ソードアート・オンライン ~闇と光の交叉~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 三度目の連続投稿をした黒ヶ谷・ユーリ・メリディエスです。あと数話だけ連続投稿します。具体的に言うと第一層終わるくらいは。

 今話は割と強引な展開が多いです。

 最初は直葉視点です。ではどうぞ!


第二章 ~姉と弟の覚悟とすれ違い~

                   第二章

              ~姉と弟の覚悟とすれ違い~

 

 あたしには一つ年下の、『天才』の異名を欲しい侭にしている弟がいる。保育所に入る前から人の助けになる為に勉強して、小学校三年でアメリカに留学。同年に五つの企業を立ち上げ、世界的に有名になった。

 そんな弟の和人があたしから完全に離れたのは、《茅場晶彦》というもう一人の『天才』と【ソードアート・オンライン】という新しいジャンルのゲーム――ヴァーチャル・リアリティ・マッシブリィ・マルチプレイヤー・オンライン――通称VRMMOと呼ばれるゲーム開発に専念しだしてからだ。

 VRMMOというのは『ゲーム世界がほぼ完全にリアルに再現された世界で遊ぶゲーム』の事で、要はゲーマーが妄想する世界のようなものらしい。

 和人はその共同制作の方に忙しく、いや、執念を燃やして、本気で取り掛かっていた。学校にいてもそのゲーム開発の事ばかりで何を話しても上の空。

 一応会話はちゃんとしてくれるし、学校の勉強も仕事も全部完璧にしてしまうので真正面から文句が言えない。その考え事も仕事なのだ、しかも全世界から期待されているほどの大仕事。

 水・風・火・原始力発電に頼らず、空気中に存在する水素や窒素を使った電気エネルギーや、エイズにHIVウィルスに対する特効薬の開発。世界的な食糧不足を補うクローン技術。

 既にありとあらゆる偉業を為し遂げている和人。とても誇らしいし、凄い事だと思う。

 でも最近、彼の様子が妙だ。《SAO》製作について考えている時、和人は必ず怖い顔になっている。クローズドβテストをしているらしいが、それの話も一切しようとはしない。熱中しているのかと言えばそれも違う。

 なんだか覚悟を持って立ち向う戦士のようなのだ。彼が留学していた間は電話でしか触れ合っていなかったが、それでも彼が余裕を失う事は無かった。

 彼は何かを隠している、しかもかなり危険な事を。そう直感した。

 だから母さんに無理を言って、和人に内密で私も《SAO》のゲームソフトを手に入れたのだ。彼と共に歩みたいがために。

 そして今日、2022年11月7日。《SAO》の本サービス開始の日となった。

 昼前、和人が帰ってくる前に機械音痴なあたしは母さんの手を借りて、アバター《リーファ》を作成した。母さんにかなり苦労を懸けたので、自由に設定をしても良いと任せたら、肌は色白、耳は尖っていて長い金髪をポニーテールにして後ろの纏めている、妖精アバターにされた。母さんは

 

『ゲームなんだからいつもの自分と違った遊びをしなきゃ! どうせならその大きな胸であの子を誘惑してみれば?』

 

 と言っていた。大きなお世話である。

 とにかくアバターを作成して一旦終了、リアルに戻って和人特製のチャーハンを食べる。

 母さんがテレビを点けると、やはりと言うべきか当然と言うべきか、今注目の《SAO》関連のニュースだった。

 

『いやー、この行列見てください! 一週間前の映像ですがこれは凄い! 流石、世界に名を轟かせる『天才』の二人が手がけただけありますね!』

『そうですね! 新しいゲームジャンルのVRMMORPGは、ゲーム世界に自分が入り、自らの足で世界を歩くという夢のようなゲーム! まぁ足で歩く、と言っても感覚でなんですけどね』

『開発総責任者の《茅場晶彦》氏は『これはゲームであっても遊びではない』という言葉を売り文句にしています! 初回ロット一万本、βテスターの千人分を差し引いた分で九千本。それがなんと、一時間足らずで販売終了したらしいですよ!』

『目の前で完売し、涙を流して悔しがる大勢の客。期待の程が伺えるシーンです』

『また、開発にあたっての技術協力およびナーヴギアの基礎理論構築他、ゲーム内のスキルや武器、モンスターグラフィックにステージやフィールド設定を担当した、世界最年少であるもう一人の『天才』! 《桐ヶ谷和人》氏も忘れてはいけません!』

『彼がした事は茅場氏の構想を現実にしただけでなく、数多の偉業もあります。エイズの特効薬に始まり、新エネルギー収集技術、新しい娯楽開拓、革新的な経済理論等、世界に及ぼした影響は茅場氏以上!』

『ですが、彼はこの《SAO》のついては一回しか触れていません』

『そこが謎ですね。彼は『このゲームは本物の異世界となる』という言葉を口にしています』

『桐ヶ谷氏もこのゲームの完成度に満足しているのでしょうね』

『おそらく感動を抑えようとして素っ気無くなっていたのでしょう。事実、桐ヶ谷氏もログインされるようです。どうも茅場氏に勧められたらしく、なんでも『まだ子供なのだからゲームをして楽しんで欲しい』と言われたとの事』

『うーん。茅場氏、優しい言葉をかけていますが微妙に興奮が隠せていませんね。とどのつまり中に入ってもらいたいのでしょう』

『まぁこの世界に入りたい人は大勢いますからねぇ。かく言う私も、目の前で完売してしまって涙を流した内の一人ですから』

 

 ニュースのコメンテイターがそんな感じで、朗らかに笑いながら《SAO》や茅場・桐ヶ谷両『天才』を褒めちぎっていく。

 でもあたしは少し不満だった。和人が偉業を多く成し遂げて茅場晶彦以上に凄いなら、何故和人が総責任者でないのか。茅場は最もおいしいとこを持っていっているのだ。

 それを聞くべく和人を見て、あたしは驚いた。普段から彼は表情をあまり変えないが、それでも目を見ればなんとなくは分かる。 

 今彼は何かに思い悩んでいる。いや、何かを決心しようとしている。それが何なのかは分からないが、少なくとも彼は、何かを背負おうとしている。

 

「和人、どうしたの?」

「……ン。いや、何でもないよ、スグ姉」

 

 あたしの問いに微笑む和人。でもその笑顔は未だ強張っていて、あたしは恐怖を覚えた。それが何故かは分からないが、和人が戻って来なくなるのではないか、そんな妄想に囚われた。

 でも、それはあたしの単なる妄想に過ぎない。あたしは素早く残りのチャーハンを完食して部屋に戻る。和人が苦笑していたのを視界の端に収めたため、顔が少し火照るも無視。

 部屋に入って着ていたジャージのジッパーを下ろして、全体的に余裕を持たせる。そして隠していたナーヴギアを被り、ベッドに横になる。

 あたしはもう一つの世界に……本物の異世界に旅立つ呪文を唱えた。

 

「リンク・スタート!」

 

 あたしの視界が虹色の輪で埋め尽くされ、五感が遠くなると同時。

 ドダダダダダダダダダダダッ! という足音と

 

「――――待て、スグ姉!!!」

 

という和人の緊迫した声を最後に聞いて、あたしは《SAO》に旅立った。

 

 ***

 

 俺は急いでチャーハンを完食したスグ姉に呆れた。何か楽しみがあるのだろう事は一週間程前から分かっていた。どうも今日がそうらしいが、何も急いで食わなくてもいいだろうに。

 

「なんだかスグ姉、浮かれてない?」

「そりゃそうよ。最近ずっと構ってくれなかった和人と同じゲームが出来るんだから」

「……は? 同じ、ゲーム……?」

 

 俺はチャーハンを食べ終え、食器を運ぼうとした時に言われたその言葉に、その手を止めた。

 

「そうよ。今話題の《SAO》」

「……ッ?!」

 

 俺は急いで立ち上がり、倒れた椅子を直すのももどかしく二階に駆け上がる。スグ姉の部屋に辿り着いた丁度その時……

 

 

 

『リンク・スタート!』

 

 

 

 その声を聞いてドアを蹴破る勢いで開ける。

 

「待て、スグ姉ッ!!!」

 

 そこにはナーヴギアを被ってベッドに横になっている姉の姿。間に合わなかったのだ。

 なんという事だ。周りや顔も知らない人間を助けようとするあまり、身近で大切な家族を危険に晒すなんて……ッ!

 

「ちょっと和人、どうしたのよ? いきなり怒鳴るわ、駆け上がるわ。あなたらしくないわよ?」

 

 母さんがひょっこり顔を出して尋ねてくる。その顔は訝し気だ。

 

「……母さん、スグ姉のアバター名と特徴は?」

「え? えっと、アバター名は《リーファ》、見た目は金髪ポニテ、尖った耳に巨乳の女の子だけど」

 

 それ、どう考えても《ALO》のアバターだよな。というか龍神。ここでスグ姉を《SAO》に入れたらダメだろ、《ALO》編に続かないんじゃないか?

 それはともかく、俺は急いでスグ姉の保護に行かなければならない。しかし、その前に母さんに言う事がある。

 

「……おそらく午後五時半くらいに、《SAO》の大々的なニュースがある。例え無くても今日一日は絶対に、俺達のナーヴギアを外さないでくれ」

「ちょっと待ちなさいよ、和人。それってどういう意味なの?」

「…………スグ姉は、俺が必ず、現実に還す。母さんは祈っていてくれ。スグ姉の無事を……俺の武運を」

「あ、ちょっと、和人?!」

 

 俺は母さんの呼びかけに応えず、そのまま足早に自室へ入る。そしてセットしておいたナーヴギアを被ってスイッチを入れる。

 

「和人、待ちなさい?! それって……?!」

「母さん、絶対にナーヴギアを外さないでくれよ。父さんにもよろしく言っといてくれ」

「ちょっと! それじゃまるで遺言じゃないの?! やめてよ、そんな縁起でもないことは!」

 

 母さんは完全に取り乱して叫ぶ。俺は腰掛けていたベッドから立ち上がり、母さんを抱きしめて落ち着かせる。

 

「大丈夫。スグ姉は絶対に還す、絶対に」

「…………和人、それじゃあんたは……?」

 

 母さんと顔をあわせる。その顔は驚きと困惑で歪みきっている。普段の飄々とした雰囲気は見当たらない。

 母さんと言っても彼女は、今の俺の生みの親ではない。そもそも俺は、一度死んでいる生きた死者。

 そんな俺だからこそ、俺は自分を犠牲にしてでも他人を助ける。

 

「…………行ってくる」

 

 落ち着いてきた母さんから離れ、俺はベッドに横になる。母さんの唖然とした視線を受けながら、死と隣り合わせの世界へと魂を飛ばす呪文を唱える。

 

「リンク・スタート!」

 

 俺の視界が虹の輪に染め上げられ、意識を異世界の城――――浮遊城《アインクラッド》へと飛翔させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 はい、第二話終了です。

 実は今話、後々にまで引き摺る言葉を和人が呟いていたりします。ついでに色々と伏線を張っているので、色々と妄想してみて下さい。SAO好きが妄想したのは多分大抵当たります。

 それとあらかじめ言っておきます。

 《SAO》は、ゲーム《ホロウ・フラグメント》と原作展開両方ありますが、物凄く後にならないと終わりません。何せこのデスゲームだけで文字数が五十万近いので。理由はタグ。ただし同じ展開はしないつもりなので違いを楽しめるかと。

 次話は名前だけのチートアイテム閲覧、ニュービーの指導、デスゲーム開幕です。
 さぁ、ここから更に原作準拠ながらの若干崩壊が続きます!

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