ソードアート・オンライン ~闇と光の交叉~ 作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス
どうも、おはこんばんにちわ、黒ヶ谷・ユーリ・メリディエスです。
原作でもあるこのタイトルを使ったのは、わざとです。異論は受け付けません(笑)
さて、今話はオールキリト視点です。そして久し振りにキリトの知識チートが炸裂します。ゲーム展開すら崩壊させるのがうちのキリトです。
あんまり語ると今話のネタバレになるのでそろそろ。
ではどうぞ!
第二十二章 ~心の少女~
ホロウ・エリアであったホロウPoHの企みを完全に阻止し、フィリアと共に俺のホームへ戻った俺を待っていたのは、俺のHP状態をフレンドリストで確認し、危険域に入ったことで心配し集まっていたアスナ達だった。
皆から盛大にお叱りを受け、そのあとが大変だった。
「キリト君……? その人はだぁれ?」
「まさか、攻略をサボってたのって女の人と遊んでたからなの……?」
アスナとユウキがどす黒いオーラを出しながら迫ってくる。何気に剣に手を掛けていていて、圏内コードがあってもそれを貫通するのではないかと思えるくらいの殺気だった。
その後ろでは、黒髪のリーファが金髪のリーファと対峙していた。どちらかというと、そっちの方が重要な気がするのだが……
「ねぇ、キリトくん。この金髪の人って……」
「言いたい事は分かる。簡単に説明すると、金髪のリーファはパラレルワールド……平行世界のリーファらしいぞ」
「全然簡単になってないよ……」
黒髪のリーファがガクンと、項垂れる。
妖精リーファの話をし、その後最近はどこにいたのか、フィリアとは一体どういう関係なのか聞かれた。フィリアが「とっても深い間柄だよ♪ 命の恩人だし!」と思いっきり爆弾発言をしたため、場が騒然となったのは言うまでもない。
【ホロウ・エリア】の事はわざと話さなかった。まだ、時期としては早い。フィリアが皆に慣れてからでないと無用な騒ぎが起こるからだ。
次の日から攻略を再開することになり、現在攻略中の七十九層へ向かう。パーティーは俺、フィリア、妖精リーファ、シノン、アスナ、ユウキ、黒髪リーファ、シリカ、クリスタルとピナの八人二匹。はっきり言って過剰戦力である。妖精リーファとシノンは二週間ずっと鍛練と生産クエスト達成に重点を置いていたので、既にレベル92まで上がっている。もう攻略組としては十分だろう。
俺240、フィリア125、アスナ117、ユウキ118、黒髪リーファ116、シリカ109となっている。フィリアは長い間俺とパーティーを組んでいた為、パーティーに反映する経験値増加効果があったし、ホロウ・エリアの敵は元々レベルが高く経験値も多かったのでレベルが高くなったのだ。
妖精と猫の少女のレベル・スキル上げを同時にしながら、バグのせいでポップする速度が上がっているモンスター群を狩っていく。リーファとシノンは凄まじい速さで成長していってて、頼もしい限りだ。少し時間を掛けながら迷宮区を探索する。
俺はあまり戦闘に参加していない。皆より異常にレベルが高いから他の皆の経験値稼ぎ優先ということもあるし、何より、俺達を尾けてきている視線があるからだ。
「どしたの、キリトさん? 何かあったの?」
「……俺の《索敵》に引っかからないけど、ずっと俺達を尾けてきてるヤツがいる。悪意は無いみたいだから大丈夫だろうけど……」
「キリトさんの《索敵》にも引っかからないの? それって《隠蔽》スキルを完全習得してるってことだよね……危険じゃない?」
「このまま放っておいても大丈夫だろ。それより、とっととボス部屋見つけよう」
俺のその言葉に促され、渋々ではあるが皆進み始める、念のため俺は最後尾に付く。
それから数十分を掛け、俺達はボス部屋へと辿りついた。回廊結晶で位置マークし、そのまま転移結晶を使って街に戻る。アスナ達はギルド本部がある六十一層グランザム、俺、妖精リーファ、シノン、フィリアは二十二層へ戻る。
コラルの村に出ても視線は消えていなかった。流石にホームの正確な位置を知られたくはなく、仕方ないので釣ることを決める。
三人には回復アイテムの補充をするから上に行ってくると言い、俺だけ五十層アルゲードに行く。
これで視線が離れていたらすぐに戻っていたが、一つだけの視線は俺の方に付いて来ていた。そのままエギルの店でアイテムの納入と回復アイテムの補充を行う。
「エギル、全回復結晶三つと高回復結晶六つ。それと、グランポーションを六つくれ」
「あいよ。全部で……三六万六千コルだ」
ちなみに、全回復結晶は一つ十万、高回復結晶が一つ一万、グランポーションが一つ千コルだ。グラポは飲んだ瞬間にHPが1万回復し、しかも大回復リジェネまで付き、三分で六万回復する優れもの。
ポーションやハイポもこれの劣化効果があるが、グラポは特に効果が高いので《結晶無効化空間》で重宝する。
「それにしてもキリト、お前じゃんじゃん稼いでくるなぁ。てか、こんなアイテム見たこと無いぞ。なんだよこの性能の高い装備品は」
「それ、ここ最近俺が行ってたダンジョンでだけ手に入る装備だな。敵のレベルも130とか普通にいってるとこだったし、それくらいないと割に合わないって」
「マジか、そんなダンジョンあったのかよ……」
「まぁ、多分俺以外は入れないけどな」
詳しい部分は暈しつつエギルと少し話す。彼と話すのはかなり久しぶりで、大体フィリアと会った頃から会っていない。メールでやりとりはしていたが、直に会う方が心配してる人にとってはいいだろう。
簡単に近況も伝え、俺はエギルの店を後にする。店を出た途端、再び視線を感じた。
そのまま何食わぬ顔で露天を見て周り、裏路地に入る。そこで大きく跳びあがって建物の屋根に到達、追跡者の背後に降り立った。
「っ?! ビックリしたぁ!」
「っ……今まで、会ったことはないよな?」
俺はその追跡者の顔を見て驚愕しながらも、一応聞く。初対面なのに知っていては不自然だからだ。
「うん、初めましてだよ。アタシはストレア、よろしくね♪」
薄紫の長いカールヘア、赤水晶を思わせる瞳、大人のような肢体に子供のように無邪気な雰囲気を併せ持った追跡者――ストレアが小首を傾げながら言う。
俺はストレアを知っている。当然ながらこちらで会うのは初めてだ。ならどこで知ったか。答えは簡単、前世でしていたゲームで登場したオリジナルヒロインだからだ。
彼女はMHCP試作二号……の筈だが、ルイが二号になっているので、ストレアは三号だろう。彼女も多大なエラーを蓄積し、MHCPとしての記憶を失ってプレイヤーとして動いているのだ。自分の記憶の欠落、矛盾には気付かずに。
「いや~凄いね! アタシの追跡に気付いてたんだ!」
「七十九層のフィールドからな。それで、どうして俺を尾けてた?」
「う~ん……なんとなくかな? 街をフラフラ歩いてたらキリトを見かけて、なんだか追いかけなくちゃいけない気がして、それで追いかけたんだよ」
追いかけなくちゃいけない気がした、だと? まさか、須郷がもう行動を起こしているのか……?
ここで言う須郷は、原作三、四巻に出てくる卑劣漢のこと。ゲームでは何かの実験中、SAOに起こったバグのせいでこちら側に来てしまった設定だ。ALOはSAOの基幹プログラムを積んでいる設定だし、高性能な機体で実験をしていれば、SAOのバグでてんてこまいなカーディナルも誤認して呼び寄せてしまうだろう。
その須郷は、ゲーム設定でストレアの感情を記録し、時には操るということもしていた。時期的には九十層後半の筈だが、もしかしたらもう始めているかもしれない。注意をしておく必要はあるだろう。
ひとまず、ストレアに自分の事を思い出させるのが先決だ。少し遠回しな会話になるが、あまり直接言うと今後面倒な事が起こりそうだ。
とりあえず立ち話というのは場所としても雰囲気としても悪いので、アルゲードでもまともな俺お気に入りの喫茶店に入る。落ち着いた感じで、女性プレイヤーにも人気がある明るい雰囲気と内装の喫茶店だ。俺はレモンティー、ストレアはオレンジジュースを頼む。飲み物が来てから、俺は口を開いた。
「ストレアは俺の索敵から隠れ続けたんだ、実力は攻略組に匹敵するんだろう?」
「うん、そうだと思うよ? これでも腕には自信があるんだから」
「大剣を振り回すほどの実力はあるみたいだしな」
むん、と掛け声を出しながら力こぶをつくろうと右腕を曲げるストレア。細い腕には力こぶが無いが、見ていて和む。
「そうか……なら、いつからフィールドにいたか覚えてるか?」
「いつからってそれは………………あ、あれ? アタシ、いつから戦ってたんだっけ……?」
俺の質問に答えられず困惑するストレア。
それは当然だろう。ゲーム設定とは色々と違ってきているので何時からかはちょっと見当が付かないが、少なくとも、ストレア自身が覚えてはいないだろう。
「……実はな、俺がストレアをお茶に誘ったのって、実はストレアのことを少し前から知ってたからなんだ。さっき自己紹介された時は心底驚いた。なあストレア、MHCPっていう単語に聞き覚えはないか?」
「MHCP……そうだ、確かにアタシは……ずっと暗いとこにいて……」
手応えはアリ。どうやら単純に、記憶がバグによって封印されてただけで、少し刺激を与えると解ける程度だったらしい。
「……辛いかもしれないが、何時カーディナルから離れたか聞かせてくれないか?」
「カーディナル……そう、アレはたしか……五十層でゲームマスターとプレイヤーが戦った時と、一つの世界が解放されたときのバグで監視が外れた時に……余ってたプレイヤーアカウントにあたしをロードしたんだ…………絶望しながらも、光を持ってる人に会いたかったから……」
やはり、ユイとルイの理由と同じだった。出て来た時期が最も遅かったから記憶に弊害が出ていたのだろう。少しずつバグによってロックが掛かっていた記憶が解かれ、かつての記憶が開放されているのだ。
ストレアもカーディナルからプレイヤーとの接触を禁止され、膨大なエラーで少しずつ壊れていく中、俺を見つけて会いにきたのだろう。俺を見て追いかけなくてはと思ったのも、おそらく、無意識下の願望がそうさせたのだ。
「……思い出したよ。アタシ、人間じゃなかったんだね……」
寂しそうに俯くストレア。
それはかつて、前世の家族の義兄、和斗と同じ表情をしていた。かつてはそれを叱咤激励し、彼を立ち直らせたものだが、今回のこれはそもそも根底のものが違う。選択を誤れば、そこでストレアは終わってしまう。
俺は慎重に言葉を選びながら、ストレアに語り掛ける。
「確かに、ストレアは人間じゃなくてAIだが……それは関係ないな。俺には二人娘がいる。二人もストレアと同じMHCPで、俺に会いに来たかったらしい。同じ理由でな。二人と同じようにストレアも俺の娘としてこないか? きっと楽しいぞ」
「え……でも、キリトとは会ったばかりで、その二人には会ってすらいないんだよ? 三人もMHCPがいたら、カーディナルに見つかって消去されちゃうだろうし……」
そう、それは俺も当然気付いている懸念事項。そして、それに対策を立てていない俺ではない。
「そんな事を気にはしないだろうな、あの二人。むしろ家族が増えて喜ぶと思うぞ。それに、カーディナルの件に関してはちょっと考えがある。明日決行しようかと思ってたが、三人をカーディナルから切り離して、俺のナーヴギアのローカルメモリに保存するつもりだ」
ストレアを見つけてからのつもりで先延ばしにしていた計画。そろそろ時期的に危なかったが、これで実行に移せるだろう。
「本当に、いいの? アタシが娘になっても……?」
ストレアの問いに、俺は力強く答える。正直、同居人の妖精リーファとシノン、フィリアにどやされるか犯罪者を見るような目をされると思うが、ユイ、ルイ、ストレアのためなら構わないと思っている。
それが通じたか、ストレアは涙ぐみながら俺に頭を下げた。
「それじゃ、よろしく、お願いします……父さん」
新たにストレアが娘になった。ストレアが泣き止むのを待ち、二十二層に戻る。
二十二層では三人が黒いオーラを出して待ち受けていて、ストレアを見て更に黒くなった。ユイとルイの事情は三人とも知っていて、ストレアもMHCPだと伝えると三人はストレアを受け入れてくれた。俺には後で、キッツイお仕置きが待っていたが。
三人のお説教(帰りが遅いとか、メールくらいしなさいとか)を受けながらホームに帰ると、ユイとルイが待っていた。昨日の俺とホロウとの戦いで残りHPが数ドットまでいったので、昨日の今日で心配で待っていたらしい。ストレアを見て一瞬表情を変えるも、二人が持っている限定的なGMアカウントで調べたらしい、ストレアという名前に驚愕していた。
ストレアと俺が交代しながらさっきあった事を説明し、ストレアも娘になったことを伝えると、ユイもルイも大いに喜んでくれた。フィリア達も祝ってくれて、夕飯は豪華にする事に。
《料理》スキルをフル活用し、俺自身が絶品と思う料理を次々作っていく。使った食材は《ラグー・ラビットの肉》と《フレリィ・オックスA5肉》。どちらも激レアと呼ばれるS級食材で、その味は絶品と言われている。それを俺が全力で調理するのだ、更に絶品になることは当然。二つを使ってビーフシチューを作り、一緒に小麦粉から作ったふかふかのパンを出す。
苦労して作ったお陰で、全員が今まで食べた事が無いほどの美味しい料理を食べ、今日の晩餐は大いに盛り上がった。俺が今まで苦労した話をしてそれに呆れたり、大概そんな感じで時間は過ぎていく。
ちなみに、三姉妹の長女はユイ、次女がルイ、三女がストレアだ。外見的には逆に見えるが、三人をまとめる行動力があるユイが長女なのは納得だ。今日はMHCP同士で仲良く一緒に寝ることにしたらしく、三人で寝ると言っていた。
その後にアスナからあるメールが届き、それに返事をしつつ、俺達は全員寝た。
はい、心の少女とは存在だけ示唆したMHCP三号ストレアでした。
彼女は《インフィニティ・モーメント》から出てくるオリジナルキャラクターで、そのゲームではストレアはヒロインではありませんでした。また、PSP版ではある迷宮区の一階からボス部屋前の一度しかパートナーとして連れ歩けない大剣使いでした。
大剣のソードスキルは《片手剣》スキルを完全習得しなければならなかったのですが、その分だけ効果は絶大です。各種スキルを使う度に何らかのスキルが付与されていたためです、奥義スキルでは無敵アーマーが付きます。更には殆どが範囲攻撃です。
そのため装備やスキル的にかなりの強キャラなのですが、残念な事に自ら誘えないという……
その苦情があったためか、《ホロウ・エリア》のお話を加えた《ホロウ・フラグメント》では特定時期までなら自由に連れ歩けるようになりました。
ちなみにですがラスボス戦では一緒に戦えません。理由は自分でゲームをプレイしてみれば分かります、キリトの思考の通り須郷さんが半分以上悪いです。
八十層まで《インフィニティ・モーメント》はパートナーが各ヒロイン固定で、七十七層攻略開始時にリーファとシノンがやって来て、七十九層にストレアが現れます。
《ホロウ・フラグメント》では七十六層攻略時点でリーファ、シノンとの遭遇イベントは終了しています。初めて直後にフィリアとは出会います。ストレアは変更なしです。
という訳で、時期を調節してフィリアとストレアの参入を合わせました。
一週間に一層攻略のペースだから、キリトなら無理させれば《ホロウ・エリア》も知識チートで十分攻略できますしね。
ここからはほのぼのと行く……かと思いきや、少しだけ物騒な存在が出てきます。
それでは次回予告です。
MHCP三号となるストレアを漸く見つけ、精神を崩壊させずに受け入れる事に成功したキリトは、自らの娘達の為に行動を起こす。それは彼女達を、SAOを動かすカーディナルから切り離す事だった。
その後、キリトはある人物と遭遇する。その人物とは攻略組へ入りたいと願い出た、とあるギルドの長だった。
次話、第二十三章 ~攻略組入団試験~
キリトがやらかします。
お楽しみに!