ソードアート・オンライン ~闇と光の交叉~   作:黒ヶ谷・ユーリ・メリディエス

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 どうも、おはこんばんにちわ、黒ヶ谷・ユーリ・メリディエスです。

 今回は多くは語りません。何故なら内容が短いのと、タイトルでバレバレだからです。

 今回は完全リーファ視点です。

 ではどうぞ!


第十八章 ~風と猫と心の少女達~

第十八章 ~風と猫と心の少女達~

 

 あたし、《桐ヶ谷直葉》こと、アルヴヘイム・オンライン、通称《ALO》の古参プレイヤー《リーファ》は、現在絶賛混乱中だ。

 友人の《長田慎一》こと《レコン》が隠し持っていたナーヴギアと《SAO》をほぼ力ずくで借り、あたしはそれらを使ってSAOにログインした。いきなり出たのは街でなく、どこかの杉の森だった。

 そのまま数日、全くモンスターが出ないのを良いことに散策し続け、しかしプレイヤーの気配や、何故かALOから引き継いでいる数多のスキル(魔法系は無かったが)で何かを察知すると、すぐに身を隠していた。なにせ自分のアバターはALOのもの。魔法や妖精といった要素が無い筈のSAOに妖精型アバターは無い筈なので、見つかると大変だ。

 空腹の中歩き回り、鳥の鳴き声と暗闇の森林のある場所で立ち止まっていると、いつの間にか背後に誰かがいた。振り向くと、そこには――――兄《桐ヶ谷和人》がいた。

 事前に総務省のお役人さんからお兄ちゃんのキャラクターネームを聞いていたけど、それが不要なほど、そのプレイヤーの容姿はリアルそっくりだった。思わず駆け寄って手を取りはしゃいだ。

 

「やっぱりそうだ! やっと会えたよ、お兄ちゃん!」

「待て待て待て待て。俺に妹はいないぞ。てか、なんでアバターが妖精なんだ?」

 

しかし、彼の反応はあたしの想像の外のものだった。

 妹はいない。

 それはつまり、あたしのことを否定するという事。お兄ちゃんに会いたい想い一つで意を決してSAOに来たのに、彼の話で、ここがパラレルワールドだという推測が立った。つまり、この世界にはあたしの大好きなお兄ちゃんが……逢いたいお兄ちゃんがいないのだ。

 そしてあたしは今、ナーヴギアを被ってSAOにいる。それはHPがゼロになれば、元の世界で寝ているあたしも死ぬという事。しばらくは彼――お兄ちゃんに酷似した容姿のキリトくんの家で過ごすことになった。

 寝る前に、これからどうするか聞かれた。戦うのならキリトくんが色々面倒見てくれるらしいし、戦わないのなら第一層で子供達の世話をしている教会に預けるそうだ。ほぼ同時期に来たらしい、部分的な記憶喪失状態の《シノン》さんは戦うことにした。

 でも、あたしは悩んでる。

 お兄ちゃんに逢いに来たけど、ここはパラレルワールド。あたしのお兄ちゃんはいない。キリトくんは無理しないように言ってきた。ここにあたしのお兄ちゃんはいないのだから、わざわざ命を懸けなくてもいい、と。確かにそうかもしれない。

 でも、あたしの面倒見てくれる彼は年下で、しかもこの世界のクリアを目指す攻略組の一人。最強プレイヤーでソロだと言うのだ。そんな彼が戦っていて、自分はのうのうと安全なところで過ごすなんて嫌だ。それでは覚悟してまでこの世界に来た意味が無い。

 当然、この世界で死ねばそれこそ意味が無い。けど、この世界から出る為にも、少しでも彼の支えになれるようにするためにも、戦うことを決める。これでも、ALOではシルフ族で五指に入るほどの――ALO中三指に入るほどの実力はあるのだ。油断せず、レベルや装備を整えれば力になれる筈。

 そう結論を出し、あたしはキリトくんのホームの寝室で意識を沈めた。

 翌日、彼にあたし自身の結論を、考えた過程含めて伝えた。すると彼は微笑んで――――

 

「兄想いの良い妹だな。まったく。果報者だな、リーファの兄は」

 

 ――――と感想を述べ、あたしとシノンさんの訓練をする事が決まった。

 今は三人で、キリトくんが作った朝食のフルーツサンドとココアを食べながら、この世界のスキルや武具、システムについて教わっている。キリトくんは七枚のホロウィンドウに何かを書き込みながら解説をしてくれている。なんでも、今日は知り合いと探索に出かける約束があるらしく、あたし達の本格的な訓練は明日かららしい。そのためのガイドブックのようなものを書いているのだとか。

 今、あたしとシノンさんのレベルは52。スキルは《片手剣》1000、《索敵》852、《隠蔽》534、《投剣》10。

 シノンさんは《索敵》100、《隠蔽》367、《投剣》0となっている。

 あたしはこれでも結構高めなのだが、キリトくんから言わせれば、「低い。それでモンスターと戦えば、下手すればすぐに死ぬ」とのこと。何でも、少し前にあったバグのせいでモンスターのAIが若干賢くなり、ポップ速度もかなり上がっているらしい。

 せめて武器スキルを完全習得し、《索敵》と《隠蔽》をどちらも八百~九百までは最低限必要らしい。

 

「リーファの武器は片手剣か? 剣道を習ってるのなら両手剣や刀の方が良いんじゃないか?」

「う~ん……両手剣も良いんだけど、ALOで片手剣の扱いに慣れちゃってて……」

「そうか、まぁいいけど。SAOは必殺技のソードスキルがあるけど、片手剣を両手で剣道みたいに持つと発動しない。それは気をつけてくれ」

「うん」

 

 彼はあたしにそう忠告し、次にシノンさんに話しかけた。シノンさんはフルーツサンドをゆっくり食べ、その表情はあまりの美味しさに緩んでいる。確かに、この味は現実でもまず味わえない。

 仮想世界は基本、現実の味とは微妙に違った味わいのもばかりで、たまに酷いものもある。けれど彼の作る料理は全て完璧に再現されていて、しかも絶品。すぐに食べ終えてしまう。

 《料理》スキルをコンプリートしたらしいけど、攻略組でそれをコンプした人は彼だけらしい。何かの食事会の時は必ず彼は呼び出されるらしく、早く誰かもコンプしてくれないかと言っている。話によれば、知り合いの女性プレイヤー数人がコンプしかけらしい。

 

「シノンの武器なんだが…………武器スキル値が全てゼロだ。逆に言えば、どんな武器にもすることが出来る。まずはメインを決めて、最低700以上にしないとだけど……」

「私のメイン武器……剣とかレイピアとかは、なんだかしっくりこないのよね……」

「そうなんだよな……一応、シノンでも装備できるレベル帯の全種の武器を渡しておく。今日一日、全部試してみてくれ」

 

 彼がそう言ってトレードウィンドウを出し、シノンさんがそれにぎこちない操作で応じた。出して見せてもらったが、かなり豊富に取り揃えられている。武器の見た目は無難なもので、実用重視の無骨な物ばかりだった。あたしやシノンさんのステータスでも十分に装備できる物ばかり。

 しかし彼は攻略組、なぜ中層域プレイヤーレベルの装備を持っていたのだろう。疑問に思って聞いてみると。

 

「モンスターを倒して素材集めしてたら、いつの間にかドロップして集まってた」

 

 との事。

 通常、モンスターから装備品がドロップされるのは稀。どれだけリアルラックがあるのか。この世界に囚われている時点でリアルラックも何も無いと思うけれど。

 しばらく武器の特徴や短所、ステータスに振るボーナスポイントの振り方、有用なスキルのことを聞いた。食事が終わってからは外でいくつかスキルを手本に見せてもらった。

 彼が使ったソードスキルは片手剣の《ホリゾンタル》と、短剣の《クロスエッジ》という基本技らしい。それでも場面を選べば強力なのだとか。

 そうやって時間が過ぎ、一旦家の中に入る。彼は少女二人の様子を見に行くので、あたし達も一緒について行った。二人を寝かしていたソファでは、既に目を覚ましていたらしい少女達が起きて座っていた。

 キリトくんはその事に安堵の息を吐き、二人に話しかけた。

 

「大丈夫か? 自分達の事、分かるか?」

 

 キリトくんが穏やかに聞くと、二人の少女は彼に向き直り、少女に似つかわしくない真剣な表情で話し始めた。

 

「私達は……メンタルヘルス・カウンセリング・プログラムと呼ばれるAIです。私はMHCP試作一号《ユイ》」

「わたしは……MHCP試作二号《ルイ》……あなたに……キリトに、会いにきたの」

「俺に……?」

 

 それから彼女達は語った。

 自分達はプレイヤーの精神的ケアを目的とされて作られ、しかしデスゲーム開始直後に、プレイヤーとの一切接触を禁止された事。義務だけがあり、権利が無い板ばさみ状態のなか、プレイヤー達の巨大な負の感情をモニターし、それを受けてエラーを次々溜め込み、段々壊れていった事を。

 そして、キリトくんの精神状態が他のプレイヤーとは違っていることに気付いた。

 他のプレイヤーの悪感情を一身に受け、人の死に敏感で深い絶望に囚われながらも戦い続ける。その絶望の先には必ず皆を護るという信念、光があったことを。

 それに深い興味を覚えて惹かれ、いつしか逢いたい、その光に触れてみたい、彼と会って話したいと思うようになり、彼のホームである二十二層に実体化したのだという。今の状態は、エラーで完全に壊れる一歩手前の状態らしい。

 

「なるほど……それで俺に会いたいと思ったわけか」

「はい。キリトさんの心は深い闇、絶望に覆われているにもかかわらず、何故かいつも光っているように感じられたんです」

「それを不思議に感じて……逢ってみたいっていう思いを……抑えられなくなった……」

「そうか…………なんなら、ここで一緒に暮らすか? 生憎、俺は攻略や他にも大切な用事があるからあまり一緒にはいられないけど、リーファやシノンはここにいるし」

「…………いいのですか? 迷惑とかじゃないですか? AIですよ?」

「構わない。AIだから拒絶するなんていうのは俺には無い。俺を親と思ってくれて構わないぞ? 結婚してないから母親いないけど」

 

 彼の提案に、真剣で、でもどこか暗く寂しげだったユイちゃんにルイちゃんの表情が一気に明るくなった。笑顔満面でキリトくんに抱きついていく。

 

「だったら私、キリトさんの事、パパって呼びます!」

「ならわたしは、お父さんって呼ぶ……!」

「いいぞ。二人は俺の娘になったわけだから、俺達は家族だな。ユイ、ルイ。これからよろしくな!」

「はい! パパ!」

「うん……! お父さん!」

 

 キリトくんとユイちゃんにルイちゃん――――親子となった三人は笑顔で笑う。その表情はどこか似ていて、なんとも不思議な親子なのだった。

 

 

 

 

 

 





 はい、今話はシノンとリーファの訓練準備、そしてMHCPであるユイと妹のルイの登場でした。

 MHCPのユイとルイに関してですが、原作ではユイだけで、しかもキリト達に会った時にはプレイヤーの負の感情で言語機能まで損傷される程にエラーをため込んでいました。

 今作ではどうしようもない負の感情をキリトが一心に受けていますし、原作より途轍もない速度で階層を攻略しているので、原作よりはまだマシという構想です。なのでギリギリ二人は記憶を保っていた訳です。

 そしてMHCP二号であるというルイですが、ゲームでは別のキャラがここにあたります。その子は今作では一つずれ、MHCP三号です。

 利発なユイ、大人しいルイ、爛漫な三号と性格を変えているので今後楽しめると思います。結構後になってからでないと面白くないでしょうけど。



 ではそろそろ予告です。


 時は速く過ぎ去り、キリトはフィリアが《アインクラッド》へ戻れるよう協力し、エリアを次々と攻略していった。キリトの信頼を感じ、フィリアは温かい気持ちになる。

 しかしそのキリトの背後に魔の手が差し迫っていた。


 次話、第十九章 ~虚ろな心を癒すホロウ・フラグメント~


 暫くアスナ達はお休みです。

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