ALDNOAH.ZERO -Earth At Our Backs-   作:神倉棐

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本作品を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
自分にとって処女作となる本作品につきましては長らく未完の状態ではありましたが、突然ではありますが連載再開と現在構想中の作品の実験の為にも一度内容の修正と改善の為に一部改稿させて頂きました。
今後とも一層のご愛顧を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。


4/5 「放棄された基地、そして出撃」

 

 

【地球連合軍「わだつみ」所属LCAC内機関制御室 11月20日 13時27分】

〈Engine control room in UFE "Wadatsumi" 's LCAC 1327hrs. Nov 20, 2014〉

 

 

ここ最近、ずっと戦闘やらなんやらのせいで神経が昂っていたためかやっと一時的とはいえ安全な場所に辿り着いて緊張の糸が切れたのか、ごく短時間とはいえ熟睡してしまった一帆がまず最初に直面したのは大いなる謎だった。

 

「ナニこれ……どうしてこうなった?」

 

まず朧げな意識の中で「なんだか頭の下に暖かくて柔らかい枕っぽいのがあるなー」と感じ、それに違和感を覚えて目を開けてみたらなんと自分の顔の上にはシャーリーの寝顔があった一帆。まだ覚醒仕切っていない中で「あ、これシャーリーさんの膝枕だ」と理解する一方で、今度は右腕の違和感に気付いて首ごと視線を向けてみたらコッチはアセイラムが何故か一帆の右腕を腕枕に寝てらっしゃったことに気付く。

 

「ええ……マジでどうなってんのこれ?」

 

で、この意味不明な状態に気付いたのは気付いたし状況の理解もできたのだが、いったい一帆はどうすれば良いのだろうか?お陰で一帆に残っていた眠気なんて綺麗に吹っ飛んだ上に、現在進行形で絶賛大混乱中である。

 

───あ、こらアセイラムさん!俺の腕に頭をぐりぐりしないで⁉︎そんな事したら膝にある俺の頭も揺れてなんか膝枕しているシャーリーさんがくすぐったそうにしてるでしょ⁉︎……もーやだぁ。こんなのただの地獄だよある意味

 

混乱と焦りに半泣きになりつつある一帆は動くことすらかなわず、眠気は吹き飛ばされて眠りに逃げることさえできない。さらに目をつぶったらつぶったらで、今度は残された五感(触覚と嗅覚)が研ぎ澄まされるせいで余計に意識してしまい現実逃避することもロクにできなかった。

 

───あ、なんか甘い匂い……それに柔ka……って⁈くそっ‼︎これじゃただの変態じゃないか⁉︎頼む!どっちか早く……いや、とりあえずアセイラムさん起きてくれ‼︎

 

ある意味天国でも地獄でもあった……やっぱり良く考えなくても地獄だった数分間の後、一帆の決死の祈りが通じたのか、はたまたただの偶然だったのか。そうこうして(一帆の理性と精神が保って)いる内にアセイラムが目を覚ます。

 

「……ん、おはようございます。カズホさん」

「……おはようございますセラムさん。取り敢えず退いて下さいお願いします」

 

一帆は切実にアセイラムに向けてそう頼み込む。そろそろ理性より一帆の精神がヤバい、彼女いない歴=(精神)年齢の魔法使い君には些かこの状況(シュチュエーション)*1は辛過ぎる。

 

「んん……」

 

ただ彼女は未だ眠いようでまだ瞼が半分ちょいしか上がっていない。目をごしごしと袖で擦り、寝起きに弱いのか大変ゆっくりと緩慢な動きでこそあったがアセイラムは素直に一帆の腕から退いて起き上がる。腕の抑えがなくなった一帆は細心の注意を払い、そっとシャーリーの膝から脱出した。

 

───なんか折角熟睡したのにそれ以上に疲れた気がする、主に精神的に

 

肉体的にはそれなりに休めた一帆だが、精神的には役得……というには些か不適当な状況のせいで休んだ分を眠気ごとそのまま吹き飛ばした感覚のせいで若干目が死んでいる一帆は、何故こうなったのかを問うために元凶その1(アセイラム)に目線を向ける。

 

「そう言えばセラムさんは何故ここに?てっきり伊奈帆たちと上の船室の方でいると思っていましたが」

「ふぁぁ……あ、すみません。はしたないお恥ずかしい姿をお見せしました。えっと……それはですね。昼食後に2回目の配給*2があったのですが、おふたりが最後まで配給を受け取りにいらっしゃらなかったので探しに来たのです」

「あぁ……、だからここに非常用防寒シート(エマージェンシーシート)があるんですね」

 

そう言って一帆は自分とアセイラムに掛かっていたシートを手に取る。確かにLCAC内の──特に機関室横の制御室とはいえ今は11月、普通に寒い。特にここは床は鋼鉄製のためよりそれは強く感じるだろう。案外真っ当な理由でここにいたらしいアセイラムだが、何故それで一帆で腕枕をしていたのかはサッパリ分からない。それに今ようやく気付いたのだが、エマージェンシーシートの下に一帆対してだけにはさらに制服の上着が掛けられていた。それも女子のものが、

 

───って、事はつまりコレの持ち主って……

 

「やっぱりシャーリーさんのか……」

 

案の定、その上着は元凶その2(シャーリー)の物であり、従って掛けてくれたのもシャーリーさんとなる。

 

───あれ?これって男が女の人にやるやつじゃなかったっけ?…………気の所為?

 

なんだか考えていて自分が如何に男として頼りないか理解させられた一帆は愕然とした。思うに、シャーリーだけでなくユキとかソラとか含めて一帆の知る女性みんなイケメン(ヒーロー)度が高過ぎるのだ。

 

───つまり俺がヒロイン?ふざけんな

 

驚きの事実の発覚に一帆の既に死んだ目がさらに死に、認めたくない事実に内心でひとりツッコミと頭を抱える以外他にできることはない。

 

「どうしましたカズホさん?」

「イエ、ナンデモナイデス。はい」

「そう、ですか?」

「ええ、そうです」

 

余りの余裕のなさに片言になった一帆と寝起きでイマイチ頭が回転していないアセイラムの会話、とまあそんなことをしているとうるさかったのか今度はシャーリーが目を覚ます。

 

「ふみぅぅ……ん、ここ、どこですか?……カズホ、さん?」

「おはようございます、シャーリーさん。済みません、起こしてしまいましたね」

「んー……ん"っ⁈カズホさん⁉︎」

「え?あ、はい」

 

起き上がってすぐは寝ぼけていたのか目を開けてもぼんやり一帆を見ていた彼女だったが、急に覚醒し一気に顔が真っ赤になる。まあそりゃ会って1日も経ってない異性に寝顔を見られたら恥ずかしいだろう。なので一帆はあえて彼女の行動には触れずにスルーしておいた。

 

「はわわわっ⁉︎、私ってば何て事をっ‼︎ぶつぶつ……」

 

スルーしたのだ。いや、寧ろスルーせねばならない。そんな謎の使命感を感じつつ、一帆は絶対に触れない覚悟でしっかりとスルーする。……何故か後ろの方でガンガン壁に何かをぶつけたり、ゴロゴロ床を転がったりしていた様な気がしないでもなくもないが気にしたら負けだろう。多分、maybe……。

 

「こほん……ではですね」

「あらあら、シャーリーったらそんなにかb……」

「ストップ!スルーして下さいセラムさん!主にシャーリーさんの今後の精神の安定の為に!」

 

しかしアセイラムは特にそんな使命感は感じなかったらしい。気にせずシャーリーに声を掛けようとする彼女を一帆は必死に止めた。

 

「でもシya……」

「やめたげてよぉ⁉︎…………取り敢えず、一旦伊奈帆たちと合流しましょう。出航からかなり時間は経ってますし、そろそろ補給基地になんなりに到着するでしょうから」

「……そうですね。そうしましょうか」

 

そしてなんとか一帆はシャーリーの今後の精神の平穏は守り切ったのだ。

 

「シャーリー、ほらそんなところでg……」

シャラップ(いいから黙って)⁉︎」

 

そう、なんとか守り切ったのだ。ただその対価として、些か言葉遣いが悪かった件については一帆自身余裕がなさ過ぎて仕方なかったとは弁明だけはさせて頂く。なお、これから少ししてシャーリーが冷静になった際に、自身のこの暴言について一帆はアセイラムに綺麗なジャンピング土下座を敢行して許して貰ったのは言うまでもない。ただ事実だから何度も言うが、一帆はやはり折角久しぶりの熟睡で精神的に回復したもののそれ以上に疲れた、そんな気がした。

 

 

〈*〉

 

 

【日本 北九州海軍補給基地 11月20日 16時44分】

〈Japan Naval Station Kitakyushu 1644hrs. Nov 20, 2014〉

 

 

結局、合流ポイントへの航路でヴァースからの襲撃は無く。一帆たちの乗るLCACは第四護衛艦隊所属の強襲揚陸艦「わだつみ」との合流ポイントであった「北九州海軍補給基地」に無事入港することができていた。

 

───ふむ、もうじきに日没か

 

ふと物資積み込みの手伝いに1度LCACから降りた一帆が埠頭で空を見上げていると、そこからやや離れた位置に同じく埠頭に停泊していた別のLCACの側ではマグバレッジ艦長を中心に界塚准尉や鞠戸大尉を含む幾人かの軍人たちが集まっていた。

 

「マグバレッジ艦長、よくぞご無事で!お待ちしておりました」

「中林少佐、ご苦労様です。母艦(「わだつみ」)や艦隊の他のみんなは?」

「フェリーの護衛任務を完遂し、現在安全航路にて迂回中です。先程の隕石爆撃の影響で海上の荒れ具合が酷い有様で……我々は不見咲副長の命令で「アパルーサ(第58機動歩兵隊)」と共に二番艇で先行、母艦たる「わだつみ」の到着までマグバレッジ艦長のサポートと避難民の警護を行います」

 

距離がそこそこあるのであまり鮮明ではないが「護衛任務を完遂」と聞こえたことから、少なくとも海路での輸送先──ウラジオストク海軍基地には到着しているってことだろう。そこから先の陸路についてはどうなっているかはまだよくは分からないが、それでも今は無事なのだろう。取り敢えずは一安心である。

 

「……このままこの逃走生活も終わってくれたら楽なんだけど」

 

いつの間にか隣に立っていた伊奈帆が同じくマグバレッジ艦長たちの会話を聞いていたのか、そんな独り言じみた9割がた本音のようなあるいは願望じみた言葉をこぼす。

 

「無理だろうな……戦争は始まったばっかりだし。こっちの正規軍は敗戦続きで領土は削られる一方、いずれにせよ遅かれ早かれ徴兵される。そしたら逃走生活は終わっても、今度ははれて戦場生活に早変わりだ」

 

しかしこの惑星間戦争開戦初頭から現在にかけての戦況の推移を考える限り、どうもこの戦争は短期決戦では終わりそうにない。

 

「……もう既に戦場生活な気がするよカズ兄」

「……確かにそうだな。逃げてる割には俺達は敵と会い過ぎな気がしないでもなくもない気がする」

「結局は気がするんだね……」

「……そうとも言うな」

「「はぁ」」

 

一帆と伊奈帆は揃って溜め息を吐く。敵から逃げているハズなのに何故かやたらと敵と出会うのは彼らが何かに祟られているのか、はたまた疫病神でも憑いているのか、もしくはどちらもなのかも知れないが余りの運の悪さにこちらは大迷惑である。

 

「そう言えばこの補給基地、既に放棄されたものらしい」

「放棄?」

「ああ、もう既に東京は陥落してるし日本各地の駐屯基地は新芦原が瓦礫の山になったみたいに既に壊滅か大部分は撤退済み、いきなりエリア首都である東京が吹き飛ばされたせいで指揮系統が混乱して日本本土戦線はズタズタで維持出来ない上、この周辺にもう補給を受ける基地自体がロクにないらしい」

 

さっき聞こえたマグバレッジ艦長達が話していた話を伊奈帆に話す。最早日本のエリア首都である東京が敵揚陸城の直接降下によって吹き飛び陥落したことで、文字通り関東は火星の手に落ち横須賀は壊滅。それにより司令部機能を佐世保へと移した極東方面軍司令部では方面軍の一大根拠地である呉や佐世保ではユーラシア大陸(連合本部)への退却をも考えており、今その大移動の準備中だとか言われている。よってそれに伴い、各地にある補給基地は持てるだけの物資を補給次第放棄、最悪敵の手に落ちるなら処分もやむなしと指令が出ていたらしい。

 

「つまり今からするのって」

「揚陸艦との合流に備えて今のうちにLCACに積めるだけ武器弾薬とか燃料、兵器(カタフラクト)の予備パーツ、薬品、真水、戦闘糧食(レーション)とかを補給する作業だな」

 

一帆の言葉を聞いた伊奈帆の表情が消える。元から余り感情表現が得意でなく、ほぼほぼ常に無表情(ポーカーフェイス)*3な伊奈帆からさらに表情がなくなるのは一種の恐怖体験のようなものである。

 

「……カズ兄、僕は見ての通りもやしだからお箸より重い物は持てないんだ。だから後はよろしくっ!」

「おいちょっと待て‼︎キャラ変わってる!キャラが変わってるって‼︎」

「もう嫌だ、ボク、おうちかえる」

「そこまで嫌なのか⁉︎そもそも既に家は瓦礫の山だよ⁉︎帰ってこい伊奈帆‼︎」

 

余程疲れているのだろう、いくら家族である一帆でもあの無表情(ポーカーフェイス)普通(デフォ)だと学校でも評判な伊奈帆がこんな事になるなんて予想だにもできなかった。

 

「じゃ、ソラと韻子さん。伊奈帆はよろしく」

「はいはーい、伊奈帆お兄ちゃんのことは任せてお兄ちゃん」

「さーて、じゃんじゃんこき使ってあげるからね伊奈帆(いーなーほー)?」

 

それでもなんのかんので伊奈帆を引きずってソラと韻子に託すことで物資搬入を手伝わせることに成功した一帆はLCACから降りてコンテナヤードへと向かう。背後から「はくじょうものー」とかいう恨み節が聞こえた気もするが聞こえない聞こえない、全くの気のせいである。

 

「ふむ、なるほど。学生用の運搬目録によると俺たちが運ぶ物は主に水と食料か」

 

そして運搬物の目録を見た一帆はそう呟く。一帆を筆頭に力がある男子は積み上げられたコンテナの中から比較的重い飲料水のペットボトルが詰められたダンボール箱を、力がそれほどでもない一部の男子と女子は主に嵩張らない包帯などの医薬品や戦闘糧食二型が詰められたダンボール箱を運んでLCACの舷側ハッチへと行き来する。ちなみに負傷兵でもあるユキや飲酒済みの不良軍人である鞠戸大尉以外の軍人たちは重機を使って武器弾薬等の危険物や重い物を運んでおり、ユキと鞠戸大尉は無線機片手に主に比較的重くはない戦闘糧食等の生活必需品や消耗品を運んでいた学生である一帆たち民間人の監視と監督に従事していた。

 

「カームとオコジョが手伝いを申し出るなんて珍しい」

「兵科教練サボってばっかりだったのにね~」

「へっ、いつの話だよ。今は火星人やっつけるなら何でもやるぜ!」

「そうそう、俺たちの街を滅茶苦茶にした奴らなんか俺がギタギタにしてやるぜ!」

「「…………」」

 

そんな中、荷物運びをする一角で盛り上がるカームや起助、韻子やニーナたちのそんな会話を耳にした一帆と伊奈帆はなんとも言えない顔で口を閉ざす。

 

───すまんがカーム君と起助君、この戦争の元凶(開戦のキッカケ)かつその火星のトップである王族のお姫様がコッチ側というかすぐ側にいるんだ

 

事実を知るが故に何も知らない彼らの会話に対して思うところもない訳ではないが、それが知らせないが故に知らないのだとも思えばそう思うことこそ理不尽なことなのだろう。胸の内に一抹の気まずさを感じつつ、一帆と伊奈帆は荷物運びに集中する。

 

「……うぅ〜…………」

「……ニーナさん、無理しない」

「ふぇ?会長?」

「半分パス、それじゃコケるよ」

「は、はい、ありがとうございます‼︎」

 

ただ、戦闘糧食が詰められた段ボール箱を3段も積み上げてふらふら運んでいたニーナの姿を見てしまえばそうも言ってはいられない。とりあえず一帆は彼女の箱を2つ取り上げ、自分の荷物の上に積み上げる。伊達に一帆も鍛えてはないのでこれくらいは問題ない、伊奈帆の方は……おそらく韻子とソラが一緒だし大丈夫だろう。

 

「!」

 

とその時、補給基地の奥──あるいは補給基地正門辺りの方から聞こえるつい数時間前に聞いたばかりの突発音が連続して響く。

 

「何だ⁉︎」

「チィッ!全く!やっぱり祟られているのかはたまた疫病神でも憑いてるのか。予想より早い襲来だな、おい」

 

───くそっ、なんだってこんな時に

 

《敵襲!敵襲!総員戦闘配置‼︎》

《第二種警戒配置から第一種戦闘配置に移行、運搬作業中の各員は最寄りのLCACに至急退避せよ‼︎》

《給油作業中止!一番艇発進準備急げ!》

 

突然の火星カタフラクトの襲来に、物資搬入中だった者たちは軍民を問わず作業を放り出してLCACに各々走り出す。

 

「みんな、早くLCACへ!」

「ユキさん、状況は?」

「そんな事よりカズ君も早くLCACまで逃げて!早く!」

 

そんな混乱の中で辺りを見回し一帆が学生や民間人組の避難誘導をしていたユキの元に走って行って状況を聞こうとしたところ、問答無用とばかりに彼女に腕を掴まれ強制的に退避させられる。しかし代わりに彼女はその道中で無線で得た現在の状況についてを説明してくれた。

 

「敵の火星カタフラクトはここからひとつ隣にある第3埠頭からここ、第2埠頭に向けて接近中よ。それにレーダーが使えないしで最初に見つけたのは周辺警戒に出てていた哨戒部隊でさっきから聞こえてるけど応戦中だけど多分抑えきれないわ」

「だろうね……、エリア首都陥落を筆頭に戦線がズタズタにされる中でこんな避難民護衛部隊に練度の高いエース級の乗り手が配置される訳がない。言って悪いけど……確実に全滅する」

「…………」

 

ユキは何も言わない。一帆が言っていることはたしかに不謹慎でこそあるが、それは言い訳のしようもない事実であるからだ。せめてユキや鞠戸大尉(ベテラン並エース以下)レベルの乗り手であればまだ生き残れる可能性はあるが、おそらくアパルーサ(第58機動歩兵隊)の彼らはそこまで練度は高くない。

 

「……やるしかないか」

 

一帆は覚悟を決める。他人を──軍人を頼れないならば、民間人であれ自分たちでなんとかする他にない。

 

───機体はまだ甲板か、でも1人じゃ無理だ。伊奈帆たちも向かってくれると良いんだが……

 

「ちょっと⁉︎カズ君⁉︎」

「済みませんユキさん、少し出撃()てきます」

 

LCACの露天甲板に駐機されていた自機まで走り、一帆は伸ばされていたワイヤーのフックに足を掛けて一気に操縦席まで登る。丁度警報を聞きつけて伊奈帆やカーム、起助や韻子にソラまでも走って集まって来たらしく、機体がないソラ以外はそれぞれ自分の乗って来た練習機(スレイプニール)に乗り込んでいた。

 

「待ってカズ君‼︎それにナオ君にソラたちまで⁉︎」

《ごめんユキ姉、僕達は出るよ》

「ごめんなさいユキお姉ちゃん」

 

一足先に機体を起動させていた伊奈帆とその手のひらに乗ったソラが、一帆の後を追って走って来たユキに向かってそう答える。そんな彼らの姿を見たユキはとても頭が痛そうに頭を抱えていた。

 

───電圧チェック

   油圧チェック

   温度チェック

   回転数ノーマー

   メインシステム起動

   IFF確認

   戦術データリンク、アクティベート

   システムオールグリーン

 

TKG-6B(スレイプニール)が起動、頭部(ヘッドパーツ)にある複眼のメインカメラに緑色の光が灯る。

 

「さて、……今回も生き残るために全力で足掻くとしますか」

《行こう、カズ兄》

「ああ、八朔一帆、TKG-6B、出撃する」

 

起動したオレンジ色と迷彩塗装の重装騎兵(カタフラクト)たちは今、夜の埠頭へと踏み出した。

*1
控えめに言っても美少女2人と方や膝枕をされ、方や腕枕をして一緒に昼寝。しかも相手が一国のお姫様とその従者で仲間で共犯者である意味どちらの意味でも命の恩人と属性過多

*2
1回目の配給は昼食の戦闘糧食のこと

*3
家族である一帆やユキ、ソラはそれでも表情が判別できそれなりに付き合いの長い韻子もなんとなくだが分かる。




1回は言わせてみたかった、ガンダムっぽいこの台詞。
最早我が生涯に一片の悔い無し。

嘘じゃよ、まだまだ続くんじゃ。

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