ALDNOAH.ZERO -Earth At Our Backs-   作:神倉棐

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新年明けましておめでとうございます。既に7日が過ぎてしまいましたがどうか今年もよろしくお願いします。

祝総評価300越え、これからも頑張らせていただきます。



本作品を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
自分にとって処女作となる本作品につきましては長らく未完の状態ではありましたが、突然ではありますが連載再開と現在構想中の作品の実験の為にも一度内容の修正と改善の為に一部改稿させて頂きました。
今後とも一層のご愛顧を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。


4/2 「報告」

 

 

【地球連合軍「わだつみ」所属強襲揚陸艇甲板上 11月20日 7時26分】

〈On the deck of the UFE "Wadatsumi" 's LCAC 0726hrs. Nov 20, 2014〉

 

 

ガンカメラや無人観測機の戦闘データの簡単な編集(改竄)作業を終え、一度それを伊奈帆にも確認してもらうために送信してから一帆は自機であるTKG-6B スレイプニールから降りる。ワイヤーの先にあるフックに足を引っ掛けて甲板まで降りると目の前にはユキとソラの2人組が居た。

 

「ユキさんにソラ、どうしました?」

「「バカ」」

(いて)っ」

 

そして甲板に降り立った一帆をソラが抱きしめるように拘束したかと思えば、ユキは無事な右手の親指と人差し指で輪を作り一帆の額を弾いた。

 

───話し掛けたら何故か2人にホールドされてからのデコピンをかまされた件について

 

ユキのデコピンは本当に痛い。物理的ではなく精神的に、普段絶対に手は出さない人だからこそ出した時の痛さは比べられないくらい痛いのだ。

 

「えっと……ごめんなさい」

「「カズ君(お兄ちゃん)、なんで私達が怒ってるか分かる?」」

「はい、協力を頼んだセラムさんやライエさんを危険にさらし……」

「違うよ、違わないわけじゃいけど違う」

「でも……」

 

素直に謝る一帆だが、第一に彼女たちが一帆に言いたいことはそうではないらしい。彼女たちが言いたいのはもっと根本的なこと、家族として、兄妹(姉弟)として、無茶ばかりする()()()()()()()()()()()()()である。

 

「カズ君、私とソラちゃんが君に怒ってる理由はね。君が1人でなんでも背負いこんじゃうからなんだよ?」

 

ユキの右の掌が一帆の左頬に添えられる。少し自分より低い位置にある彼女の澄んだ瞳が真っ直ぐに一帆の目と合わさった。

 

「私は、私達はそんなに頼りない?」

「っ⁉︎違う!そんな事はっ」

 

違う、そんな訳がない。誰よりも頼りにしている。だが一帆は「弱い」、頼るべき彼女や伊奈帆やソラを守れる程強くはないのだ。だから「大切なものは遠ざけて」しまう、本当は「本当に大切なものはその手が届く所で守もるもの」なのだと理解していても……それが最良であるから。

 

「知ってるよ、カズ君が私達をどれだけ大切に思ってくれているか。でもね、私達は貴方の力になりたい。私達は、私は貴方1人に全てを背負わせたくないの……だからお願い、話せるようになったなら私達を頼って、私にも背負わせて」

 

ユキはそう言って一帆を抱きしめた。

 

「……はい」

「ありがとう、カズ君」

 

───敵わないなぁ……ユキさんには

 

昔から「他人を見る」ことに関してはユキに一帆は一度も敵ったことはない。正確には一帆もユキと同様に他者を見ることはできても、一帆は前世の経験と価値観や肉体と精神年齢の齟齬からユキほど相手に適した行動が取れないのだ。その点でこの世界で生まれ順当に精神と肉体が成長し、「姉」という一家の大黒柱として行動してきた彼女は一帆より遥かに正当な大人で頼りになる人物である。

……とまぁ2人っきりの世界にどっぷり浸かり、実に感動の場面であるが──

 

「あの〜、ユキ姉にカズ兄。ここ甲板のど真ん中なんだけど?」

「「っ⁉︎」」

 

いつの間にか後ろに来ていた伊奈帆に言われて2人は、ようやくここが人目の多いLCACの露天甲板のど真ん中であることに今更ながらに気付く。周りから見られていたことに一気に2人の顔は赤くなり、一帆はカタフラクトの陰に隠れて悶えユキは何処かへ走って逃げ出した。

 

「……うーん、青春だね」

 

そしてそんな呟きを溢した伊奈帆を残してLCACは北芦原港から出港する。ちなみにユキが悶えていた場所はLCAC内の女子トイレであり、2人とも悶えていた時間は3分きっかりと見事な阿吽の呼吸であった事は誰も本人達すら知らない。

 

 

〈*〉

 

 

あの(少し悶えた)後、伊奈帆を先にLCAC内に収容されていたアセイラムやシャルロット達の護衛として後を追わせた一帆は、空気を読んで先に行ったソラの後を追いこの救助隊の指揮官や鞠戸大尉たちがいるであろう艦橋(ブリッジ)に向かう。すると……

 

「あっ!ニーナ‼︎」

「ニーナさん‼︎」

「韻子!それにソラも!」

 

先に艦橋に来ていた網文とソラが操舵席に座った友人──ソラ曰く確か「ニーナ・クライン」と言ったはずの女子生徒と抱き合っていた。

 

「助けに来てくれたんだ」

「うん!フェリーの乗客名簿に名前無かったから」

 

そんな何処か微笑ま(百合百合)しい光景を見て、さっきまで祭陽と同じくカタフラクトの収容作業をしていた同級生の変態紳士(詰城)が呟く。

 

「……大好物です…………」

「黙れHE☆N☆TA☆I、感動の場面汚すな馬鹿」

 

そんな変態の反応に、ジト目の一帆のやや辛辣な言葉が詰城に突き刺さる。

 

───この救助隊、まともな人間少ないなぁ……大丈夫かこのLCAC?ヒューマンエラー(残念な理由)で死ぬのはやっぱり嫌だぞ?

 

戦場のくせしていつも通り(ぐだぐた)過ぎる雰囲気に一帆が密かに溜め息を吐いていると、隅の方で壁に背中をもたれさせて居た鞠戸大尉が一帆の方に向かって歩いて来る。

 

「八朔、ご苦労だったな」

「……まあ、それなりに」

 

実際作戦立案から作戦実行まで全てで関わった一帆は立案に準備に実行にと、さらには軍事教練を受けたとはいえほぼ民間人の後輩たちや民間人と断言するにはやや特殊な民間人2人のケアもしなくてはならず、実に色々と大変だった。

 

───本当にね……

 

そんな中、操舵席で韻子とソラはニーナともにしんみりムードを展開し始める。

 

「街、無くなっちゃったね……」

「……うん」

「……そうだね」

 

キノコ雲は晴れたとはいえ、艦橋の窓から見える()新芦原市跡地の惨状に3人は己達の将来を重ねて不安を覚えたらしい。元避難民であり欧州からの移民者であるニーナはともかく、生まれてこの方十余年を過ごした生まれ故郷が吹き飛んだことになる新芦原市出身の韻子や隣町とはいえ学校のある身近な街が消し飛んだ芦原市出身のソラの心的ストレスは計り知れない。

 

「私達も……いつか……」

「まさか!絶対に生き残るわよ、それに帰って来る!」

「韻子さんの言う通り!絶対に帰ってこよう!勿論私たちだけじゃなくて凛先輩や桜さんやシエルさんたちと皆んなで!」

 

だがそれでも弱気になった住人としては新米のニーナを慰め、奮起させるように発破をかける古参の韻子とソラのその姿は、一帆から見ても不思議と絵になるような、そんな美しい光景であった。

 

「なら取り敢えず、先に目の前のこいつ(暗礁)は避けた方が良いんじゃねーか?」

 

が、それも鞠戸大尉の空気読まない発言でぶっ壊される。ただ操舵席にいる操舵手(ニーナ)が余所見している上に注意力散漫の状態になってしまってたのは事実であり、現にLCACの進路上にあった暗礁対し操舵手が「右右左右⁉︎右左⁈」と意味不明な発言をし艦長席に座る女性に冷静に「面舵」と指摘されているところである。

 

「……雰囲気台無しですよ、鞠戸大尉。空気読んで下さい」

「……済まん」

 

ただ理屈はそうでも感情的には納得できず、またジト目に戻った一帆の指摘に思わず素面になった鞠戸大尉が謝罪するしてしまう。鞠戸大尉の発言も発言で正しかった上、一帆の指摘はやや八つ当たりじみたものであったが場の雰囲気とは実に恐ろしいものであった。

 

「ゴホン……それで八朔、今回の作戦の経緯を聞かせて貰おうか」

 

───鞠戸大尉、話変えましたね?あとそういう重要な話ならお酒はポケットにしまって素面で聞いて下さい

 

咳払いひとつを挟んで話題を無理矢理逸らそうとする鞠戸大尉に目に見えてげんなりした顔をした一帆だが、思わぬ方向から大尉に対して援護射撃が入る。

 

「そうですね……私もそれには興味があります」

「貴女は?」

「ダルザナ・マグバレッジ、このLCACを搭載するUFE(地球連合軍)極東方面軍第四艦隊所属強襲揚陸艦「わだつみ」の艦長です」

 

ダルザナ・マグバレッジ、地球連合軍所属の海軍大佐であり極東方面軍第四艦隊所属の最新鋭強襲揚陸艦「わだつみ」の若き艦長である。

 

───艦長という事は大佐クラスかそれ以上か……若いな、それに女性が艦長とは珍しいな

 

前世含めて復興のためにも正規兵(特に士官)不足の今世では、特に今時女性が軍にいる事も船乗りになっている事も珍しいものでは無いが、それでも女性が艦長職に就いているのは意外と珍しい……それがまだ20代後半か30代前半辺りの()()()()()女性ならば尚更だ。と、そこにユキと耶賀頼先生が艦橋に入って来る。

 

「耶賀頼先生、界塚の腕はどうだ?」

「鞠戸大尉のお酒好きよりは軽症ですよ」

「む……」

 

流石耶賀頼(やがらい)先生、相変わらず大尉の扱い方を分かっていらっしゃる。そしてそんな耶賀頼先生の返しに鞠戸大尉は「痛い所を突かれた」と閉口する他にない。

 

「しかしこのままでは何も出来ないのでアーマチュアを使います」

 

そう言って耶賀頼先生はLCACの医務室に積まれていたらしいアーマチュアの入った金属箱(トランク)を取り出す。

 

───確かアーマチュアって似非ロボットアームみたいなので強制的に動かすパワードスーツの腕だけ版だな

 

ユキは怪我の状態を明かさないから分からないが鎮痛剤が必須の非常手段ではなかったかだろうか?とはいえ耶賀頼先生はてきぱきとトランプからアーマチュア本体を取り出しユキの左腕に装着すると、同じく箱に付属されていた痛み止めの注射と調整器具を用意し始める。

 

「医者としては腕に負担が掛かるので反対なんですけどねぇ……」

「でも今は人手はひとつでも多い方が良いですから」

 

どうやらアーマチュアの使用は医者である耶賀頼先生的にはポリシーに反するらしい。そんなユキと耶賀頼先生の会話とアーマチュアの調整している音を聞きつつ、艦長席に座ったマグバレッジ艦長は話を戻すべく一帆を見た。

 

「一度話を戻しましょう。それで、正規軍でも敗走を続けている相手に貴方方の取った作戦とはどういったものですか?」

 

やはりマグバレッジ艦長は一帆を報告せずには帰らしてはくれないらしい。先の「Doll Drop作戦」の際に最終誘導地点に直接LCACで援護をしに来れた辺り、ある程度は先に合流したユキから聞いているのだろうが、どうも彼女は作戦立案者の1人であり実行者の1人でもある一帆自身から直接聞きたいようだった。

 

「確かに、俺たちは無事生き残ったとはいえ取った作戦自体は作戦といえるほど立派なものではありません。相手が人間的に、そしてそれ以上に軍人として未熟だったので成立しただけです。仮にあの機体の火星兵がもう少し真っ当な軍人なら通じてはいません」

 

事実である。もし最初に出会った敵があの団子虫野郎でなく他の機体の敵だったならば、相手によってはメタすら貼れずやられていたのは一帆たちだった可能性は大いにある。また一帆が下手な事を言ってボロを出し、お姫様の正体が現段階で他者に露見しても不味い、はっきり言ってこのLCACに乗っている人間は知り合い以外信頼はできないのだ。

 

「それでもです。火星の超技術であるアルドノア・ドライブ搭載機を攻略したのは現状で私が知る限り貴方達が初めてです。些細な事でも反撃の糸口になるのであれば……」

ただ軍人かつこの場に居る者の中でも最も階級が高い上官ゆえに巧妙に隠してはいるものの、果たして本当にこの先この戦争を戦えるのかどうか、底知れぬ不安と見えたかもしれない微かな希望に内心焦っているのかマグバレッジ艦長は何処か追い縋るように一帆に話の続きを促す。

 

───まぁ……多少濁して話しておくか、この艦橋にいる人間はまだ信頼できる方だし念のため

 

そしてマグバレッジ艦長は何処か真剣な表情(何かに縋るような目)で一帆の目を見つめており、そんな目を見てしまっては一帆は適当な感じで誤魔化して逃げることができなくなっていた。

 

「では……こほん、今回の作戦の前提にある問題として地球製カタフラクトと火星製カタフラクトの性能差……つまりアルドノアドライブの有無についてがあります」

 

一帆の発言にマグバレッジ艦長だけでなく、艦橋にいる全ての人間が一帆の発言に注目する。そんな中で一帆は身振り手振りを交えつつ、原作知識を基に先の新芦原市戦や過去の種子島レポートから得た所見を語った。

 

「地球製カタフラクトとは違い火星製カタフラクトはアルドノアドライブを搭載し出力及びその個体が持つ特殊能力は確かに強力です。しかしその特殊能力は強力だからこそごく一部を除いて汎用性や利便性に乏しく、局地に適応できるようにはあまりなっていません」

「成る程……」

「さらに特殊能力こそ強力ですが、敵操縦者(パイロット)はその能力を過信し過ぎている傾向が高く軍人として未熟です。また特殊能力を除外すれば伊奈帆のコンバットナイフが通用した点を考慮しても機体の内部構造(フレーム)や装甲強度はほぼ同等と考えられ、カタフラクトに携行している小銃及びミサイル等の通常攻撃でも十分破壊可能です」

 

マクバレッジ艦長は手を顎に当て、思考を巡らせる。この若さで彼女が佐官クラスの艦長に任ぜられているのは伊達でも酔狂でもない、それだけ有能であり歴とした軍人だからである。

 

「つまり、「地の利を生かし能力さえ封殺できれば誰でも火星のカタフラクトを倒せる」……と」

「その通りです。今回の作戦については詳細をレポートにして提出しますが、アルドノアドライブ搭載機に対し何もない我々地球軍機が勝つために唯一通じる糸口はおそらくそれだけでしょう」

 

そこまで言って一帆は話を締め括る。言うが易しとはいうものの、実際に実戦でそれを実践してみせた人物が言うのでは言葉の説得力が違う。どうやらそこでひとまずは納得してくれたようで、マグバレッジ艦長は一度深く頷いた。

 

「レポートは避難先に到着してからで構いません。今はとにかくお疲れ様です、ゆっくり休んで下さい」

「了解です」

 

一帆はマクバレッジ艦長に敬礼する。まだ軍人ではないが救助に来てくれた恩はあるし、上官への敬意は忘れてはならない。取り敢えずはこれで一先ずの安全は確保できたと言えるので、まずは伊奈帆やアセイラム達としっかりとこれからについて話をしてから休息を取るべきだろう。せっかくマクバレッジ艦長が気を利かせてくれたのだから。

 

「耶賀頼先生がいてくれて助かりました」

 

そして一帆が振り向くと、さっきまで吊っていた左腕を上げているユキの姿があった。

 

「アーマチュアの処理なんて久しぶりです。くれぐれも無茶は控えてくださいね……あくまでも臨時ですから」

「ん~充分充分♪」

 

どうやらユキのアーマチュアのセッティングも終わったらしい。

 

「痛みが無いからと言って負担が無い訳ではありません、麻酔が切れたとき辛いですよ」

 

耶賀頼先生はそう言って使った器具を元の箱に戻しているが、ユキは特に気にすることもなく腕の具合を確かめている。ただ痛み止めは切れた時にそれまでの痛みが一気に来て地獄だと言うが、実際は知覚していなかった痛みがいきなり知覚できる様になってそれに過剰反応してしまうから痛いのである。つまり、痛いものは普通に痛いのだ。

 

「細かい調整は後でお願いしますね♪」

 

軽い風切り音を鳴らしつつ、調子に乗ってユキが軽く試し振りをしようと振り下ろした次の瞬間、鈍い金属がへしゃげる音が艦橋に鳴り響く。アーマチュアを装着したユキの左腕が勢い余って側の金属製の手すりにのめり込んだのだ。

 

───アレでデコピンされたら痛いじゃ済まなそうだな

 

「…………今すぐもう少し調整してもらおうかな……」

 

───是非ともそうして下さいユキさん

 

少し震えた声で小声で呟かれた声に、その場にいる全員の内心の声が重なった瞬間だった。実際レーダー手を担当している祭陽が怯えてガクガク震えている。そりゃ、すぐ隣で事故によって金属棒が拳で叩き曲げられたら怖いだろう。マジで、

 

「……まあ、そういう事だな。取り敢えず今はこっちに任せておけ」

 

シリアスだったはずがいつの間かそんなぐだぐだした空気に一変した艦橋で、一帆はマクバレッジ艦長や鞠戸大尉の好意に感謝して艦橋を後にした。

 


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