ALDNOAH.ZERO -Earth At Our Backs-   作:神倉棐

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6月中にもう1話と考えていたらいつの間にか7月も末だった現実に呆気に取られた今日この頃。
更新を楽しみにしてくださっている方々、申し訳ありません。拙作ではありますが、今後ともよろしくお願いします。

追記
2022/08/18 ブリーフィングを追加しました。


6/4「過去からの追撃者」

 

 

【種子島 中種子湾 11月23日 16時17分】

〈Tanegashima Taluk Nakatane 1617hrs. Nov 23, 2014〉

 

 

()()()()()()()()()()

 

直後の轟音と衝撃、一瞬足元が深く沈み込んだかのような感覚と上下左右に揺れる艦体に飛行甲板上にいた一帆たちは勿論、艦内にいた全ての人物がその余りの衝撃にその体勢を崩される。

 

《被弾‼︎損害不明‼︎本艦直上より急降下‼︎》

《対空レーダーに感あり!種子島上空に敵機発見!》

 

ただそれでも艦内にいる軍人──特に開戦から僅か4日であれ、既に多ければ3度もの戦闘を経験した歴戦の勇士ともいえる艦橋要員たちはすぐさま体勢を立て直し本来の職務へと復帰。

 

《全艦第一種戦闘配置‼︎対空戦闘!全艦載機緊急発進‼︎外洋に退避する!最大船速、面舵一杯‼︎》

 

また一時的に艦橋に不在であったマグバレッジ艦長に代わり指揮を預かっていた不見咲副長が第一種戦闘配置を発令、状況から第一に艦の──そして現在艦内に収容中の避難民の安全を選択し外洋への退避を指示していた。

 

「被害報告!」

 

と、それと同時に鞠戸大尉たちを引き連れ先程までいた飛行甲板から急ぎ駆け戻って来たマグバレッジ艦長が艦全体の被害の報告を求める。

 

《ダメージコントロールより報告!砲弾か噴進弾と思われる質量物体が前部艦中央(第1)エレベーターならびに右舷格納庫を貫通し第18ブロックに着弾!爆発はなし、不発弾のようです──》

 

打てば響くようにして返って来たその報告、被弾の割に爆発もなく突き刺さるばかりで損害自体はそれほど甚大でもない状況に、少しばかり安堵しかけた艦橋だがそこで報告は終わらない。

 

《──いや、これは違う。()()()()()()()!質量物体が逆噴射!飛び出ます!》

 

続けられた報告、「まだ生きている」と告げられたその時、艦内奥深くに突き刺さっているはずのその質量物体が何と逆噴射しつつ己がこじ開けたその破口からまるでVLSの如く再び飛び出したのはその直後であった。

 

「一体何なのです⁉︎アレは⁈」

 

度肝を抜かれたかのようなマグバレッジ艦長の、ソレを目撃した全ての人の内心を代弁するような悲鳴じみた絶叫が艦橋内に響く。

 

正体不明の質量物体による対艦攻撃

 

何とも理解し難い代物と状況でこそあるが、理解し難いが故にこの攻撃が「アルドノア()」由来の代物であることは火を見るより明らかであり、と同時にそれらを搭載した機体を運用している存在が火星の軌道騎士しかいない時点でそれは明確な敵からの攻撃であることも明白である。

 

「大変です!舵が効きません!操舵不能!」

「このままでは右舷が防波堤に接触……いえ、衝突します!」

 

そしてさらに最悪なことに艦体に突き刺さるだけ突き刺さって艦内を破壊した挙げ句、先程自ら再び飛び立った質量物体は「わだつみ」の操作系をも傷付けたらしく操舵不能へと陥っていた。

 

「くっ、総員対衝撃防御(ショック)体勢!」

「全員何かに掴まれ‼︎」

 

操舵手のニーナの悲鳴じみた報告と右舷側を対空監視していた見張り員の報告に、咄嗟にマグバレッジ艦長と不見咲副長は防波堤への衝突──座礁か擱座に備えるように指示を飛ばす。

直後、艦首右舷側からの強い衝撃と耳を塞いでも聞こえるような硬い金属の擦れ砕けて歪むような耳障りな軋み音が大音量で響くと共にそれまで水平を保っていた艦自体が左舷側へと傾斜、防波堤を一部崩しながらも乗り上げるようにして「わだつみ」は強制的に停船した。

 

「──ぐっ⁉︎総員無事ですか?」

「……はい」

「うぅ……なんとか……」

 

座礁による衝撃によって大きく揺さぶられた艦橋では艦長席に背中から倒れ込んだマグバレッジ艦長の安否確認に、辛うじて計器に掴まって耐えた不見咲副長とそれぞれの座席座っていた操舵手(ニーナ)機関(筧軍曹)レーダー(詰城)通信手(祭陽)たちはなんとか返事を返す。見張り員には多少負傷者は出たが艦橋での主だった被害は窓ガラスが割れたか()()()()()()()()()()()()()()()()程度であり、戦闘指揮の継続には支障がないことを改めて確認した艦長は再度ダメージコントロールへと被害報告を求めた。

 

《ダメージコントロールより艦橋!防波堤との衝突により乗り上げた艦首右舷側より浸水!また先程の被弾にて第1エレベーターが大破、使用不能。さらに格納庫艦首側に駐機中の練習機(スレイプニール)数機も横倒しになるなどの損傷を受けた模様、現在復旧ならびに出火に備え予防消火中》

 

そしてダメージコントロール班より報告され副長によって纏められた主な被害は以下の通り───

 

艦首右舷に破口と浸水

第1(艦首側中央)エレベーターの大破

艦載機格納庫艦首右舷側甲板の貫徹

重要防御区画(バイタルパート)第18ブロックの大破

操艦系統の一部喪失

艦載機格納庫艦首側に保管されていた鹵獲兵器(「アルギュレ」の残骸)の駐機・固定台からの脱落

艦載機格納庫艦首側に駐機されていた練習機(TKG-6A/S スレイプニール)数機の損傷───etc.

 

その他にも大小様々な──細かいモノ*1は割愛するが──報告が艦橋には上げられる。その中でも艦首の浸水と破口を作る要因ともなった重要防御区画(バイタルパート)の大破による操艦系統の一部喪失とそれによる座礁は洋上を航行する水上艦艇にとって余りに致命的と言わざるを得ない。

 

「追撃が来ない……?」

 

しかし不可解なことに正に絶体絶命、まな板の鯉ともいえる状況の「わだつみ」に対し、対艦攻撃を行ったであろう敵カタフラクトからのさらなる追撃が来なかったのである。奇襲とはいえ初撃かつ一撃でこれ程までもの大損害を被ったのだ。てっきり間髪入れずに嬲り殺しにでもされる覚悟も決めていた艦長と副長であるが、何故か動きがない種子島の敵機の思わぬ行動に交戦中であることも忘れてそう呟いてしまっても無理はない。

 

「……見張りからの報告によると少なくとも観測された外観から国籍識別票(マーク)紋章(エンブレム)といった識別標識は確認できません、が先の2機……おそらく東京を占拠した揚陸城とは別の火星人陣営の機体のようです」

「なんであれ、艦が座礁してしまった以上ここで応戦する以外にありません。先程の指示通り艦載機は全機緊急発進、順次各隊に分かれ出撃させて下さい」

 

また所属を示す標示や紋章は確認できないものの、既に2機もの火星製(アルドノア搭載型)カタフラクトを撃破した部隊を目前にしてこの対応(舐めプ)な点を踏まえてその情報が共有されていないものと考えると先の襲撃犯たちとは別陣営か勢力に所属する機体だろうと当たりを付ける。とはいえどなんであれ、完全に「わだつみ」(地球連合側)が見下され侮られているのは明白だが状況的に見ても今彼女たちにできることはでき得る限りの(艦載機部隊を展開し迎撃態勢を整える)ことをするだけだ。

 

「……艦は満身創痍で座礁、艦載機部隊は急造(即席)の低練度部隊で何処までできるか……せめて新兵と民間人だけでも」

 

「降伏」の選択肢も一度は思考にも浮かべるものの今までの火星側の傾向から鑑みて彼らに受け入れられるかどうかは未知数、むしろ()()()()()()()()()()()点から見れば「降伏」が受け入れられる可能性は限りなく低い。だからといってこの戦闘を無事に乗り越えられると楽観できるほどお花畑ではない艦長たち正規軍人だが、取ることのできる対抗手段が碌にないのもまた事実。

 

「結局、我々にできるのは歩兵頼みの対処療法のみ……あとは祈るしかないですか……」

 

故に艦が動かない以上大まかな指示の他は祈ること以外は未だ動きのない種子島隕石孔によりできた断崖の縁に佇む敵機の姿を見上げる(動向を監視する)ことしかできない艦橋に対し、その一方で全機発進命令が下命された格納庫の方では先の被弾への対応と艦載機発進によりてんやわんやな状況──混乱の坩堝の中にあった。

 

《アルダニティ、フリージアン隊発進!》

艦中央(第2)舷側(第3)エレベーター上昇!》

《横倒しになった練習機の予防消火よりも鹵獲機の保護が最優先だ!まだ調査中で換えが効かない、今後の戦争の行方を左右する大事な資料だぞ!》

 

ダメコン(ダメージコントロール)作業と鹵獲兵器の保護作業を傍目に自機であるカタフラクトに向かい疾走する各パイロットに駆け回る整備兵や誘導兵、各員各隊に分かれ操縦席に飛び込んで起動した順に即刻発進位置に着いた新生第68機動歩兵隊(「アルダニティ」)第48機動歩兵隊(「フリージアン」)の2小隊はそれぞれ無事な艦中央(第2)舷側(第3)エレベーターを経由して飛行甲板へと発進し始める。

 

《次!メビウスとマスタング隊は舷側(第3)エレベーターで上げろ!》

 

そしてゆっくりと上昇するエレベーターを見送った格納庫では次に送り出す第108機動歩兵隊(「マスタング」)第118機動歩兵隊(「メビウス」)の出撃に向け動き始めていた。

 

「カーム!動かせる機体は⁉︎」

「悪い、駄目だ!システムチェックがまだ済んでねぇ、もう少し待ってくれ」

 

しかし慌ただしく動き回る格納庫の一角では無理な戦時徴兵に急な発進命令かつ後回しにされた弊害が祟ってか、「マスタング」と「メビウス」に割り当てられたはずの量産機「KG-7 アレイオン」の整備作業が()()()()()()()()()()()

 

「じゃあ練習機の方は?」

 

整備が完了していない量産機の自機を前に、芦原高校生徒では数少ない後方支援の整備兵へと配属されていたカームに向かい伊奈帆は咄嗟に「ならば練習機の方はどうか」と尋ねる。

 

「そっちも駄目だ!会長のカスタム機は中破しちまってるし俺たちの乗って来た機体はさっきの被弾で横倒しになっちまってる!」

 

だがそんな彼の妙案も先の格納庫前方への被弾の影響により練習機の大半が使用不可となっていることにより否定されてしまう。

 

「なら……」

 

周囲を見渡す伊奈帆、量産機と練習機が使えないとなると彼に取れる手段はただひとつ。

 

───できればやりたくないけど贅沢言っていられる場合でもない、か

 

意を決して走り出した伊奈帆が向かったのは格納庫の前方、万全の整備と練習機に混じって駐機されながらも被弾の影響を辛うじて免れた一帆の「TKG-6B/S スレイプニール・カスタム」の真横に駐機されたその機体。

 

「おい、その機体は……」

 

伊奈帆の知る限り、抜群の操縦技能を持つ一帆ですら搭乗を忌避するほどのじゃじゃ馬機体。

 

「カズ兄には悪いけど時間がない……借りてくよ」

 

本来予定されていた搭乗者()から横取りする形で乗り込んだ伊奈帆は、迷わず「YKG-X07 ヴァーゼラルド」を起動させた。

 

 

〈*〉

 

 

 

Mission Name > Pop-up Pirate(黒ひげ危機一髪)

Operation Objective > 母艦を防衛せよ

Date > 2014/11/23

Time > 1619hrs.

Location > Tanegashima Taluk Nakatane

Sky Conditions > Scattered clouds

Cloud Cover > 2/8

 

 

戦闘指揮所(C.D.C)より緊急事態につき、発進までの更衣時間で状況を説明する

 

1617(ヒトロクヒトナナ)、本艦は砲弾か噴進弾と思われる質量物体による奇襲攻撃を受けた

 

現在、本艦は操舵不能に陥り右舷を種子島海軍基地中種子湾防波堤に乗り上げ座礁、停船状態にある

 

損害は甚大、第1昇降機(中央エレベーター)および重要防御区画を貫通した攻撃により格納庫内の艦載カタフラクトにも被害が出ている

 

第68機動歩兵隊(「アルダニティ」)第48機動歩兵隊(「フリージアン」)第108機動歩兵隊(「マスタング」)第118機動歩兵隊(「メビウス」)の各隊は全機出撃

 

出撃準備が整い次第、各隊に分かれ昇降機(エレベーター)で飛行甲板まで上昇し「フリージアン」は艦首、「アルダニティ」は艦中央、「マスタング」は艦尾にそれぞれ展開し単機である「メビウス」は遊撃を担当する

 

なお、整備長である桜木軍曹からの報告より「メビウス」は機体の先の戦闘での損傷が酷く量産機あるいは例の代替機での出撃が推奨されている

 

従って各隊は所定の位置に着き次第、第二波攻撃に備え防空戦闘に参加せよ

 

全機、発進を急げ

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【日本 種子島海軍基地 中種子湾防波堤 11月23日 16時21分】

〈Japan Naval Station Tanegashima Taluk Nakatane breakwater 1621hrs. Nov 23, 2014〉

 

 

メインカメラに光が灯り起動したヴァーゼラルド。本来なら一帆が破損させたスレイプニールの代替機として搬入と組み立て整備の行われていた元・次期主力量産型試作機かつ現・先進技術実験機だが、何の因果か一帆でなく彼が乗り込む前に乗り込める乗機を無くした状態だった伊奈帆の手によって独断で乗り込まれ起動させらた機体は駐機台より自立して立ち上がる。

 

《電圧、油圧、温度チェック

回転数ノーマー

フォースフィールドバックチェッキングプログラムスタート

エジェクションシート正常

IFF確認

戦術データリンク、アクティベート

システムオールグリーン》

 

在りし日々(芦原高校で)の教練を重ねた結果、どんな機体でも操縦する際には半ば定型作業(ルーチンワーク)化した起動時チェックリストの口頭確認に加え、半天周囲モニターと独立した計器モニターを操作し起動後の設定で一部未調整だった部分を自分用の機体に再調整を伊奈帆が施していると機体の目の前には既に起動し武装したアレイオンの機体がそこに立っていた。

 

《マスタングリーダーよりマスタング22、それカズ君の機体のはずじゃ?》

《ユキ姉⁉︎》

 

誰かと思い視線を向けて見れば、返って来たのは予想だにしなかった思いがけない人物──伊奈帆の実の姉にして負傷兵である界塚ユキからの音声通信だった。

 

慣熟訓練ナシ(ぶっつけ本番)で大丈夫なの?じゃあとりあえず、ナオ君は射撃成績も優秀だし機体の慣らしもかねて選抜射手(マークスマン)をお願いね》

 

正に「開いた口が塞がらない」といった状況に陥っていた伊奈帆だったが、改めて彼女自身の性格や状況を鑑みてもみれば有り得ない話ではないとは思う。

 

《何でユキ姉が⁉︎まだ腕が……》

《新米のひよっこが出るのに正規兵の私が出撃ない訳いかないでしょ》

《そんな、界塚准尉!》

 

とはいえ思いはすれどもやられた側からしてみればたまったものではない。思わず語気を強めて他人行儀に名前を(公私を分け階級で)呼んだ伊奈帆だったが、そんな彼の様子を通信機越しに音声のみ(SOUND ONLY)で受け取ったユキは何時ぞや(新芦原や補給基地で)一帆や伊奈帆たちが彼女に向かってしたような少し困ったような、あるいは覚悟を決めたような表情を浮かべていた。

公私混同上等、むしろ今まで好き勝手に戦場などで暴れ回った一帆や伊奈帆がもっともらしい正論(非常事態や戦力不足)を盾にユキに対し与えてきた心労(心配や苦労)が伊奈帆たちに跳ね返って来たに過ぎず、今度は彼らが気を揉む番となっただけである。

 

《ユキ姉で良いよ》

 

また作戦行動中にあえて砕けた口調でいつもの愛称で呼ぶことを許したことで正規軍人の部隊長として部隊員の緊張緩和と同時に身内()として自我を押し通す、そんな明確な公私混同()をしてみせたユキに伊奈帆は押し黙る。

 

《通信終わりっ、以上!》

 

そんな何処か吹っ切れた感じの彼女の変わり様に、何も言えなくなった伊奈帆を置いて一方的に通信を中断したユキは同じく既に起動し韻子のアレイオン(マスタング33)起助のアレイオン(マスタング44)の待機した第3エレベーターに向かう。

 

舷側(第3)エレベーター上昇!》

 

その後ろ姿を黙って追った伊奈帆のヴァーゼラルドはそんな彼女と、何か言いたげな韻子や起助のアレイオンと共にエレベーターで飛行甲板上へと上昇した。

 

《何?メビウスは間に合わない?───仕方ない。ではフリージアンは艦首、アルダニティは艦中央、マスタングは艦尾に展開!各隊は割り振られた方位より本艦に向け接近する敵性飛行物体を各個に迎撃せよ‼︎》

 

そして飛行甲板に上がった伊奈帆たち第108機動歩兵隊(「マスタング」)、発進順的にも最後となった彼らは未だ上がっては来ない第118機動歩兵隊(メビウス1こと一帆)を他所に既に配置に付いていた他の部隊に艦前方の防衛を任せ艦後方──種子島とは逆方向の太平洋側の防御を固める。

 

───コッチの隊以外は何処も10式/M2 75mm小銃(アサルトライフル)だけか

 

配置に付く際、ちらりと視界の(メインカメラ)端にアルダニティとフリージアンの各隊の装備を確認した伊奈帆は彼らが構えた装備が全て自動小銃であった点に対応力不足の懸念と不安を感じる。*2流石に練度不足故に素人でも()()()()()()()()()利点があるとはいえ、自動小銃のみの編成は汎用性はともかく対応力不足は否めない。

 

《レーダーに感あり!数6、種子島上空より散開しつつ接近中!》

《見張り員は飛行物体が攻撃態勢に入り次第突入方位・角度を逐次報告!》

《各機迎撃開始!》

 

ただ伊奈帆が他人の装備についてあれこれと考える暇もなく、種子島に陣取った敵機による「わだつみ」に対する第二波攻撃は再開した。

 

《アルダニティ33、回避しろ(ブレイク)!》

 

種子島より飛び立ち空を飛翔する飛行物体──よくよく観察して見れば拳らしき様相のソレのは数は6。まるで獲物に喰らいつくその瞬間を見定める鮫か鯱のように上空を幾度か旋回したソレらはそのまま散開、急降下し「わだつみ」甲板上のアルダニティへとまず襲い掛かった。

 

《くっ、全機広がれ!密集し過ぎると狙われるぞ‼︎》

《了解!》

 

狙われたアルダニティだけでなくフリージアンや伊奈帆たちマスタングも迎撃のため射撃を開始、残存艦載砲もまたその防空戦闘に加わるがその弾幕を例え直撃しようともまるで意に解することもなく文字通り()()()()()()勢いでその拳たちは余りにもあっさりとアルダニティ隊を蹂躙する。

 

《第三波来ます!》

《次、フリージアンが狙われるぞ‼︎援護急げ!》

《やられたアルダニティの内、大破した機体からの搭乗者(生存者)の回収急げ!巻き壊れるぞ!》

 

一度その破壊の嵐が過ぎ去った甲板上で無事に立っていられた機体は3部隊の計16機中、たった9機。狙われたアルダニティ4機の内2機は脚部あるいは頭部ごとコックピット周辺を抉り取られ中破し自立や戦闘継続が不可能となり1機は背後から拳に握り潰され爆発四散、残された隊長機は構えていたライフルごと右腕部を吹き飛ばされ戦闘継続が困難な小破となる壊滅状態。僅か1度の攻撃で防空の要となる艦中央の迎撃戦力を打ち崩された伊奈帆たち地球連合(「わだつみ」)側に決して小さくはない動揺が走る。

 

《二時の方向より目標α-1、突入角度60、距離3000。次、八時の方向よりα-2、突入角度0、距離5000》

《左舷より報告!九時の方向から敵誘導兵器接近!距離2000、ほぼ水平に突っ込んで来ます!》

 

ただそれでも敵機からの攻撃は止まらない。C.I.Cのレーダー員や艦各所に配置された見張り員から報告される敵からの攻撃諸元を基に残った全機はもはやまともな連携や定められた配置にこだわる暇も余裕さえなく、半ばがむしゃらに個々で迎撃と回避に励む以外にできることはない。

 

《フン!しかしっ、来る方向が分かれば回避のも容易い》

 

ただそれも繰り返せば多少は慣れる。例えソレ自体が多少速くとも事前にその突入方向や角度が分かっており、あくまで()()()()()()()しかないならば例え他方向から全く同時に挟み込まれでもしない限り避けることはそう難しいことでもない。「当たらなければどうということもない」とはこのことだろう。

まさにただ一方的に投げ続けられ回避することのみが強要されるドッチボールのような様相を呈し始めた「わだつみ」の甲板上での防空戦闘だったが、無論それだけで終わるはずもない。

 

《バカっ!フリージアン22、真上だ!後退しろ!》

《何⁉︎ぐあっ!》

《フリージアン22⁉︎》

 

平面での回避に集中し、余裕をぶっこいていたフリージアン22の直上にレーダー員や見張り員の監視を抜けて敵機の誘導兵器が降り注いで来たのである。そう、最初に「わだつみ」が被弾した急降下爆撃同様にソレは三次元的な攻撃(三次元立体機動)をも可能とする代物でもあったのだ。

 

《……ッ!落ち着いて、C.I.Cや見張り員からの指示に従って回避。平面だけじゃなく上下にも注意して!》

 

地を這う蟻が人に踏み潰されるように意図も容易く上から押し潰され爆散したフリージアン22の閃光を目にしたユキが全体に向け注意を呼び掛けるが、マスタング以外はほぼ壊滅し既に碌な統制も取れずに半ば潰走状態に近いアルダニティとフリージアンは碌な抵抗も出来ず無慈悲に薙ぎ払われていく。

 

《まさに「縦横無尽」……か》

 

せめて海面下からの攻撃がない分マシ、と考えるべきかと伊奈帆の口からそう溢れるがその程度では何の慰めにもならない。また1機、また1機と損傷が増え脱落者(戦死者)が増えていく中でその甲板上で戦闘が行われている座礁した「わだつみ」にも損害は増えてゆく。

 

《追跡目標消失‼︎》

《対空レーダー損傷!》

《何ですって⁉︎》

 

そしてそんな中で敵誘導兵器の動向監視を一手に担い、艦載砲の照準などにも使用されていたFCS-3(対空レーダー)が破損し機能停止に追い込まれたこの状況は個艦防空の目と傘を失うだけでなく、ただでさえ統制取れた迎撃戦闘が行えていない各部隊間の連携をも完全に喪失させる──まさに絶望的かつ最悪の事態と言わざるを得なかった。

 

《ダメだ!数が多過ぎる!回避が間に合わない!》

 

統制を失った部隊は脆い。濡らした紙を破くが如く既に半壊し薄くなった防空網を貫いた拳が、烏合の衆と化した既に死に体のアルダニティとフリージアンへと再び襲い掛かる。

 

《相手に目標を絞らせないで!三方向から同時攻撃されたら回避できない!》

 

ユキが少しでも統制を取り戻そうとそう声を上げるがもはや焼け石に水、こうなってしまっては「戦闘」などと言った上等なものですらないまさに一方的な「殺戮」に他ならない。

 

《くそっ、しまっ……》

 

かつてこの地──種子島で行われた15年前(あの日)の「種子島の戦い」をなぞるかのように繰り広げられる圧倒的な技術的優位性を背景とした火星側優勢な戦いは着々と「わだつみ」を、地球連合側を逃れられぬ過去のように追い詰める。

 

《フリージアン33!》

 

マスタングを除き、最後に残ったフリージアン33に向け挟み込むようにして拳が迫る。誰かがそう叫んだ、だが()()()()()()()()自分を守るのに手一杯であり銃口を向けることすらその援護には間に合わない。誰もが、その当人さえもが死を覚悟した──その瞬間、

 

《なっ⁈何……っ⁉︎》

 

対空レーダーが破損して以降、沈黙を続けていた()()()()()5()4()()()1()2()7()m()m()()()()()()が突如火を噴いた。

 

()()()()()()α()-()4()α()-()6()()()

 

腹に響くようにして発射された砲弾は計4発、それぞれ両舷に配置されていた速射砲から2発ずつ発射されたHE()弾は正確に拳の小指辺りに連続して命中しそのどちらもが強制的に進路を変更され海中へと没する。

一瞬の静寂と水没により巻き上げられた盛大な海水の水飛沫によって濡らされた甲板に、幾度となくその絶望的状況を覆して(奇跡を起こして)きたその男(ドラゴンキラー)からの通信が響いた。

 

《お待たせしました。機体は出撃できませんがメビウス1、これより援護します》

 

反撃の狼煙が今、上がる。

 

 

 

 

 

───そして同時刻、種子島より遥か遠方、近海太平洋上にて「黒い影」が島へと向かっていた。

*1
艦橋の防弾ガラスの破損や誰それの私物が壊れたなど

*2
ちなみに第108機動歩兵隊(「マスタング」)の装備編成は標準装備の自動小銃(10式/M2 75mm小銃)に加え役割担当によって軽機関銃(10式/LMG 75mm軽機関銃)狙撃銃(10式/SAM-R 75mm狙撃銃)の計3種であり、この構成の編成は今まで一帆が指揮した新芦原戦や北九州戦での市街地戦や野戦で利用された他、本来の機動歩兵隊でも似たような編成かあるいは制圧特化に自動小銃を主体に狙撃銃を抜いた編成がある。


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