ALDNOAH.ZERO -Earth At Our Backs-   作:神倉棐

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本作品を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
自分にとって処女作となる本作品につきましては長らく未完の状態ではありましたが、突然ではありますが連載再開と現在構想中の作品の実験の為にも一度内容の修正と改善の為に一部改稿させて頂きました。
今後とも一層のご愛顧を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。


EPISODE.01/ 【火星のプリンセス -Princess of VERS-】
1/1 「平和な日常」


 

 

【日本 芦原市 11月11日 5時30分】

〈Japan Awara city 0530hrs. Nov 11, 2014〉

 

 

愛用の液晶型携帯端末内蔵の目覚まし時計の電子音に八朔 一帆──(もとい)俺は目を覚ます。液晶画面に表示された時刻は午前5時30分、間もなく夜明けである。

 

「ふぁああ……朝か」

 

秋も過ぎ、11月に入って朝が辛くなり布団から出たくなくなる寒さの今日この頃であるが、()()()()()()()からいつの間にか習慣化していていたこの時刻で目が覚めることは変わらないらしく今日もまた自然と目が覚める。

 

───あ"あ"……(さむ)っ⁉︎……もう冬だな

 

着ている服は上下とも黒のジャージ、ぼさぼさで寝癖の付いた頭には今日もまた元気にそびえ立つアンテナ(アホ毛)があり、ベッド側に置いてあった液晶型携帯端末を片手に()()()()()()に迷惑をかけぬように自室を後にする。

 

「さて、今日も走りますか」

 

今日また空を見上げる。一帆がこんな朝早くから起き出した理由は、同じく日課である毎朝のランニングのため。ここ数日の天気は生憎の曇天、しかも気温は何と先日の最低気温10℃をも下回る8℃であったが、もう()()()()()()()()()()()()()を考えてもこれは八朔にとってやめるにやめられない日課のひとつである。

 

───えーと、いつものルートは確か……海岸公園近くの区画が人工地盤(フロート)工事中で通行止めだったっけ?

 

走る距離は自宅(芦原市)から隣町の海岸公園(新芦原市)までの往復5km、途中人工地盤工事中で通行止めの区間を避けても大体30分程度走って帰ってくることになる。

 

「財布と携帯っと、忘れ物はないな?うっし、行きますか」

 

路上での準備運動もそこそこに、万が一に備え財布と携帯(身分証と連絡手段)を愛用のウエストポーチに放り込み走り出した一帆が日課のランニングを終えて自宅に戻って来たのは午前6時をやや回った頃であった。

 

「ただいま」

「おかえりカズ兄、今日の朝と昼のメニューはどうする?」

 

一帆を出迎えたのは同居人の1人にしてこの家に住まう4人中2人しか居ない男の片割れ、界塚 伊奈帆(かいづか いなほ)である。

 

「朝はトーストと……冷蔵庫にベーコンがあったからベーコンエッグにして、昼の弁当の方は昨日の残りの唐揚げと出汁巻き卵にしようか。ユキさんとソラも喜ぶし」

「じゃあ僕が朝食を作るよ、カズ兄は弁当の方を」

「OK、んじゃまあ、やりますか」

 

一帆と伊奈帆の2人はエプロンを着けキッチンに上がり、1人は包丁を握りもう1人はフライパンを握る。最近はなんだかんだ忙しく久しぶりに2人揃っての料理作りと役割分担ではあったが、一帆の刻む包丁の音がリズム良く響きその隣で炒められるベーコンの食欲のそそる美味しそうな香りが次第に部屋に充満し始める。

 

「カズ兄」

「ん、了解。ほい4つ」

 

伊達に調理場に立ち続けて十余年、伊奈帆と一緒にならば丁度10年も共にフライパンや包丁を振るって来ただけに阿吽の呼吸もお手の物。手渡された卵を両手に1つずつ、器用に片手で割り中身をベーコンの上に落とし蓋をした。

 

「……今日は半熟にしよう、なら弱火で5分か」

「なら丁度良かった。伊奈帆、立ち位置交代。これから出汁巻き卵を作るしそろそろ時間だからパンも焼き始めようか」

「分かった」

 

次は一帆と伊奈帆の立ち位置が入れ替わり一帆がフライパン、伊奈帆が食器棚から皿を取り出し始める。

 

「そう言えばカズ兄、知ってますか?」

「ん?何を?」

 

そして食パンを4枚袋から出しトースターに押し込みつつ、伊奈帆は思い出したかのように一帆にとある話題を投げ掛けてきた。

 

「来週、火星から親善大使として火星のお姫様が来る話です」

 

その話題、それは今地球で最も話題を呼んでいる「火星のお姫様」のことだった。

 

「ん、確か日本のここ、何故かわざわざこんな辺鄙な一地方都市に過ぎない新芦原市に来るんだっけ?おかげで警察と軍だけじゃ人手が足りないんでウチの生徒会の方でも人手が足りないからボランティアを募集してたな。それがどうした?」

 

己が所属する生徒会、もといその生徒会長である一帆は最近ある頼み事をしたとある()()()()に言われたことを思い出しつつ出汁巻き卵を作り始める。先程も言ったがわざわざこんな辺鄙な街にそんな下手すれば国家以上の地球の一大事にもなりかねない──いや()()()()()話題の人物が来るせいで、ますます増えた生徒会の仕事に副会長と書記の2人が真っ白になっていたのはそれを目の前で目撃した一帆にとってまだ記憶に新しい出来事である………ちなみに話は変わるが出汁巻き卵を作る際のコツは入れ過ぎない事少な過ぎない事、多かったらスクランブルエッグになるし少な過ぎたら卵焼きにならない。長年の勘が物を言うがコツを掴めば案外面白く簡単だ。

 

「カズ兄はどう思う?」

「何を?」

「……火星人の事を」

 

そんな過去と()()を憂い現実逃避に走りつつ、伊奈帆の声を聞きながら卵を折り返す。再び解き卵を注ぎ足し焦げないよう丁寧に焼いていった。

 

「特になんとも、って言うのが本音かな?……確かに両親が死んだ直接的な要因は月面の「超時空転送門(ハイパーゲート)」が吹き飛んで月が砕けたから。その引き金になったのは確かに火星側の侵攻なのかもしれないけど、所詮ご先祖様達はろくに整備や管理もできないよくも知らない誰か昔の遺産を好き勝手に弄りまわしてたんだからいつかは確実にあの大厄災(ヘブンズフォール)は起きていた。なら全ての責任は火星にある訳じゃ無い、それを分かっていながら分からないふりをしていた地球も悪い」

 

できた出汁巻き卵を大皿に移し包丁で均等に切る。10に切り分けその両端を除く8つを2つずつ4人分の弁当箱に詰めその隣に鶏の唐揚げを、そしてあらかじめ切っておいたブロッコリーとミニトマトを詰めて1段目に蓋をする。2段目のご飯はオカズとの相性を考えて少し多めに、全体的に茶色っぽい弁当であるが変に色鮮やかな弁当にすると何故かやたら体育会系である我が家の女性陣の方から苦情が来るのでこれが案外丁度良かったりする。

 

───うん、今日も良い出来だ

 

「俺は「火星人」そのものを嫌いにはなれない。嫌うのだとしたら戦争による強奪しか頭に無い「軍人」か、私利私欲塗れで世界を巻き込む「貴族」サマとかくらいだよ」

「……カズ兄の様に考えられる人が他にもいれば、少しくらい世界は平和になるだろうけど」

「ならないさ、人の本質は何かを否定し何かを肯定する事だ。自分を、他人を、時には世界や過去、未来すら否定する。それは間違いだとは言わないけれど、正解でもない。所詮平和なんて次の戦争への「準備期間」でしかない」

 

一帆は苦々しげに伊奈帆の言葉を切り捨てそう答える。

 

───例え世界が変わろうと人は変わらない

 

そんな事は前世から転生し、厄災を超えて生き延びた一帆は嫌という程経験し理解してきた。ただ、まぁ……突然話をぶった切られた伊奈帆には悪いとは思うし、今更だが原作主人公と同居することになった経緯についてはかつて一帆とユキのそれぞれにそうするべき様々な理由というか何故かそもそも一緒に育ったからだとか打算がとか色々とあったその結果なのだが、案外その一帆とユキだけでなく伊奈帆やソラもまた今の生活に心地良さを感じていた。

 

「カズ兄らしいね、本当に1歳だけ歳上なのが信じられないよ」

「……伊奈帆、そんなに俺は老けて見えるのか?」

「違うよ、この家でそして学校の中でも1番大人びてるから」

 

伊奈帆は焼けたトーストを皿に乗せ、同時にフライパン一面に焼き上がったベーコンエッグを皿に均等に切り分ける。

 

「伊奈帆に言われてもなぁ、高1が理解しておくべき物理についての知識以上の知識を持ってるだろ」

「それを仕込んだカズ兄は言えないと思うよ?」

「教えた事すぐ吸収するから教えやすいんだよ……さて、寝坊助2人を起こしに行くか」

「ペニビアとルナを起こしに行きましょう。あ、カズ兄はペニ……ユキ姉を起こしに行って下さい。僕はソラを起こしに行きます」

「ペニビアとルナて……確か怠惰の女神と母性の女神か」

 

───ユキさんに関しては言えて妙な気もするが、ソラが「母性の女神」ってどうすればそうなる?

 

そして2人が朝食の用意を終えたのはそれから数分後の午前7時丁度頃、そろそろ目覚めて朝食を食べ始めなくては旧芦原市内とはいえ新芦原市との市境に近い団地に住む彼らにとって登校時刻や出勤時刻(通勤通学バス)に間に合わなくなる時間帯である。

 

「ユキ姉はカズ兄じゃなきゃすぐ起きてくれないので頼みますよ?」

「へいへい」

 

相変わらず伊奈帆のよく分からない命名基準で付けられたあだ名に首を傾げつつ、実の姉(ユキさん)の相手を押し付けた張本人がそそくさとキッチンを出てソラの部屋に向かったのを追い、一帆もまたリビングから1番手前の部屋それも一帆の部屋の正面にある部屋の扉をノックする。

 

「ユキさん、入りますよ」

 

毎度の事だが返事がないので一帆は勝手に扉を開ける。私生活がややだらしないのもそうだが彼女自身もまただらしなさを自認しているため、その世話をしている一帆や伊奈帆が入れるようユキさんは部屋に鍵を掛けない派なので勝手に入れる──入れてしまうのだ。

 

「またスーツのままで寝てるよ……確かに昨日は帰りが遅かったけど、まだ21なんだし余り無理はして欲しくないんだけどなぁ」

 

部屋に入って早々に一帆が目にしたのは白を基調にした家具と私物より遥かに多い書類やら衣類やらが積まれた雑多な部屋。特に今日は上着とスカートは床に放り投げられており、一帆は洗濯と皺伸ばしのためにそれを拾いつつも布団に包まれる様にして寝るユキさんの枕元に近づいてゆく。ぐっすりと熟睡した、そして枕元から見下ろした彼女はずいぶんと幸せそうな寝顔をしていた。

 

「むにゃむにゃ…………zzzz」

「なんか良い夢でも見てるのかな?起きてもらうけど」

 

罪悪感が半端ではないが一帆はユキさんの肩を掴んでユサユサと軽く揺らす。ただ声を掛けるより直接身体に動きを与えるこの方が彼女にとって非常に起こしやすいのである。

 

「ユキさん、ユキさん、朝ですよ。起きて下さい」

「ふみゅぅぅ………カズ君?まだ眠いよ……」

「もう7時過ぎです。今日は軍事教練の日だから遅れられませんよ?だから起きて、むあっ⁈」

「うみゅぅぅ……カズ君も寝ようよ……zzzz」

「ちょっ⁉︎ユキさん⁉︎」

 

ゆさゆさと揺らし続ける一帆に対し、いつにも増してなかなか起きないユキ。寝言を口に(まだ寝かせてと乞願)しつつそれでも妨害され続けるユキは、安眠を邪魔するその原因を排除すべく無意識に伸ばした手でその邪魔者の襟を掴まえ黙らせるべく布団の中に引きずり込む。

 

───いやいやいや⁉︎ユキさん⁉︎いきなり何するんですか⁉︎

 

しかし引き込まれた方はたまったものではない。ひとつ屋根の下、いつしか「異性の女性」としてでなく「家族」として関係を持ち接していたとはいえ「男女」という性別までは変えられない。あったかいし柔らかいしで一帆の思考回路は一瞬でオーバーフローし硬直する。一応一帆もまた自己流で鍛えてはいるものの本格的に身体を鍛え武術を学んだ本職軍人には敵わない、がっちりホールドされて抜け出せない。しかも手だけでなく更に足でもロックされた。

 

「ユキさん⁉︎伊奈帆‼︎助けてくれ‼︎」

 

逃げられない一帆は必死に伊奈帆を呼ぶ。祈りが通じたかソラを起こした伊奈帆がドアを開けて中を覗いてきた。

 

「伊奈帆‼︎ヘルプヘルプ‼︎」

「……カズ兄、ガンバ」

「伊奈帆ーー⁉︎」

「うみゅ……煩い」

 

しかし一帆のその必死の嘆願(救難要請)も虚しく、布団の中の惨状を確認した(面倒ごとを嫌った)伊奈帆は無慈悲にも部屋の扉を閉じてしまう。そして捕獲したにも関わらず相変わらずうるさい安眠妨害の相手を捕獲者が黙らせたのは全くの同時であった。

 

「うふふ……あったかい」

 

結果残されたのは拳で黙らされた哀れな小羊とそれを抱き枕に安眠を貪る狼の2人のみ。

 

 

 

 

 

結局、2人が部屋から出てきたのは8時前でそのあと学校に遅れそうになったりならなかったりしたそうだが、その日の一帆は何故か朝から白く燃え尽き(酷く草臥れ)ており、逆にユキは肌がツヤツヤしていたそうな。

 




原作一週間前の一幕……いらない気もするができたので上げときます。

キャラ崩壊?ナンノコトヤラサッパリ……主人公が界塚家に居る時点で崩壊してんだよちくしょう‼︎

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