ALDNOAH.ZERO -Earth At Our Backs- 作:神倉棐
【日本 種子島海軍基地地下 空き倉庫 11月23日 16時51分】
〈Japan Naval Station Tanegashima underground base Empty warehouse 1651hrs. Nov 23, 2014〉
この世には「戦う者」と「護られるモノ」がいる。
戦う者は多くの場合、守るために戦っている。
例えば兵士には国や民が、傭兵やSPには雇い主や
また戦う者は多くのリスク、特に己が傷付くリスクを抱えている。その一方でその護られる側の、特に人──それも護られる側でありながら余り持つべきではない、戦う者に対し
無力感と罪悪感
それは立場故に生来より常に「護られる」側でありながら、理由はどうあれ戦時中にそれもある意味で敵地のど真ん中で敵国民と友誼を結んでしまうようなアセイラムにとっても例外ではない。地球に訪れて既に4度──いや新芦原での「暗殺
「私が、私のせいなのですか……?」
「ひm……お姉様?」
不見咲副長により先導された一時避難場所としての倉庫の片隅で、ただ何もせず何もできず残されたアセイラムはそう呟く。共犯者である一帆と伊奈帆は友達となったニーナたち共に未だ逆転の奇跡と希望をその手に掴まんと囮としての戦闘や基地内の探査に向かい、最も信頼できるシャルロットは初めて友達として仲良くなったソラと共に負傷者救護に駆け回っている。そんな彼女にとって勝手知ったる親しい者たちが各々できることを全力で取り組むべくほとんどその側を離れてしまっている状況で、もう1人の侍女であるエデルリッゾと己に対し好意的ではないものの訳を知っているライエの2人と共に倉庫入り口の片隅に腰を下ろしていた。
「私が地球に来たからなのですか……?私が来なければ暗殺は起きなかった……そうすればこの戦争も、一帆さんたちや他の人々が不条理に苛まれることも……」
彼女の脳裏に刻まれているのは「わだつみ」脱出の直前、解放されたウェルドックにて伊奈帆が
「そうね」
俯き後悔を滲ませる彼女、そんな彼女の後悔を肯定するような相槌を打ったのはエデルリッゾを挟んで隣に三角座りで座る赤みが掛かった茶髪の少女──ライエ・アリアーシュだった。
「その通り、あの日
「っ!貴女……」
改めて重ねるかのようにさらに断言するライエ。そんな彼女に向かい言い返そうと熱り立ったエデルリッゾだったが、敬愛する姫様への感情を除けば暗殺事件が開戦のキッカケとなったのは結果として純然たる事実であるためにそれ以上に追及することはできなかった。
「覚えておいて、この人たちにとって……火星人はみんな……みんな敵だから」
ライエからの鋭い指摘にアセイラムは唇を噛み締めるかのように閉口し、さらに俯いてしまう。ただ、そんな中で彼女がいった「火星人はみんな敵」という台詞の箇所に含まれた奇妙な間に、何故かアセイラムは漠然とした違和感を感じざるを得なかった。
ただ、だからだろうか。
偶然、倉庫入り口前を通った地球連合軍の女性将校らしき女性2人の会話を盗み聞きしてしまいその後を追って施設内を奥に向かって進む途中で一帆と遭遇し、この種子島と呼ばれる島に隠された秘密──15年前に鹵獲された火星のアルドノアドライブ搭載機を目撃して、そして突然何かに導かれるように走り出し姿を消した一帆の後を追って自分も走り出してしまったのは。
「待って、待って下さい……一帆さん」
目の前を走る一帆、そんなただでさえいつ生命を落としてしまうかも分からない彼が何処か自分の知らない遠い場所に行ってしまいそうな、置いて行かれてしまいそうな強い不安と寂しさに胸が締め付けられ高低差はあれどたかが数十mを走った程度のはずでも息が上がってしまう。
「あった……」
思わず駆け出してしまったアセイラムと、そんなアセイラムを追ってきたらしいライエが一帆に追い付けたのは降って来たシャフトの丁度中腹に当たる位置に開けられた横穴、そこに作られた実験棟とさらに奥に作られた「第一格納庫」と書かれた格納庫の前だった。
「はぁ、はぁ……一帆さん、一体どうし──これは……」
「貴方何処に……何、コレ……」
彼と彼女たちの目の前にあったのは一対の翼を持った「白い機体」。地球事情には疎い火星の姫君たるアセイラムにはそれが「航空機である」ことは分かっても、それが何の用途に向けて造られたものなのかは分からない。
「戦……闘機?」
ただ、
「でも何で戦闘機がこんな所に?」
しかし何故こんな所に戦闘機が、それもまるで見たことのない試作機とも思われる機体がこんな所にあるのか。もっといえばカタフラクト全盛の時代*1においてわざわざ戦闘機、しかもステルス性や整備性の良さのカケラもない
そんな理由や程度は異なるがそれぞれ抱いた疑念に首を傾げる女性陣に対し、それを見た一帆の横顔は何処か以前から待ち侘びていたオモチャを手に入れた、あるいはクリスマスにサンタさんから贈られた箱の中身を見た少年のような笑みを浮かべている。それは短くともそのすぐ隣で行動しているアセイラムやライエから見て普段あまり感情を表情に出そうとしない歳の割に大人びた雰囲気を持つ彼にはかなり珍しい様子だった。
「──やっと、やっと待ち侘びたよ」
──それはこっちの台詞ですよ、マスター
そんな初めて見る一帆の様子に戸惑いを隠せずにいた2人を他所に、当の本人は迷うことなく機体に近付くと丁度機首当たりの装甲表面に触れひと撫でする。何処か感慨深げな呟きは、彼が機体の側へと移動したことで入り口付近のやや離れた位置にいたアセイラムとライエには聴き取れずに空に溶けていた。
「その……貴方、何か知ってるの?この、機体のこと?」
ライエから見て、随分と馴れ馴れしげにその機体に触れる一帆の姿に「何か知っているのか」と彼女は問う。そんな彼女に問われた一帆は「
「ちょっと、貴方何してるの?」
「動かせるかどうか確認してる──電源スイッチは……コレか」
徐に解放したその
「ビンゴ」
半ば直感であってもそれが当たっていれば少しくらいは嬉しいものだ。画面の点灯と共に機体各所から様々な機材の起動音が鳴り響き、戴くべき主を待ち続けた
「Project Variable Fighter-eXperimental YF-25/VF-25?」
幾つかの文字と数字が画面下を下から上へと流れた後、そこに浮かび上がった文字を横から覗き込んでいたライエが読み上げる。
“
日本語に読み直すと「次期主力
「なるほど、Variable Fighterつまり可変戦闘機で
───分かっちゃいたが、
転生特典として本来存在しないはずの代物を無理矢理この世界に
「開発コードは
識る者あるいは望んだ者故の感傷や違和感はそこそこに、そればかりにかまけていられる程時間も余裕もないことを思い出した一帆は機体を動かすために計器画面の操作へと戻る。
「ん?
タラップから覗き込むライエの視線に見守られながら画面を操作していた一帆だったが、いざ機体のエンジン始動の段となって画面上に現れたその警告文にその操作の指を止めた。
「基幹システム?って何、それ……?」
まさかの想定外の警告文に戸惑う2人、素直に疑問が口を突いて出たライエと訝しげな顔をした一帆だったがひとまず大人しく「OK」のボタンを
その次に出てきたその文言と共に、眼前の液晶画面が下方向にズレつつ前に展開されると同時に球体を載せた謎の制御端末がその奥から迫り出してくる。その迫り出してきた代物を見て余計に首を傾げた一帆とライエだったが、それまでの彼らの会話とそれを見て何かを察した人物が1人いた。
「──私の、私が一帆さんのお役に立つ出番ですね」
「セラム……さん?」
一帆とライエはいつの間にか機体の側、タラップの前までやって来ていたアセイラムに気付けなかった。
「代わって、頂けますか?」
「え、ええ……」
何故か何処か強い決意や覚悟を固めたらしきアセイラムの迫力に、彼女を毛嫌いし決して好い感情は持っていないはずのライエもただただ彼女に道を譲る以外に他にない。思わず言われた通りタラップを譲るため床に飛び降りたライエと入れ替わる形でタラップを登って来たアセイラムは、計器奥から出てきた謎の制御装置を目にしてほんの少しだけ考え込む。
「セラムさん?」
「はい」
「何を……」
そんな何処か追い詰められたかのようにも見える彼女の姿に、アセイラムを心配した一帆が声を掛けるが彼女は軽く首を振ると装置からは視線を外し改めて一帆へと向き直る。一帆と目線を合わせたアセイラムは後ろめたさそうに、だがしっかりとした覚悟を持ってその口を開き行動を起こした。
「一帆さん、卑怯と言って頂いて構いません。後で罵って頂いても……責めは必ず私が受けます」
アセイラムはタラップに乗ったままコックピット内に身を乗り出す。そしてその身を乗り出した彼女は、コックピット内で困惑しながらも大人しく座席に座っていた一帆の左頬と肩に手を添えると、惑うことなく目の前にいる
「んむ⁉︎」
「ちょっ⁉︎何してるのよ貴方たち⁉︎」
突然眼前に広がった光学迷彩越しとはいえ分かるよく手入れのされたきめ細やかな白い肌、羞恥故かほんのり上気し朱に染まったそれと長いまつ毛、触れるものの暖かさと柔らかさ、鼻腔をくすぐるこの年頃の少女が身に纏う特有の香りに一帆の思考は完全に停止した。
「んむむむ⁈」
「んん……」
ディープキスとはいかずとも口付けとしてはやや長い、それも
硬直している間に終わったそれは、しかし離されたアセイラムとの間に渡された一瞬光った代物の正体も相まって一帆に年不相応な何処か場違い的な扇情さを
「ア……セイラム……さん?」
思わず偽名の愛称でなく本名で呼んでしまう程混乱と硬直を引き摺る一帆、流石に愛だ恋だのの恋愛感情とは行かずともそれでも身内に準じる程には
「誓いを──汝、我が騎士として未来永劫、我が剣となり敵を討ち倒し、盾として我が身を守ると誓って下さいますか?」
しかし呆然としてしまった一帆と今や完全に傍観者となってしまったライエを他所に、そんな彼と彼女の目の前でアセイラムは大真面目に問いを──彼女が選ぶ最初の騎士にして
───ファーストキス云々はともかく、「騎士」か……この場において騎士となると
正直言って詳しい訳は分からない。だがアセイラムから向けられる真っ直ぐ真剣な瞳に、彼女は今ここで単なる与太でもなければ冗談ですらなく本気で地球人の一帆を火星騎士──すなわち
───それだけ、信用も、信頼もされている……ってことかな
単なる思い付きではない、状況こそしっちゃかめっちゃかで理解はできないが納得はできる。極限状況でかつ信用信頼できる人間が限られる中でその信用信頼している人間が、自分のために命懸けで戦う人が「因子」を必要とする事態に直面したのならば、例えその「因子」がどれ程に貴重で、己の
喜ばしくもあまりに重い彼女の、アセイラムが示した決断に、いつまでも呆けてはいられない一帆も覚悟を決める。
「──誓う」
一帆の承諾と同時に制御装置に付いた球体が光を湛え、溢れた光が2人を照らす。それは姫君を守る新たな騎士の誕生を祝福するかのようで、そんな彼らを乗せた戦乙女もまた本格的な目覚めに至る。
ALDNOAH.DRIVE_READY
SECOND STAGE THERMO-NUCLEAR REACTOR TURBINE ENGINE_START
EJECTION SEAT_CLEAR
IDENTIFICATION FRIEND OR FOE_ON LINE
TACTICAL DIGITAL INFORMATION LINK_ACTIVATE
SYSTEM_ALL GREEN
VF-25/JP25 Messiah_STANDBY
アルドノアドライブ制御装置が格納され、元の位置へと戻った画面に
「………」
「………」
目覚めた戦乙女の上で、静かに見つめ合う一帆とアセイラムの2人。片や機内の操縦席で、片や機外のタラップ上で身を乗り
「あ、見付けました姫様!今地球人の軍人たちがここよりさらに地下に
ただ、そんな空間も後からアセイラムを呼びに追って来た彼女の忠臣たるエデルリッゾの襲来によってぶち壊される。
【日本 種子島海軍基地地下最下層 機密ドック 11月23日 17時5分】
〈Japan Naval Station Tanegashima underground base Secret dock 1705hrs. Nov 23, 2014〉
鹵獲された火星カタフラクトの鎮座する隕石孔より続く縦貫通孔の先、その途中にある一帆たちのいる「第一格納庫」よりも遥か下の最下層。種子島に広がる地下秘密基地において最も広大な空間を有するその「機密ドック」には、ふと下を見下ろしたニーナが偶然発見した極東方面軍上層部が鹵獲機や可変戦闘機同様に隠蔽した「種子島最大の秘密」がそこには横たわっていた。
「お、大きい……」
「何mあるんだ……コレ?」
長く深い孔を降った先、マグバレッジ艦長たち一向が辿り着いた
「でも、なんだか変なカタチしてませんか?」
「そうっスね……何か、確かに結構変わった艦なのはなんとなく分かるっスね」
特に一際目を惹くのは通常の水上艦艇と比べて巨大化したバルバス・バウに膨れ上がった艦尾のスクリューではない正体不明の推進器、衝角じみた剣のように鋭い艦首、そしてその艦最大の外見的特徴として艦船でありながらその船体に一対の翼を持っていることにある。
「ともかく、艦内を確認しましょう。桜木軍曹は機関室に、残る我々艦橋要員は艦橋に向かいます。この艦がはたして動くのか、確かめなくては……」
とはいえいつまでも艦を眺めているだけでいる訳にもいかず、マグバレッジ艦長は先行探索に向かっていた不見咲副長の手引きで艦内に侵入すると集団を二手──桜木軍曹とカームは2人きりだが──に分ける途中、ついて来ていたはずの
「艤装を確認!燃料、武器、弾薬の有無を調べて下さい!」
「「「「了解!」」」」
艦橋に辿り着き次第、艦が動かせるかどうかの確認のため艦長の号令に弾かれるように艦橋要員たちは各担当場所に向かい計器などを確認する。
「……しかし、こんな立派な艦……おそらく超弩級クラスの戦艦かと思いますが……何故出撃もせずこんな地下ドックに放置されているのでしょうか?」
「……」
各員がそれぞれの持ち場で確認する中で、報告を待つ不見咲副長は艦橋内部の様子や予備電源故に薄暗いながらもそこから見える艦橋外の艦の全貌を見てそんな疑念を呈する。種子島に寄港して──否、それ以前に開戦以降は地球人の今までの常識からは分からないことや理解できないことばかり。当然それは大人であり軍人である副長や艦長も同様であり、それらの疑念や問いに答えられる存在はおそらく地球上には存在しないだろう。
「予備電源生きてます!パワーが来ればいけます!燃料は……あれ?……分かりません!」
そんな中で、ニーナから齎された報告はマグバレッジ艦長と不見咲副長の2人を困惑させるには充分だった。
「何?何だその報告は⁉︎報告は詳細にせよ!」
「だ、だって……無いんです!どこにも燃料計が!」
軍人にはあるまじき曖昧な報告に注意を飛ばす不見咲副長だが、ニーナがいった「燃料計がない」との言葉に自分のその目で確かめるべく彼女の座る操舵席へと向かう。実際に己の目でも確認して見て確かに存在しないことを確認した副長は、いつもの彼女らしくなく「そんな馬鹿な」と呟いていた。
「……なるほど、そういうことですか」
「艦長?」
しかし言葉を失った副長に対し、何処か合点がいったらしい艦長の言葉に副長やニーナだけでなくその場にいた全員が艦長へと注目する。
「この艦「
注目されたマグバレッジ艦長は、つい先程まで自分が見つめていた艦橋内の後方壁面にかけられた金属板、そこに刻まれたこの艦の名前と共にこの艦橋中央に鎮座した謎の制御端末に視線を向ける。
「まさかこれは……いえ、だとしたらこの艦の主機は……ってちょっと待って下さい!つまりこの艦の主機はこの真上に居た15年前に鹵獲された機体の──」
「そう、「アルドノアドライブ」です」
鈍色の球体を戴いた円柱状の台座の構造物──アルドノアドライブ制御装置に集まった視線。何故「種子島レポート」が隠蔽されたのか、その真実の一端として鹵獲機から回収された
ただそれ以上に、今問題なのは
「つまり、この艦は動かない?」
重苦しい雰囲気に満たされた艦橋で、ニーナの呟きが静かに響く。まず大前提として、アルドノアドライブは起動因子なくして起動はできない。これは
「っ、何者です⁉︎」
ようやく見つけた微かな希望の光も、「起動不可」という現実に覆い被され見えなくなる。艦橋にいる者全員の心が絶望に心折られかけたその時、突如艦橋に繋がる扉が解放される。開いた扉の先に居たのは、先程いつの間にか居なくなっていた民間人と鹵獲機を見付けた際に一帆に連れられていたはずの民間人の2人組だった。
「だ、ダメですよ⁉︎ここは民間人は立ち入り禁止です!早く外に……」
「……失礼致します」
そんな2人の登場に驚きつつもここは軍艦、それも特に関係者であっても許可なき場合は立ち入ることの許されない関係者以外立ち入り禁止な艦橋である。例え今が非常事態中の非常事態だとしても立ち入らせることのできない場所であったために退室を促すべく、最も出入り口に近い位置にいたレーダー手の詰城は2人の少女に近付き手を伸ばす。
「うおっ⁈」
ただ、伸ばされた手は謝罪を口にした少女によって掴まれ、反対に詰城の方が容易く
「手を上げて、膝を突きなさい!さもなくば射殺します!」
突然の少女の凶行に、咄嗟に懐のホルスターから拳銃を引き抜いたマグバレッジ艦長と不見咲副長がその銃口を突き付ける。警告と共に、最悪の事態も想定していつでも射殺できるよう既に引き金に指を掛けている艦長たちに対し、これ以上の攻撃の意思を持たない少女は胸に手を当て彼女たちに向かい口を開く。
「心配はいりません。私は──」
詰城を投げ飛ばした民間人の少女、アセイラムは迷うことなくその身に纏う光学迷彩を解いた。
「私は、一帆さんの、貴方方皆さんの友達──味方です」
弾ける光、と同時に現れた白いドレスを見に纏った少女の真の姿に艦橋内は衝撃を受ける。
「え、何で……」
「……嘘」
「貴女……いえ、貴女様は」
受けた衝撃──目の前に
「ヴァース帝国
──目覚めよ、アルドノア‼︎」
彼女の号令に呼応するかのように手を差し伸べられた鈍色の球体からは光が溢れ、アルドノアドライブが起動する。
「──ッ⁉︎総員配置につけ!全艦緊急発進準備!……殿下、お聞きしたいことは山程ございますが後でお話を聞かせて頂きます」
アルドノアの輝きによってひと足先に正気に戻ったマグバレッジ艦長の指令によって、弾かれるように正気に戻った艦橋は緊急発進に向け騒がしくなる。そんな中でマグバレッジ艦長は冷静に、目の前に現れた
「全姿勢制御用反重力
「アルドノアドライブより
「フライホイール接続準備よろし」
「主機動力伝達シリンダー圧力正常」
「機関室の桜木軍曹より報告、全て異常ナシ」
アルドノアドライブ起動により充分な電力が確保された艦橋内の各種機器や照明が点灯し始める。着々と進む発進準備に、各担当からの報告が上がり始めていた。
「副機、熱核反応炉
高まる電子音と共に未だ動かしたことのない、動かされたこともない艦を自分たちだけで動かすことに緊張感もまた高まってゆく。
「副機始動!対地対空砲雷撃戦用意!」
「対地対空戦闘用意!」
ただそれでも、「慌てず騒がず冷静に」といった当然のことややるべきことは変わらない。副機始動により完全に発進準備の整った艦は、次に戦闘準備へと取り掛かる。
「反重力
「傾斜復元、艦体起こせ!」
主砲並びにVLSの準備完了次第主推進機関となる反重力推進器も始動、重力制御が可能となったことで右舷に向かい傾斜していた傾きを回復させる。
「機関最大出力!アップ30度で垂直浮上!」
そして遂に重力の枷からアルドノアの恩恵により解放され空に浮き上がった艦はドックの台座から離れ、仰角30度の角度でその艦首を持ち上げる。
「両舷全速取り舵一杯!航宙戦艦「DEUCALION」発進!」
長き時の眠りを超えて、地球上で初めてソラを飛んだ艦── 航宙戦艦
「艦首大型VLSならびに全砲門最大仰角!頭上の岩盤を破壊し発進します!」
しかし未だここは地の底であることに違いなく、それでは真にソラを飛んだとはいえない。故に頭上を覆い塞ぐ籠を撃ち壊すべく、その主砲たる45口径35.6cm三連装砲4基12門が天を睨む。
「目標捕捉!艦長!本艦直上に発進用の岩盤破壊用の爆導索を発見!いつでも撃てます!」
「撃て!」
「
直上に程近い位置に備えられた岩盤の爆導索に向けて撃ち出され放たれた35.6cm
そして降り注ぐ瓦礫と土塊の濁流をその舳先で切り開き一身に浴びながら、かつて人類に火を与えた者の子の名を与えられ火星の姫君を乗せた
この戦闘教義において地球連合軍は
ただ実際問題として、これらを実際に実行するべき地球連合各方面軍同士の対立が程度こそあれ激化し一部軍閥化した挙句、長年の軍縮での軍事費削減によって軍全体の人材・練度不足が常在化した他、肝心のカタフラクトの開発と配備が仮想敵である火星陣営に比べ大きく遅れをとっている状況である。
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