ソードアート・オンライン ~闇と光の交叉~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちわ、黒ヶ谷・ユーリ・メリディエスです。

 今回は第三層のお話ですが、キャンペーンクエストは流石に書けなかったので終わってる設定です。流れとしては原作と大差無い事としています。

 キャンペーンクエストって、未だにプログレッシブで続いてますから下手に書けないんです……アリシゼーション編ならともかく、SAOの謎とか裏設定が出てきますから下手に突っつけない。

 あそこを自力で書けている作者方にはマジで脱帽です、尊敬します。

 さて、今話はユウキ、アスナ、そしてキリトの視点で物語が展開されます。とは言え殆ど人間関係の描写ばかりで戦闘描写なんて薄いです。割とこじつけな所も多いです。

 ぶっちゃけると自分でもSAO、ALO、GGO編は駄作と思っていたりします。当時も今も、この辺は変わりないです。

 現在、GGOを書き直しているのですが、銃火器詳しくないので難しいですね。後のお話も書いてしまっている以上、そこがおかしくないようにしないといけませんし。ただ心情描写は物凄く詳しくなっていて、それで文字数稼いでますが(笑)


 ……話が逸れてしまった。

 そろそろ終わりとします。

 ではどうぞ。
 





第五章 ~死を経た者達~

第五章 ~死を経た者達~

 

 ボクは今、三層の深い森をソロで進んでいる。

 ずっとキリトさんと一緒にいたかったけど、ディアベル達が本格的にギルドを作り始めたことが関係していて、今はキリトさんと別行動を取っているのだ。

 クラインは《風林火山》を、ディアベルは《アインクラッド解放軍》を、リンドは《聖竜連合》を、そしてヒースクリフと言う男は《血盟騎士団》を立ち上げた。アスナはヒースクリフのギルドに、他の皆は軍に入った。アスナが《血盟騎士団》に入るのは予想済みだった。

 少し予想外だったのが、キリトさんが一切誘われなかった事だ。リンドはともかく、クラインやヒースクリフ、ディアベルには誘われてもよさそうな間柄なのに。まあ納得は出来るけど。ボクは引く手数多で、断るのに苦労した。とにかくそんなわけで無事にギルドは立ち上げられ、それらに入って縛られる事を良しとしなかったボクとキリトさんは、攻略組で唯一のタッグプレイヤーとなった。

現在、三層を探索し始めてから一週間、とっくに次の層へ行ってもいい筈なのだが、それはあるクエストで足止めを食っているからだ。キャンペーンクエストと呼ばれるそれは、三層から九層まで続く特殊クエスト。それに一つ一つの章――この場合、一層毎の一連のお話を一章で区切る――が長い上、一度放棄するか失敗、すなわちキーアイテムを持ってるプレイヤーが死ぬと、そのパーティーやプレイヤーは二度と受けられない。プレイヤーが一回しか受けられないクエストなのだ。

 色々事情があって、攻略組の主だったギルドは放棄し、迷宮区を探索している筈だが、アイテムの取得権やレベリングの争いであまり捗っていないようだ。

 自分もそのクエストを進めてはいる、キリトさんと一緒に。今は一章をクリアしたので、一旦別れただけだ。では何故深い森にいるのかというと――――

 

「見つけた…………《師弟クエスト》受注場所…………」

 

 早速クエストを受注、早くキリトさんに会うために、急いで第三層主街区【ズムフト】に戻る。ステータス割り振りは筋力・敏捷=3・7の割合だから、かなりのスピードが出る。全力ダッシュを二十分するとすぐに街が見えてきた。

 大きな樹を直接家にした街並み。流石エルフとダークエルフ、自然ファンタジーの代名詞ともいえる二種族が争うテーマの層だ。実際、それを抜きにしてもこの層全体が森に覆われているから、自然を使った家でないと違和感バリバリなのだけれど。

 彼が取っている筈の宿屋に早足で向かう。大きな樹の中も宿なのだけど、彼は自ら忌み嫌われる役になったので、攻略組、特に《聖竜連合》と顔をあわせない為に人気の無い宿を取っているのだ。少なくとも、探さないと絶対に見つからないだろう宿だ。いや、宿とすら気付かないかもしれない。そんな趣のボロい建築物。

 扉をココン、コ、コココンと独特のリズムでノックすると、数秒後に中から声。

 それに名乗って返すとすぐに扉が開いた。中で待っていたのは、ラフな上下黒の部屋着のキリトさん。

 前世で知っているキリトは、少なくとも女顔ではあったけど髪が長かったりはしなかった。目の前にいる彼は、性別を知らなければ完全に女の子と勘違いする。まあ、それも二刀や黒のロングコートなど、黒尽くめな格好で【ビーター】と分かるのでナンパする馬鹿はいないけど。

 

「…………今、微妙に失礼なこと考えなかったか?」

「きっと気のせいだヨ」

「なぜアルゴっぽい発音なんだ…………まあいいか。それより、受注したのか?」

「うん!」

 

 彼の鋭い勘に内心冷や汗を流していると、表情を真剣なものにしてボクを見てきた。それに、笑顔満面で返す。もう逃げ道は無いんだぞ、と。

 それが伝わったのか、観念したのか、溜息を吐いて頭を振った。

 

「はぁ……嬉しいと言えば嬉しいけど。ユウキはどうして前回同様に俺と師弟関係になりたいんだ?」

「キリトさんはボクより遥かに強いし、なにより、キリトさんからはボクと同じ感じがするから」

 

 天を仰いで呆然とするキリトさん。しかし、実はそれだけではない。前回から燻っていた疑問をついでに解消するべく、更に彼に言葉を投げかける。

 

「ね、師弟として組む前に、またお互いの事をよく話そうよ」

「…………そうだな」

 

 それから再びお互いに話すことに。まずボクから話した。

 前世はエイズ患者で、終末期医療状態で息を引き取ったら、気付けば再び赤ん坊として生まれていた事。小四の頃、エイズの特効薬が開発された事。この世界に、それのお礼を言いに来た事。キリトさんは所々頷きながら、黙って話を聞いていた。

 前回、一緒に戦っていく中で、キリトさんだけは【絶剣】という二つ名ではなく、ユウキという一人の女の子として見てくれた。そしてボクは彼の強さに惹かれた。それらをキリトさん本人に再び明かす。その上で、今度は彼に話をするよう促した。

 彼は頷いて、話し始めた。

 彼が前世では、ボクの知る《キリト》が主人公の小説を愛読していて、家族の人を守って自分が死んだ後、この世界に転生したこと。

 長年の、誰にも明かしたことが無かった秘密に、互いを見合って笑った。

 どこまでも、似たもの同士。そう、思った。

 前世があって、前回のアインクラッドを覚えてて、今回も前回とほぼ同じで進む。違うのは、彼の容姿と立場、ボクの想いと行動。

 前回、ボクやリーファ達は迷わず《血盟騎士団》に入ったし、シリカとはかなり後で知り合った。そもそも、今回ほど軍は大きくなかった。でも今はボクはペア、アスナだけが《血盟騎士団》に入り、他の皆は軍に入った。しかもフィリアが初めからいる。

 

「さて! お互いの事情も再確認したし、早速パーティー組もうよ!」

「はぁ……お前は相変わらずだな」

「そう言うキリトさんは背がちっちゃくなったよね。ボクと同じくらいかほんのちょっと高いくらい?」

「………うるさい。確かに龍神に転生特典として頼んだけど、頼んだけど……!」

 

 グギギギギ……と呻くキリトさん。まあ自業自得だよね。

……そういえば。

 

「そういえばさ。その姿が小説での《GGO》っていうゲームアバターなら、そのゲームでアバター作成する時もその容姿なの?」

「それどころか《ALO》に《SAO》のデータ引継ぎした際も、同じ見た目、リアル準拠だからな。下手すれば三つのゲームで完全に見た目が同じ、ということもあり得る」

「うわぁ…………ちょっと見てみたいかも……」

「俺からすれば一発でバレるし、憂鬱なんだけどな…………」

 

 キリトさんは項垂れた。まあ男でその容姿、しかも有名タイトルとなる三作でリアルと全く同じアバターならそうなるかもしれない。話を聞く限り、ボクもなりかねないらしいけど。

 そうはならないように祈りつつ、パーティーを組んでクエスト場所へ向かう。

 既に武装していて、ボクは最大強化の【ブラック・シバルリックソード+8】に紫紺色を基調としたプレストプレートに【ナイトリィコート】。

 彼は言わずと知れた装備、黒のロングコートに一本の黒剣【シャドウ・ギルティソード+8】。罪の影剣、という意味の剣。

 二本とも、キャンペーンクエストを進める間に立ち寄る事になる、居留地で得たのだ。このキャンペークエスト、実はエルフ側とダークエルフ側の二パターンあり、どちらにつこうともエンディングに差は無いのだとか。で、味方についた方でクエストを進めていく中で、味方した種族――ボク達はダークエルフ側――の居留地でお世話になるのだ。

 そこにいた、接客はアレな無口な鍛冶師が鍛えてくれた会心の二振り、それがこの二本の剣。それまで使っていた剣をそれぞれインゴットに変え、それを使って鍛えてもらった。それで生成された武器、というわけだ。キリトさんも心底驚いていた。

 おそらく、キリトさんのチート装備を除けば現時点で最強に位置する武具を装備し、ボク達は二人連れ立ってクエスト地点へ行く。

 一時間後、目的地に到着。キリトさんの知らない設定があったため、念のためにボクは待機して、彼だけ突っ込む。

内容は『ゴブリンアーチャーの討伐』。遠距離攻撃という、およそプレイヤーに不利なMobを相手に、彼は一切被弾せずに斬り伏せた。心配は幸いな事に杞憂となり、無事に達成。

 ボク達は晴れて『師弟』となった。同時にアイテムストレージは一緒になった。チート装備は彼専用らしいから装備できないみたいだけど。ちぇ。

 

「はぁ、やったぁ…………一歩前進、かな?」

「そうか? なら良かったが……ま、これからもよろしくな、ユウキ。前回同様に弟子になったわけだが、今回はキチンと俺の戦い方やシステム外スキルも教える。とはいえ、上級までなら殆ど使えるだろうけどな」

「それでも頼もしいよ? キリトさんは前回、長い間ソロを貫いてたんだし…………これで、ボクもキリトさんも『共犯者』、になるのかな?」

「さあな…………とりあえず、よろしくな」

 

 肩頬を吊り上げて笑い、どちからともなく握手をする。

 前回の途中まではキリトさんを《キリト》かと思ってアスナに遠慮していたけど、彼もボクと同じと分かっているし、結婚しているのだから遠慮はいらない。

 そう意気込んで、彼と一緒に進む。

 これからもボクは彼とずっと一緒にいるようになり、たまに冗談で『師匠』とも呼ぶけど、それもお互い楽しんでる。今まで生きてきた人生の中で、もしかしたら一番かもしれない喜びを感じながら、彼と一緒に、ボクはこの死の世界を生きる。

 ちなみに、この後に暇つぶしとしてギルド結成クエストを達成して、《凛々の明星》と《スリーピング・ナイツ》をかけて、《十六夜騎士団》を結成した。

 キリトさんのギルドが星と月、ボクのギルドが夜とキリトさんが連想し、名前を付けたのだ。今のところ、ボクとキリトさんのギルドだ。

 

 ***

 

「えー……これより、第三層フロアボス攻略会議を始めたいと思います……」

 

 そう私の隣でそう宣言した彼はディアベルさん、この攻略会議の、そして《アインクラッド解放軍》リーダー。私、アスナは《血盟騎士団》副団長。

 彼のギルドはなるべく多くのプレイヤーが生き残れるように活動し、攻略を進めることを、私のギルドは攻略を最優先とした行動を目的としている。普段の活動は色々と管轄が違っているけど、ボス攻略に限っては手を取り合って協力する。団長は攻略にしか興味を示さないから、代わりに他のギルドとの折衝は私が受け持っている。私が彼と親しくて話がしやすいこともあるだろうから特に不都合は無い。

 ちなみに、《聖竜連合》を立ち上げたリンドは、ディアベルの元ベータテスターや【ビーター】であるキリト君を受け入れる姿勢に反発し、彼の元を離れている。彼に従った者達、つまり《聖竜連合》に所属するプレイヤーは全員が元ベータテスター批判派だ。

 ディアベルの姿勢に反発こそすれ、攻略リーダーとしてまでは反発していない。それでも、キリト君に対してだけは凄まじい反感がある。

 今もその反発感と嫌悪感でピリピリした空気が会議場を満たしている。それはいつもの事なのだが、しかし今日に限っては若干いつもと原因が違っていた。

 その『原因』の存在――――ユウキは、いつもと変わらない笑顔だ。キリト君は流石に苦笑している。要は男の妬みや嫉みでピリピリしているだけだ。

 

「――――というわけで、この攻略本に書かれている特徴は以上だ。それでキリト君、頼んでいたことはどうなったのか教えてもらえるかい?」

「ああ、キッチリ持って来た。とはいえ、大した情報じゃないんだけどな」

 

 ディアベルの問いにキリト君は飄々とした態度で答え、会議場舞台に来た。

 ディアベルが頼んでいた事、それは、『キャンペーンクエスト一章が終わった時、ボス攻略に有益な情報が出たら教えて欲しい』というものだ。噂で囁かれていたのだ。

 キャンペーンクエストはエルフとダークエルフの二種族のどちらかを選び、進行させていく特殊クエスト。どちらについても、相手側や同じ種族を選んだプレイヤーと互いがクエスト進行に邪魔にはならない。基本は。このクエスト進行で、目的地が同じ場合があってバッティングしてしまい、一度大荒れに荒れた事がある。そこに運悪くキリト君とユウキのコンビも来てしまい更に悪化。

 リンドとディアベル、ヒースクリフ団長に私、キリト君の五人で話し合った結果、キリト君たちがキャンペーンクエストを進め、私達ギルド組が迷宮区のお宝探しとなった。当然ながらリンドが喚いたが、それを私たち三人が止めた。この時、ディアベルとリンドの間柄の亀裂は決定的となり、リンドは彼から離れて《聖竜連合》を立ち上げた。

 あれから一週間が経った。遂にボス部屋を見つけ、攻略組の平均レベルが15を超えて安全マージンが取れたので、攻略会議を開いた次第なのだ。

 そして、キリト君はキャンペーンクエストで分かった事を述べる。

 

「えーとだな……『ボスは毒攻撃を多用するから、解毒ポーションを大量に用意すること』だ…………一応言っておくが、少なくとも、ベータ版では毒攻撃は使わなかった。だから攻撃方法やモーションも一切知らない。回避できるようになるまで被害が出るだろうから、出来るだけ多く用意しておいたほうが良いと思う」

 

 彼の言葉にがっかりした者、疑わしそうに見る者、真剣に頷いている者など多種多様な反応が起こった。大半は前二つだが、彼さえ知らない設定と聞き、目を見開いて驚いていた。

 それを受け、キバオウとディアベル、リンドに団長、そして私が攻略手順を話してまとめる。そしてそれを公表して役割分担した。

 ディアベル隊がタンク、キバオウ隊がアタッカー、リンド隊がアタッカー、ヒースクリフ隊がアタッカー兼タンク、アスナ隊がアタッカー、クライン隊がアタッカー兼援護。キリト君はユウキとコンビで遊撃に。

 つまり二人は自由に動けるわけだが、前回もLAを全て取られたからか、リンドが相当釘を刺して嫌味を言う。

 

「ビーター、前回は《ブルバス・バウ》と三体のLAを取ったんだ。今回はすっこんでろ」

「あの牛は本隊だったレイドが危険だったから倒したのだし、ボス三体に至ってはそんなこといわれる筋合いは無い。欲しかったら狙えば良いだろ。それでお前や誰かが死んだら勝っても敗北と同じだし、命あっての物種だけどな」

「黙れ! お前さえいなければ……!」

 

 そう言って曲刀を抜こうとするも、キリト君は一切動かなかった。ただ、冷ややかにリンドを見つめるだけ。それだけでリンドは固まり、そのまま席に戻ってしまった。

 リンドが自分の仲間だったこともあり、ディアベルが謝るが、彼は気にしていない風にヒラヒラ手を振った。

 

「いいよ、別に。ま、俺がいなかったら確実に死者は増大してただろうけどな」

 

 確かに、彼が情報を即日出さなければ、私たちの中にも会えない人はいただろう。そう考えると寒気がする。

 

「そうか…………………ところで、キリト君。そっちの彼女……ユウキ君だっけ? 長い間、聞きそびれてたんだけどさ、彼女となぜコンビを……?」

「ああ、知らないのも無理は無いか。俺とユウキ、《師弟》になったんだ。俺が師匠でユウキが弟子でな」

「「「「「…………へ? ――――ええええええええええ?!」」」」」

 

 会議場にいた攻略組全員(リンドと団長でさえも)が驚きの声(一部悲鳴)を上げた。

 あのキリト君に《師弟》関係になる事を認めさせた。その事実が完全に予想外だったのだ。普段冷静沈着なヒースクリフ団長でさえ、口をパクパクさせて驚愕している。ちなみに、悲鳴を上げたのは数人だ。

 …………私じゃないよ? まああの二人の場合、当然と言えば当然の流れなのだけど…………

 注目されたユウキは幸せそうにはにかみ、キリト君は平然としている。それに少し不満気なユウキ…………この反応の落差、彼女に同情したくなってきたかも…………

 色々話を聞こうとしたけど、二人とも黙秘を貫き、自分達二人にデュエルで勝ったら教えると言われてしまい引き下がるしかなかった。だって、キリト君は全プレイヤー中最強、ユウキも彼に追随するほどの反則級の強さを誇るのだ。そしておそらく、二人のレベルもステータスも私たちより高い筈だ。つまり絶対に勝てない。

 会議が終わった後、そのまま二人連れだって去っていった。師弟となり、戦闘の呼吸を合わせやすくするため、二人は宿で同じ部屋を取るらしい。ベッドは別々らしいが。

 その二日後、三層ボス攻略が始まった。

 

 ***

 

 三層フロアボス《ネリウス・ジ・イビルトレント》。巨大な樹木型Mobボスで、事前情報として、広範囲攻撃でスタンと毒効果攻撃をそれぞれ持っていることが分かっている。

 打撃属性(メイスや両手棍のスタッフ)や細剣の刺突属性はほぼ効かないが、斬撃属性はかなり効くことが分かっているため、俺とユウキの遊撃は攻撃メインとなりそうだった。攻撃力と敏捷、攻撃速度がかなりあるため、高速のヒット&アウェイ戦法が取れるからだ。

 そのための特訓を積み、二人専用の技も作り出した。片手剣スキルを無茶をして上げ、OSSも全力で作成。上手く連携が成功すれば大ダメージを与える事が出来る。

 そのタイミングが非常に難しいのだが、なにせ俺の弟子にして転生と逆行もあり、経験豊富な状態のユウキだ。俺と息を合わせるのは朝飯前。俺も彼女と息ピッタリなので戦いやすいことこの上ない。

 そんなわけで、俺達二人は二日間をレベリングとスキル上げに費やした。俺のレベルはチート効果もあって43、ユウキは師弟関係とチート装備の影響で41。確実に全プレイヤー中トップだろう。

 ヒースクリフ=茅場晶彦はフェアプレイを貫く男だから、GMアカウントでレベルやスキルのズルはしない筈。むしろ俺達のほうが完全にズルだ。もしかしたらカーディナルに監視されているかもしれない。

 そんな事を考えつつ、俺とユウキ含めた討伐レイド七十四人はボス部屋の前にいる。

 前回、前々回より一人多いのは、ヒースクリフが入った為だ。元からいた攻略組が《血盟騎士団》に入っただけなため、ヒースクリフ分の人数しか増えていない。とはいえ、彼のタンクとしての防御力は《神聖剣》が無くとも凄まじいので、彼の参入を拒む理由は無かった。俺とユウキもクリアを目指すのに利用するつもりなため、口出しはしていない。

 現時点で暴いても、おそらく排除されるだけ。俺もGMアカウントがあるが、おそらく今回のGMアカウントの方が権限レベルは上だろうから、対抗は出来ないと考えて良いだろう。だからそれなりに時期が経ってから暴こうと話をした。

 故に今はスルーなのだが、いずれは暴く。

 しかし時期に迷うんだな。遅いと須郷の妨害、早いと排除される危険性。こまめにタイミングを計るしかないだろう。まずは興味を俺に引くことからだ。だから、俺はLAを取り捲るつもりだ。単純に楽しいこともあるが。今回も出来れば取りたい。取ることで実力を示し、ヒースクリフの興味を俺に向けるのだ。

 まあユウキが取っても差し支えないのだけれども。ストレージが同じだし、彼女と俺は運命共同体だからだ。

 

「皆、俺から言えるのは、定番になってきたけど一つだ…………勝とうぜっ!!!」

「「「「「おおっ!」」」」」

 

 仲間の声を聴いてすぐに俺達も突っ込む。互いの黒剣を携え、目指すは腕部分の付け根。

 そこにレイジスパイクを決めてスタン範囲攻撃を阻止。続けてユウキが頭にソニックリープを放って視力を奪う。軽くスタンが入っている間に全員で猛攻。タンクがアタッカーになっている。

 十数分間それを繰り返していくと、四本あったHPバーが残り一本に。攻撃パターン変更ラインだ。

 そこで俺とユウキの攻撃によって、恐るべき事実が分かった。

 

『グオオォォォ……!』

「オイ! あの残りのHPバー、回復しとりゃせんか?!」

「……どうやら、残り一本になると高性能のHPリジェネが付与されるようだね。二本目まで回復しないのは幸いだ……しかしリジェネとは、流石樹木Mob」

 

 ディアベルの声が淡々と響く。

 確かに一本部分のみのリジェネがあるようだ。しかも俺とユウキで減らした二割分がものの十秒で一割回復してしまう。これは相当な攻撃力をもったアタッカーに攻撃してもらわなければ倒せそうに無い。

 というか、前回も同じ展開になったが、あの時はどう倒したのだったか…………?

 

「キリトさん、『アレ』やろう!」

「……わかった。タイミングを合わせろ! 機会は一瞬、いくぞ!」

「ボクを甘く見ないでよね!」

 

 互いを見て頷き、ボスの左右前方に散開する。そして突きの構え。

 

「いくぞ、合わせろ!」

「うん! 喰らえ! 協力技!」 

「衝破!」

「「十文字ッ!!!」」

『グゴオオォォッ?!』

 

 右手に持つ剣を肩に担ぐような構え。片手剣重突進技 ヴォーパル・ストライク。《片手剣》スキルの値が950になると習得する、重突進技。リーチが突進の分もあってかなりのもので、スピードもあり使いやすいソードスキルだ。それを相手に対してクロスを描くように突き抜ける協力技、それが衝破十文字。それを二人で再現したのだ。うってつけにそれっぽい突進突きがあったのだし。

 クロスを描く形で突き抜け、ボスがいる交差点が爆発。更に大ダメージが入り――――そのまま蒼いポリゴンとなって四散した。

 

「……あれ? 一発?」

「………………爆発含めた三撃とも、クリティカルだったのか…………」

 

 ユウキと俺のコメントに、ヒースクリフでさえも唖然とした様子で黙り込んで俺達を見ている。段々いたたまれなくなってきた。

 ――――と、そこでユウキが嬉しそうな声を上げた。どうやらLAボーナスはユウキが取ったらしい。俺とストレージを共有しているから、間違って取らないようにしなくては。

 

「ユウキ、何が出たんだ?」

「えっと、【ナイトリークローク】だって」

 

 その言葉と同時、ユウキの服装が変わった。

 今までも薄紫を基調としたクロークだったが、今回のは澄んだ濃い紫色のクローク。よく似合っていて、形自体はアスナの《血盟騎士団》のクロークに似ている。彼女の髪は藍色で目は澄んだ赤がかったアメジスト色。クロークの色がよく合っている。

 意味は夜……もしくは騎士か? どちらにせよ、ユウキにピッタリの防具だ。

 

「へえ! ユウキ君良かったじゃないか! よく似合ってるよ!」

「うんうん! 私もそう思うよ! ね? リーファちゃん」

「はい、そう思います。なんだかあれですね、キリトくんと並ぶと、黒と紫色のコンビだから二つ名が欲しくなっちゃいますね」

「だな。そうだな~俺が付けるとすりゃあ…………【黒紫師弟】なんてどうよ?!」

「それはありきたりですよ、もっと珍しくて格好良い二つ名でないと…………そうですね…………【藍黒師弟】なんてどうでしょう?」

 

 リーファの意見に周りが反応、結果は【藍黒師弟】になったようだ。まあ誰がどう呼ぼうが構わないのだが。ユウキはどちらでも嬉しいらしい、俺とのコンビが認められたからだろう、俺も嬉しい。

 ……………………リンドの視線が突き刺さって痛い。こういう視線は前回もあった。

 この視線は、このまま放っておくとPK――殺人に走る者になる可能性がある人間が放つ視線だ。どうも、俺はリンドに悪影響を与えすぎたらしい。しかもPKの恐ろしさがイマイチ現時点で伝わっていないので、その辺の危機感が前回より薄い。

 リンドの動向と《ラフィン・コフィン》の動向を、逐一気にしなければならないだろう。おそらく、前回同様で原作より早い時期に結成される筈だからだ。それを頭の隅にメモしつつ、ユウキを促して上へ進む。

 第四層。三層で仲間となったダークエルフの女性騎士《キズメル》と再会の約束をした場所であり、俺とユウキの二人が、本当の師弟として戦い始める層。初めからコンビで動き、攻略を進めるのだ。そして、キズメルを驚かす。彼女はかなりの強者だ、俺達が強くなっていれば、それを喜んで祝福してくれるに違いないから。

 その未来に胸を高鳴らせ、ユウキと共に上る。そして、白亜の扉を開いた――――

 

 

 

 

 

 

 





 はい、如何でしたでしょうか?

 《師弟》に関してですが、これは~創世の調べ~第二十七章、キリトとユウキが結婚した事を報告した辺りで説明していますので、解説を省きました。今回はその時に省いたクエストの内容についてです。

 とは言っても殆ど討伐クエストですが、この開始したばかりの慣れていない時期に弓による遠距離攻撃を受けるとなると、どうしても経験者であるベータテスターに師事しないと勝てないと思います。なので弓ゴブリンを置きました。本作SAO&原作ALOでの最強コンビの前には形無しですが、実際原作基準で考えると結構難易度高いかと。

 そして出ました協力技。《衝破十文字》はテイルズシリーズ定番となった協力技で、突進突きを二人が交差するように放ちます。本作のような爆発が起こるタイプでも二ヒットが基本です。

 しかし、SAOゲームの《ヴォーパル・ストライク》は何故か突きと衝撃波の二ヒットなので、キリトとユウキの刺突と同時の爆発で三ヒットとしました。更に上級ソードスキルな上に威力が高く設定されているので、耐性属性の刺突だろうと問答無用でHPを削り切っています。

 二人だからと納得しておいて下さい(笑) 協力技補正というやつです(笑)

 さて、話は変わりまして、二人はギルド《十六夜騎士団》を設立しました。名前の由来は文中にある通り。実はこれを出したくて《凛々の明星》を出していました。

 希望の星、期待の星と言うように、何故か明るいイメージの言葉には夜関連の単語が入ります。逆に太陽が沈む、洛陽というように、暗いイメージは太陽関連です。なので十六夜という満月の輝きをイメージするギルド名にしました。こちらは《凛々の明星》がイメージです。

 騎士団は言わずもがな、ユウキが生前所属してリーダーをしていた《スリーピング・ナイツ》からです、眠れる騎士団ですからね。ただSAOでもマジで洒落にならんのでその名前は作れません。あと、文中にある通り、こちらからも夜を連想しています。

 よって二つを合わせ、《十六夜騎士団》というギルド名が作り上げられました。

 ただしこのギルド、実はまだ完成ではありません。一応逆行編ではこれで完成ですがね。

 今後このギルドと二人がどうなっていくか、どう成長していき、どのような影響力を持つようになるか、お楽しみ下さい。

 ただ逆行編ではほぼ関係ありません、だってキリトの絶望をテーマにしてますから☆

 希望なんてありませんよ(笑)


 ではそろそろ、次回予告です。


 過去に遡り、記憶を頼りに順調な攻略速度を保っている攻略組。その中心人物としてキリトとユウキ、【黒の剣士】と【絶剣】は既に有名となっていた。

 そんな折、キリトはある者達と再び邂逅する。

 それはかつて目の前で助けられなかった黒猫の集団だった……


 次話。 第六章 ~淡い願い~


 ユウキも居ますよ?


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