ソードアート・オンライン ~闇と光の交叉~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

24 / 65
 どうも、おはこんばんにちわ、黒ヶ谷・ユーリ・メリディエスです。

 今話もタイトルで分かります。ゲーム知らなくて原作知っている人でもギルド名聞いてすぐさま気付きます。どっちも知らない人でもキリトが解説してくれます。

 そして、本来なら感動するシーンである第一層地下迷宮ですが、母親居ないしキリトのスペックなら創造主の片割れという事もあって三人分いけると思うので、感動するシーンは無いです。タイトルからもここはサラッと重要でないと言っていますしね。

 そんな訳でユイファンの方には申し訳ありません。彼女の真骨頂はもっと後なんです。基本的にキャラがキリト以上に活躍しだすのは成長してからですから。



 ちなみに、ずっと書かなくてはと思って書き忘れていた事があります。一パーティーの人数についてです。

 原作では一パーティー七人、一レイド四十九人の最大人数で七パーティー構成です。これは《プログレッシブ》のボス攻略、《ファントム・バレット》でシノンが所属するスコードロンや《キャリバー》、《マザーズ・ロザリオ》でもそうなので、SAO、ALO、GGO共通のようですね。

 対して今作は一パーティー八人、一レイド四十八人の最大人数で六パーティー構成という設定にしています。

 理由はタグから分かると思いますが、SAOシリーズだけでなくISキャラも入るからです。更に原作に居ないルイ、ストレア、フィリア、亡くなる筈の紺野家も生存しているため、どうしても枠を増やさなければならないからです。

 あとゲームではフロアボス戦で、キリトとパートナーキャラの他に、キリトと最も仲の良い三人パーティーが二組入り、合計八人のパーティーとして戦っていたからです。

 ぶっちゃけるとユウキが原作パーティーに加わるので、どうしても一人分増やさないと誰かが抜けるんですよね。彼女は現状アスナ、リーファと一緒に居て、シリカはリズベット、妖精リーファはシノンと一緒なので、キリトと一緒にしようとするとどうしても八人パーティーにならざるを得なかったのです。

 という訳で、そんな変更点がありますが、どうかご容赦ください。

 長々と失礼しました。ではどうぞ!


第二十三章 ~攻略組入団試験~

第二十三章 ~攻略組入団試験~

 

 翌朝、ユイ、ルイ、ストレア、フィリアを連れて第一層始まりの街に降り立つ。

 目的は基部フロアに出現した地下迷宮の探索を頼まれ、それに答えて――というのは建前で。本当の目的は最奥にあるシステムコンソールだ。コンソールでユイとルイのGMアカウントを使い、三人を俺のローカルメモリに保存する為だ。

 コンソール自体は七十六層にもあるにはあるのだが、他の誰かに見られるのはマズイし、あれを護るボスモンスターがちょっと強すぎだったのだ。

 対して、ここの地下迷宮のコンソールは安全地帯にあり、三人の娘とフィリアを護る事を気にせずに操作が出来る。守護ボスとして死神がいるが、それは多分大丈夫だ。

 依頼してきたディアベルと、物凄く久しぶりに会うコペルに挨拶する。彼は二十層攻略の頃から後衛に回ったので、俺と会うのは一年以上振りだ。

 

「キリト君か! 久しぶりだな、無事だったか」

「キリト、相変わらず元気そうだね。無理はあまりし過ぎないようにね」

 

 朗らかに笑いかけてくるディアベルとコペル。後ろにいる四人の事を聞かれ、フィリアは仲間、ユイとルイとストレアは義理の娘と答える。

 どうして三人が娘なのか、なぜ戦えない三人を連れてきたのかを聞かれ、他言無用だと言ってから正直に答える。二人は「キリト君らしい」「相変わらずだね」と言ってきた。昔からの俺の行動原理を良く知る分、納得したらしい。

 戦闘メンバーは俺、フィリア、ストレア、ディアベル、コペル、キバオウの六人。キバオウは俺を見て嫌がっていたが、そもそも頼んできたのは軍の方。渋々受け入れてはいた。

 ちなみに、ディアベルとコペルは《聖竜連合》所属だが、元は《軍》の団長副団長だった為、こうしてちょくちょく《軍》の依頼を受けているようだ。今回俺まで呼ばれたのは、中のモンスターが強いかららしい。初めは60レベル代でも、進むと100レベル代のまで出たのだとか。

 フィリアとストレアのレベルは125、ディアベルが98、コペルは93、キバオウは96。

 最前線に積極的には出ていないコペルが90レベル代というのは驚いたが、話によればマッピングには出ていたらしい。ボス攻略戦に出ていないだけらしいので、単に俺が知らなかっただけだ。

 このパーティーなら、余程の油断あるいは死神型守護ボスが出ない限り、簡単に全滅はしないだろう。

 

「そういえばキリト君、昨日のアスナさんが送ったメールの返事、ありがとう」

「メール? 何があったの?」

 

 ディアベルの藪から棒な礼の言葉に、何か知らないフィリアが首を傾げる。

 

「実はワイら《アインクラッド解放軍》と《聖竜連合》、《血盟騎士団》とか、攻略組のギルド全部のリーダー格を集めてある会議が開かれたんや。新興ギルドが攻略組に入りたい言うて、ワイらに便りがあってな。それで模擬戦をすることになったんやけど、その模擬戦の立会人として、キリトはんも呼んだっちゅーわけや。戦闘全般の見極めには一家言あるキリトはんの判断なら、何においても信用できるからな」

 

 キバオウがそう言ってフィリアとストレアに説明している。

 正直、キバオウが俺に高評価を出すなんて、何か企んでるのではと勘繰ってしまう。流石に穿って考えすぎなのですぐに考えを改めたが。

 

「へ~、凄いね父さん。それで、その新興ギルドってなんて言うの?」

「ギルド《ティターニア》。構成人数は七人、リーダーの名前はアルベリヒ。全員がハイレベルの剣士で、最近下層中層で有名になっているギルド、だそうだよ」

「でも噂でしか知らないし、それで判断するわけにもいかないからキリトを呼んだんだよ。攻略組メンバーが増えてくれるのは嬉しいしね」

 

 コペルがそう言うが、俺がこの依頼を受けた理由は別にある。

 それは、アルベリヒの注意を俺に向ける為。間違いなく、アルベリヒは俺の知るアイツだ。アイツも俺も、姿はリアルの物ではない以上、俺が相手をする方が都合が良い。妖精リーファ同様、《桐ヶ谷和人》が《キリト》だと分かってるかもしれないが。

 そのまま迷宮を降りていく。ディアベル達三人と俺達三人でモンスターを交互に相手していく。ほとんど一撃で即死させるという、俺達の一方的過ぎる戦いにポカンとする三人。ユイとルイが「がんばれー」と応援するので、尚更緊張感がない。

 そのままマッピングをしていき、最奥のコンソールがある地点まで辿り着く。ここから俺が先頭を歩き、今まで抜いていなかったリンベルサーも抜いて二刀を構える。

 少し歩くと、闇の中からいきなり大鎌が振り下ろされ、それを全力で弾く。この攻撃は喰らうと即死する攻撃だ。

 事前に聞いていたので冷静にパリィし、攻撃を弾いたことで相手の隠蔽が解け、その姿が顕わになる。

 黒い襤褸切れを被り、大きな鎌を構え、落ち窪んだ眼窩に暗い赤の光を燈す髑髏。死神型ボスモンスター《フェイタル・リーパー》。あらかじめユイ達に聞いていた。

 

「コイツの相手は俺がして抑えておく! お前ら全員、あそこにある安全地帯まで全力で走れ! ユイとルイを忘れるなよ!」

 

 返事を待たずに死神に突進する。俺に気を取られたせいで、フィリア達が安全地帯まで走りぬけていく。

 俺の攻撃が入っても、死神のHPはろくに削れていなかった。八十層ボスと聞いたが、原作同様、異常な強さを持っている。

 だが、ここで負けるわけには、いかない……!

 

「――――――――ぁぁぁぁぁああああああっ!!!」

 

 俺は咆哮し、エミュリオンとリンベルサーを構えて死神に斬りかかった。

 

 *

 

 それからの事は良く覚えていない。気付けば仰向けで寝ていて、フィリア達の泣き顔が見えた。

 また意識を失っていたらしく、気が付くとフィリアに膝枕をされていた。ディアベル達は既に帰ったのか、ここにいるのは俺達だけ。俺の目が覚めた事に気が付くと、四人は俺に抱きついてきた。

 話によれば、死神ボスは俺一人で倒してしまったらしい、しかも殆ど速攻で。

 その後また倒れたので、じゃんけんで勝ったフィリアが膝枕をしたということらしい。ストレアが若干むくれていた。たった一日の触れ合いだが家族の絆は既に出来ているようで喜ばしかった。

 

「……それじゃ、早速やるか。三人共、覚悟は良いな?」

「「「はい!」」」

 

 三人が力強く頷くのを確認し、ユイとルイ、二人のGMアカウントを使用してコンソールを起動させる。

 ここからは時間との勝負だ。手早くしなければカーディナルに気付かれ、MHCPとしての三人も、GMアカウントを使ってシステムに干渉している俺も消去されかねない。

 俺の場合はアカウントの消去だろうが、それはHPがゼロのなる事とほぼ同義。急いで三人を俺のナーヴギアのローカルメモリに移す必要がある。

 カーディナル内のプログラムを走査。三人を見つけてカーディナルから切り離し、俺のナーヴギアに転送。ここで時間が掛かった。

 なにせ人工知能と人格プログラムの二つを、同時に三人分転送しなければならない。バグで色々やばくなっている状態での外部へのデータ転送は、遅くなるに決まっている。

 ホロウィンドウに表示されたインストールバーが徐々に右端へと行くのを、まだかまだかとじれったい思いで待つ。そしてバーが右端へ到達すると同時、コンソールから光が迸り、近くにいた俺は思いっきり吹っ飛ばされた。

 離れていたフィリアのところまで吹っ飛ばされ、受け身を取る。ユイ達三人は蒼い光に包まれて姿を消した。

 

「ユイちゃん達消えちゃったよ?!」

「……ギリギリ間に合った、大丈夫だ。一時的にアイテムとして格納されただけで、ちゃんといるよ」

 

 転移結晶で一旦ホームに戻り、メニューを開く。【MHCP001】【MHCP002】【MHCP003】という名前のアイテムを三つ同時にオブジェクト化。

 オブジェクト化された水色の涙滴、黒の勾玉、薄紫のハートの小さなアイテムをタップすると同時、アイテムは消えて三人が現れた。

 これで三人はSAOがクリアされた後も存在し続ける。その事に喜びつつ、俺、フィリア、ストレアは七十六層【アークソフィア】へとコラルの村から転移した。

 ユイとルイは留守番だ。アルベリヒの注意を引くわけにはいかない。

 俺達が転移すると、既に攻略組の殆どが集まっていた。

 ディアベル達が心配そうに俺を見ていて、それに笑みを返す。他の攻略組の視線は、俺の後ろにいる少女二人に向けられている。昨日今日で初めて見たからだろう、その視線は疑問に満ちているものだった。

 事情を知らない皆の視線が彷徨い、その中でも俺と割と親しいクライン、エギル、ルシード、ルネードの四人が進み出てきた。

 

「なぁキリト……そっちの二人、誰? お前の彼女?」

「……ルシード、分かってて聞いてないか? 二人とは少し前に知り合ったんだ」

「フィリア、トレジャーハンターを生業としてる短剣使いでソロよ。今はキリトとパーティーを組んでるの」

「アタシは大剣使いのストレアだよ。父さんの三人目の娘です!」

「……は? キリト、お前ぇ、娘なんていたのか?! いや、そもそもお前ぇ結婚してねぇだろ! なにか?! アスナやユウキ達ととうとう結婚したのか?!」

 

 クラインが鼻息荒く詰め寄ってきて、正直ウザイ。他の皆は唖然として言葉も無いようだ。何故かアスナ達が嬉しそうにしていたが。

 

「違う、結婚してない。色々事情があって、ストレアを助ける事になっただけだ。事情は一切話す気は無いし、あと二人いる娘との事情も話さないからな!」

「おいおいキリト、それは流石に無理が……いやスマン。悪かった忘れるから、頼むからその二刀の柄を握ってる手を離してくれ、お前の場合洒落にならん」

 

 エギルが慌てて言うのを聞き、俺は二刀から手を離す。周りも聞く気はなくなったのか、俺が見ると顔を逸らした。

 

「…………何してるの、キリト」

「いや、別に。攻略組の雰囲気なんて、真剣な時以外こんなもんだ。結構楽しいぞ?」

「それは父さんだけな気がするなー……」

「えっと……とりあえず、来てくれてありがとう、キリト君。分かってると思うけど、今回の試験にキリト君も立ち会って意見があったら言って欲しい。それと……そっちの二人の実力は今日見たけど、一応この場でも見せてもらいたい」

 

 ディアベルが苦笑しながら助け舟を出してくれた。それに有難く乗っからせてもらう事にする。ディアベルの言っている事は、事前に二人にも一応言っている。

 

「ああ。それは分かってるし、一応二人にも言ってある。それで、二人の相手は?」

「それはあたしと――」

「ボクがするよ」

 

 そう名乗り出るリーファとユウキ。

 確かに、《血盟騎士団》副団長の二人がなら結果にも納得なのだが……何故だろう。二人から只ならぬ気配が出てる気がする。それを受けたフィリアとストレアも、何故か同種のオーラを出している。一体どういう事か。

 

「うわー……キリト、あの二人大丈夫か?」

「ストレアはかなり強いし、フィリアも相当な激戦を経てる。ちょっとやそっとでやられるほど弱くはないよ……なんであのオーラが出てるのかは分からないけど。それと……噂の新興ギルド、来たんじゃないか?」

 

 俺が転移門を示して皆が見ると、丁度蒼い光が散って人が見えるようになってくるところだった。

 出てきたのは七人。リーダーらしき男は絢爛豪華な白金の鎧に身を包み、腰には返しが大きく付いた血のように赤い細剣を帯びている。オールバックの金髪に頭部に金の装飾のような物を付けた男。コイツがアルベリヒだ。

 

「おや。時間までに来たのですが、遅れてしまいましたか」

「いえ。時間前ですから遅れていません……初めまして。私は《血盟騎士団》団長のアスナです。こっちの二人が副団長のユウキとリーファ。そして青い小竜を従えた子が副団長補佐のシリカです」

「俺が《聖竜連合》リーダーのディアベルです。今回の攻略組参加の申し出、嬉しく思います」

「これはこれはご丁寧に、どうもありがとうございます。私はギルド《ティターニア》のギルドリーダー、アルベリヒと申します。攻略組としては若輩ですが、皆様に負けぬよう、粉骨砕身の覚悟で戦いたいと思います」

 

 そう言ってにこやかに礼をして自己紹介をするアルベリヒ。印象としては爽やかな好青年で親しみやすそうだが……俺はどこか慇懃無礼な印象を持った。リアルを知っているからだろうか。意志が宿っていない薄っぺらい言葉に聞こえたのだ。

 

「では、お話していた通り、これから模擬線での試験を行いたいと思います。こちらにいる女性、フィリアさんはリーファと、ストレアさんはユウキと戦います。アルベリヒさんは誰と戦いたいですか?」

「私が選んでもよろしいので? そうですね、戦いたい相手といえば……………………そちらにいる黒衣二刀の彼は、噂の【黒の剣士】のキリトさん……ですよね?」

 

 やはり俺を選んできたか。アルベリヒは誰かが自分の上に立つことを嫌い、どんな手を使ってでも超えようとする性質だ。念のため見つかりやすくしておいてよかった。

 

「そうだ」

「では僭越ながら、【黒の剣士】様と模擬戦をしたいですね」

「……キリト君、構わない?」

「ああ」

 

 俺が頷くと同時、アルベリヒが勝ち誇ったような笑みを浮かべた。自分のステータスをスーパーアカウントで強化しているんだろう。それがどこまでしているのかは分からないが、桁違いなのはこちらも同じ。だから俺と大差ないはずだ。

 二人揃って、十メートルの間を空けてそれぞれの武器を抜く。俺はとりあえずエミュリオンだけ抜いて、左半身を前にして構える。

 アルベリヒは細剣を抜いて構えるが……

 

「……フフン」

 

 全くなっていない構えだった。教科書で載っている写真を忠実に再現したかのような、気迫も何も感じられない構え。そもそも装備の選択からして間違っている。

 俺のようなダメージディーラーは、いわば防御を犠牲にして攻撃と回避に特化した装備をしている。つまり重い金属鎧は無いのだ。リーファやユウキはプレストプレートをしているが、スピード重視の剣士はえてして軽い武装をする。俺のような、全く金属鎧が無いのは極端な例だ。コペルはその点、キチンと安全に軽金属鎧をしている。

 タンクのエギルのような防御優先のビルドなら、重甲冑を選ぶ。かわりにスピードを犠牲にするので、移動速度はかなり落ちて回避は出来なくなる。攻撃に移るのも、タワーシールド等で防いでからのカウンターが主体だ。エギルはバトルアックスでのパリィをした後だが。

 ディアベルのような片手剣と盾、軽金属鎧装備のプレイヤーは、本職のダメージディーラーやタンクには及ばないが、オールラウンダーにこなせられる。なので、一点特化が怖い者はオールラウンダータイプとなる。

 とはいえ、ダメージディーラーやタンクとタイプ分けをしているが、この世界のダメージ算出はそう難しくは無い。

 攻撃側の攻撃力×攻撃速度×受ける側の防御力×攻撃された部位のダメージ倍率。

 これだけだ。攻略組の場合、攻撃力と防御力の差があるが基本的な値はほぼ同じ。つまり、タンクがダメージディーラーになることもできる。ヒースクリフは圧倒的防御力を持った、ユニークスキル使いのタンク兼ダメージディーラーだった。その逆――俺がタンクになるのはあまり出来ない、しようと思えば出来ない事も無いが。

 攻撃力に大した差が無いという事はつまり、大きくダメージを出すのならスピードが重要だという事だ。ソードスキルのダメージがでかいのは、実はかなりのスピードがあるからでもある。無論、システムで規定されている威力も関係している。

 さて、では細剣で大きくダメージを出すならどうするか。それはアスナが既に最適な答えを出している。細剣に軽金属のプレストプレート、あとはコート等の衣服。

 要は身体的負荷、装備重量を少なくしてスピードに特化すればいい。

 細剣は軽い武器、つまりスピードが命だ。俺の武器は重く、それでも尚素早く振れるので大きいダメージが出るが、細剣は重量でのダメージ追加は出来ない。ならば軽さを活かしてスピードでダメージを底上げすれば良いのだ。

 そのため、細剣使いは皆軽装の者が殆ど。盾を持つ者もいるにはいるが、盾は姿勢が悪くなって攻撃速度が遅くなるので、ダメージを出すのには向かない。攻略組としてボスと戦うのなら尚更だ。そもそも回避重視のプレイヤーが盾を持つというのはナンセンスである。

 ではアルベリヒはどうか。

 おそらくステータス自体は俺と同等かそれ以上だ。だが豪奢な装備は重量が結構重い物が多い。あの見るからに重甲冑だろう装備をしているから、スピードは遅いだろう。攻撃防御のパラメータが高くても、攻撃を当てられるだけのスピードが無ければ話にならないし、そもそも細剣使いが甲冑を装備するのは論外だ。

 一応クラインの刀もスピードが命だが、彼が装備している和風の甲冑はそこまで重くは無いらしく、むしろ刀を振るには最適な重さらしい。自分にとって適切な重量を選ぶ事も肝要というわけだ。

 命を懸けて戦うのなら、こういうセオリーだけは外してはならない。デメリットになる要素は少しでも排除しなければ死ぬのだから。しかし、アルベリヒはそういう基礎を完全に外れている。それで攻略組に入るなど、寝言は寝てから言えと言いたくなる。ここはステータスだけが全てではない、とも言いたい。

 俺達は《半減決着》デュエルをすることになった。《初撃決着》ではヤツの実力を見せられないし、俺の負けで終わるのはゲーマーとして嫌だから。

 刻一刻と減少する待ち時間。それが減っていくのと同期して、周りの視線やざわめきが遠のいて感じる。

 相手の構えがなっていないからといって油断しては、それだけで俺への信用と全体の士気が低下する恐れもある。何より、娘のストレアが見ているのだ、格好悪いとこを見せたくは無い。

 

「それでは、デュエル――はじめっ!」

「てやあぁぁっ!」

 

 アスナが開始の宣言とともに右手を振り下ろすと同時、アルベリヒが突っ込んできた。

 俺は《細剣》スキルをコンプしてはいるが、それでもアスナのようにメインにしているわけではない。それでも構えと走り方の良し悪しはわかる。加速しきれない構えだ。

 突き出された細剣をエミュリオンで右に弾き、そのまま袈裟斬り、左斬り上げに繋げるソードスキル《バーチカル・アーク》で吹っ飛ばす。

 これで普通は勝負が着くのだが、アルベリヒのHPは一割も削れていない。やはりスーパーアカウントでステータスと装備に、異常な強化が施されている。

 ディアベル、コペルにキバオウ達もアルベリヒの違和感に気付いたらしい。顔を険しくしている。まぁ、異常に高いステータスを誇る俺のソードスキルを諸に喰らって、それでも一割も削れていない上、動きが全くの素人なら違和感も覚えるが。

 

「くっ……やってくれたな。でも、僕にそんな攻撃は効かないよ!」

「なら、二撃と言わず、OSSの六十連撃でどうだ?!」

 

 そう返してアルベリヒに一瞬で肉薄、ソードスキルを立ち上げる。色は漆黒、片手剣のスキルには無いものだ。宣言通りのOSSなのだから当然だ。

 片手剣六十連撃OSS《ダークネス・ハウリングアサルト》。

 威力・速度共に折り紙付きな上、ヒットした相手の全パラメータを半減させ、自身は二割上げる。自作しておいてなんだが、チートなOSSだ。

 袈裟斬りから始まり、右薙ぎに左斬り上げ、右薙ぎ、袈裟斬りを放ち、複数回の高速回転斬り。その勢いを利用して切り抜ける。

 振り向きざまに六回斬り、次いで七回刺突。そのまま高速の連撃を放ち続け、斬り上げながらジャンプ。右に薙いで左拳で殴り落とす。着地と同時に回転してから右薙ぎを放ってふっ飛ばす。

 これで終。

 アルベリヒのHPは、俺が持ってる片手剣OSS最強技でも、六割まで削るのがやっとだった。

 コイツのステータス、俺のホロウより高いのではないか?

 

「くっ、卑怯だぞ! 六十連撃のOSSなんて!」

「戦いに卑怯も何も無い、そもそも正攻法だ。ほら、掛かって来い!」

「ふん! なら身の程知らずのガキに見せてあげるよ。僕の最強の攻撃を!」

 

 そう言って再度突撃してきた。ソードスキルではなく、何の変哲も無い突き。

 いい加減相手にするのは面倒なので

 

「これで、終わり……だぁぁぁああああああああッ!!!」

 

 袈裟、逆袈裟、斬り上げを力の限り放つ三段攻撃。地面にエミュリオンが擦れる度に衝撃波が現れ、それにアルベリヒは怯んだ為、三段攻撃を綺麗に受けた。

 初めて使ったので威力を把握していなかったが、なんと恐ろしいほど減りが悪かったアルベリヒのHPが一気に危険域の一割まで減った。これには流石に冷や汗が流れ、俺は硬直した。気に入らない、危険で不審な男とはいえ、流石に殺すのはまずい。

 ちなみに技の名前は《冥空斬翔剣》という。《剣技》スキルにある技の一つだ。

 アルベリヒのHPが注意域を下回ったので、そこで決着が着いた。

 

「なっ、なっ……?!」

「あ、危なっ……ここまで威力があったとは……」

 

 アルベリヒは自分のHPを確認し、死ぬ直前まで減ったのを見て恐慌状態に陥っている。流石にこれは俺が悪い。が、謝る気は無い。

 

「……えーっと……アルベリヒさん。残念ですが、またの機会ということに」

「なっ?! ま、負けたとはいえ、ステータスは【黒の剣士】様以上。戦力としては十分の筈ですが……?」

 

 アスナ達はデュエルしているので、代わりにディアベルが通告した。顔が若干引き攣っており、冷や汗も流れている。俺の技の威力とアルベリヒのHPに内心、慌てただろう。俺もだ。

 

「最前線の戦いは、ただステータスが高ければ良いというわけでもないんです。ですから、もう少し実力を付けてからという事に……」

「っ……分かりました。しかし、私たちの力が必要になった時はご一報を」

 

 ディアベルの通告に悔しそうな表情で返し、踵を返して転移門に向かった。振り返る際、俺に憎悪の篭った視線を向けるのを忘れずに。

 

「…………キリト、大丈夫?」

「父さん、まさかわざと煽った……?」

 

 アスナ達とのデュエルを終えた二人が来た。結果は……アスナ達が項垂れている事からも想像できるな……

 

「……さて、な。それで、今から七十九層のボスに行くんだろう? 急がないと回廊結晶のマーク効果時間が切れるぞ」

「……そうね。それでは皆さん、これからボス攻略会議を始めます――――」

 

 それから一時間後。七十九層ボス。三つ首の竜《トライテンペスト》と戦った。

 無意識だったが、かなりストレスを溜めていたらしく、俺の二刀の猛攻はいつも以上に激しかったらしい。クラインが「お前ぇを怒らせたら絶対にいけねぇって、改めて痛感したぜ……」と呟いていた。

 そのお陰もあってかホロウ・エリアのボスより弱く感じたからか、いつもは二時間~五時間懸かるボス攻略が三十分足らずで終わった。周りの皆が完全に呆れた顔をしていて、ストレアとフィリアでさえ呆れていた。

 

「ルシードさん……キリトさん、昔よりバグキャラになってません?」

「それでも、俺はアイツを超えてやるさ」

「超えるってことは、もうキリトを怨んでないの?」

「ケイタ達が死んでのは、キリトが悪いんじゃないからな。そういうサチだって、怨んでないだろ? お互い様だ」

「ふふ……そうだね」

 

 黒猫団の三人の話し声が聞こえた。ルシードは俺を怨んでるものかと思っていたが……意外だ。あの三人の友人のケイタとテツオは、俺のせいで死んだようなものだ。

 その罪滅ぼしとして面倒見てきたが……これで、ケイタ達も許してくれるかな……?

 

「父さん、どうしたの? なんだか雰囲気が暗いよ?」

「…………昔を思い出してただけだ。サチ達の仲間だった時を……な」

 

 ストレアにそう返しながら八十層への階段を上がる。少しずつ階段を上り、一レイドの上限である八人×六パーティーの四十八段分を上っていく。

 四十八段上って折り返し、上って折り返しの螺旋階段を上る。俺は以前からよくここを一人で上っていたが、仲間と一緒に上るのもいいものだな、としみじみ思う。

 そのまま上っていき、遂に白亜の扉へたどり着く。先頭の俺がそれを開き、八十層へと足を踏み入れた。

 八十層をアクティベートし、俺達三人はホームへ戻って疲れを癒すために早めに寝た。

 

 

 

 

 




 はい、ホロウキリト戦に続く戦闘描写でした、とは言えほぼほぼキリトによるスタイルとビルド、装備の説明でアルベリヒはフルボッコでしたが☆(笑)

 ビルドと装備についての解説ですが、割とこれは考察を重ねた末に書いています。原作キャラの装備、戦い方とステータスを考えれば多分皆様も納得されるのではないかと。


 例えば、《刀》はスピードタイプです。アレは抜刀術のように速さを利用した一撃必殺を旨としなければ刃が折れてしまうくらい、存外脆い武器ですから。そのためクラインは筋力よりも敏捷寄りのステータスになっています。

 原作《キャリバー》編でもキリトがその辺を語っています。隠しステータスを含めてもキリトの方が筋力が上であると。ALOキリトはSAOのデータを引き継いでいないので、それを考えると引き継いだクラインより上という事はクラインが敏捷寄りにしている事の現れだと思います。


 《細剣》を使うアスナは言うまでも無いでしょう。既にキリトの説明にある通り、彼女は重量をギリギリまで軽くする事によってスピードを上げたスピードと回避優先の剣士です。


 キリトとユウキ、リーファについてですが、この三人については正直微妙です。


 取り敢えずリーファは鎧が見られず、胴着を意識した装備のようですね。敏捷ステータスに補正が掛っていると思われます。原作公認のスピードホリッカーですし。でもアスナには体のこなしも含めてちょっと敵わないでしょうね。


 ALOユウキは胸鎧を着けていますが、持ち前の反応速度を考えるとステータスポイントはHPと筋力、敏捷へバランスよく振り、防御力には振っていないのだと思われます。持ち前の回避技術で防ぎきれないダメージを鎧で軽くし、シウネーの回復に相当な信頼を寄せていたのでしょう。

 ちなみに今作のユウキのモチーフはこのALOユウキです。まぁ、シリカ編の描写で気付いたでしょう。


 SAO&ALOキリトは重い剣を好む事から力を求めています。それでも原作でアスナとほぼ同等のダッシュが出来た事から、レベルが高い事もありますが、スピードにも重きを置いていると分かります。《武器破壊》が出来る程に反応速度があるので、直前で攻撃を見切って紙一重の回避を戦法に取り入れているのでしょう。金属はおろか革鎧すらしていないのは重量を増やさない為でしょうね。

 キリトはダメージ重視回避優先の短期決戦型という事です。《二刀流》はスキル一つが硬直時間も長くて危険なので、尚更でしょう。まぁ、両手の剣でのパリィを考えると一対一では優勢かと思われます。ヒースクリフと互角に戦えたのは互いに両手で攻撃と防御を果たせたからかと。だからこそ拮抗したのでしょうが。


 リズベットは片手棍とバックラーという丸盾、つまりはタンク寄りのアタッカーです。筋力が高いと《鍛冶》がどうこうと原作でもあった筈ですので、スピードは捨てていると思われます。マスターメイサーですしね。


 シリカは《短剣》使いとしてヒット&アウェイを重視するスピードアタッカーでしょう。そもそもケットシーという種族自体が敏捷値高いでしょうし、小柄というのも相まって中々だと思われます。


 シノンもシリカと同様、種族として敏捷値が高いと思われます。でも矢の飛距離と弓の重さで決まる弦の強さ、つまり攻撃力を求めて筋力にもバランスよく振っていそうです。なのでちょっと彼女は分かりません。聖剣エクスキャリバーを抱えてましたし。

 一応本作では筋力寄りながらバランスよく振っているという設定です。ヘカートの事もありますし、弓でもやはり力は要るでしょうし。ケットシーなら種族的に素早いと思われるので妥当かなと思っています。


 まぁ、こんな感じで一人一人考察していると、キリトが語った私の考察もあながち勝手な解釈という訳ではないと分かるかと思います。

 オールラウンダーのプレイヤーなら剣と盾、攻撃と防御をバランス良くする装備というのもゲーマーなら割とありですしね。

 攻撃特化型は攻撃力アップを目指して盾の代わりに何か持つでしょうし、キリトのように二刀にするかも知れません、あるいは両手武器を求めるかも知れません。


 こんな感じで考察していって、ああなりました。異論、反論はあるかも知れませんが、本作ではこの考えでずっと進めていますのでご了承下さい。

 無茶だろそれは、っていう理論は私自身が書かないようにしているので、多分拒絶反応は無いと思います。


 長文失礼しました。これからも良ければ本作にお付き合い下さい。


 では次回予告です。


 攻略が順調に進む中、自らの意志で強くなろうとキリトに師事する少女シノン。彼女は自らの武器を上手く扱えないでいた。

 そんな中、とある鍛錬の途中、あるものが追加されている事にシノンは気付く。それをキリトに報告すると、シノンを連れて街へと繰り出した。

 それはシノンにとって、新たな武器との邂逅でもあった。


 次話、第二十四章 ~猫の懺悔と黒の守護~


 お楽しみに!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。