ALDNOAH.ZERO -Earth At Our Backs- 作:神倉棐
自分にとって処女作となる本作品につきましては長らく未完の状態ではありましたが、突然ではありますが連載再開と現在構想中の作品の実験の為にも一度内容の修正と改善の為に一部改稿させて頂きました。
今後とも一層のご愛顧を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
4/1 「降る流星、絶たれた退路」
【日本 芦原市 北芦原港 第1埠頭係留岸壁 11月20日 6時57分】
〈Japan Awara city North Ashihara Port Pier 1 Mooring Quay 0657hrs. Nov 20, 2014〉
火星カタフラクトであるソーヴォグを即席で編成した一帆・伊奈帆・韻子・カーム・起助のカタフラクト部隊と囮役となった民間人であるアセイラムとライエの協力の下で破壊した後、一帆達は救援隊であるLCACとの合流地点──最寄りの北芦原港に向け進んでいた。
───北芦原港まであと10分位か、後部座席に姫さんを乗せても良いんだがそれだとライエさんが残るからなぁ……それに今2人を直接対面させるのは危険だろう
「っと、そうだ。今の内に伊奈帆に話しておくか。まずは……セラムさん」
《はい、何ですかカズホさん?》
しかし如何に惜しかろうが何だろうが下手な火種を作るよりはよっぽどマシである。そしてそんなことを惜しむよりも先に一帆は、アセイラム自身の今後についても考えなくてはならなかった。
「協力者を増やします。伊奈帆にセラムさんの
《……済みませんカズホさん、私が「はいそこまで、何事も後ろ向きに考え過ぎては駄目ですよセラムさん。確かに正直に言わせてもらうならアレは本当に焦りました、でもそれと同時にアレのおかげで誰一人欠けること無く生きて帰って来れましたから」……そうでしょうか?》
また後ろ向きな考えになりそうになった彼女に対し、一帆は事実と感謝を込めてそう告げる。
「そうです。貴女が命を賭けてくれたから俺達は生きて帰って来れた、それは誇って良い事です」
《……ありがとう……ございます》
そんな一帆の言葉に、彼女は少し俯き小さめな声でそう言った。
「どういたしまして。……さて次は」
そして一度アセイラムとの通信を切ると、今度は伊奈帆と話すためにわざわざ接触回線を開く。通常の回線と比べて接触回線なら傍受される可能性は低く、さらには記録にも残らないためだ。
「伊奈帆、俺だ」
《話してくれるよね?何故ここに火星のお姫様が居るのか》
「勿論だ、ただし引き返せなくなるぞ?」
《構わない。僕だってカズ兄が1人で抱え込むのは反対だから、それに人手は信頼できるなら多い方が良い》
「なら話す。手短にだが……」
問題が問題なだけあってやや脅すような口調で伊奈帆に問いかけた一帆だが、当の伊奈帆が全く言い淀むこともなく即断言したことに一帆は「何でそんなに覚悟ガンギマリしてんの?」と一瞬遠い目をするが時間も余裕もないので重要なポイントのみを伊奈帆に伝える。色々話を詰めるのはLCACにでも着いてからゆっくりすべきだろう。
「……と言ったところだな。納得できたか?」
《……まあ、ね。取り敢えず、またカズ兄が厄介事に首を突っ込んでるって事は分かったよ》
軽く経緯を説明しただけだが、それでもアッサリと話の流れをある程度把握した伊奈帆の出来の良さに一帆は「流石原作主人公……」と内心感心するがその後に続いた言葉に自覚はあれどやや顔を引き攣らせられる。
「酷い言い様だな……まあ事実だが」
《理解してるならそれで良いよ。カズ兄、僕はどうすれば良いの?》
「LCACに着いたらすぐに戦闘データ──特に無人観測機とガンカメラの映像を編集して改竄する。じゃないとお姫様の存在がバレるからな」
とはいえ参謀か軍師タイプの伊奈帆が居ると話は進み易い。前世込みの経験と原作知識で知略に下駄を履いている一帆に比べ、地頭が良い上に若くて行動力のある伊奈帆は実に有能なのだ。あとは他者との折衝や若さ故の過ちやらに対して歳上の者が時に
───多分俺と伊奈帆以外お姫様の正体を見ていないからそれくらいで大丈夫だとは思うが……いや、もう1人いるな
そこまで考えて一帆はもう1人彼女が真の姿でいた瞬間を間近で目撃したであろう人物に思い至る。
「……ライエさんか」
《?》
「伊奈帆、ライエ・アリアーシュには注意しろ。おそらく彼女も
そう彼女も見た筈なのだ。見た筈なのだが、余りにも
《どうする気?》
「……釘を差す程度にしておこう。下手に刺激して爆発されたらマズイ」
《了解》
どうやら一帆の苦労は絶えないらしい。唯一この真相と問題の全容を知っているが故に、これからの事に頭を悩ませながら一帆は伊奈帆達と共に一路、LCACとの合流地点に向かった。
10分後、無事港に接舷していたLCACに合流できた一帆達は、前方の警戒をしていたカームと起助の2人を先にLCACの甲板に回収させていた。
《オーライオーライ、そのままそのまま》
誘導員として足元で
《げっ!》
《緊張した~祭陽先輩踏むかと思った……》
「止めたげてくれ、祭陽は数少ないまともな友人なんだ」
《済みません会長》
《数少ないまともな友人て……まあ、そうかなぁ……ウチの学年HE☆N☆TA☆Iしかいないからなぁ……》
一方でスプラッタ映画になる寸前だったのは、港湾でまだ陸地におり甲板に乗り込む前で誘導を行っていた同級生であり、通信科生の祭陽希咲と
───韻子さんって射撃能力高いのに通常機動は苦手なのだろうか?確か作戦中も何か踏んでたような気がする……これからは機体に乗ってる彼女には近づかないようにしよう。俺は味方に踏み潰されて不名誉な戦死とかしたくないし……
こちらもその間に無事露天甲板に駐機させられ、アセイラムが手から降りたのを見届けてから一帆が機体の甲板への
「
───
表示の内容は超高高度、すなわち成層圏上層部に多数の高熱源反応が確認されたということ。そしてその速度から推察するにその正体とは……
「っ!総員遮蔽物の陰に隠れろ!対
甲板に降ろしたばかりのアセイラムを守るため、一帆は制御装置を操作して安定翼を展開し彼女の盾にする。その直後、
「くっ‼︎」
《きゃぁぁぁっ⁉︎》
《うっ⁉︎》
鋼鉄の塊であり数tはあるカタフラクトがコックピットの中であろうと分かるレベルで揺さぶられる。衝撃波と振動、遅れてきた突風がLCACごと艇内や甲板に居る人やカタフラクトに叩き付けられる。
「くっ、セラムさんはっ⁉︎」
あの風量に転ばされ甲板に叩きつけられた人も居たようで、急いで彼女が無事かどうかを確認すると、なんとか安定翼の展開が間に合ったようでアセイラムは無事で済んだようだった。
「……隕石
メインモニターに映る新芦原市の
“
もしくは『
それはアルベルト・アインシュタインにより提唱された「相対性理論」中にある「特殊相対性理論」の物理関係方程式であり、この公式は「質量とエネルギーの等価性」とその定量的関係を表す。そしてそれに則って考えると隕石爆撃とは
《火星人は、ここまでするのか……》
《隕石爆撃って……確か南極条約違反だろ⁉︎正気なのか奴らは⁈》
無線機越しにカーム達が思わずこぼした声が聴こえてくる。南極条約自体、それによってなされた休戦協定が破られ第二次惑星間戦争が開戦したのもあって事実上の失効状態にあるとはいえ、それはただの休戦条約ではない。中には
にしても──
「タイミングが良過ぎる。確実に
撃破されたカタフラクトの機密処理にしては早過ぎて、暗殺事件の報復にしては遅過ぎる上に何より表向きとはいえ第1皇女没地を焦土化するのは利点が無い。地球側もわざわざそんな自陣の破壊工作なんてする利点は皆無であり、焦土作戦なんてとれる余裕も宇宙に戦力も無いのだ。これではほぼ失効状態とはいえわざわざ明確な南極条約違反を犯してまで起こしたこの行動の真意が分からない。
───そこまでして
考え得る限りではその二択だが、前者ならともかく後者に関してはやはり行動が早過ぎるのだ。
「……
それでも誰もが動けず唖然としている中、まだまともに動けた一帆は既に無人観測機は祭陽達に回収してもらっていたこともあり、一応カタフラクトのセンサーでも収集できた観測データを艦橋に送る。
《……カズ兄》
「何だ、伊奈帆?」
《帰る場所、無くなっちゃったね……》
「ああ……、そうだな」
データを送信した直後、わざわざ通信を繋げてきた伊奈帆に一帆はそう返す。
またひとつ、一帆達の退路は絶たれていった。