ソードアート・オンライン ~闇と光の交叉~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちわ、黒ヶ谷・ユーリ・メリディエスです。

 今話から平行世界SAOの開始です。前話のくっそ長い後書きの最後に書きました通り、テーマは《希望》です。なので前話までの暗い雰囲気はかなり軽減しています。

 さて、今話からとうとうタグにある《IS》要素が入ってきます。平行世界というのはつまりこういう事です。前までの世界にISの話が無かったのはわざとです。

 このISですが、原作の設定は割と変えています。

 まず、和人は現在六歳で小学一年生、木綿季は一つ年上ですので七歳で小学二年生として平行世界の自分達に憑依転生しました。時期は五月、入学したてなので憑依転生していてもあまりバレないでしょう。子供なので取り繕っていれば疑問に思われても誤魔化しがききます。

 一夏や箒といったIS一年生メンバーは和人と同い年です。つまり高校一年生としてIS学園に入る時に、ISは世に出て十年目という設定です。

 なので二人が憑依転生した時点から一年前の四月にISが発明されたという設定にしています。つまり《白騎士事件》も同時期です。でなければ十年というのが合いません。

 モンド・グロッソが三年置きですので、一夏が攫われるどうこうは小学六年生という時に起こります、二回目ですから六年目。高1から四年引けば小6です。

 ちなみに《憑依転生》ですので、憑依する前の二人の行動と記憶が混ざっています。今は多少しか出てませんが、今後ちょっとだけ関わってきます。覚えのない設定はそういう事なんだなという風に考えて下さい。それで大体合ってます。


 ではそろそろどうぞ。





Another:An Incanating Radius ~救世の調べ~
第一章 ~絶望に抗いし者達~


第一章 ~絶望に抗いし者達~

 

 

「おーい、和人? どうしたんだ?」

「…………へ?」

 

 俺の目の前に一人の少年がいた。その少し向こうには、黒髪を赤いリボンで人括りにした少女がいた。手にはそこまで長くない、年少用の竹刀袋。

 ソレを見て、俺はここがどこだか把握した。そして目の前の二人にも。

 少年は《織斑一夏》、少女は《篠ノ之箒》。前世で読んでいた【インフィニット・ストラトス】という小説の主人公とヒロインの一人。俺の記憶が正しければ、転生した俺の、桐ヶ谷和人としてのクラスメイトだ。SAOにしか気が行っていなかったから、途中から疎遠になっていたが。

 俺が思考を広げていると、それをぼーっとしているのと勘違いしたのか、二人が心配そうな表情になった。

 

「どうしたんだよ? めずらしいな、ボーっとしてるなんて」

「うむ。どこかちょうしが悪いのか? 保健室にいった方がいいのではないか?」

「…………いや、なんでもない。少し眠かったからぼーっとしただけだ」

 

 俺の言葉を嘘と思わず信じる二人。二人とは剣道仲間であるため、こうして話す機会が多かった。

 俺は二人と途中まで帰り、別れてしばらくしてから立ち止まる。

 

「どうして、死んだのにまた…………? それともこれは夢なのか……?」

 

 今の俺の体からして、大体小学校一年か。まぁさっき出た教室に『1‐1』というプレートがあったのだが。気温と時間、そして陽の高さから推測するに今は夏の初めだろう。つまり俺は、感覚的には八年半前、肉体的には七年前に戻ってきたというわけだ。

 その原因も察しは付いているが、どうしてか分からない。俺を死なせたくないからか苦しませたいのか…………龍神のあの性格の場合、単に気を使っただけのような気がしないでもない。

 とにかく、これから再び人生のやり直しをするという事に変わりは無い。前回の俺の生き方は後悔が多かった。ユウキをそれで苦しませもした。だから俺は、同じ轍を踏まないように心構えと準備をしておく必要がある。

 ユウキのエイズ関連があるため、俺がアメリカへ留学に行くのは確定事項だ。問題はSAO製作に関わるかという事だが…………それはもう少ししてから考えよう。

 家へ戻ると、先に帰っていたらしいスグ姉と母さんがいた。俺の帰りがいつもより遅めだから気にしていたらしく、俺が帰ると、スグ姉が突進して抱きしめてきた。母さんも少しホッとした表情をしている。

 

「和人、珍しく遅かったわね。何かあったの?」

「ん…………教室で友達と話してた」

 

 俺の答えに苦笑する母さんと唇を尖らせるスグ姉。この頃のスグ姉は俺にぞっこんで、俺がいつもと違う行動を取って離れると、すぐに機嫌を悪くしていたっけ…………

 それから俺は、数年ぶりの現実の家に帰還した。再び、異世界へ旅立つ事を胸に秘め。

 

 ***

 

「――――き。木綿季。起きなさい」

 

 なんだか懐かしい声に呼びかけられて、目を覚ます。

 眠っていたらしく、ショボショボする目をこすって声の主を見て、ボクは心からびっくりした。

 

「ね、姉ちゃん?!」

「な、なによ……起きて早々」

 

 あり得なかった。あの世界で死んだ筈なのに、どうして目の前に、現実に残った姉ちゃんがいるのか。

 いやそもそも、ここは…………

 周りを見ると、昔の家の内装があった。ボクと姉ちゃんは個室を貰っていて、ここはボクの部屋だった。現実にある、紺色と藍色の小物が多い、埼玉県川越市にある家。

 東京都保土ヶ谷区月見台の方は、エイズ関連で引っ越した先の家なのだ。元々の家はこちらであり、通う小学校も川越市にある一校だけ。

 …………え? 本当に、そうだったっけ……?

 

「ほら、いつまで寝ぼけてるの。晩ご飯がもうすぐで出来るから、ほら起きて」

「え? あ、うん…………」

 

 時刻を見ると、六時を少し過ぎたあたり。服装から見ると大体春あたりか夏に入る直前かな…………身長的に今のボクは、小学校一年くらいか。だとすると、また逆行したのかもしれない。

 またあの世界で戦わなければならないと思うと気が重くなるが、この時代に戻ってきたのなら、きっと彼がいる筈。なら、今の内に会っておくのもいいかもしれない。彼の性格的に、エイズ関連のことは避けないだろうし、彼が逆行していなかったとしても同じ行動を取るだろうから、ボクがエイズ患者のままになるということは無い筈。ここがボクの過去と同じなら、だけど。

 それなら、近いうちに彼に会いに行きたい。そう心に決めて、ボクは姉ちゃんの後を追った。

 

 ***

 

 和人が起きる時間は、前世と変わらず午前五時頃だ。前世で睡眠時間をいくら削ってもこの時間に目覚めるよう訓練を施されており、それはSAOに囚われても変わらなかった。一回目のアインクラッドにおいて、三週間の睡眠時間が一日に満たなくても動けたのは、その訓練のお陰と言っても良い。現実では支障が出ただろうが、仮想世界の肉体を動かすのは脳であり、そういう事に慣れていれば結構どうにかなるものなのだ。

 SAOの中もある意味戦場なため、情報収集が欠かせなかった。情報は生命線、すなわち情報が不足していては命取りであり、素早い行動はそれだけ恩恵をもたらす。

 例えば、クリスマスイベントのような、ユニークイベントの報酬がそれだ。和人は結局、それを使わなかったけど。

 そして早起きする事は、それだけ行動できる時間が長くなる事を意味した。夜間はモンスターが凶暴化し、視界も悪くなって危険だからだ。迷宮区やダンジョンならともかく、フィールドでそれは辛い。PKプレイヤーもいたのだから、そういう時間帯はまず出ない。

 よって早寝早起きが習慣となる。和人はそれもあり、基本は早起きなのだ。それでも五時起きは早すぎるのだが。

 和人は静かに素早く薄いシャツに着替え、家にある道場に向かう。この時期はまだ存命している祖父は、剣道に命を捧げている人物で、子供の直葉と和人にも剣道を習うよう言っている。門下生(?)として一夏と箒、一夏の姉の千冬と箒の姉の束もいる。

 ちなみにこの四人とも、【IS】の重要人物である。

 和人がどうしてこの朝早くから道場に行くのか。主な理由としては三つ。

 一つは単純に体力づくり。SAOに《キリト》として参加する以上、怨恨の類は避けられない。ならば少しでも体力をつけ、それに慣れておく必要がある。感覚を研ぎ澄ませると言う意味もあり、どちらかと言えばそちらの方が比重は高いかもしれない。

 二つ目は、和人の立場が起因している。前述通り、織斑・篠ノ之の四人は門下生的な立ち位置におり、これには直葉も入る。他にも十数人の小学生が生徒としている。

 しかし和人は門下生ではなく、師範代。しかも師範である祖父より強いのだ、この時点で。よって毎朝の稽古は一日でも絶やせない。

 最後は、誰にも見せられない特訓の為。それは、竹刀二本による、現実でのソードスキルの再現。つまるところ、二刀流の特訓なのだ。

 これにはもう一つの意味がある。

 和人は、前回、前々回のSAOで、ケイタ達を死なせている。その上、殆どの人殺しは二刀で行っており、和人にとって、二刀は嘆きの狩人《キリト》の象徴。つまり、人殺しの象徴なのだ。そのせいで、巡り巡ってユウキを死なせてしまった。

 それが前回のケイタの最期の言葉を思い出させて、二刀が振れなくなってしまっている。完全にトラウマ化しているのだ。つまり一番の理由は、二刀への忌避感を無くす為のリハビリなのだ。

 和人は胴着に着替えた後、軽い準備運動をしてから素振りを始める。これを一日に五百回。小さな体ではどうしても限界が来るのが早いので、五百回なのだ。朝に二百、夕方に三百。余裕があれば更に追加となる。

 二百回の素振りを二十分で済ませ、和人は本命である、二本目の竹刀に左手を掛ける。目を瞑って持ち上げ、左右に構える。

 直後、眉間に深いしわが刻まれ、体が小刻みに震える。両手はガクガクと震えており、汗が尋常でないほど流れ始めた。両足も同じ。

 その状態が数十秒続き、和人はそのまま二刀を振るいだす。

 斬撃に於ける基本の九つの型。唐竹、袈裟、逆袈裟、右薙ぎ、左薙ぎ、右斬り上げ、左斬り上げ、逆風、刺突。

 それらを順番に振るっていき、次第に速度を増して荒れ狂う剣劇に変わる。高速で振られる二刀は風を切る音を立てており、それも少しずつ鋭くなる。徐々にではあるが、《キリト》としての二刀流に近づいているのだ。このまま数年も訓練を厳しくして続ければ、ソードスキルと遜色ない剣技を放てるだろう。自力で斬撃を飛ばせるはずだ。

 それをしばらく続ける。丁度二分経ったとき、和人は振るのをやめ、二刀を床に置いた。そして仰向けに倒れる。

 

「ハァ……ハァ……ハァ…………ッ」

 

 苦しそうに喘ぎ、両手を胸の前で包んで体を丸める。脳裏には、自分を見ながら呪詛を吐いて飛び降りるケイタの姿と、自分を茫然自失の体で見つめるユウキ。

 そして自身とユウキが、現実世界のどこかで夥しい量の血を流し、抱き合っている姿。

 

「ッ!!!!!!」

 

 あまりにもリアル過ぎる映像が見え、無音の叫びを上げた。それは誰にも聞かれる事無く、ようやく明るくなってきた夜明けの光に溶けた。

 

 *

 

 和人はしばらく壁に寄りかかって休み、直葉が起きてくるのを待つ。祖父は夕方の師範担当であり、和人は朝の師範として直葉専用となる。

 午前六時半になって直葉が来て、胴着を着込んで準備運動、素振り百回を済ませ、七時前に和人と立ち会う。

 毎回竹刀を用意されていると思っており、和人が二刀に対してトラウマを持っているとは気付いていない。ただ、和人を除く桐ヶ谷家全員が、どこか大人びすぎていると感じてはいるが。曖昧にだが、しっかり精神状態を把握されている。

 

「それじゃ、いくよ」

「どこからでも」

 

 直葉に和人が応え、試合が始まった。

 直葉は素振りと同じ軌道の唐竹を繰り出し、和人はそれを余裕で受け止める。鍔迫り合いに入ったが、和人が竹刀を弾いて距離を取る。

 直葉は一瞬のことで対処できず、そこを和人に面を取られて終わった。試合時間は五秒。早すぎである。

 

「うう…………和人、つよすぎない?」

「だって俺、師範代だし」

 

 これでも手加減している、という和人の言葉をふくれっつらで聞きながら母屋から家に戻り、さっとシャワーで汗を流して朝食となる。

 二人が通う小学校は珍しい事に集団登校ではない。しかも登校最終時間は八時十分。かなり余裕があるため、家族での食事中の会話が弾む。

 

「で、直葉。今日は和人から一本取れたかの?」

「むり。取れるわけ無いじゃん、祖父ちゃんよりつよいんだよ?」

「和人には天賦の才があるようじゃのぉ…………剣道で生きてみるか?」

「俺には夢があるし、趣味にしかならないと思う」

 

 この場合の趣味とは、訓練とコミュニケーションの両立を図る手段を指す。

 

「和人の夢? それって一体?」

 

 母親の翠が、味噌汁をすすった後に聞く。単純に興味本位だ。子供の夢を聞くのは、親にとって楽しみの一つなのだ。

 

「アメリカに留学して、色々やりたい」

「「……………………」」

 

 ちなみに、直葉は剣道世界大会優勝と和人のお嫁さん。子供らしさいっぱいである。

 和人の答えに絶句し、その間に和人は「ごちそうさま」と言って食器を片付け、二階に上がった。

 残された翠、祖父の鷹宗はお互いの顔を見合って、微妙な表情となる。

 

「あの子、大人びてると思ってたけど、まさかここまでとは…………」

「ワシも想定外じゃった。せいぜいが『幸せな家庭を作る』とか、『彼女を作る』とか、そのあたりかと思っとったが、まさか留学とはな…………あの様子じゃと意味も理解しとる上、明確な目標もあるじゃろうな…………」

 

 直葉は何のことか理解できていない。アメリカは分かったが、留学が理解できなかったのだ。意味を知れば、和人の過去と同じ展開となるだろう。

 そのまま和人は直葉と二人、家族の微妙な表情で送り出された。途中、一夏に箒と合流し、四人とも竹刀袋を手にして小学校に向かった。

 

 *

 

 和人達が小学校へ着いた後、直葉は二年の教室へ上がった。三人は一年生だが、彼女だけ二年生だからだ。

 直葉は一人、教室に上がると、見知ったクラスメイトが現れた。少なくともクラス内で一番親しい少女だ。

 

「おはよう、直葉!」

「うん。おはよう、木綿季」

 

 木綿季は前回も、なんと前世もこの小学校へ通っていた。

 ちなみに、五年生には藤原琴音=フィリア、四年生に結城明日奈=アスナ、篠崎里香=リズベット、同学年に綾野珪子=シリカ、朝田詩乃=シノンがいる。初めは皆、同じ小学校だった。

 これは原作では違うのだが、龍神が整えた。しかし流石の和人と木綿季も、これが龍神の仕業だとは気付いていない。

 木綿季と直葉が話していると、珪子と詩乃も来た。

 

「おはようございます、直葉ちゃん!」

「おはよう、直葉」

 

 二人の挨拶におはようと返し、直葉は席に荷物を置く。

 直葉の席の前は木綿季、右は珪子、左が詩乃となる。直葉は縦横六列の内、前から五列、左から二列目である。結構後ろの方の席だった。

 全員が席に座って話を始める。内容は、直葉が少し膨れっ面な顔をしている原因だった。

 

「どうしたんです?」

「和人……弟に剣道で一本も取れないんだよね…………ありえないくらい強くて、祖父ちゃんにも勝ってるんだよ」

「うわ……それってどんだけなの? 弟ってことは、今は一年生?」

 

 直葉に質問を被せる珪子と詩乃、それに直葉が答える。

 その話を、木綿季は内心で戦慄しながら聞いていた。

 剣道の話ではない。勿論それもあるのだが、そうではなく、まさか同じ小学校に通っているとは思わなかったのだ。

 前々回の時、木綿季も和人も、同じ学校にいたのに知らなかった。

 前世でも木綿季と直葉は親友だったのだが、木綿季が転校してから一切会わなくなり、記憶から薄れていたのだ。そして遊ぶ時は必ずと言って良いほど、原作和人と木綿季は会わなかった。だから知らなかった。普通は気付きそうなものだが。

 そんな訳で、木綿季は転生者である和人の居場所を今日知ったのだ。前回も気付かなかった。前世でも、原作和人の本名も知らなかったので、知りようもなかったのだ。

 そのため、当然彼女のテンションは高くなる。

 木綿季は時間を見た。今は七時四十分。朝の会まで三十分もある。

 

「ねぇ、なんなら挨拶に行かない?」

「「「え?」」」

「ほら、ボク達って直葉の友達だし、知ってもらった方が良いかもしれないよ?」

 

 木綿季の言い分に、三人は疑問を浮かべて首を傾げるも、時間はまだまだあるし丁度良いので、結局は会いに行く事になった。

 一年教室は一階なので、四人揃って一階に降りた。

 そして教室に辿り着くと、和人は席について読書をしていた。

 その彼に構わず話しかけるのは一夏と箒の二人だ。三人の話している内容は、箒の姉、束による【IS】の製作と、それによる世間の動きであった。

 ISは女性にしか動かせないので、それによって女尊男卑の風潮がある。ISと言っても、小説に出てきたような兵器ではなく、どちらかと言えばパワードスーツに近い感じだ。それでも男の力に比べれば強力で、その風潮に毒された人間もいる。

 ソレに対する会話なのだ、この三人がしているのが。何せ開発者の妹の箒、その親友の弟の一夏、IS開発に一枚どころか十枚以上も噛んでいる剣道、及び、隠れた剣術師範代の和人。盛り上がらない訳がない。なぜ読書しながら出来ているかは謎だが。

 その、小学一年生がするには相応しくない状況を見て、直葉以外の三人が悟った。これが話に聞いた少年なのか、と。そして木綿季は更に思った。相変わらずだ、と。

 木綿季、実はこの時点で和人がISに噛んでいると見抜いている。だからこその感想だ。

 と、視線を感じたのか和人が小説から顔を上げてこちらを見た。そして目を大きく見開く。その視線は、木綿季にしか向けられていない。

 

(ユウキ…………?!)

(あはは…………久しぶり、キリトさん)

 

 二人だけに分かる、目線での無音・無言の会話。だからこそ、理解した。目の前にいる人も、逆行したのだと。

 その妙な空気に首を傾げる五人だが、この二人はそれを気にせず続けた。

 

「…………で、スグ姉はどうしたんだ?」

「え? あ、ああ……和人との今朝の試合の話をしたら、木綿季が会いに行こうって……」

「はじめまして、和人君。私は綾野珪子って言います」

「朝田詩乃よ、よろしく」

「ボクは紺野木綿季だよ。初めまして、かな…………」

「あ、ああ……初めまして。俺は桐ヶ谷和人だ」

「あ、それじゃついでに。和人の親友やってます、織斑一夏です」

「私も同じで、篠ノ之箒と言います」

 

 全員が挨拶を交わした。思いもよらぬ他作品キャラクターの多重邂逅である。

 和人は前世で知った人物達を見つつ、しかし目線と思考は完全に木綿季に向けられている。それは木綿季も同じだった。

 互いに記憶があると理解した以上、早急に話し合いを持つべきという考えが一致した。

 

「ね、和人…………昼休み、一緒に話さない?」

「ああ、わかった」

 

 わざと慣れない呼び捨てで話しかけ、それに了承を返す和人。

 初めて会ったはずなのに異様に仲が良いと、直葉達は疑問に思うのだった。

 

 ***

 

 木綿季達と顔合わせをしてから、四時間分授業を受けた。俺にとっては簡単過ぎて、ぶっちゃけ暇を持て余した。授業は国語、算数、学活、音楽だった。

 一番楽しめたのは音楽で、先生が来るまでが暇だったからピアノを弾いたらそれが好評。そのまま弾き続け、最後は先生が来ても続いた。授業そっちのけで大丈夫なのだろうか?

 そして給食の時間が来た。

 覚えているだろうか? 小学校の給食は昼休みと時間が別なのを。俺は好き嫌いが無く、一夏と箒も基本嫌いな食べ物は無いので、メチャクチャ早く食べ終わった。その間は暇なので、またISの話になる。

 女尊男卑についてだが、千冬と束は、そんな風潮は下らないと断じている。

 千冬の機体は【暮桜】。ISコアは束が、基礎設計や武装、システムの殆どは俺が組んだ代物で、各国のそれの何倍も強いだろう機体だ。

 ちなみに、既に俺の機体の基礎設計も済んでいる。名を《黒套》という機体は、SAOでの俺の最終装備となっている。予定ではソードスキルやOSS、その他多くのシステムを積むつもりだ。

 束の当初の目的は、スポーツでもなく兵器でもなく、宇宙に行けるようになりたいという、一夏と箒の願いのためにISを作ったのだ。結局、各国の腐った首脳部がそれを絵空事と言ったが。

 束はそれに傷つき、少し壊れてしまった感がある。実は家にまで来て剣道をしているのは、それもあるからだ。

 興味の外の人物に関しては完全に無関心で、途轍もなく冷淡になる。桐ヶ谷、織斑、篠ノ之家はその対象外となる。箒や俺はそれを心配しているのだ。

 俺はそれを聞いて、色々と原作とは違うなと思っている。

 今のとこはあまり気にせず、一夏がさらわれた時の事を考えている。

 一夏は、原作では誘拐された事を知らされた千冬に救助されたが、それが無ければどうなるか分からない。人間はなろうと思えば、いくらでも残酷非情になれる。下手をすれば、千冬に憎悪を抱いて殺そうとするかもしれない。

 どうして助けてくれなかったのか、と。

 それは阻止したいところだ。個人的にではあるが、親友のそんな姿、見たくない。

 そんな考えを持ちながら話をしていき、時間が来た。

 俺は食器をすぐに片付け、木綿季と約束した場所へ向かう。行き先は屋上。

 鍵はいつでも開いているのだが…………俺の体格を考えてくれても良いだろうに。転生特典と日頃の特訓のお陰でそこまで苦ではないが。

 不満を抱きつつ上りきり、屋上に出る。そこには既に、木綿季…………いや、《絶剣》ユウキがいた。姿こそあの時よりも幼いが、目つきや雰囲気の鋭さが同じである。

 

「お待たせ、ユウキ」

「そこまで待ってないよ、キリトさん」

 

 互いに笑いながら挨拶を済ます。人に聞かれるとまずいので、早速本題に入る事に。

 まずお互いの話から入った。とはいえ話すことは少ない。なにせ昨日、二人ともが逆行してきたのだから。

 

「なるほど…………ユウキは最初、この学校に通っていて、家もこの近くだったのか」

「うん。まあボクも逆行して気付いたんだけどね。ボクが知る限り、アスナにリズベット、フィリアの三人もいるよ」

「ン……………………全員と顔見知りになっておきたいかな。そうすればSAOの時に頼りにできるだろ? 今回は前々回と同じように行くつもりだし、須郷は先に始末するつもりだしな」

「始末って…………具体的には?」

「ユウキ。前世暗殺者の俺に訊くのか?」

「……………………やっぱり聞かないでおくよ」

「賢明だな」

 

 引き攣った笑みを浮かべるユウキにそう言って、俺は暗殺計画を立てる。

 ぶっちゃけ、やろうと思えば案外出来る。雀蜂の針にある毒を抽出していけば人を殺せる毒針の完成だ。二度刺せばまず死ぬので、これ以上の物は無いだろう。

 ただ問題なのは、これによって引き起こされる不確定な未来だ。須郷に代わる存在が出るかもしれないのだ。それは心配したらきりが無いのだが。

 

「ねぇ、暗殺するならいっそ、茅場の方がいいんじゃ……?」

「俺もそう考えてたとこ。二人まとめて殺るか…………? あ、いや待てよ…………そうだ。ユウキ、このままで行こう」

「え?! どうして?!」

 

 ぎょっとして俺を見るユウキ。まあそうだろう。つい今しがた、始末すると言っていたのに、その主張を変えたのだから。

 しかし一応、俺も考えた事なのだ。今気が付いた事もあるが。

 

「未来はある程度決まってる。ここで俺達が何かすると、どうしようもないほど迷走してしまう。なら、今回は俺は製作には加わらず、あくまで一プレイヤーとして入る。ベータ版はするつもりだが、それは運だしな。須郷に関しては、一回目同様に来れば斬り、そうでないならリアルで叩く」

 

 俺の考えも、ある程度は分かってくれたらしい。須郷の部分で不満はあるらしいが、一応の納得はしてくれた。彼女も逆行を経験している上、俺と言うイレギュラーによって引き起こされた未来を知っているのだ。

 それで話は終わりと思っていると、ユウキが真剣な目で俺に詰め寄ってきた。

 

「な、なんだ……?」

「…………もう、二度と無茶しないでよ? 辛かったんだから…………あの時、二度と起きないかもしれないって思って…………キリトさんが死んだ時も…………」

「ッ!!! ……………………ゴメン」

 

 俺の謝罪に、ユウキは首を縦に振って受け入れた。しかし泣き止まない。涙は溢れていて、屋上に敷き詰められたタイルに、ポツポツとシミを作っている。

 俺はユウキを、強引ではあるが抱きしめ、頭を撫でる。

 

「…………許すけど、絶対の約束。もう、二度と死なないで。二度と、ボクを置いて行かないで…………一人で、何もかも抱え込まないで…………」

「ああ…………約束する…………こんな俺でも良ければ、また俺と…………」

「…………はい」

 

 煌く涙を浮かべながら、ユウキは俺に微笑み、俺達は再び、現実では初めてのキスを交わした。

 心だけは、あの世界から同じ、夫婦なのだから。

 

 *

 

「で、具体的にはどうするの?」

 

 キスを交わして数分後、俺とユウキはタイルに座り込んで話している。

 

「えっとな…………とりあえず、俺は前回同様、アメリカへ行く。違うといえばSAO製作のことか。俺は今回、受けるつもりは無いからな。俺の情報はあまり意味を成さなくなるから、前々回以上に慎重に進もう。それでだ。俺は多くのプレイヤーを救う為に、前回同様にギルドを作る。ただし、メンバーは《血盟騎士団》規模にするぞ」

「それで多くのプレイヤーを救うの?」

「それもあるが、攻略組の絶対数を増やしたいのもある。あとはヒースクリフに対抗するためか。それに、俺とユウキは二回とも最強と呼ばれてた。その効果を狙って、ヒースクリフに主導権を握らせないようにする」

 

 これが今回の俺の作戦だ。一人でダメなら、全員を巻き込もうという感じである。ギルドなら色々と出来るからな。俺がしてた市も、ギルドなら簡単だし、シリカやリズベット達を入れられたらPK関連でも安全だ。

 アルゴは…………狙ってはみようか。期待してはいないが。

 

「でもそうなると、キリトさんの装備とか情報はアテにならないんじゃ? 二回とも、キリトさんも関わってたでしょ?」

「ソードスキルやフィールド製作とかはそうだが、アレは全部、茅場の構想から指示されたものを入れただけだ。ぶっちゃけ俺がいて良かったのってベータ版の見直しに余裕が出来たくらいだぞ? だからあまり変わらないと思う。まあソードスキルは殆ど俺自身の技だったから、多少は変わるかもしれないけど」

「そっかー……でも油断は禁物だよね」

 

 ユウキが真面目な顔で首を縦に振って言い、俺もそれに頷く。

 油断は最大限無くさないといけない。その油断のせいで、俺はケイタ達を…………

 ダメだ。暗い思考は無くさないと。忘れるのはダメだけど、これを反省して次に活かすくらいでないとな。何時までも過去を引き摺るのはいけないことだろう。

 そこで未来の話は打ち切り、今の話に移る事になった。話題は俺の話。

 

「そういえば…………和人さんって剣道強いんだ?」

「まぁ、師範の祖父さんよりは」

「将来、剣道はどうするの?」

「試合とかには出ようと思う。中学や高校の部活も剣道部だろうな、スグ姉関係もあって。まぁ、SAO事件に巻きこまれたら、被害者を集めた学校に編入になるけどな」

「強制じゃなかったらしいけど、あそこに入らないのはねー…………」

 

 苦笑いで応える木綿季。確かに、SAO被害者で、あそこ以外に入れる場所は無いだろう。精神的な面もそうだが、偏見があるだろうから。

 俺の説明に、木綿季はそっか……とだけ返した。深く言わず、俺を責めもしない彼女には頭が上がらない思いだ。

 手を繋いだまま屋上で過ごし、掃除のチャイムが鳴ってから俺達は校舎に入った。

 

 




 はい、如何でしたでしょうか?

 今話だけでも一万文字突破です。でもこれ、書き溜めの方では四話分なんですよね。どんだけ短かったかって、何故か私、章の最初の辺りは物凄く書けないタイプのようでして。書き出しに困るんですよね。だから最初は基本駄文。

 それはともかく、今話では色々とぶっ込んでみました。

 一先ず新しくなった要素はISキャラ達の参入、道場のお話、そして最大なのはSAOメインキャラ達と幼馴染である事でしょう。

 勿論全員最初は違います。そもそも明日奈は元々東京都出身、詩乃は埼玉県では無く別の地方です。

 この二人に関してはご都合主義ですね。明日奈の場合だと結城家の話やALOの病院の事を無視してますし、詩乃の場合は描写からして埼玉県……というか、東京都周りでは無い事が窺えます。そうでなければ一人暮らししてません、きっと。虐めから逃れるように都会へ進出したのなら、そもそも都会付近に家は無いでしょうから。

 木綿季も恐らく埼玉県に住んだ事はありませんが、彼女の場合、小学四年生の頃に最低でも一度は引っ越しを行っています。つまり引っ越す前が埼玉県川越市、後を東京都保土ヶ谷区とすれば、どうにか辻褄は合うんです。

 流石に直葉と幼馴染というのは勝手な設定となっています。知ってたら原作でもっと直葉が関わっていますしね。もしそうだとしたらまず剣を交えてる間に気付きますよ、少なくとも明日奈の協力で現実の桐ヶ谷家にお邪魔したユウキは。

 里香、珪子は流石に幾ら探しても家の情報皆無だったのですが、SAO学園に通えていて、あるか知りませんが寮住まいという訳でも無いようなので、家は県内であると想定し、そこから更に同じ小学校区内という事にしました。まだこの二人は理屈がありますね。

 何故幼馴染にしたのか? その方が展開書きやすいからです。あと、今までと違う書き方が出来ますし、展開として明らかに原作から離れるでしょう。流れは同じでも立場や環境が違えば、自ずと差が出てきますから。幼馴染特有の気遣いというものがね。

 というか、それもしたくてわざと平行世界を出したりしました(笑)

 あとはまた逆行では同じ展開が必ず出るので詰まらないと思ったので。《ホロウ・エリア》編、逆行編では完全に省略しましたからね。


ちなみに、ユウキ視点冒頭で登場した双子の姉藍子ですが、彼女が学校登校に居なかったのは先に行っていたから、教室にも居なかったのは別クラスだったからという設定です。

 兄弟姉妹って、学校の学年で二クラス以上あるとあんまり一緒にしない所があるらしく、それは都会になるほど顕著らしいんです。どうも比べられるとか何とか、PTAと教育機関の方でも話し合いがあるようですね。私はよく知りませんが、その情報を持っていたので出しました。子供には分からない部分、つまりキリトとユウキ視点で出なかったのは知らなかったからという訳です。言い訳がましいですな(笑)


 年齢についてですが、何人か変えてますね。原作から比較すると、キリトは二つ下がり、シリカとユウキは一つ上がって年上になっています。原作では明記されてませんが二人って同い年なんですよ、頑張って計算しました。

 直葉さんって珪子は言ってますから年上扱いかと思ったので。ユウキさんと、同い年でも普通にさん付けしてそうだったので、相当苦労しましたよ、年齢とかそういうの探すの。第二巻をじっくり読みました……

 明日奈と里香は原作でも同い年とあります。明日奈は第一巻最後の自己紹介で年齢が直で、里香は《心の温度》編の最初ら辺、キリトが来店した辺りでそれらしいのが出てます。

 悩んだのがゲームオリジナルキャラクターのフィリアこと琴音さんです。何となく明日奈より年下に思えなかった、更に和人をエンディングで手玉に取っている、かと言って純情な乙女の雰囲気を持っている事から原作和人より二つ、今作和人より四つ年上にしました。幼馴染連中&ゲームヒロイン最年長となっています(笑)

 しかも彼女、《ホロウ・フラグメント》でも《ロスト・ソング》でも名前だけ、苗字が出てないんです(笑) 可愛そうに。

 で、最初は十六夜という苗字を考えたんですが、ギルド名と被るので《藤原》にしました。ありふれてはいないが、それでもまだあるにはある、そんな苗字です。

 琴というのは昔の弦楽器、その音はとても独特ですが軽やかで雅、独特の音色を持っています。平安時代、女性はよく嗜み、和歌と共に弾く事をよくしたと聞きます。私のイメージとして平安時代というのは藤原家が思い浮かんだので、苗字をそれにしました。なんとも安直です。


 そして最後、キリトに体へ出るほどのトラウマが出来ました。《二刀流》ですね。文中にある通りの理由です。強引かと思いますが、ご容赦下さい。

 あ、でも割と早い段階で回復します。キリトはやはり、二刀であってこそだと思っていますから。というかそうじゃないと設定が使えない(汗)

 ちなみに身長についてなのですが、和人は誰よりも背が低い設定になります。

 つまりSAOに入る時点でもユウキはおろかシリカよりもちょっと低いです。12歳で入るのでアレなんですが、男子にしては相当低い状態です。あんまり描写が無いですがね。


 さて……ではそろそろ、次回予告です。


 何故かは分からない、だが歩んできた歴史とよく似て何かが違う世界の自分達に憑依転生を果たしたキリトとユウキ。二人は今度こそ慢心せず、決して死なずクリアする事を固く誓った。

 新たな世界は違った。

 かつての仲間達は幼馴染、かつては無かったISという存在、女尊男卑という風潮……大きすぎでは無いが、しかし些細とも言えない差異。自らの覚えに無い記憶も存在する、それによって築かれた関係もあった。

 困惑しながらも現状を受け入れた二人は、各々出来る事を為していく。

 全ては、来るべき絶望を生き抜くために……


 次話。第二章 ~三度目の始まり~


 展開はやっぱり少し違います。



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