ソードアート・オンライン ~闇と光の交叉~ 作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス
今話はゲームをされている方ならすぐに分かる展開です、ちなみに台詞もゲームを参考にしています、幾らか省いていますが。
さて、今話はキリトがとんでもない事をやらかします。正直自分自身の首を絞める行動に出ます。
さて、それは一体何なのか? にふにふと笑いながら予想してみて下さい。私の作品の主人公であるこのキリトがどういった人物で、どんな容姿だったかを思い出せばすぐに分かるでしょう。
では、どうぞ!
第二十六章 ~神話の悪鬼と最強の剣士~
リーファとの一件から、早一ヶ月が過ぎた。
デスゲーム開始から、一年九ヶ月過ぎたことになる。現在の最前線は九十二層。
なんだか龍神の作為か歴史の修正力を感じる。このまま進むと、丁度二年経ったときに百層に到達する計算だ。
その間も、俺は勿論攻略をしていた。多くのレアアイテム、レアスキルやクエスト情報を流し、マッピングデータを無償で公開もしている。
変わった事と言えば、常に誰かと一緒に攻略していることか。今までみたいなソロ攻略をしなくなったのだ。
妖精リーファ、シノンにフィリア、アスナ達に止められたことが原因なのだが。
そして一緒にいれば、必然的に彼女達も強くなる。シノンと妖精リーファの今のレベルは137。アスナ達が132だから、かなり頑張ってレベリングをしたようだ。今では二人とも攻略組に欠かせない人材となっている。
リーファはその卓越した剣技と俺との連携、シノンは遠距離からの強力で正確無比な援護射撃。ボスを翻弄していき、戦いがとても楽なのだ。
勿論フィリアとストレアもかなり強い。二人は使う武器の性質が正反対なれど、息ピッタリの連携を見せるから驚きだ。
中でも一番驚いたのが、俺が(正確には原作八巻のキリトが)編み出したシステム外スキル〈スキルコネクト〉を、四人全員が近接武器で使えるようになった事だ。俺ほど成功率は高くないし二連続までらしいが、剣一本ででも使えるようになるのは凄い。
……さて。現在の攻略層は九十二層。二年経つまで、あと三ヶ月。
原作ではこの時点で七十層に至っていなかった事を考えると、結構なスピードだ。このまま一気に突破してしまいたいとこだが…………実は今、それが出来ない問題がある。
「また攻略組メンバーが失踪したのか……」
「そうなんだヨ。黒鉄宮に行って調べてもみたけど、名前に横線は引かれていなかっタ。一体何が起こっているのやラ……おちおち外出も出来ないヨ」
アルゴの話を聞いていて分かっただろうが、今、攻略組メンバーが失踪しているのだ。しかも全体の三分の二が。
攻略組は総数約三百人。ここからボス戦でまず死なないと言えるトップレベルの剣士だけを数えると、一気に四十人くらいにまで減る。
この四十人の内、実に二十四人も失踪しているのだ。その中にはアスナ達、攻略組大手ギルドメンバーも含まれている。
そのせいでアインクラッド全体の士気が落ち込んでいる。攻略ギルドなんてもう殆ど活動していないと言って良い。これはかなりマズイ状況だ。
昔の俺ならボスをソロで攻略するのだが、いかんせんこの層だけはソロで挑めない。俺の予測が正しいなら、絶対に来るはずだ。ヤツが――
「……何だか、心当たりがあるみたいだネ?」
俺がそう思考を広げていると、それが顔に出ていたのかアルゴが訝る表情で見てきた。
流石、恨みを買いまくっている情報屋、人の顔色や思考を読むのが出来るだけある。
「推測に過ぎないけどな……アルゴ。これからはあまりフィールドに出るな。それと、絶対に一人でいるなよ。せめて信用できる、付き合いの長いヤツと二人でいろ、いいな」
「それはもう皆にも伝えてるし分かってル。けど、キー坊はどうするんだイ?」
「俺は、この元凶を潰しに行く」
そう言って立ち上がり、ホームを出る。アルゴの制止の声が聞こえるが、誰かを巻き込むわけにはいかない。
フレンドリストの追跡設定を変更、追跡不可にしてフィールドを疾駆。コラルの村の転移門を使って九十二層に転移。すぐさまフィールドへ移動する。
前世でしたゲームなら、この時期に最前線に来た直後は戦闘があるのだが、クラインも失踪しているため発生しない。
というか、《風林火山》はおろか、《血盟騎士団》に《聖竜連合》のトッププレイヤーの殆どが失踪、壊滅状態にあると言っていい。早く助け出さないと、間に合わなくなってしまう。
そのまま進み、林の中にある大岩の前に立つ。そのまま二刀を振るって岩を『破壊』する。フィールドオブジェクトは基本的に破壊不能オブジェクトだ。破壊できたという事は、やはりここだろう。
そのまま入ると、やはりここで合っていた。
SAOは基本的にファンタジーや古代西洋をモチーフにしている。文明利器が無い、剣が世界の代名詞なのだから当然だ。
つまり、この世界にファンタジーのような感じを受けない物は、この世界にとって『異物』にあたる。
そう、今目の前にある、プレイヤーを閉じ込めたカプセルやその周りの機器とか。
その機器を弄っていたらしい男がこちらに気付いた。格好こそ冒険者で結構良さげな装備だが、足運びや気迫は完全な素人。剣に命を懸けていない。
「お、お前! どこから入ってきた?!」
「普通に真正面からだぞ。失踪者の救出に来たんだよ、ギルド《ティターニア》。お前らの悪行もここまでだ。精神・記憶の改竄研究なんぞ、俺が全て潰してやる」
「っ?! どうしてそれを……?!」
「へぇ? 適当にカマ掛けてみたが、当りを引いたのか? これは益々潰さないとな」
嘘である。前世で原作小説やゲームをしているから言えた事。普通は予想できる筈も無い。
このセリフを言ったのは、あとで整合性を合わせる為だ。若干違和感はあるだろうし疑念を持たれるだろうが、ここで言質を取った事を事実にしておけば、変に怪しまれる事は無い。
「おい、どうした? 騒がしいけど……」
「し、侵入者だ! 【黒の剣士】だ!」
「な、なんだと?! 者ども! 出会え出会え!」
ここは一体どこの武家屋敷だ? いや、まあ和装のヤツもいるみたいだから似合っちゃいるが、古風だな。嫌いではないけど。
「ふん! 三十三人の俺達に、たった一人で立ち向かえるのか?」
「俺達のレベルは、お前を警戒して250、リーダーに至っては300だ!」
「……お生憎様。俺はゲーム開始時から何故かチート装備を持っててな……今の俺は、レベルに左右されるほど弱くはないんだ。さぁ選べ。黒鉄宮の監獄に行くか、それとも…………ここで死ぬか。死にたい奴から掛かって来い」
「「「「「舐めるな、クソガキがぁぁぁぁっ!!!」」」」」
俺の言葉を無視して襲い掛かってくる《ティターニア》メンバー。
だが、相手が悪かったな。
「お前らがこの世界解放の障害になるのなら、俺は一切容赦しないっっっ!!!」
《二刀流》ソードスキル二連撃範囲技《エンド・リボルバー》。左回転で一閃、その際に引き絞っていたエミュリオンを右に一閃、これで終。
二連撃を綺麗に喰らった男六人は、HPを一気に減らし、その体をポリゴンに変えて死んだ。周りの者達はそれを見て硬直した。
当然だろう。自分達が圧倒的強者と思っていたのが、実は相手のほうが圧倒的強者だったのだ。しかもステータスは異常に高くしていたのに、それでも即死。
俺はリンベルサーを突き出し、口を開く。
「投降するヤツは武具を全て解除して、部屋の片隅で怯えてろ。それが嫌なら掛かって来い、容赦なく殺してやるよ。逃げられると思うなよ? 俺は攻略組最強の【黒の剣士】であり、SAO最凶の【殺戮者】。顔、口、口調に仕草のクセ、全て覚えた。一度狙った獲物は、絶対に逃さない……!」
俺の殺気を浴びてか一様に固まったあと、急いで武装を全解除して部屋の片隅に行く男たち。人数を数えて顔を覚える。
その後機器を操って全員を助け出し、事情を説明して見張りを任せる。
「キリト君、君はどうするの?」
「俺はちょっとこの先に用がある。皆はそいつらを見張って、どうするか処遇を決めといてくれ。まぁ、逃げ出しはしないと思うが、な……」
アスナ達に後を任せ、俺は奥に進む。
奥にはコンソールがあり、結構な量のデータが保存されていた。それを一通り調べた後、全てを消去する。内容は予想していた物ばかりだったからだ。まぁ……符丁や暗号を解読したものは、許されない物だったが。ここのデータを抹消し、バックアップが取られていた場所のコンソールも全て探し出して同じように抹消した。もうこの研究は出来ないだろう。
ヤツを捕まえていないから油断は禁物だが。
全ての作業を終えたのは午後五時になってからだった。時間は遅いが、かといって家に帰るには若干早い。なのでリズベット武具店に行く事にした。
転移門で四十八層に飛び、リズの所に行く。店に着き、中に入ると――――
アスナとユウキと黒髪リーファとシリカとサチに泣いて抱きつくリズの姿があった。
「「「「「「……………………」」」」」」
「……………………邪魔したな」
ぱたんと店のドアを閉める。と同時。
「「「「「「ちょっと待って――――――――っ!!!」」」」」」
音は一切漏らさない筈の圏内コードを突き破るほどの叫び声が響いた。
そして数分後思いっきり皆をからかい、半泣きで睨まれながら言い訳を聞いていた。
「いやーリズが百合に目覚めたのかと勘違いしたぞ」
「アンタ、それ絶対嘘でしょ! さっきからあたし達を楽しんでる目で見てたし!」
「酷いよ、キリト君! 私達百合趣味は持ってないよぉ!」
「そうだよ! キリトくんはデリカシー無さ過ぎ!」
「キリトさんってこんなキャラだったっけ……?」
「うぅ……キリトさん、冗談が酷いですよ」
「キリトって意地悪なんだね……私知らなかったよ」
「あっはっはっはっはっは! まぁ、感動の再会に水を差して悪かったよ」
大いに笑えたが、何で泣いて抱きついていたかは簡単に想像がつく。アスナ達が失踪してから、リズはかなり落ち込んでいたのだ。それはもう、武具の質まで落ちるほどに。一時期は店が潰れかけた事さえあり、俺が代わりに武具を鍛えていたほどだ。
それがいきなり全員帰ってきたのだから、泣いて抱き付きもするだろう。
からかったのは面白そうだったからだが。
「ハァ……それで、キリトはどうしてここに来たのよ?」
「ホームに帰るには時間が微妙でな。アスナ達を救助した話ついでに、雑談でもして時間を潰そうかと」
「そう……そういえば、どうやってアスナ達を救出したのよ? なんだか普通じゃないエリアだったらしいじゃない、そんなとこをよく見つけれたわね?」
「ま、その辺は秘密……と言いたいとこだがな。《ティターニア》の拠点を調べてたらたまたま見つけたんだよ。で、マークしてて他に候補地も無かったんで、突っ込んだら当たりだったってわけだ」
「へぇ……なんだか、キリトさんに分からない事なんて無い気がしてきたなぁ……」
ユウキが感嘆の声を上げる。
実は元から知っていた、なんて口が裂けても言えない。それは俺が転生者――生きた死者だという事を暴露すると同時、《桐ヶ谷和人》だという事も暴露する事になる。それは今の時期にはマズイ。
まぁ、初めから明かすつもりは無い。気付かれれば話すつもりだが、気付かれないようにするのが現時点での目標だ。
「でも、主犯格のアルベリヒは捕まってないんでしょ?」
「ああ……ま、その内出てくるさ。何せ俺はアイツの恨みを買うよう動いたんだ、絶対に来る。もしかしたら、九十二層のボス戦後に俺達を殺そうとするかもしれないな」
「え、ええっ?! キリトくん、それは流石に無いんじゃ……」
「いや。ああいうタイプの人間は自分が最高じゃないと気が済まないし、自分の目的の為なら、邪魔なものはどんな手を使っても排除しようとする。あいつの場合、この世界をクリアに導いた英雄を気取りたいんじゃないか?」
俺の推測(という名のズル)を聞き、皆が絶句する。まぁ、そりゃそうだ。誰だって理解は出来ないだろう。俺だってゲームをしてた当時はオイオイ……と思った。
だが、《桐ヶ谷和人》として茅場経由でヤツと会い、その人柄を知っている今、この推測は絶対に当たると確信を持って言える。平気で原作どおりに笑いながらするだろう。
それは絶対阻止、ないし俺が犠牲になってでも止める。俺のせいで、これ以上周りの皆を巻き込むわけにはいかない。既に、この世界を作ってしまった時点で、皆に贖いきれないほどの罪を俺は背負っている。
まったく、転生した時には想像も出来なかった展開だ。ここまで俺が変わるなんて、予想外もいいとこだ。ここまで俺は、罪に対して弱かっただろうか……?
「なんだか、キリト君が言うと説得力が違うのよね……一応気を付けとくわ」
「そうしてくれ……ああそうそう。九十二層のボス部屋を見つけてる。明日コリドーマーキングするから、明後日ボス攻略な」
アスナ達にそう言って店を出て、俺は転移門に行く。二十二層に戻ると、いきなり誰かに突進された。
もしかしてアルベリヒか?! と思って身構えるも、突進してきたのは茶色のローブ姿のプレイヤー。そのまま俺に突っ込み、俺を抱きしめてきた。筋力パラメータが大きい俺はよろけもしなかったが、いきなりの事で硬直してしまう。
そのローブ姿のプレイヤーは、鼻声でか細い声を紡いだ。聞き覚えのある、長い間親しんだ女性の声。
「グスッ……無事でよかったヨ、キー坊……キー坊までいなくなったら、一体誰がデスゲームを終わらせるのサ…………?」
「アルゴ……? 泣いてるのか?」
俺はかなり困惑した。いきなりの事で驚いたという事もあるが、アルゴが泣いている事に、今までアルゴと接してきた中で一番驚いた。
周りには一切人気が無い。だからだろうか? 普段は一切感情を見せたりはしないアルゴが、涙を流して震えているのは。余程心配させたらしい、その目は完全に潤みきっていて赤く充血している。
SAOは意外なとこまで細かいこだわりがあるようだ。何時の間に入れたのだろう、茅場は。
そんな現実逃避気味な思考を振り払うように、尚更強く抱きしめてくるアルゴ。平時の冷静さや飄々とした雰囲気をかなぐり捨て、感情を爆発させている。
思えば、SAO内での付き合いの長さで言えばアルゴがトップだろう。俺が第一層ボス攻略でオレンジになったあとも、アルゴは臆さず接してくれた。ケイタ達が死んで俺が荒れていた頃も、怯えながら、しかし絶対に逃げずに接してくれた。アスナ達とはよくぶつかり合ったし、何回かは本気で剣を交えもしている。今ではかなり親しい関係になってはいるが、一番世話になったのはやはり、アルゴだ。
「キー坊がいなくなったら……お姉さん、本気で泣いちゃうヨ…………」
「…………悪かった。でも、一人じゃないと危険だったんだ」
「……キー坊がそう言うんだったらそうなんだろうネ。でも……残される人の事を、少しは考えて欲しいもんだヨ。キー坊に惹かれてるのは、なにもアーちゃんたちだけじゃなイ。オレッち……ううん……私も、キリトに惹かれてる」
途中、いつもの語尾を上げる独特なイントネーションの喋り方をやめ、普通の喋り方に変わったことに、俺は心底驚愕した。
それと同時、アルゴまでアスナ達と同じだという事にも。今までそんな素振りを見た覚えは無いのだ。
「アルゴ……いや、でも、アルゴがそんな素振りしたことは」
「一杯あるよ。キリトが気付いてなかっただけ。キリトは、本当に鈍いからね、半ば諦めてたんだけど……やっぱり諦めきれないんだよ…………今日はこの辺で勘弁してあげる……でも」
俺から一旦離れたアルゴの表情は、晴れやかで、しかしいつもの人を食ったような笑みでは無かった。
子供のような、無邪気と言える笑顔。
「向こうに戻ったら、絶対に私がキリトを射抜く。覚悟してるんだよ?」
アルゴはそう言うと、素早く転移門でどこかへ転移してしまった。
これは告白と思って良いのだろうか? だとしたら、俺は最低な男だ。多くの女性に好かれているのに……それに答えられないのだから、絶対に。
その日は早めに休み、翌日、同居五人一匹パーティーにアルゴまで加わった事に、内心冷や汗を浮かべる。なんだか四人とアルゴの間に火花が散っている。
「キ~リ~ト~? これはどういう事~?」
「キリトくん……まさかアルゴさんまで……油断してた……」
「父さんって、結構節操無いよね。いや、天然で撃墜してってるだけか」
「キリトって、ホント、天然で鈍感だよね……」
「パパ……いくらゲームの中だからって、女遊びは程々にしておかないと……」
「お父さんの、意外な一面……?」
「アルゴ……お前これ、絶対わざとだろ」
「ニャハハハハハ! 自業自得だヨ、キー坊!」
喋り方が元に戻っているが、体を密着させるスキンシップが目立つようになった。それにどんどん目を険しくする女性陣と一緒に、九十二層迷宮区を攻略する事になった。
とはいえ、一度俺は全部攻略しているしモンスターのレベルは俺にとっては所詮雑魚。俺は援護に回り、アルゴたちのレベル上げに付き合うことに。
アルゴはレベルこそ110だったが、俺が目を瞠るほどの卓越した短剣捌きを見せた。フィリアやシノン、シリカ達にも負けていない、というかそれ以上の腕前。次々攻撃を当てていき、俺のパーティー反映効果のお陰でボス部屋到着時には120レベまで上がっていた。
スピードタイプの極み、恐るべし。
内心驚嘆しながらコリドーマーキングを済ませる。
「さて……マーキングは終わったし、さっさと帰るか。アスナ達に回廊結晶渡さないといけないしな」
「そうだね」
そのままその日は帰り、翌日、攻略会議を開き、ボス攻略をすることになった。
「皆さん、九十二層ボスは《カオスドラゴン》と呼ばれる竜型ボスです。おそらく、ブレスや引っかき、噛み付きがあると思います。危険と思ったら、すぐに後衛と交代してください!」
『『『『『おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!!!』』』』』
「皆で、生きて帰りましょう! 行きます!」
アスナが【ランベントライト】という、銀鏡仕上げの美麗な細剣抜き払い、扉を開く。それと同期して、全員も抜剣して構える。
中で待っていたのは、漆黒の鱗に紅く輝く瞳を持った巨大なドラゴン。クリスタルに見た感じは酷似している。元の大きさのクリスタルとほぼ同じか。
俺は先にクリスタルを行かせ、ユニークスキル《魔物の王(ラタトスク)》を発動、クリスタルの体躯を元の大きさに戻してボスに特攻させる。
これはあらかじめ伝えておいた。今回の囮は俺とクリスタル。俺の二刀とクリスタルの攻撃力を使って戦うのだ。これでボスの攻撃の大半は潰せる。
俺がドラゴン型に慣れているせいか、皆のレベルが矢鱈高くなっていたからか、それとも最近のストレスを発散しているからか、あるいはそのどれもか。とにかく皆の猛攻は凄まじかった。特にアスナ達の勢いは俺に迫るのではないかと思ってしまうほど。
そんな、八つ当たりされてるボスからすれば理不尽極まりない猛攻は止まらず、皆殆ど攻撃を喰らわずにボスを倒した。今回のMVPは間違いなく俺以外の皆だろう。
というか、俺と同等くらいのアバター能力になってた気がする。〈心意〉を無意識で使ってたな。
「はぁ……はぁ……はぁ……もう、だめ。私疲れたよぉ」
「ボ、ボクも……これ以上は……」
「あたしもよぉ……こんなに辛いとか……」
アスナ達他、シリカやサチ、最近攻略組に入ったリズも肩で荒く息をしてる。しかし、ここからが本番だったりするのだ。
「とにかく、これでボス戦は終わりだろ? とっとと引き上げ――――」
「――――いやいや、まだだよ?」
クラインの言葉を遮ってその声が響いた瞬間、俺を除いた全プレイヤーが地に伏した。
全員、呻きながら麻痺で倒れている。
あたかも、ヒースクリフが茅場晶彦である事を、俺が暴いた時のように。
「アルベリヒ、か……やっぱり来たな」
「おや? 低脳なゲーマーの屑でも、僕の行動を先読みするなんてね。やるじゃないか。ご褒美に君は生かしてあげよう、僕の研究の実験体としてね」
「お断りだな。お前はここで終わりだ。監獄に行くか、俺にここで殺されるか、どっちか選べ」
「ヒャヒャヒャヒャヒャ! 君、本気で言ってるのかい? 僕はスーパーアカウントっていう特別なアカウントで、レベルを300まで上げてるんだ。君のような低レベルじゃ勝てないよ!」
「そうか…………どうしてそんなアカウントを持ってる?」
俺は一応、通過儀礼として聞いた。答えは分かってるのだが、ゲームとの展開が違う為、少しでも情報を集めたかったのだ。
ゲームでは、キリトも麻痺で動けなくなったのに、なぜ俺は麻痺に掛かっていないのか気になったからだ。
まあ、この答えは得られないかもしれないが、それはそれで構わない。
「ああ、そのことかい? ……僕はね、この世界には事故で来ちゃったんだよ。そうでなければ、誰がこんな世界に好きで来るものか。それで、僕だけど…………今、現実世界では《ALO》――《アルヴヘイム・オンライン》っていう妖精になって空を飛べるVRMMORPGがある。そこのGMとして色々製作や実験をしてたんだけど、数ヶ月ほど前にこの世界に来てしまったんだ」
「《ALO》……妖精……金髪リーファのような、か」
「どうでもいいけどさ、いい加減あたしを呼ぶ時の『金髪』って枕詞外してくれない?」
倒れたまま抗議する金髪リーファ。
だってこうしないと、同じ名前のプレイヤーがいるんだから仕方が無い。そちらにも『黒髪』と付けているから文句は受け付けない。
金髪リーファと俺の視線の会話を、アルベリヒはなんともいえない表情で流し、そのまま解説を再開した。
「…………そう、そちらのお嬢さんの、ね。まぁ、その子がどうしてこの世界に来てしまったのかは知らないけど。たださっきも言った通り、この世界に来たのは本当に事故でね。その時にこのアカウントが引き継がれていて、ホントに助かったよ」
矢鱈と饒舌に喋るアルベリヒ。一体、何がお前にそこまでの自信を与える……?
「あなたは……一体この世界で何をするつもりなの?」
「……茅場晶彦は本当に馬鹿な男だよ。彼は天才だったが、こんな大事件を起こすほど愚かな男さ。彼が築き上げてきた輝かしいキャリアは全て失墜、当然アーガスは倒産。五大企業の方は統括長が知らずに巻き込まれても世界情勢や各国と深い関わりがあるからって今でも健在だけどね。そして現在、この世界の維持は《ALO》を運営している《レクト》が引き継いでいる」
「《レクト》……?!」
「そう……君のお父さんが社長の会社だよ……《明日奈》」
「――――ッ?! あなたは、まさか……《須郷伸之》……?!」
アスナが愕然と漏らした呟きをアルベリヒ――――須郷伸之は拾い、嫌らしい笑みを浮かべる。
「そうだよ。今のこの世界の支配者でもある。どういうわけか知らないけど、この世界に《桐ヶ谷和人》はいない。少なくとも、攻略組にはいないみたいだ。なら、この世界を終わらせるのは僕がする。そうすれば、自らデスゲームに飛び込み、見事クリアし皆を救った英雄として祭り上げられるだろう」
目に狂気を宿らせて早口に言葉を紡ぐアルベリヒに、周りは呆然とするばかり。麻痺になってるから動けないのもあるだろうが、狂人の思考に付いていけないのだろう。
俺は冷めた目で須郷を見ながら、ある事を考えていた。いずれはバレるだろうし、もう明かしても良いと思ったからだ。
これから再びソロに戻るわけだが、それでも構わない。
『《桐ヶ谷和人》は《須郷伸之》の犯行を見ていた』という事実が重要なのだ。
「《桐ヶ谷和人》はいない、ね…………本当にそう思ってるのか?」
「……どういうことだい?」
「――――こういうことだよ」
俺はストレージから一つのアイテムを出す。長方形型のそれは【手鏡】。
二年前、茅場がプレゼントと称してプレイヤー全員に配布したアイテム。
その効果は、『アバターをリアルに似せる』事。
手鏡に俺を映した直後、俺は蒼い光に包まれ、数秒後に光は四散した。
そこで少しの違和感。アバターの身長設定をリアルから変えていたから、違和感は目線の高さや四肢の長さの変化が原因だ。俺は再び手鏡を、実際の姿を肉眼で見る。長い黒髪に大きめの黒い瞳、美少女と間違えられる女顔、細めの手足。そこらの女子よりも低い背丈。間違いなく、リアルの俺の姿だ。
アルベリヒ――――須郷を見ると、ヤツは唖然とした表情となった。
「なっ……お前が、桐ヶ谷和人だったのか?!」
「うそ、でしょ……?!」
須郷とアスナが喘いでいる。他の皆も似た感じだ。ユウキだけは推測していたのか、表情はあまり変わらずだったが。
「そうだ、俺が桐ヶ谷和人だ。それで、お前は俺を殺してSAOクリアの英雄になって、何をしようとしてる? 何が目的なんだ?」
俺が改めて問うと、須郷は気を取り直して説明を再開した。
「今、現実では明日奈と僕の縁談が持ち上がってる。彼女と結婚すれば僕は《レクト》の社長になり、統括長を失った五大企業も合併吸収でいずれは僕のものにする。そしてあの研究も完成すれば、僕は現実世界の王、いや神になれる!」
「そ、そんなこと、誰も許しはしないわよ! 現実に戻ったら、あなたの犯行を全て警察に――――」
「それは無理だよ。彼のせいで研究データが無くなってしまったけど、僕がしていた研究が完成すれば、むしろ君は喜んで僕を受け入れてくれるようになるだろう」
「なっ……?! どういうこと……?!」
アスナが絶句する。
どうでも良いが、意外に口数多いなアスナ。混乱しすぎてるからか?
「僕のしている研究は精神・記憶の改竄だ、上書きと言っても良い」
「改竄……?」
「そう。例えば戦争、戦争は怖いよねぇ? どんなに辛く厳しい訓練をした兵士でも、死を前にすると怯え竦んで動けなくなってしまう。その恐怖を、死への喜びに変えてあげると、恐怖を抱くどころかむしろ喜んで危険な任務をする、素晴らしい兵士が出来る。どうだ、凄いだろう?」
「狂ってるわ…………」
「確かにな……俺がお前を止めてやる」
「フフッ、それは無理だよ。なぜならぁ……アスナ以外は、ここで殺すつもりだからねぇ!」
そう言って赤い細剣――――ではなく、黒く禍々しい黒剣を取り出して構えた。見た感じ特殊効果ありだろうが…………
「これはねぇ、【デスブリンガー】と言って、どんな相手でも、どれだけHPがあっても即死させれるスーパーアカウント限定武器なんだよ。それも徐々に、じわじわとだ」
「なるほど…………特殊武器なら、俺の装備の即死無効化効果は意味無いな。当たれば終わり、か……」
「そうだよ桐ヶ谷君。だから――――ここで死ねぇっ!!!」
そう言って片手剣一本で突進してくるアルベリヒ。しかしやはり構えも走り方もなっていないし、速さを利用したフェイントも無い。やはり雑魚。
だが即死武器を持っている以上、俺から手を出すわけにもいかない。
と、いうわけで。
「――――アルゴ! 今だ、やれ!!!」
「分かったヨ、キー坊!!!」
「何っ?!」
ボス部屋入り口から飛んでくる数十本のピック。その全てが薄い緑にテカっている。レベルMAXの麻痺毒だ、受ければ一時間は余裕で動けない。しかも普通の麻痺毒と違い、レベルMAXのは、左手も頭も全く動かせなくなると言う極悪ぶり。
それを完全雑魚のアルベリヒに避けれる筈も無く、綺麗に背中に刺さって動けなくなる。俺は流れ弾を全て二刀で弾くか移動して避けたため、一切当たっていない。
レベルMAXの麻痺毒なので目だけを動かし、囁き声で小さく叫ぶ。
「くっ! 何故だ! ここにいるプレイヤーは全員システム的麻痺にした筈……!」
「残念だったな。こうなる事を見越して、アルゴに安全地帯でハイドしてもらってたんだ。パーティーを組んで、俺以外が麻痺するかお前を見かければ即座にこの部屋の手前まで来るようにな。戦闘になるだろうから、その時に後ろからレベルMAX麻痺毒ピックを投げるよう頼んどいたんだよ、俺に構わずやれって」
「クソッ! クッ、何でだ! 体が全く……」
「レベルMAXの麻痺毒は一切体が動かせない極悪仕様だ。悪いが、ちょっと使わせてもらうぞ……」
俺はヤツの左手を振ってウィンドウを出し、全員に掛かってるシステム麻痺を解き、デスブリンガーを破壊。続けてアルベリヒのレベルを1にし、装備も全て初期装備に変更。
その後、スーパーアカウントは俺が没収した。
「これでもう、お前は何も出来ない。ステータス的有利も、アカウント的有利も無い。クライン、エギル。コイツを監獄へ頼む。スーパーアカウントは処分した」
「わ、分かった。任せとけ、キリの字」
「なっ、近づくな。離せ! 離せ! この低脳どもがぁ!!!」
「さんざん言ってくれたし、やってくれたからな……たっぷりお返ししねぇとな……それと、キリトには後日、色々と聞きてぇ事があるから覚悟しとけ」
おお……エギルが指をバキバキ鳴らして凄むと迫力がある……てか、ぶっちゃけ怖い。
そのままクラインとエギルに引き摺られていくアルベリヒ。向こうに戻ったらどうするべきか…………
そう考えていると、いくつもの足音が響き、嫌な予感がピキューンと額に浮かんだ俺。なんとなくこの先の展開が読めた。
「…………キリトくんが、和人だったんだ……」
俺の後ろに、鋭い目つきで俺を睨む黒髪リーファ――スグ姉が立っていた。
「……スグ姉…………悪かった、黙ってて」
「……キリトさん、どうして黙ってたの? それになんで手鏡を使ってなかったの?」
スグ姉の横に並んだユウキが不思議そうに聞いてくる。
まあ普通そう思うだろう。あの時はみんな、呆然としたまま茅場の指示に従ったのだから。
「俺が桐ヶ谷和人とバレると、俺を殺しに来る人間が大勢いただろうし、手鏡は解説でアバターをリアルに近付けるって書いてあった…………だから使わなかったんだ」
「それは、そうだろうけど……」
スグ姉が何かを言いたそうに、しかし頭が混乱してるのかつっかえていた。他の皆は俺を様々な感情を込めて見ていた。悲しみ、怒り、憎しみ、驚愕……大体がそんな感じの眼だ。特に俺に憎悪の眼を向ける者が多い。予想してはいたが、やはり…………
「……………………どうやら、俺は消えたほうが良さそうだな……」
アスナ達にそう言って、俺はボス部屋の先、九十三層へ続く階段を上がった。後ろから追いかけてくる足音も、俺を非難ないし制止する声も聞こえない。
俺はそのまま九十三層に上がり、転移石でホームの二十二層へ帰った。
アルゴにはメールですまないという謝罪と助かったという礼を送った。返信で、キー坊の依頼は皆の為になる物だったからナ。やって当然だヨ……無事にな、と来た。最後に普通の喋り方にするのは卑怯だと思う。
……そういえば、アルゴって幾つなんだろう? 歳は近いのか?
まぁ、それはいいか。歳が近ければ必然的に、向こうで作られる急造の学校で会うし……いや、この場合は『遭う』の方が正しいか? いつも場を引っ掻き回すし。
そんな取りとめも無い思考を展開しながら、ユイとルイへの説明も程ほどに、俺は自室に引き上げた。
俺は今後の事で頭を抱えた。須郷の事を許せないというのもあったが、軽率が過ぎたと後悔する。今後、俺の未来に光は無いだろう。俺は《桐ヶ谷和人》、この世界に巻き込まれた一被害者とはいえ、この世界の創造主の一人だ。絶対に許されはしないだろう…………
その思いを心に刻み、俺は疲れて寝たのだった。
はい、如何でしたでしょうか?
途中、アルゴさんをぶっこみました。なぁんか原作でもアルゴとキリトの繋がりって怪しいんですよね……こう、キリトの事を放っておけないからちょっかい出してるみたいな、そんな感じですよね、彼女。一つ違ってたらキリトはアスナでは無くアルゴを選んでいてもおかしくは無いですよ、《プログレッシブ》が無かった場合。
だからそんなアルゴが、原作以上に無茶をして、それも命を捨てるのも厭わない勢いで攻略を進めているキリトを見ていたらどうなるかと思って書いていると、いつの間にかこうなっていたという……後悔はしてません。私、アルゴさん大好きなので。
だがしかし、彼女はヒロインでは無い……メインでもサブでもありません、彼女はキリトの良き理解者という感じです、どの世界でも。
さて、自らの正体を明かしたキリトですが、攻略組の前から立ち去りました。これはデスゲーム開始後、第一層攻略後にビーターとして一人で進む時の二つのキリトを踏襲しています。今回は創造主の片割れ、つまり本当の憎むべき存在として一人で進みました。
最初は尊敬を向けられ、次に嫌悪を、最後に憎悪を向けられています。これを繰り返すのが本作の特徴です。基本的に持ち上げられ、地獄まで落とされるのがキリトです。
正直、この作品の内容を大まかに語ると、大抵はストレス大丈夫かと私が心配されるくらいに報われないです。物凄く後にならないと報われません。
しかし、人間、鞭がキツくても飴があればやっていけるように、キリトにも救いが現れます。そう、ヒロインの確定です。
次話で確定されるヒロインとは誰なのか? まぁ、分かる人には分かるでしょう、かなりヒントをばら撒いていますからね。
でも数人まで絞り込めても、その後が困るでしょうね。
さてさて、誰になる事やら( *´艸`)
それでは次回予告です。
次回、キリト、結婚する?!
……以上です。
ちなみに確定する子の答え合わせは本日午後六時、本作と、R18作品の両方で分かります。
ただし後者は物凄いネタバレになるので、ネタバレを嫌う方は読まない事をお勧め致します。何があっても自己責任です。本編に関わっている事はお伝えします。あらすじでも書きましたので悪しからず。前書きと後書きは本編に関して書いていますのでご注意下さい。
ちなみに、そちらはお試しと以前言った気もしますが、ガチものです。彼女のイメージがぶっ壊れても責任は負えません。その辺を承知の上で閲覧をお願い致します。
それでは!