ALDNOAH.ZERO -Earth At Our Backs-   作:神倉棐

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ただでさえ遅い更新が遅れてしまい申し訳ございません。
今後も10月頃まではかなり更新が遅れてしまうかと思いますが、今後とも一層のご愛顧を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。


EPISODE.09/【追憶装置 -Darkness Visible-】
9/1「それぞれの過去」


 

 

【北太平洋洋上 デューカリオン艦内第一格納庫 11月24日 9時42分】

〈North Pacific Ocean Hangar 1 in AAA/BBY-001 Deucalion 0942hrs. Nov 23, 2014〉

 

 

物資補給および情報交換のため沖ノ島にて会合を果たした白鯨(パンドラ)との別れを惜しみつつ、デューカリオンは夜が明けて早々に再度出航。再び火星側からの捕捉を警戒しつつ地球連合本部に向け低高度かつ海上を航行していた。

 

「じゃあ訓練を始めます……といっても艦内で実機を動かす訳にはいかないからシミュレーターでの仮想訓練だし、観客(ギャラリー)がいるとはいえそちらにばかり気を取られ過ぎないように」

 

そんな北太平洋洋上を行くデューカリオン艦内の第1格納庫の一角にて、駐機されたKG-7(アレイオン)を前に片手にノートPCを持ち並んだ己の部隊の(マスタング隊)隊員と、そして()()()()()()()()()()を見渡しつつ隊長である界塚ユキ准尉は訓練開始を宣言していた。

 

「……ほら、そこ!起助君とカーム君、お姫様が見学に来てるからってよそ見しない。カーム君は整備長に無理言ってコッチの手伝いに来て貰ったんだから真面目にしないなら整備長に返品するよ」

 

早速よそ見をしつつ鼻の下を伸ばす起助とカームに叱責を飛ばすユキ。ちらりと彼らがよそ見する方向──ニコニコとお淑やかに手を振る火星のお姫様とその背後で己に苦笑を送る一帆の姿を確認した彼女は、胸中に浮かんだ諸々の感情を飲み下しつつ代わりにそれはもう大きなため息を吐いた。

 

「全く……」

 

開戦以後、戦時中どころかその弾雨の中を突っ切るカタチで各地で転戦を続けていながら家族だけでなく教え子全員が、五体満足かつ無事を確認しているというのに()()()彼女の心労は留まることを知らない様子であった。

 

「じゃあまず韻子ちゃんから、次は起助君でナオ君は最後ね」

 

とはいえ今は訓練中、胸中に渦巻く愚痴やらなんやらに関してはひとまず傍に置いておき再度気を取り直したユキは実機を使用したシミュレータ訓練を開始した。

 

「ではシミュレーションを始めます。ひとまず想定は市街地戦、戦況は劣勢で小隊戦(3対3)。軍の物とはいえ基本は学校の物と同じだからいつも通りで大丈夫、ただしガワは今まで通りでも中身は軍用でかつ今回の実戦で採ったデータから得た数値を基に更新しているので注意すること。それでは──状況開始!」

 

号令と共にユキの手に持ったノートPCの実行(エンター)キーが押し込ま(タップさ)れシミュレータが本格的に稼働する。そして彼女が持つPCにはシミュレータ内の各種データと共に、実際にシミュレータ内にて絶賛訓練中の韻子が見ている景色がそのまま映し出されていた。

 

「へぇー、軍のシミュレーターってどんなものか分からなかったんすが、学校の奴やアーケードの奴より結構良く出来てますね」

「まあね、腐っても軍に納品された物だから。学校やゲームセンターにあるのは軍の型落ち品か軍用の物をある程度簡略化した廉価版」

 

そんな彼女が監視している画面を背後から覗き込みぼやいたカームに、ユキは画面からは目を離すことなくそう答える。彼ら彼女らが日々行なっていた軍事訓練、全国的にも珍しく演習場が併設され実機による実弾射撃訓練も行われていた芦原高校ではあるが、悲しかな予算も無限ではないため当然シミュレータでの訓練も多い。とはいえそれも所詮軍から払い下げの中古品、多少のバージョンアップこそしてはいるが元が旧式化したKG-6(スレイプニール)用なため最新のKG-7(アレイオン)用に比べれば物理演算能力や描画能力はやはり見劣りしてしまう。

 

「ほらほら、韻子ちゃん。周囲警戒は厳にして、レーダーだけじゃなくサーモグラフィーへの警戒も怠らない」

《はい!》

 

いつもの使い慣れたシミュレータでもなければ実戦を経験したからか、いつも以上に神経を尖らせながらも少しばかり焦りを滲ませる韻子の様子にユキの注意が飛ぶ。

 

《2時の方向に機影3、IFFに応答なし!敵機と判断、まもなく有効射程内のため交戦に入ります!》

 

ユキの注意にもハキハキと答えながらも、韻子は交戦規定通りの対応をしつつ敵機との交戦状態に入る。敵味方共に大半がCPU、それもお世辞にも余り賢いとは言い難い出来のAIでもアルドノアドライブ搭載する分火星機──それも現実に即した頭のおかしい性能──は戦術も何もないただの平押しであっても何の変哲もない地球機ではロクに抵抗もできずに打ち倒されてゆく。

 

「韻子の奴、結構やるなぁ……流石実戦を3度経験しただけはあるか」

 

しかしそんな中でも唯一()入りなのもあるが、実戦経験を経て軍人や戦士(パイロット)としての一層の勘や技量を磨いた韻子はそんな圧倒的に不利な状況であってもかなり善戦していた。

 

「はーい、状況終了。韻子ちゃんは次は起助くんに交代ね、反省会は最後にするから反省点をまとめといてね」

 

が、残念ながらどう足掻いても教本通りの正攻法では機体の性能差を引っくり返すことはできずに撃破判定(シグナルロスト)その次(二番手)の起助もどちらかといえば工兵よりの操縦者なため、韻子程の善戦はできずにやられてしまい遂に最後の伊奈帆目前まで順当に訓練を終える。続いてシミュレータに乗り込もうとした伊奈帆だったが、ユキの一旦休憩との声と見学していたお姫様御一行が第二格納庫へと移動していたのも相まって韻子と起助に引き摺られて格納庫を後にしていた。

 

「私にもやらせて」

「ん?貴女確か、トレーラーの……」

「あ、例の会長の機体の後部座席に載ってた娘じゃん」

 

ひとり居残り(整備作業の手伝い)を命じられたカームのブーたれた愚痴を除けば、やや静かになった第一格納庫にいつの間にかユキの背後までやって来ていた赤髪の少女──ライエ・アリアーシュの声が響く。声に振り返ったユキはすぐには彼女が誰かを思い出せなかったが、代わりにカームの方が「Doll Drop」作戦から何かと彼らの頼りになる会長と関わりのある少女であると先に思い至る。

 

「でも貴女……教練は受けてないんじゃ?」

 

シミュレータをやらせてくれと頼むライエに困惑するユキ。見たところ年齢は伊奈帆やソラと同じくらい、であるというのに彼女が誰か咄嗟に出てこないということは少女は彼女の教え子ではないということであり、そもそも少女の年頃で先の強制動員で徴兵されているならば軍事教練を受けていたはずである。

 

「ゲームで覚えた」

「あ!それって新芦原のゲーセンにもあったシムカット10*1?俺実習はイマイチだったけどアレは結構イケるんだぜ!」

 

それに「操縦の仕方分かるの?」に対し「ゲームで覚えた」との言葉もユキ的には正直いただけない。確かに偉い人達の思惑として彼女の答えは決して間違いではないのだが軍人として、大人としてそれを無条件で受け入れるのはどうなのか。とはいえ人手が足りていないというのもどうしようもない事実、ひとりゲームの話題に盛り上がるカーム(バカ)を他所に渋々だがシミュレータへのライエの搭乗を許可したユキは粛々とその準備を始める。

 

《ねぇ》

「んー?何かしら?」

 

やるからには真剣に難易度調整のために環境数値やら敵の設定やらで手にしていたノートPCを操作していたユキ、そんな彼女に対し既に機体に乗り込んでいたライエが外部スピーカー越しに問い掛けていた。

 

《何で貴女たち一緒にあの騎士サマといるの?一緒に暮らしてたとも聞いた、どうして?苗字も違って、血の繋がった家族じゃないのに?》

「騎士って、カズくんのこと?まあ確かに血の繋がった訳じゃないけどカズくんやソラちゃんは家族だもの」

 

ライエの問いにユキは思わずPCを操作する手を止める。よく知らぬ相手から問われた思わぬ問いに、しかし言い淀むことなく彼女はそう答える。

 

《……何で?》

「んー……何と説明すれば良いか、まあ昔のことよ」

 

ただ、その答えに納得できなかったのか一拍の間をおいて重ねてライエはユキに問う。それに対しノートPC片手にユキは空を見上げ何処か懐かしむような、少し悲しいような表情を浮かべアレイオン機内にいるライエと向き合った。

 

「15年前の「厄災」の日(「ヘブンズ・フォール」)月の欠片が降った日(ソラが砕けた日)の、そんなありきたりな話」

 

 

 

〈*〉

 

 

【北太平洋洋上 デューカリオン艦内第二格納庫 艦載機格納シリンダー 11月24日 10時13分】

〈North Pacific Ocean Aircraft storage cylinders in AAA/BBY-001's 2nd Hangar 1013hrs. Nov 23, 2014〉

 

 

一方その頃、マスタング隊の訓練風景の見学を終えた一帆とアセイラムたちはカタフラクト用の第1格納庫からVF(バルキリー)用の第2格納庫へと移動していた。

 

「あれ?マグバレッジ艦長?」

 

艦首から艦尾までを軸に、内壁に沿ってリング状に配置された複数枚の駐機台(パレット)の内で唯一、その上に機体が駐機された駐機台へと通路(キャットウォーク)を経て向かっていた一帆はその機体に向かってこちら側に背を向けて立つその女性の姿には見覚えがあった。

 

「何故ここに?」

「……君達ですか」

 

一帆の呼び声に振り返ったダルザナ・マグバレッジ艦長は、己の名を呼んだ一帆とその背後を次いて歩くアセイラムやエデルリッゾの姿を見ると特段驚いた様子もなく彼らを受け入れた。

 

「桜木軍曹の報告を受けに、それに一度()()を直接目にしておこうかと思いまして」

 

白亜の機体、その胸の中(コア)()()()()()()夢の超古代宇宙文明の遺産(アルドノアドライブ)を秘めた、一帆だけが駈ることを許された戦乙女(バルキリー)にちらりと視線を投げ掛けつつも一帆たちに向き直った艦長はそう答える。

 

「艦の指揮も不見咲君に預けました。航路も昨夜中に確定してあります、問題はないでしょう」

 

加えて「何か異常があれば真っ先に私に連絡が入る手筈なので大丈夫でしょう」と答えた艦長は、改めて駐機された一帆の機体(VF-25)に身体を傾けるとその手を傷ひとつないその装甲板に触れ沿わせる。

 

「……ふむ、やはり見たところ私には普通の戦闘機にしか見えませんね」

 

「そりゃ、そうさね。中身はともかく、外観(ガワ)は間違いなく戦闘機だからね」

 

一帆たちの前で機体表面を撫でるマグバレッジ艦長の呟くような、そんな声に答えたのはこれまた一帆にとっては聴き慣れた声。

 

「整備長」「桜木軍曹」

 

いつからそこにいたのか、絶妙に被さった(ハモった)一帆とマグバレッジ艦長の言葉に答えるように機体の影から現れたのは作業着に身を包んだ老齢の小柄な女性──桜木綾美軍曹だった。

 

「軍曹、報告を」

 

整備長の姿を認めたマグバレッジ艦長は多忙な彼女がわざわざ格納庫まで足を運んだ理由、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()性能諸元(解析情報)の報告についてであった。

 

「良いのかい?」

「構いません、続きを」

 

ちらりとマグバレッジ艦長の横に立つ一帆(一般兵士)──ではなくそのさらに横に立ったアセイラムたち(敵国の人間)に目線を送り「機密をこんな場所で話して良いのか」と問うた整備長に対し、マグバレッジ艦長は「問題ない」とその続きを話すことを促す。そんな艦長の態度にちょっとばかりため息を吐きつつも、整備長は判明した分の性能諸元について話し出した。

 

 

全長 18.72m

全幅 15.50m(主翼展開時)

全高 4.03m(ファイター)/14.53m(バトロイド)

空虚重量 8,500kg(推定値)

エンジン ステージⅡ熱核タービンエンジン×2基

エンジン推力 1600kN(推定値)×2

最高速度 M5.0+

航続距離 詳細不明

 

 

幾つかの要目に分けて語る整備長だったが、機体の全長から始まって航続距離まで話してすぐに大きなため息を吐いた。

 

「ただ結局はほとんどが未知数回路(ブラックボックス)、詳しく知ろうにもこうもガードが固けりゃ碌なデータも見れやしないよ」

 

分かったことは表面上測れることばかりであり、空虚重量やエンジン推力に最高速度はあくまで推定値。航続距離は既存のモノとは一線を画す2ndステージ熱核タービンエンジンなだけあって詳細不明、OSもロックされているためVF-25の中核であるアルドノアドライブを用いた「ISC:Inertia Store Converter(慣性蓄積コンバーター)」に至っては完全に人外未知の領域(ブラックボックス)である。

 

「やはり、本部でなければ詳しくは分かりませんか」

「本部でもどうかねぇ……PVF-X(次期主力可変戦闘機導入計画)の責任者かVF-25(コイツ)の開発者でもなけりゃ、調査は元より量産しようにもOSからデータを取り出すにも出せやしない。解除コードが分かればともかく、無理に開けようと思えば本部なら開けられるだろうがやはり時間は掛かるだろうさ」

 

結論としてどう足掻いてもデューカリオン艦内での解析は不可能との判断が艦長と整備長との間で共通見解として得られた段階で、彼女たちは次なる問題──それもかなり重大な──に目を向けた。

 

「問題は……」

「……そう、一体()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ですね」

 

 

“第一次・第二次内惑星(地球-火星)間戦争”

“15年前”

“厄災”

“種子島”

“極東方面軍”

“飛行/航宙戦艦「AAA/BBY-001 デューカリオン」”

Project Variable Fighter-eXperimenta(次期主力可変戦闘機導入計画)l”

 

そして“可変戦闘機「VF-25/JP25 メサイア」”

 

 

地球上に()()()()()()()のアルドノアドライブの、その模造品。それらを用いた「第四次戦時軍備補充計画・AAA-777 艦隊計画(トリプルA7・プラン)」にまつわる謎は深まるばかりである。

 

 

 

*1
▶︎シムカットX(テン)

正式名称は「カタフラクト・シミュレーションゲーム 戦場の絆 Ver.10」

地球連合でも中核州となる日本のみならず多少「厄災」からの復興が進み、最低限のインフラが整備されている地域ならば必ずあるといっても過言ではない程に普及し、2006年11月から2013年の現在に至ってなお世界各地で稼働中のドーム型スクリーン式の戦術チーム対戦シミュレーションゲーム。

基本的には半天周囲モニターを持った操縦桿やペダルが据え付けられた操縦席型の筐体にプレイヤーが乗り込んで遊ぶ仕様であり、操作方法は実機を基に子供でも直感的に操作できるようある程度簡略化されている。ゲームモードは3人1組(スリーマンセル)での3対3の対人チーム戦と、6人で協力してCPU操作の特殊能力持ち敵性カタフラクトを倒すレイド戦がある。

アーケードゲームとして普及しているもののその大本となった代物は実際に軍に納入されたカタフラクト操縦訓練用シミュレーターであり、政府や軍の出資・協力の下で制作されただけに軍用の廉価版ではあるが作り込み自体はかなり出来の良い仕上がりとなっている。また本ゲームに付けられた正式名称は軍由来のせいか実に安直で面白味に欠けたものであったものの、公共事業として展開・運用を委託された現地企業側の懸命な広報努力によって捻り出されたのが「シムカット」(シムはシミュレーションゲームの略であり、カットはカタフラクトの略)である。

なお軍や政府の思惑として、このアーケードを普及させることでカタフラクトの操縦難易度のハードルを下げると共に、子供の頃から遊ぶことで操縦の基礎技能を習得させ文字通り「大人から子供まで」誰もがカタフラクトを操縦できるようにする惑星総動員の布石として考えている。その他にもランキングによる操縦適性者名簿のリストアップや今後の機体制御OSの開発に必要な操縦データの蓄積、対火星カタフラクト戦並びに対航宙要塞艦戦などの拠点攻略戦におけるカタフラクト部隊運用方法の検証、復興地域などへの娯楽を提供することによる民間人の慰安といった効果を期待していた。




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