ALDNOAH.ZERO -Earth At Our Backs-   作:神倉棐

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コロナ感染でしにそうな今日この頃(死んだ目)


9/2「Singularity 1999. -Shattered Skies-」

 

 

【地球 12月8日 18時42分】

〈Earth 1842hrs. Dec 8, 1999〉

 

 

 

──1999年12月8日18時42分39秒

 

 

 

その日、砕けたソラのカケラが世界に降ってきた

 

 

 

1999年初頭より発生したユーラシア大陸紛争、そしてそれらを鎮圧すべく地球連合政府はユーラシア大陸総軍を編成し四方面からの(シベリア-台湾-エベレスト)挟み撃ちによる(-モスクワ戦線を構築して)反乱軍の軍事的鎮圧作戦を展開するもその政治的・軍事的混乱を突いたヴァース帝国からの宣戦布告によって第一次内惑星(地球-火星)間戦争が勃発

 

地球・火星両軍の戦略上最重要拠点である月面の「超時空転送門(ハイパーゲート)」、火星側の圧倒的な技術的優位性と宣戦布告同時攻撃により「門」の主導権を奪われた地球側はそれでもなお僅かに残った地の利を活かし奪還を目指し善戦していた

 

第一次内惑星間戦争発生より3日、開戦初頭より繰り返された「超時空転送門(ハイパーゲート)」を巡る攻防──第3次月面決戦

 

その主導権を巡る戦いの最中、「門」は原因不明の要因により暴走。「門」の機能である「時空間を折り畳む」機能が異常活性し、幾重にも過剰に折り畳まれた空間は何らかの物体が「門」を通過しようとした、その瞬間にソレは解放された──

 

──さながら、はち切れんばかりに膨らんだ風船に針で孔を開けるかのように

 

 

結果、解放された余剰空間はその小さなサイズに見合わない莫大な空間質量によってマイクロブラックホールと化し、それが放つエネルギー輻射によって「門」だけでなくその周囲の空間を──月そのものを破壊した

 

月の裏側を起点(グラウンド・ゼロ)にその半分が削り取られ、月面に展開した地球・火星両軍の戦力は文字通りの消滅

 

砕けた月はその大半を小惑星帯(アステロイドベルト)として月軌道に広げ、一部は地球へと大小様々な1()()()()()()として分散して降り注いた

 

小さな破片や突入角度が浅かった破片が大気圏での摩擦によって燃え尽きた一方で、大きな破片は大気圏内で更なる分裂を繰り返し少なくない数の隕石として地球上、特にユーラシア大陸東部や東太平洋洋上に落下

 

各国の都市などに落着し数多くの巨大なクレーターを量産した他、太平洋沿岸では二次災害として複数の津波を発生させる事となった

 

 

 

──1999年12月8日23時59分9秒

 

そして8日23時59分、日本の芦原市には数個の破片が落着。海岸線へと落着したソレは、平和だった筈の地方都市の港湾から市街を含め37%を消失させ歪なひとつの巨大衝突クレーターを形成した

 

 

 

〈*〉

 

 

【日本 芦原市 12月9日 0時47分】

〈Japan Awara city 0047hrs. Dec 9, 1999〉

 

 

──満天の彗星雨(Comet rain in the whole sky)

 

砕けたソラのカケラが世界に降った日、それは地上から見れば満天のソラに彗星の雨が降った日でもあった。降る彗星──見上げるだけなら美しいだけのソレは、しかしその幾つかが地上に堕ちて来た時点で大地は「地獄」と化した。

 

そしてそんな瓦礫に埋もれた都市に1人の少女と男の子が居た。2人の両親は「ヘブンズ・フォール」、後に「ソラが砕けた日(Shattered Skies)」と呼ばれる「厄災」による災害で死んだ。姉弟(きょうだい)の姉である僅か7歳の少女は、両手で1歳の男の子を抱いてつい先ほどまで己を押し潰さんとしていた瓦礫の中から脱出しその上に立っていた。酷い有様、月のカケラが降った直後であれ碌な救助も訪れないまま彼女は考える。

今の事、これからの事、更に未来の事、これからは彼女ひとりで弟を守らなければならない。

 

「ナオくんはわたしがまもらなきゃ……」

 

彼女に悲しむ時間は無い、涙を流す暇は無い。ただ弟だけは救わなければ、守らなければならなかった。そんな時に背後で音がする、誰か救助が来たのかと少女が振り向くとそこにいたのは汚れて傷だらけな白いヘルメットを被り酷く草臥れた顔をした男で、そして己の弟と同じ位の年頃の男女の幼子を抱えた男だった。

 

「あ、あなた……は?」

「ボクは……それよりも君達は?親御さんは」

 

男の問いに少女は僅かに首を左右に振る。彼女の答えに、僅かに表情を曇らせたその男のは2人の幼子をその両腕抱いたままそこに座り込んだ。

 

「だっ、だいじょぶですか⁈」

「ああ……でもよかった、君達もありがとう。ありがとう……」

「え……」

 

カランと衝撃によって顎で留められていたはずのヘルメットが瓦礫の山に落ちる。跪くように座り込んだ男に慌てて駆け寄った少女だったが、そんな少女に対し男は涙を流していた。

 

「生きていてくれて、本当にありがとう」

 

何処か疲れ果て痩せこけてしまった草臥れていた男は、そう言って器用に幼子を落とすことなく少女の手を握りながら涙を流す。だがその男は涙を流しながら、涙に覆われていながらも笑顔を、安堵の顔を浮かべて彼女の手を確かに握った。男は救われたと言った、助ける事が出来て救う事が出来たと言った。まるで………そうまるで救われたのは少女ではなく、その男の方だったかのように。だがそれを見た少女は「綺麗」だと思った。その男の笑みと涙がどうしようもなく美しいモノなんだと思った。

 

 

後に戦災孤児となった少女とその弟の男の子はその男に引き取られることとなる。そしてそこには、この日男が抱えていた()()()()()()()()()()の姿もあった。

 

 

そしてこの日少女が目にした恩人である男が零した笑みと涙は、どうしようもなく美しいモノは、彼女──「界塚ユキ」にとって人助けを、戦後もなお戦災復興に従事する地球連合軍人を志す要因ともなる。

 

 

 

 

 

 

 

こうして、少年少女たちは出会う。本来ならば決して交わるはずのなかったはずがなかった物語のシナリオが交差した、その瞬間だった。

 




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