ソードアート・オンライン ~闇と光の交叉~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちわ、黒ヶ谷・ユーリ・メリディエスです。

 まぁ、タイトル通りですね。プログレッシブを参考に書いているので結構キリトの行動が似ています、と言うかまんまです。

 あと、キリトは嫌われようとわざと口調を変えています。今までのイメージがガラリと変わっているのでお気を付け下さい。

 ではどうぞ。


第四章 ~第二層フィールドボス攻略戦~

 

 二層攻略開始から、早三日が経った。その間、ディアベル率いる攻略組はフィールドの探索に集中し、キリトが齎したアルゴの情報を基に活動していた。多くのプレイヤーがひしめく中、別に進むプレイヤー達もいた。言わずもがな、キリト達である。

 ただし、この三日間、二人がどこにいたかを知るものはいない。彼らは三日もの間、前線から離れていたのだ。その三日間を聞かれると、必ずこう答えた。

 

 

 

――――知らない方が幸せな時もある。

 

 

 

 そう言って口を噤む。これには鼠も同じ答えを返している。この答えはいずれ明るみに出るのだが、同じ体験をした者も、同じ感想を言うのだった。

 

「――――っていう感じのナレーション作ったんだがよ、どうだ?」

 

 赤髪を逆立ててバンダナをした曲刀使いのクラインが、鍛冶師の少女リズベットに感想を聞いている。

 彼女は上客を捕まえる為に、わざわざ危険な前線まで出張ってきた腕利きの鍛冶職人なのだ。一応腕利きのメイサーでもあるのだが、お店を開くのが夢だったらしく、前線からは一歩引いた位置にいる。

 

「アンタ……んなしょーもないの考えてたの? この時間を使って、何かスキル上げしたり、作戦立てたり出来ないの?」

「んなこと言ったってよぉ。キリトは俺達に情報をくれて、その上色々と影で手助けしてくれたヤツなんだぞ? たった一人で全部背負っちまうし。それにキリトとユウキの二人ともが三日も姿を見ないんじゃ、何かあったと思って心配にもなるだろ」

 

 クラインのナレーションはアレだが、キリト達が三日も前線にいないのは事実。それはかなり危険な事をしているのか、はたまた隠しダンジョンに潜り続けているのか。真相は分からないが、彼が未だに出てこないのはかなり気がかりだ。

 

「アスナはどう思う?」

 

 リズベットがクラインの曲刀を砥石に当てて耐久値の回復をしつつ、私に話を振ってきた。

 

「私に振られてもなぁ……彼の考える事なんて全然分からないよ。ボス攻略で一緒に戦ったくらいだし……」

「だよなぁ。何で前線に出てこないんだろうなぁ……?」

「怖気づいたんじゃないの? あたし達プレイヤーに」

「それは無ぇな」

 

 リズベットの言葉に、クラインが即答する。

 クラインとキリトは初日の頃から面識があったらしく、その時から既に落ち着いた雰囲気を持っていたらしい。彼の姉と言うリーファの話では、リアルでも昔からそうだったらしいが。

 そう思考を広げていると、二人分の足音が聞こえた。

 

「あのボウズとユウキ、まだ見つからんのか? ワイも一言礼と謝罪をしたいんだがなぁ……」

「フン。あんなヤツ、とっとと死んでしまえば良い。義理立てする必要もない」

 

 緑を基調とした鎧のキバオウと、青を基調とした鎧のリンド。キリトを糾弾していたシミター使いはリンドだ。

 その彼の言葉を聞き、リーファは今にも斬り掛かりそうなほどの殺気を出し始めた。睨みと凄みを出して、リンドに近づく。リンドにはクラインが対応するべく、リーファを押し止めながら前に出た。

 

「今の言葉、取り消せよ。アイツの情報のお陰で俺らは生き残れてるんだぞ」

「はっ、そもそもあんな奴、いようがいまいが別に変わらないだろう」

「ッ!!!」

「リーファちゃん、落ち着いて!」

 

 歯を喰いしばって剣の柄に手を持っていく彼女を、私も慌てて止めた。ここで剣を抜いても何も得る物は無い。

 それが分かったのか少しずつ落ち着いていくリーファを、冷ややかな目で見続けるリンド。ディアベルを目指していると聞いたが、全く似ていない。

 キバオウが居心地悪そうな表情で頭をガシガシ掻きつつ、私たちに向かって言う。

 

「ああ……そろそろフィールドボス戦やから、準備しとき」

「はい……」

「ふん、あんなヤツらのために時間を無駄にするなら、それを攻略やレベリングに充てればどうなんだ?」

「リンド! アンタ、家族の事を悪く言われるのを嫌だと思わないの?!」

 

 リンドの言葉に、流石のリズも言葉を荒げた。

 キリト達は現時点で、間違いなく最強戦力だ。彼らがいるのといないのとでは、やはり大きく違う。

 彼らを探すのを時間の無駄と言うなら、彼らと真正面で戦って勝てるのかと問いたい。

 

「知るか。俺はキリトの家族じゃない。なりたくもない」

「俺も、女を虐めるような性根の腐ったヤツと、家族なんかになりたくないな」

「ボクはお近づきにすらなりたくないね」

 

 森からがさがさと音を立てて出てきたのは、最後に見たのと同じ黒のコートと、二本の無骨な【アニールブレード】という剣を背負った長い黒髪のプレイヤー、キリトだ。その隣に、藍色を基調としたクロークとプレストプレートを装備したユウキ。

 美少女と見紛う彼、キリトを視認したリンドが、一歩下がりつつ曲刀の柄に手を添えて構えた。

 

「お前! どの面下げて出てきた!」

「悪いな、独りで行くと決めはしたが、それはなにも不干渉を貫くってわけじゃない」

「お前なんて、とっとと死んでしまえば良いんだ!」

「というか、色々な意味で俺もう死んでるし」

「あ、はははは……そう、だねぇ…………」

 

 どういう意味だろうか。ここにいるのなら、生物学的な意味では生きている状態だろう。ならこれは、社会的に死んだということだろうか。それとも他に彼なりの価値観での死があるのだろうか。

 リンドは忌々しそうに睨んでから舌打ちをし、足音荒く戻っていった。

 キリトは溜息を吐いてこちらを見てくる。長い黒髪と黒いコートが風で揺れた。

 

「ふぅ…………で、皆はここで何を?」

「あ、ああ…………迷宮区前の街に行くのに、フィールドボスの《ブルバス・バウ》を倒さなきゃならなくてよ。これはそのレイドだ」

 

 クラインが簡単に状況説明をし、キリトがそれに相槌を打つ。

 あまり質問していないから、おそらくフィールドボスの存在は知っていたのだろう。まあ、彼はベータテスターなのだから、それも当然か。

 

「そうか……なぁ、ちょっと変な事を聞くが。アルゴの攻略本にも載ってないモンスターを見かけたこと、あるか?」

「ハァ? あれってお前が情報源なんだろ? そのお前が見たこと無いなら俺らも無ぇよ。俺達はアレを頼りに動いてるから、ここら辺以外には行かねぇし」

 

 クラインがそう答えると、キリトは物憂げな表情をし、しかし一瞬で表情を戻した。

 

「なるほど…………あのフィールドボスは、HPが危険域、残り二割になった時に凶暴化して暴れ始める。気をつけろよ、頭のデカいこぶが弱点だけど、突進中に喰らうと即死する威力だからな」

 

 真顔でそんな事を言うものだから、全員の顔に緊張が走った。いや、おそらくそれが狙いなのだろう。

 緊張が無ければすぐに死ぬ。覚悟が無ければ生きられない。

 それを言外で言っているのだ。

 それを心に留めつつ、私は気になった事を質問する。

 

「…………それ、あの人たちには伝えてあげないの?」

「アルゴに情報を渡してるから、攻略本に載ってる筈だよ。それで知らないのなら読んでないあの人たちが悪い」

 

 彼女のその言葉に、攻略本を捲って《ブルバス・バウ》攻略編を見ると確かに書いてあった。しかもイラスト付きで、対処法や狙うと良い部位、攻撃方法も載っている。一体どこまで覚えているのだ。それとも実際に戦ってデータ採取でもしたのか。

 

「で、キリトさん達はどうするんですか? 参加ですか? リズさんが鍛冶師を目指してて前線から一歩引いてるから、私達のところに空きはありますよ」

 

 ティーゼの発した問い、ないし誘いに、キリトは一瞬考え込み、しかし同じく問いで返した。

 

「お前らの役割って、取り巻きMobの《ウィンドワスプ》か? それとも《ブルバス・バウ》本体か?」

 

 《ウィンドワスプ》はフィールドMobなのだが、数メートル級の巨大な牛型のボス《ブルバス・バウ》の無限ポップの取り巻きになっている蜂型Mobだ。

 落とすアイテムが中々に使える素材アイテムで、自分が装備している【ウィンドフルーレ】という薄緑の細剣も、《ウィンドワスプ》のドロップ装備品である。結構美味しいMobなのだ。

 しかし、私たちは全員が中々に熟練者であり、最初期にキリトとユウキに接触して激しいレベリングに勤しんだクライン、リーファの二人がいるため、ボス本隊を相手にする事になっている。他のメンバーが取り巻きMobの素材やドロップ装備品を欲して、Mob狩りを優先したのもある。

 リンドとキバオウは当然ながら本隊組だ。

 

「本体だよ」

「なら遠慮しよう。丁度、リンドが嫌そうに視線を向けてきてるし」

 

 それを受けて私たちがリンドに目を向けると、確かに凄く嫌そうな顔でキリトを見ていた。相当嫌っているようだ。彼がそのように誘導しているのだが。

 

「ま、無限湧きの雑魚Mobの相手はしよう、丁度素材が欲しかったところだし。それに、本体レイドがあれだけ意見を言い合ってグダグダじゃ、死者が出ないとも限らない。そのリカバーもする必要がありそうだからな」

 

 キリトの言葉を受けて、ディアベルは嬉しそうに破顔し、リンドは心底嫌そうな顔をした。キバオウは複雑そうだが、少なくとも嫌がっているようには見えない。ボス戦後の彼の行動に、何かを感じたのだろう。雰囲気や態度に変化が見られる。

 その後、各パーティーリーダーで話し合いが持たれ、不測の事態や危機に陥った際の殿の役割も果たすという条件の下、取り巻きの雑魚Mobの相手をする事が許された。この条件を出したのはキリトを完全に嫌っているリンド派で、ディアベルやキバオウ達はそれに反対した。

 大荒れに荒れた結果、キリトがその条件を呑んだのだ。その際に、リンドから邪魔しないよう釘を刺されたのだが、キリトは「本隊がちゃんとしてれば、牛の相手はしないよ。しっかりしていれば、の話だけど」と返して挑発していた。

 周りのリンド派からビーターと罵詈雑言とを浴びせられても、キリトは微塵も揺るがずに装備の確認をしていた。今の装備は変わらず、二本のアニールブレードにLAボーナスだったらしい黒コート。圧倒的な威圧感と存在感を振りまいている。ユウキもにこにこと笑顔を絶やさず浮かべており、それがある意味恐怖を誘う。

 リンド派メンバーとキリトが険悪な雰囲気のまま、《ブルバス・バウ》戦に入ったのだった。

 

 ***

 

「おい! なにをやっとるんや! とっととスイッチして後退せんかい!」

「ふざけるな! こっちはまだ余裕がある! そっちは牛の後ろに回って挟め!」

「余裕って、もう五割切るやないか! 下手すりゃ一撃で死ぬで!」

「うるさい! 俺に指図するな!」

「リンド! いがみ合っていないで早く下がるんだ! 五割を下回ったぞ!」

(おいおい……フィールドボスだからって、連携悪すぎだろう……)

(何やってるんだろうねぇ……)

 

 キバオウ率いる緑隊とリンド率いる青隊、片手直剣メンバーと曲刀メンバーがいがみ合って、ボスのLA欲しさに突っ込みすぎている。あれでは死んでしまうというのに、それを一切考えていない戦い方だ。

 キバオウはキチンと下がらせて回復をしているが、リンド隊は未だに一度も下がっていない。危険域の者は流石に下がっているが、注意域の者は下がらない。危険を冒す必要は無いのに我欲に走る、あれでは指揮官失格だ。

 ディアベルが無理矢理にリンドを下がらせ、代わりにディアベル隊とクライン隊が出る。話し合いの場では、大人で話しやすいクラインが適任と判断して、パーティーリーダーになったらしい。流石、今後は一攻略ギルドの頭を張るであろう男だ。

 《ブルバス・バウ》は直径十メートルはある青い牛で、額に巨大なこぶがあり、それが弱点。投擲武器を使うか脚を狙ってダウンを取るかで攻撃できるのだが、リンド達はLA狙いに執着しすぎ、その辺の情報を鑑みた戦い方すら出来ていない。あれで死者を出せば確実に指揮官の責任だし、そもそもLAボーナスも命あっての物種だ。

 そう評価を下しつつ、ソロで大量に湧き出る蜂型Mob《ウィンドワスプ》を次々屠る。

 いくら倒しても出るわ出るわで、素材や換金アイテム、装備品がボロボロ出てかなり嬉しい。ある意味、ボスのLAボーナスより稼いでいる。レア度でいえば比べるべくも無いが。

 

「キリト! 悪ぃけどこっちリカバー入ってくれ!」

 

 クラインの大声で意識が引き戻され、彼を見ると、なんと牛を相手にする本隊全員が危険域に入っているではないか。

 それは牛も同じ、つまり凶暴化してしまって避けるタイミングを外して、凶暴化始動攻撃を喰らったのだろう。特有の破砕音は聞こえていないから、かろうじて死者は出ていないようだ。

 クラインが大急ぎで倒れているレイドメンバーを後ろに下げている傍らを、俺とユウキは俊足で走りぬけ、その勢いのまま牛の前脚を斬り裂く。

 直後、苦悶の叫びを上げて俺にタゲを変えた。これで引き離せば、レイドメンバーを安全に下げることが出来る。そう考えて牛を見据えながらダッシュでレイドとは反対方向に走る。そのままついて来るはずだ。

 しかし――――

 

「オオオオォォォッ!!!」

「っな?! 何やってんのあの人?!」

「リンド……あの馬鹿が!」

 

 リンドが《咆哮(ハウル)》――攻撃をせず、吼えるだけでヘイトを稼いでターゲットを取る超初歩のシステム外スキル――を使い、牛のタゲを自身に向けたからだ。彼のHPは未だ危険域、つまり、彼の行動は俺にLAを取られたくない衝動に駆られてのことなのだろう。現に、リンドの表情は勝ち誇った笑みが浮かべられている。

 それを見て、わざわざタゲをソロで取ってまでレイドから引き離した行動を邪魔されたユウキと俺が罵倒の声を上げたのは、致し方ないというかむしろ当然だろう。少なくとも俺の選択した行動は間違ってはいなかった。死ぬかもしれないメンバーからボスMobを引き離そうとしたのだから。

 方向転換した牛はリンドがいる地点――危険域になって後退しているレイドメンバーが休んでいる地点――に向かって、突進する構えを取った。リンドは盾と曲刀を構えて戦うつもりのようだが、彼のHP的にも装備的にも耐えられるものではない。タンク仕様でない装備で耐えられるのなら、コイツはフィールドボスとして設定されていないのだ。

 

『ブモオオオオォォォォ!!!』

「間、に、合、えぇぇぇぇええええええええッ!!!」

 

 牛が咆哮して突進する、その直前、ホントのギリギリで俺の放った突進剣技ソニックリープがヤツの後ろの蹴り脚、それの膝関節を斬り裂いた。蹴り脚を斬られたせいで突進はキャンセルされ、再度苦悶の叫びを上げる。残りHPは僅か数ドット。

 これ以上危険な事で邪魔されては敵わないので、とっとと終わらせるべく、俺は左の剣を背にしまいながら牛の目の前に来て跳躍する。そして右手で持っている片手剣を引き絞り、突き出そうとする構え――――《レイジスパイク》の構えを取る。

 

「んな?! キリト君、それは無茶だ!」

「オイオイ! そりゃ流石に届かんやろ!」

「まあまあ、見てろ……よっ!」

 

 俺の言葉が言い終わると同時、剣はペールブルーの光に包まれ、現実ではあり得ない空中での加速と見えざる手によって剣が突き出される。俺の右手は剣を握っているのだから、当然俺自身も突進することになる――――牛の頭のこぶ目掛けて。

 ソードスキルは牛のこぶに丁度突き刺さり、弱点を刺されたダメージと俺自身の攻撃力、攻撃速度、ソードスキルの威力も相まって思いっきりなオーバーダメージを叩き出す。余ったエネルギーは衝撃波と轟音、数多の閃光となって《ブルバス・バウ》を襲う。

 

「せいこうっ」

「「「「「おお……ッ?!」」」」」

「な、何それっ?!」

「あはは……久しぶりに見たなぁ…………」

 

 俺の快心の声、周囲とアスナの驚愕の声がほぼ重なった。ユウキは苦笑を浮かべて俺を見ている。

 まあ、見たことは無いだろう。タイミングがズレると危険だし、そもそも思いつかないだろう。空中でソードスキルを放つなんてプレモーション検知がかなり難しい、この時点では。前回は、飛行Mobが多かった四十層代で発見された。とはいえ、前回のアインクラッドではデスゲーム開始日に、俺は赤ローブに対して使っていたが。

 そのまま自由落下して着地、剣を払って背負っている鞘に音高く収める。それと同時、後ろでボス牛が完全にポリゴンとなって四散し、目の前にリザルトとLAボーナス表示が出る。それを無視して、近づいてくるリンドとディアベル、クライン達に向かってドヤ顔で胸を張り、自身の胸に親指を当てる。

 

「どうだ。上級システム外スキルの一つ《空中ソードスキル》だ。簡単そうに見えて、結構タイミングがシビアなんだぞ?」

 

 ちなみに前回のアインクラッドでは、システム外スキルにはそれぞれ『最下級』『下級』『中級』『上級』『最上級』の五段階評価が為されていた。リンドの《咆吼》は最下級。俺の《剣技連携(スキルコネクト)》《武器破壊(アームブラスト)》《武器落とし(ディスアーム)》は最上級に位置する。

 基本的に最下級~中級までなら、前回の攻略組メンバーは基本使えた。上級は実力者に数えられた俺やユウキ、アスナ、リーファ、クラインにヒースクリフが主だったが、最上級システム外スキルは俺専用と言っても良かった。一応みんなにも教えていたのだが、それもほんの二日間、《武器破壊》のみだったため、誰も習得出来ず、俺専用という認識に至ったらしい。

 そんな事を頭の片隅で考えつつ、リンドの対応面倒だなぁ……と思っている。

 

「そんなことはいい! ビーター、お前、どうして邪魔をした!」

「邪魔って言うなら、せめて一パーティーくらいはHPを安全域まで回復してから言ってくれ。それと――――」

 

 俺に詰め寄っているリンドの後ろ、上空から突進している蜂に向け、剣ではなく拳で迎え撃つ。

 《体術》スキル《閃打》。

 溜めた拳を相手に一発叩き込むスキルで、おそらく現時点では俺とユウキしか習得していない《体術》スキルだ。

 

「周りにも気を使ってから言え」

 

 リンドは呆然としていたが、はっとしてから俺を睨む。ビーター嫌いなリンドからすれば、チートの代名詞ともいえる『自分達が知らない何か』を使ったビーターに助けられたのは、かなりの屈辱だろう。

 しかし助けられた手前、それを糾弾するのは流石に筋が通らないとわかっているらしく、何も言わずに踵を返した。

 

「……キリト君、すまない。リンドは相当君を毛嫌いしてしまったようでね……」

「構わない。俺よりディアベルのほうが色々とまずい気がするけど」

「そうだよ、ディアベルはこれから大変なんだから」

 

 俺達が言っているのは、ディアベルもベータテスターなのだから気付かれないように気をつけろ、という意味のことだ。ここでディアベルまで糾弾されては、何のために俺が色々と手を尽くして、しかも元ベータテスターと明かして【ビーター】という謗りを受けてまで元ベータテスターとニュービーの確執を避けようとしたのか、わからなくなってしまう。

 それはこの男もわかっているらしく、複雑そうにしたあとに頷いた。

 

「…………そうだね。それはそうと、さっきの拳スキルは?」

「……………………俺達が三日間前線にいなかった理由だ。別に教えても良いが……怨むなよ」

 

 一応そう付け加えておく。これで俺が怨まれても達成すれば良いのだから言わなくても良いかもしれないが、リンドのようなタイプの輩はかなり根に持つので、一応だ。

 案の定、それを聞いた全員が不思議そうな顔をしたが、詳しくは言わなかった。ただ言えたのは一つだけ。

 

「受けるのなら、絶対にクリアする覚悟で挑め。じゃないと…………後悔するぞ」

「そうだね。覚悟が無いなら、色々と終わるね…………」

 

 これらを聞いて、全員が顔を引き攣らせていた。

 

 

 

 この日から更に四日後、第二層迷宮区ボスは俺とアルゴで裏取りして広めた情報があったことで、万全な体勢と心構えが出来ていた攻略組によって突破された。

 取り巻き中ボス    《ナト・ザ・カーネルトーラス》

 ベータ時のボス    《バラン・ザ・ジェネラルトーラス》

 真の第二層フロアボス 《アステリオス・ザ・トーラスキング》

 この三体のLAボーナス全てを、【ビーター】が掻っ攫う事で。勿論、周りとの確執が更に深まったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 





 はい、如何でしたでしょうか?

 プログレッシブでキリトがやって見せたのは、高い位置にあるコブを空中でソードスキルを発動して攻撃する、というものでした。

 SAOって飛び道具は殆ど無いのに飛竜とか蜂とか、飛行系モンスターが容赦なく居ます。ゲームでは空に浮かばないので良いんですが、現実的に(仮想世界的に?)考えて高度を上げないというのは絶対無いんですよね。

 それに対処するために編み出したという設定です。第一層から蜂は居ますし、原作キリトはソードスキルをブーストして空中でコボルドロードを叩き落としていましたから、出来てもおかしくはありません。

 原作キリトよ、お前本当に現代人なのか? ゲーマーなインドア派って本当なのか?("= =) トオイメ

 ともかく、原作キリトは第二層時点で使っていましたし、本作キリトはSAO制作に関わる上でソードスキルの動作に携わっているので空中で構えを取るなんて朝飯前です。ユウキはそもそもOSSがあった原作ALO出身ですから普通に可能と考えています、空中戦闘でもソードスキルが使えないと話になりませんしね。なので数人は使える上級としました。

 そもそも空飛ぶ敵への対策ならこれが一番ですから、原作キャラもアスナ辺りは三十層辺りで出来るようになっているんじゃなかろうかと思います。長槍や投擲物では効率悪いですからね。

 そしてキバオウが一回目よりマイルドに、対して名前だけだったリンドが過激になって前に出てきています。ここも前回と違いますね。ディアベルがいるのに抑えられていない辺り、ベータテスターと何か確執があったのかも知れません。

 ぶっちゃけストーリーは考えてません(笑)

 ですが、今後も時折絡んでくる人です。そして結構扱い酷いです。


 ではそろそろ、次回予告です。


 第二層ボスを斃し、第三層に辿り着いた攻略プレイヤー達。ある者はギルドを興そうとクエストを受けに、ある者は第九層まで続くという大規模なキャンペーンクエストを受けようと森へ向かう。

 そんな中、明らかに違う行動をキリトとユウキは取っていた。

 その理由は、二人の関係が確たるものとなったあるクエストの為だった。


 次話。第五章 ~死を経た者達~



 すみませんが、ダークエルフさんは出てきません。



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