ALDNOAH.ZERO -Earth At Our Backs-   作:神倉棐

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本作品を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
自分にとって処女作となる本作品につきましては長らく未完の状態ではありましたが、突然ではありますが連載再開と現在構想中の作品の実験の為にも一度内容の修正と改善の為に一部改稿させて頂きました。
今後とも一層のご愛顧を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。


1/3 「火星のお姫様(下)」

 

【日本 新芦原市 11月18日 15時43分】

〈Japan Sinawara city 1543hrs. Nov 18, 2014〉

 

 

放課後、一帆や韻子を含む生徒会役員およびソラなどのボランティアで集まった生徒達は「新芦原市駅」駅前に集合していた。構成は1班につき役員を班長とした5人で1つ、交通整理班は表通り手間から第1から第9班を配置、巡廻警備班は第10から第13班が担当し重要区画を生徒会主要メンバーで警備する。ちなみに韻子とソラは韻子を班長として警察の警備隊と共にパレード経路上にある歩道橋担当の交通整理班第2班に所属、その一方で生徒会長である一帆はと言うと。

 

「八朔君に担当してもらいたいのはこの場所だ。この辺りは警備の車両が入れ替わる地点だから、今日は立ち入り禁止区域に指定されている。許可証(パスカード)を下げている関係者以外を入れないように見張っていてくれればいい」

「了解です」

 

重要区画、警備車両が管轄により交代する入れ替わり地点付近の裏路地を警備する事になっていた。

 

「他の地点にも君と同じ芦原高校の生徒会の役員の子達や巡回には我々本職が警官の人員も配置してはいるが、その中でも君の配置が1番入れ替わり地点に近い。何かあったら直ぐに連絡して欲しい」

 

そう言って一帆をここまで案内して来た新芦原市警察署の警務課所属らしい警官は自分の持ち場へと向かう。そんな警官の後ろ姿を見送った一帆は芦原高校生徒会の腕章を右腕にはめ、学校の備品である無線機を愛用のウエストポーチのベルトに差し込み最近買った骨伝導式イヤホンマイクに接続して装着する。

 

───さてと、仕事を始めますか

 

事前に立ち入り禁止の通告を出してあるので早々人影は現れない。交通整理の仕事のはずなんだがこれは立ってるだけで終わりそうな感じである。ただ───

 

《こちら第3班、不審者らしき人物を確認。対応を請います会長》

「こちら会長、第3班は職質をして下さい。それでなお怪しい様であれば先生か警察の人を呼んで下さい」

《こちら5班、人が多過ぎて人手が足りません!至急増援を!》

「第5班、確か表通り(メインストリート)の配置でしたね?なら表通り手前の第9班、応援に向かって下さい」

《こちら第9班、了解です。3人まわします》

「ありがとう」

 

───交通整理(本来の仕事)より現場指揮の方が忙しいとは……たしか現場指揮には警察と軍の人を中心とした指揮所があるはずなんだが何故俺に聞きにくるんだ?

 

何故か無線越しにひっきりなしに飛んで来る要請に事前に配布された警備マニュアル通りにひとつひとつ応えつつ、そんな感じで交通整理の片手間に現場指揮……いやもはや逆に現場指揮の片手間に交通整理をしつつ一帆は時間を過ごす。

 

八朔(会長)

「ん、ああ一成(副会長)。どうした?一成は確か指揮所の方の手伝いだったはずだけど……」

「うむ、余りにも八朔が仕事を取ってしまうのでな。忠告と交代に来た訳だ」

「あー……、なんか済まん。皆んな回してくるもんだからつい」

「分かっておる。ただ八朔は些か御人好しが過ぎる、たしかに八朔の「優しさ」は美徳でこそあるが行き過ぎれば欠点ともなる」

 

そんな一帆の前に現れたのは柳堂 一成(りゅうどう いっせい)──我が校の誇る寺生まれの副会長は一帆にとってやや耳の痛い話と共にそう言って微笑む。

 

「───まぁそれこそが八朔の良いところなのだがな。でだ、指令殿曰く八朔は「働き過ぎ」らしい。お前は自分の身を顧みなさ過ぎだ、俺としても少しは休むことを勧める。それに、何やらここ1週間は()()()悩んでいたようだしな」

 

───うーん……、流石は一成。鋭いな……

 

一成の指摘した通り、実際一帆はこの1週間ずっと悩んでいた。本当に今更だが「原作」を変えて良いのかを、「原作」を知るが故に助けられるかもしれない失われる生命を見捨てても良いのかを、ここまで関わった家族や人達から逃げることが良いことなのかを、そして──「原作」を変えたその責任を自分は背負えるのかを。

 

「いや、まぁ……でも悪いし……」

「いいから行ってこい、気分転換の散歩ついでに巡回でも兼ねてな」

「ええ……」

 

まだ迷っているが故に歯切れの悪い反応しか返せない一帆に対し、一成は強引に一帆の背中を押して持ち場から離れさせるとそんな言葉と共にご丁寧に手を振ってまで送り出す。三バカトリオの一角である祭陽や詰城ほどではないが一成もまた一帆との関係は決して短くはない、故に彼もまた一帆の扱い方には慣れている。

 

「パレードがここを差し掛かるまでには戻って来い、それまでは休憩だ」

「あいあい……分かったよ」

 

一成相手にそこまでされては一帆もまた断れず、直ぐには戻れない──というか許してくれない──ので素直に諦めて少し閑散とした重要区画内の裏路地を散歩、もとい巡廻警備を行う。

 

「と、言ってもな……あっても自販機ぐらいしかないしどうしようか」

 

ふらふらと路地を散策する一帆だったが、特にこれといってなすべきこともなせることもない一帆は取り敢えず喉が渇いたので偶然側にあった自販機でお茶を買う。

 

「ああ〜美味いわ〜、流石(前世)から変わらん味だな爽康美茶」

 

色んな意味で懐かしい味の500mLのペットボトルをほぼ一息で飲み切った一帆は自販機横にあった回収箱に入れる。

 

───「ゴミのポイ捨て、ダメ絶対」だったな、確か

 

ふと、先日生徒会で考えた「街の清掃活動・清潔化推進月間標語」ともに、その発案者であるとある不良教官(鞠戸大尉)とその直後のいつも通りのドタ(「え、なにそれ安直」と溢した韻子の)バタ騒ぎと一悶着(せいで大爆笑することになった件)を思い出し、思い出し笑いで一帆はくすりと笑みを溢す。ただやはりやる事がない手持ち無沙汰なのは変わらず、取り敢えず一帆はその「運命」の表通りに出る。

 

───さて……どうするか

 

まだ覚悟は決まらない。だがそれでも事前にある程度下調べをしていたお陰で思った通り一帆はこれから事件が起こるであろう現場付近へとたどり着く。視線をめぐらせるとここからやや離れた先にある空中歩道には原作補正か運命と言うべきか、やはり韻子とソラ達2班がいるようで更に伊奈帆やカーム、起助(原作三バカ(?)トリオ)もいる。

 

《あれ?会長、どうしてそこに?》

「散p……げふんげふん、巡回だよ。あと韻子さん、私用で共有回線は使わない」

《え?今「散歩」って?あ、すみません……会長》

「気にしない気にしない、あと火星の親善大使御一行の車両が来たみたいだよ。オーバー」

《了解です、会長》

 

ついに視界に入った緑茶色(オリーブドラブ)の車列、車列の前後を警察の白バイが先導し周囲を追加装甲増し増しの軽装甲機動車(LAV)89式装甲戦闘車(IFV)によって固められた一台の白い要人護送車両(リムジン)が予定通り新芦原市中心街表通りへと到着したのだ。

 

───来たか

 

通信を終えた一帆はまた一歩「運命」に、その決断を迫られた事を自覚する。「介入」すべきか、それとも「逃げる」べきか。どちらを選んでもくそったれなな未来には変わりなさそうだがこの期に及んで未だ決断する事もできず、一帆は大通りの歩道の柵に手を付き項垂れる。が、その時いきなり通信機の回線が開いた。

 

《ちょっ⁉︎伊奈帆⁉︎何を……ごめんインコ、カズ兄!ミサイルが来る‼︎》

「何⁉︎」

《逃げて‼︎》

 

時は来た。否、来てしまった。

 

跳ねるようにして視線を戻し振り返ると親善大使一行の車列の直上とオフィスビルの隙間を縫うようにしてオレンジ色の閃光と煙を引く筒のようなもの、しかも半自動指令照準線一致誘導式(SACLOS)地対地ミサイル(SSM)が飛来して来る。

 

「くそっ‼︎全員伏せろぉっ‼︎」

 

爆音

轟音

悲鳴

 

ミサイルが周囲の護衛のLAVとIFVへと次々に爆炎をバラ撒く、交通整理とか警備がどうのとかって状況ではない。人が右に左にのパニック状態、そんな中を全速で駆け抜けるリムジンに次々とミサイルが襲いかかる。至近に着弾したミサイルの爆風でリムジンが横転して3回転、上下が逆になってアスファルトを滑る白い車体は丁度一帆の目の前、15~20m先の地点で止まった。

 

「あ、ああ………クソが!くそったれ……はっ‼︎」

 

爆煙と炎の海に巻かれ、鉄屑とあるいはただの鉄塊となったその車のドアが外れるようにして開き中から人が出てくる。純白ドレスを着た一帆より、自分より1歳歳下の少女。連日のニュースで見た容姿だ。少女は空を見上げる。それはまるで天を、神を仰ぎ見るかのようで……、

 

───待て、まずいミサイルが来る‼︎

 

その時、一帆の脳裏に頭痛と共に最近は見ない様になっていた「最期」の映像がフラッシュバックする。

 

「……ふざけるな、また、また俺は……」

 

この世界に生まれ変わって、この世界で初めてできた血の繋がった妹が産まれて、ヘブンズ・フォールで両親を失って、代わりに血は繋がらなくとも家族と言える2人に出逢って、俺は決めたんだ。今咲き誇る「花」を、そしてこれから咲き誇るであろう「花」を、「大切な人」を守ってみせると。それは……目の前の火星人のお姫様(少女)であろうと変わらない。

 

「間に合えっ‼︎」

 

柵を飛び越えお姫様に向け走る。ポップアップしたミサイルの着弾までおよそ残り10秒、炎と煙の中に飛び込んだ一帆は迷わず華奢な少女の身体を抱き抱えると残り4秒で逃げ込める場所を探すために周囲に視線を巡らせる。

 

───あった!マンホール!

 

残り3秒、一帆の目線の先にあったのは爆発の衝撃でこじ開けられ跳ね飛ばされた下水道へと続くマンホールの穴。事前にある程度下見して場所を把握していたのもあるが、実際に事件が起きた際に丁度すぐ側にあるとは限らなかったために辛うじて頭の片隅にあった程度の知識であったが、それが功を奏したらしい。

 

「舌噛むぞ!口をしっかり閉じて掴まれっ‼︎」

 

一帆は全力で飛ぶ。マンホールに飛び込んだその直後、その頭上にミサイルが着弾した。

 

「ぐあっ‼︎」

「きゃあっ⁉︎」

 

撒き散らされる爆炎と爆風を頭上に感じつつ2人は地下の下水道へと落下する。ここ数日全くの降雨がなかったせいか干し上がった下水管に落下した2人、下敷きになった一帆が受けきれなかった落下の衝撃でお姫様の首に掛かっていたペンダントにヒビが入った。硝子が砕ける様な残響を残して少女の姿が変わる。金髪は茶髪に、服装も純白のドレスから黒い侍女服の様なものに変わった。

 

「これは……」

 

火星のお姫様と思っていた人物(少女)は立体ホログラムを使った影武者、ニュースでやっていたお姫様の演説の後ろにいた侍女の服を着た同い年位の少女が目の前にいた。

 

「ぐっ、……取り敢えず逃げよう。このままが1番まずい」

 

落下の衝撃で身体中が、特に落ちた時に強かに打ち据えることとなった背中がじんじんと痛むものの、一帆は気絶した少女をお姫様抱っこで抱えて安全な共同溝か下水管の出口を探すために歩き出す。途中無線を使おうとするがさっきの落下の衝撃で壊れたらしく反応がない。

 

───前に鞠戸大尉に方位が確認できない場所で正確な方向感覚を掴む技術とか鍵開け(ピッキング)技術教わっといて良かった……

 

内心鞠戸大尉に感謝しつつ少女を抱えて下水管を進む一帆は思う、確実にこれから世界は荒れるだろうと。

 

 

 

影武者でも本物のお姫様でもない、死んだはずがない火星のお姫様が死んだという事になり、この見せかけの「平和」が終わるのだと、火星との戦争が再びはじまるのだと。

 

 

 

 

 

 

そして、一帆の予感は的中する。存在しないはずの火星のお姫様(プリンセス)暗殺事件。その次の日、高軌道上にいた火星の要塞「揚陸城」が降下。火星との戦端が開かれ数時間後には各国主要国都市、この国、日本では東京が陥落した。

 




火星のお姫様の影武者生存。原作ぶち壊しになる予感。
基本主人公は誰でも助けます、錬鉄の英雄ほど在り方は歪んではないけど主人公も歪んでる。

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