活躍もあって死者は一千人に達するくらいだ。それくらい亡くなったという訳であるが、二回もSAOを経験している二人にとってはかなり少なかった。この調子で少なくしていければと願いつつ、活動を続けるつもりである。

 

「……時間だ」

 

 暫くしてヒースクリフが口を開いた、いよいよ第二クォーターボスと戦う時が来たのだ。それを感じ取り、全てのプレイヤーが息を呑む。

 交叉するように描かれている蛇のレリーフ。それが禍々しく照らされている大扉の前に立つのはニ人。《黒の剣士》キリトと、《聖騎士》ヒースクリフ。今回のボス攻略の要であり、絶対に失われてはならない二人が戦陣を切るのである。勿論士気向上のためで、更に言えば攻略組二大ギルドのトップだからである。

 扉の前に立った二人は振り返った。冷徹とも無機質とも取れる、真鍮色の瞳を持つヒースクリフが言葉を発した。

 

「諸君、今回のボスは第二クォーター……想像を絶する戦いになるだろう。死に臆し、逃げるのも構わない。ただ忘れないでほしい。我等の戦いに希望を見出す者達がいるという事を。故に、勇気あるものは戦おう――――解放の日の為に!!!」

 

 ヒースクリフの言葉に呼応して、攻略組が鬨を上げる。それもしばらくして静まり、次はキリトの番となった。

 四十九層のボス戦は参加しておらず、第二層から第四十八層までユーリが戦っていたので、その間に参入した者達は、キリトを見て見下していた。どうして子供が? ユーリはどうした? と内心首を傾げている。

 瞳の色と髪の色が違うだけだ。そもそも《ユーリ》というのは正式なプレイヤーネームでは無く、パーティーを組んだプレイヤーの視界端に見える名前は《Kirito》のまま。そして元を正せばこの姿の方が正式である。

 だが容姿というのはかなり人の意識に影響を与えるもので、最初から知っている者からすれば信頼が出来ない子供にしか映らない。だから首を傾げ、更に不信感を露わにした。たとえレクチャーしてくれた片割れと言えど今まで居なかったのだから仕方のない反応だった。

 しかし、それもキリトの目を見るまでだった。キリトの目は、覚悟を……まだ子供と言える年の子が出来る筈の無い覚悟を宿していた。その力強い瞳は色こそ違えどユーリと同一だった。それを理解し、疑念を抱いていた者達は思考を凍らせる。

キリトはそんな彼らを見て、一度頭を下げてから口を開いた。

 

「改めて、《十六夜騎士団》団長のキリトだ。俺を知らない者は、『ユーリはどうした?』と思っているだろう。俺は、二重人格者。死にたくない、その思い俺は今まで皆が見てきた《ユーリ》という一人の人間の人格を作り出した……らしい」

 

 その言葉に、ざわめきが起こる。理由を知っている者は何故今話すのかが理解できないでいる。

 しかしヒースクリフ他、彼を知る者は止めないでいる。ユウキも、先を予想しているからか静かに微笑みながら待つだけだった。

 

「俺が死ねば、悲しむ人がいる。それは俺だけじゃない、現実に家族や友人を残してきた誰もが同じだ、今まで一緒に戦ってきた皆がそうだ。それを理解しているからこそ、そんな思い、もう誰にもして欲しくはない。だから俺は……いや、俺達は《十六夜騎士団》を興した。そして《十六夜騎士団》には、二つの絶対の掟がある。ギルドを違えている人も知っているかもしれないが、俺がこれを言うのは初めてだから、言わせて欲しい。俺がボスに挑むにあたっていう事は、その二つだ……」

 

 キリトは一度間を空け、目を瞑ってそれを言った。

 

「――『全は一、一は全。義を以て事を成せ、不義には罰を』」

 

 再び間を空け、今度は目を開けて続ける。

 

「――『誰一人、絶対に死なない事』」

 

 口を閉じたことで、周囲は静寂に包まれた。キリトの放つ威圧感、放った言葉の重みが、自然とそうさせた。

 

「無理に戦えとは言わない。ただ、一人じゃなくて、皆と戦っている事を忘れないでくれ。そして、諦めないでくれ、生きる事を……生きたいという意思は、何よりも……何よりも、強いんだ」

 

 皆で戦っていることを忘れるのも、生きるのを諦める事も不義だと言っている。それが、キリトが伝えたかった事だと理解し、彼を知らなかった者達は思い知った。自分達が敵う相手じゃないと。正真正銘、最強の剣士なのだと。

 それを見て満足げにヒースクリフは頷き、キリトは交叉させて背に吊ってある二刀――黒剣【ダークネスロード】と白剣【シャドウリーパー】に手を掛け、一気に抜き払う。滑らかに抜けることで、金属の擦れは一切なく、リィー……ンと鈴の音を立て、それすらも最強の剣士としての風格を醸し出していた。

 キリトとヒースクリフは同時に扉に手を当てて開け、中に入る。

 中にいるのは多腕型銅像ボス。

 手筈どおりに指示を出して行き、キリトはユウキとコンビで攻め、ヒースクリフは他のタンクと共に守備に回った。

 ボスの剣が振り下ろされ、キリトはそれをパリィ。その隙にユウキは反対方向へ移動して背中に《二刀流》中位ソードスキル《ブレイヴ・イグゼグション》十二連撃を放つ。二刀で八回の突き、右で袈裟、左で逆袈裟、左で逆風、そして回転して二刀による右薙ぎと力任せに剣を振るい、それによってボスは怯んだ。

 キリトはユウキが放った十二連撃で怯んだボスに、駄目押しとばかりに《スターバースト・ストリーム》十六連撃を放ってディレイを続けて引き起こした。その間にスキルディレイから回復したユウキが、キリトのスキルの終わりに合わせて別のスキルを使う。

 腕は独立していても本体が怯めばスキルを放てないらしく、それが延々と繰り返されることでボスのHPがドンドン減っていく。

 

『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』

「「ぐは……ッ?!」」

 

 しかし、それでも第二クォーターボス。残りHPが一本になったところで、キリトとユウキは吹っ飛ばされた。共にHPはフルから残り数ドットまで減少していた。

 

「なっ……?! ちょ、キリト君、ユウキ、大丈夫?!」

「いっつつ……あんまり、大丈夫じゃないな」

「うわ、一撃でHPが数ドット……ギリギリだったなぁ…………さて、ここまではなんとかしたし、これからは皆の出番だよ。ボクとキリトさんはしばらく下がるから」

 

 アスナにそう言って、二人は部屋の外へと剣の研ぎに戻る。HPバーを三段、しかも斬撃が効き難い硬いボス相手にスキルを連発したので、耐久値も限界まで減っていた。

 これは想定済みで、しかしそれを知ってもあえてこの作戦を取った。

 今までのボスと勝手が違うのもあるが、強力でノックバックを発生させる長時間発動型のソードスキルを、キリトとユウキの二人で交互に叩き込むことが有効な手段だと、偵察戦でも既に判明していたから。逆に言うと、これでないとHPをまともに減らせなかったからだ。苦肉の策として、ディアベル達も採用した。

 二人がユニークスキル持ちでなかったならば、あるいはスキルを使いこなしていなかったなら、最強と呼ばれていなかったなら、この作戦は採用されなかった。二人がそう信じられているからこそ、ディアベルの他、最初期の頃から二人の強さを知っている攻略組も納得したのだ。

 それでも二人のHPが揃って数ドットまで減った事は予想外であり、タンク部隊は恐れを抱いていた。いくら防御を捨てがちのダメージディーラーといえど、HPフルの状態から一瞬で数ドットまで減るのは、圧倒的にレベルが高い二人がなったからこそ恐怖を覚えた。

 しかし、《ジャストブロッキング》という《神聖剣》固有のパッシブスキルによって、相手の攻撃を盾中央部分で受け止めて完全にダメージを消しているヒースクリフを中心に、攻略組は立ち向かった。殆どの攻撃は、時折《咆哮》という基本的なシステム外スキルを多用しているヒースクリフに集中しているため、他のプレイヤーは防御を殆ど考えずに攻撃を優先する。

 五分が経ったとき、やっとキリトとユウキが戦線復帰した。今回の指揮は、ボスに対して刺突がほぼ使えないアスナが持っており、二人は彼女の指揮の下に動く。すなわち、ダメージディーラーの援護および救援である。

 残りHPが三割になっている部隊、クラインとエギル率いる《風林火山》と斧部隊の下に行き、ボスの乱舞にキリトが割り込んだ。パリィで全ての斬撃を的確に弾き、すかさずユウキが追撃を入れる。

 

「クライン、エギル、下がってろ!」

「すまねぇキリト!」

「ユウキ、スマンが頼む!」

「分かったから、エギルは下がってて! それと、アタッカーの皆も離れて!」

 

 ユウキの指示に首を傾げつつ、攻撃を行っていたアタッカーの者達はこれ幸いと後退した。五分とはいえ、ボスの攻撃を避けて防いで攻撃するなんて、精神力が持たなかったのだ。

 その指示に従わなかったヒースクリフは、未だにHPをグリーンに保ちつつ、《ジャストブロッキング》で攻撃を防いでいる。彼の行動は好ましく取られないが、キリトとユウキにとっては好都合。絶対に倒れないディフェンダーなのだから、都合の良いように使おうと思っているのだ。

 二人は目を合わせ、ボスの左右に分かれた。

 その時点で、ヒースクリフも防御を止めて後ろに下がる。二人の挟み撃ちは、誰かがいても邪魔にしかならないからだ。ボスの偵察戦でも知っていたが、二人だけいても問題は無いと分かっている。

 左右に分かれ、ヒースクリフが戦線から離れたことで、ヒースクリフに入っていたヘイトはリセットされる。左右に分かれた二人の内、どちらを攻撃するか迷う素振りを見せた為、それが隙となった。

 二人はもう目を合わせもせず、しかし綺麗に息が合った連撃を開始した。

 通常攻撃しか放っていないが、攻撃速度はもはやソードスキルすら超えており、剣のブレすら目視が難しいほど。ユウキもいつの間にか黒と白の二刀流になっており、二人はそれぞれの二刀で猛攻を仕掛け続ける。

 ボスのHPはソードスキルではないため減り具合も最初ほど多くは無いが、それでも確実に減って行っている。本当に通常攻撃かと思うくらい、二人の攻撃は早く鋭い。

 二人のレベルがこの時点で200台というのもあるが、原因は攻撃速度と武器の性能だろう。ダメージ算出において、この二つはかなり重要な要素なのだから。

 武器の性能においては劣る細剣も、アスナのようなスピードタイプなら攻撃方法と速度によっては威力を高く出せる。それは短剣にも言え、短剣の場合は性能と速度はそうでなくとも、攻撃を弱点部位に当てることで高威力を叩き出せる仕様になっている。他の武器でも似た仕様だが、短剣は特にその仕様が強化されているのだ。

 片手剣はオーソドックスなのが売りなのでそこまで突出した要素を持っていないが、二人の能力、攻撃速度、そして現時点でも最強に位置するであろう二刀を使っている。しかも超高速の連撃を同時に挟み撃ちで放っているため、微々としたダメージも高速で入っていってHPをガリガリ削る。

 ボスが攻撃してくれば左右のどちらかに避け、もう片方は避けた方向と同じ方向に同じだけ動く。時計回り、反時計回りを同時に行っていくので、挟み撃ちのままだ。

 真正面から大ダメージを叩き出すキリトと、彼にタゲが入り続けている為に大ダメージが叩き出せるバックアタックを続けられるユウキ。ターゲットが変わっても同じ戦法を取れるのだから、ある意味極悪とも言える。

 とても息が合っていないと不可能と言えるが、キリトとユウキは言葉に表せない一体感を得ていた。目も言葉も交わさず、しかし相手の動きや意思を汲み取れるまでに至っている一体感は、前回、前々回でも味わっている。

 故に、この一体感を二人は最上位システム外スキル《接続》と呼んでいた。ことボス戦において、これの有用性は現在の戦いぶりを見て明らかだ。

 この《接続》はヒースクリフも全く想定していないものであり、そして知らないことだ。初めは高難度の戦闘で集中することに限られていたが、現在では自由自在に扱える。

 キリトとユウキはこの現象を《心意》によってデータコードを上書きするオーバーライド現象を、互いを支えるという強い想いが起こしているものではないかと推測しており、事実それは検証されていた。他の皆とは出来ない為、もしかしたら師弟や結婚というシステム的な繋がりを得ているからこそ、上書きによる《接続》も可能になっているのではとも考えている。

 理屈はともかく、その現象が今の二人の戦いを構成しており、動きも一体化していた。呼吸もほぼ同時、攻撃速度はおろか剣の振りさえも同じであり、最高のパートナーとして動けている。

 それをレイドメンバーは離れて見ており、ヒースクリフといえど驚愕の眼差しを向けるのも仕方が無いと言える。キリトを初めから知る者として付き合いの長いクラインも、リアルを知るアスナ達も唖然と見続けていて援護の事は一切頭に無い。

 いや、あったとしても二人の邪魔にしかならないので、呆然となっていただろう。

 HPがドンドン減って行き、いよいよ残り数ドットとなった。

 その時、ユウキはボスの背中側から離れて距離を取り、キリトを取り残す形となる。

 皆は動揺するも、キリトは《接続》によってそれを知っており、当然ながらユウキがその行動を取った訳も知っている。五十層LAボーナスであるエリュシデータをキリトが取るためにわざとキリトだけ残したのだ。

 

(キリトさん! 最後、カッコ良く決めちゃって!)

(任せろ!)

 

「トドメッ! スターバースト……ストリームッ!!!」

 

 蒼と紅の輝きを二刀に宿し、防御の一切を捨てた攻撃を繰り出す。無意識に《心意》によって強化した斬撃は多大なエフェクト光と発生させ、本来ならしない筈のノックバックを発生させている。蒼の輝きに虹の輝きを宿しているのはそのためだ。

 蒼と紅を宿す双剣は徐々にその速さを上げていき、最後の一撃、二刀交差の斬り払いで終。ボスはその体躯を、蒼く煌く欠片へと四散させた。

 

「終わった、のか……?」

「マジか……ほぼ、あの二人で倒したようなもんじゃねぇか……」

「うっそぉ……」

(キリト君がバグキャラ過ぎる……)

 

 クライン、エギル、フィリア、ヒースクリフの順に感想が漏れる。

 ヒースクリフのみ内心で呟いただけだったが、第二クォーターボスはちょっとやそっとでは倒せない強さに設定していただけに、その驚愕も一塩だ。二人の事をある程度知っていたとは言えこれは無茶苦茶としかヒースクリフも思えなかった。

 この世界の創造主からそんな事を思われていると知らない二刀を振り抜いたキリトは暫くその姿勢を保っていたが、剣を下ろすと、突如として仰向けに倒れる。カランッという音を立てて二刀は床に落ち、完全に力が抜けているキリトは抵抗も無く重い音を立てて倒れた。

 

「き、キリト君?!」

「ちょっと?! 大丈夫なの?!」

 

 ユウキは無言で駆け寄り、アスナ達も急いで駆け寄る。

 キリトはユウキの肩を借りて立ち上がり、皆を見回した。

 

「キリトさん、大丈夫?」

「なんとか……でも、ちょっと疲れた……」

「ふむ……アクティベートは私達がしておこう。キリト君たちは先に帰ると良い」

「ヒースクリフ……悪い……」

 

 キリトが苦笑気味に礼を述べ、それに同じ苦笑をヒースクリフも浮かべる。彼らの浮かべる笑みに、苦笑以外の何かを感じた者もいたが、キリトを休ませる方が優先だと考え、そのあたりは誰も突っ込まない事になった。

 五十層到達パーティーは後日行う事になり、その日は解散となった。

 

 *

 

 後日、パーティーの席で《月夜の黒猫団》および《黄金林檎》の攻略組参入が決定された。レベルやプレイヤースキルは共に申し分なく、しかもSAO最強ギルドの団長と副団長夫婦推薦とあるなら、この上ない朗報だからだ。少数ギルドであるため、基本的には《十六夜騎士団》の同盟もあり、キリト達の下で戦う事になった。

 それには両ギルド共に不満は無く、むしろ強くなって生き残れるので是非ともなっていた。

 これによって、キリトは黒猫団壊滅を完全阻止出来たことになり、贖罪になったと安心できたのだった。

 

 





 はい、如何でしたでしょうか?

 今話は珍しく完全三人称視点でした。立場が真逆にあるヒースクリフとキリト達の思考を書くには丁度いいのですが、中々調整が難しいです。


 さて、今話で明確に《ユーリ》出現のキーワードが出ました。《心意》というものですね。これは《SAO》および《AW》でも出て来る単語で、今話文中にもどういうものか書かれております。

 端的に言えば、原作一巻の七十五層でのヒースクリフ戦で、剣に貫かれて全損したのにキリトが動けていたり、そもそも麻痺っている筈なのにアスナが動けたりしたアレです。明確に言われていませんが、アレらは《心意》、強い想いによって出来た事なんだと思っています。

 更に《接続》と書いてコネクトと呼ぶこれは、原作《スカルリーパー》戦のキリトとアスナの一体感を元に書いています。システム的な繋がりを有しているため、恐らくオーバーライド現象の対象となるだろうと思いまして……本作では更に師弟の繋がりもあるので、尚更強まっているんですね、目も合わせなくても言葉を交わす程の意思疎通が出来ている辺りがそうです。


 そしてヒースクリフの強化が入りました。さして重要では無いですが、盾の中央に攻撃が入ると、ノーダメでやり過ごせるというものです。

 原作アニメ見てると思いますが、幾ら何でも《スカル・リーパー》の鎌の一撃を防ぎ続けて微々たるダメージしか入らないとなると、これくらいでなければ多分説明付かないんですよね。《ジャストブロッキング》というアビリティがあると言えば、周囲を欺ける可能性もあります。

 今回のSAOで追加した設定です。最強のタンクとなればこれくらいあってもおかしくない、というか《神聖剣》スキルにありそうだと思い付き、書きました。


 さて、今話のバトルは如何でしたか? これまでに比べてまだ緊張感は出ていると思っているのですが、拙いですし楽しめなかった人もいるでしょう。

 書き直し含めて、これからも精進していきたいと思います。


 ではそろそろ、次回予告です。


 第五十層を予想以上の良い戦果で終えられた攻略組であったが、一つの問題点をディアベルが挙げ、ある事をキリトとユウキに提案する。

 それは、一時的に最前線から身を引くというものだった。


 次話。第七章 ~安息~


 次回は本日午後六時に更新予定です。


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