ALDNOAH.ZERO -Earth At Our Backs-   作:神倉棐

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本作品を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
自分にとって処女作となる本作品につきましては長らく未完の状態ではありましたが、突然ではありますが連載再開と現在構想中の作品の実験の為にも一度内容の修正と改善の為に一部改稿させて頂きました。
今後とも一層のご愛顧を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。


長いです。主に戦闘シーンの所為で、


3/5 「騎士への反攻」

 

 

Mission Name > Doll Drop(だるま落とし)

Operation Objective > 団子虫を撃滅せよ

Date > 2014/11/20

Time > 0600hrs.

Location > Japan Sinawara city

Sky Conditions > Scattered clouds

Cloud Cover > 2/8

 

 

さて、皆んな集まったな?

 

伊奈帆いる、ソラいる、韻子さんいる、カーム君いる、起助君いる、ユキさんもいるね。

 

じゃあ作戦会議を始めよう。

 

まず作戦目的を最初に確認する。本作戦における最終目的は避難民含む我々全員の当該戦域(芦原市・新芦原市全域)から離脱にある。よってその第一目標は本隊として共同溝や地上通路を用いた歩行での避難民の埠頭への退避、第二目標として4機で構成されたカタフラクト小隊とそのバックアップ1機を別働隊としこれらの戦力で以って敵火星カタフラクト……これより仮称「団子虫(ソーヴォグ)」とするがこの敵機の撃退ないしこれの撃滅とする。

 

不幸中の幸いともいうべきか、何故かソーヴォグに乗る火星兵は今も()()()()()()()()()()()()我々に執着しており、市民の避難は我々を除きほぼ完了しているとはいえ我々のいる芦原高校を含む新旧芦原市街や埠頭に被害はほぼ確認されていない。ただこの状態がいつまで続くかについては不明であり、早急な行動──作戦の決行が必要とされる。

 

そこで我々は避難民の戦域離脱と同時進行でソーヴォグの撃破……最低でも避難の猶予を稼ぐべく新芦原市外への撃退作戦を行う。

 

こちらの画面(スクリーン)に映された映像を見て欲しい。ここに映された情報は先の無人観測機飛行中に収集されたデータおよび直接当該機と接敵したユキさんの搭乗機から抽出された戦闘データを基に想定されるソーヴォグの推定スペックならびに()()()()()()()()()ことのカラクリとそのタネのについてである。

 

これについては最初に解明した伊奈帆に()()詳細に解説してもらうとして……ただあくまでこれらのデータは得られた情報から推察される仮定である点には留意して欲しい。

 

で、各員の配置についてだが……ソラは耶賀頼先生から補佐の要請があるので先生の補佐に、ユキさんは本隊である避難民の誘導を、別働隊のカタフラクト小隊としてハンター1が伊奈帆、ハンター2に韻子さん、ハンター3にカーム君、ハンター4に起助君、俺も無人観測機のR/MQ-1T プレデターを使ってバックアップにバードアイとして出撃する。

 

そして囮役の輸送車の人選に関してだが……ん?誰だ?

 

アセ……んんっ、セラムさんと……確かアリアーシュさん?何か用ですか?

 

……聞いていたと思いますが直接戦闘には参加しない想定とはいえ輸送車は囮役、敵機に追跡される役回りな以上カタフラクトで出撃するこちらよりも遥かに長時間命懸けになります。それでもですか?

 

分かりました……では彼女達2人を加え作戦決行は明朝(11月20日)0600(午前6時)、日の出と共に出撃し敵火星カタフラクトを撃退します。

 

では各員の連携と奮闘を期待する。

以上、解散。

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【日本 新芦原市 11月20日 6時1分】

〈Japan Sinawara city 0601hrs. Nov 20, 2014〉

 

 

芦原高校に入学して以降、もはや嫌というほどに聞きなれた火薬の破裂音と共に赤い閃光が上空に撃ち上げられる。見上げた空に灯る信号弾赤玉3発の意味は「戦闘開始」、これで埠頭にいるはずの軍や鞠戸大尉にはこちらが動いた事が伝わるはずだった。

 

《カズ君にナオ君、絶対に無事で帰ってきてね……》

《分かったユキ姉》

「勿論ですユキさん、後輩4人に民間人2人の命を預かっているんです。絶対に死なせはしませんよ」

 

眼下で心配そうに、だが本作戦の第一目標であり彼女自身の役割でもある残された避難民の誘導のために気丈に振る舞うユキの姿を見た一帆と伊奈帆は片や操縦席内で、片や輸送車に固定された機体の側で敬礼しつつ彼女を見送る。

 

《カズ兄、行こう》

「了解、作戦開始‼︎」

 

先頭は囮にして()()()()()()()となるカタフラクト専用輸送車(キャリア1)練習機(スレイプニール)を載せて操縦士(パイロット)伊奈帆(ハンター1)運転手(ドライバー)ライエ、助手席の補助アセイラム。それに続いて練習機で網文(ハンター2)カーム(ハンター3)起助(ハンター4)が出る。既に一帆達の通信中継機兼情報収集機であるR/MQ-1T プレデターは空中に待機中であり、一帆は遊撃手(バックアップ)として3分後に出撃だ。

 

「……さて、弱点も攻略方法も判明している。作戦は原作(向こう)の伊奈帆の立てたものを地理状況に合わせて加筆修正したけど……上手くいくかな?」

 

加筆修正を行なってもなお、今のままでも十分綱渡りなものだがそれでも万が一にも囮役が逃げられない原作(芦原大橋)でやるよりは十分マシだ。

 

───問題は奴さん(ソーヴォグ)が原作通りの間抜け行動をとってくれるかだが……

 

一帆は画面にある無人観測機が現在進行形で収集中の情報によって上書きされ続けている新芦原市の地図(マップ)操作(スクロール)しつつ、作戦会議で決めた一帆達が考えた中で最良であろうその()()()()()()を画面中央に表示する。

 

「いつものランニングがこう役に立つとは思わなかったな」

 

周囲の状況にも目を配りつつ、地図を眺めた一帆はそう呟く。新芦原市と芦原市の市境かつ郊外にある出発地点(芦原高校)から途中、伊奈帆を()()()()()()()()()()()中継地点を経由しても最終地点まではヒトの足で以外なら30分ともかからない。

 

「バードアイよりハンター全機に通達、改めて確認しておくがソーヴォグはその特殊能力の都合上()()()()()()()()()()()()()()()()()()可能性は高い。無人観測機や機載のレーダー等の探知能力を過信せず必ず目視で確認セヨ」

《ハンター1、了解》

《ハンター2、了解ってああもうっ‼︎道幅きっつい!》

《ハンター3、了解。構うな、今日は減点なんてされねーよ》

《ハンター4、了解。でも居ねーな、どこ行ったんだ?》

 

何かを思いっきり踏み潰した音と共に先行している伊奈帆や韻子達の返信が通信機越しに聞こえてくる。

 

───よし、3分経った

 

「八朔一帆、TKG-6B スレイプニール、出撃する」

 

起動シークエンスの口頭確認は全省略、カタフラクト頭部にあるメインカメラが碧く起動したと同時に、一帆は擲弾(グレネード)装備の10式/M2 75mm小銃(アサルトライフル)を片手に出撃する。無人観測機は今後の予定を考えてあらかじめプログラムで指定した航路で情報収集をしつつ周回飛行するオートパイロットを起動、背部兵装架にはバックアップのために予備弾薬(サブマガジン)の他に携行型44口径120m滑腔砲や各種手榴弾(グレネード)を懸架していることもあり、推進剤節約も兼ねて安定翼を展開せずに歩行(通常走行)で伊奈帆や韻子達とは別ルートで最終誘導地点に向かう。

 

《見つけた。10時の方向!》

《出たな……団子虫……‼︎》

《ハンター3……一応ソーヴォグって敵性ネームが付いてんだけど……》

 

そして伊奈帆達のトレーラーが出ておよそ6分後、出発地点である芦原高校を起点に方位198より目標であるソーヴォグは新芦原市の街並みを踏み躙りながら文字通り一直線に前進しつつ囮役のキャリア1やその護衛のハンター2から4に向かって突き進んで来る。

 

───ふむ、観測機を飛ばして検証したデータで発見されるまで推測した時間からほぼ予定通りだな

 

しかしそれもまた想定内、むしろこちらが奴を発見しそして奴に発見されるまでが作戦第一段階。そもそもあの人型兵器にしてはやたら不恰好な団子虫は短足故に致命的なまでに鈍足なのだ。精々出せて60km/hがあるかどうか、現代戦車どころか下手すればその辺りの原付にすら速度性能で負けているあの機体では多少ショートカットをしようとそう簡単にはキャリア1には追い付けまい。飛行能力もないようだし、アルドノアなんてとんでもオーバーテクノロジーがある癖に火星の設計者は何を思ってソーヴォグをホバー機にしなかったのだろうか?

 

《こちらハンター1、新芦原市上空にソーヴォグの無人観測機らしき機影を確認。方位264、距離200、数10》

「バードアイ、了解。全機、作戦第一段階より第二段階に移行セヨ」

 

伊奈帆からの報告と一帆の指示を受けたカーム達は自分達の目でもソーヴォグがキャリア1に注意を向けたのを確認してから上空に向かって発煙弾(スモークグレネード)を発射する。一応、この発煙弾もただ煙を出すだけでなく気休め程度だがジャミング効果のあるチャフもついでにばら撒くタイプの発煙弾なのでこれでソーヴォグに乗る火星兵は煙幕で観測機から得ている視界を完全に奪われているはずだ。

 

───その際に奴が取る行動は2通り、「安全をとって動きを止める」か「バリアを解除してでも行動する」かどうかの2択

 

しかしあの間抜けな小心者である火星兵(パイロット)の今までの行動と一帆の原作知識からして、奴がこちらの真ん前で堂々と「絶対無敵(笑)のマント」を(ストリップショーをして)解除する可能性は極めて低い(くれるかどうかはあり得ない)と断言できる。とはいえ一帆達の今後の作戦の成否を左右しかけない状況に、1人通常走行でスレイプニールを走らせながら一帆は左耳のスピーカーに耳を傾ける。

 

《奴の動きが止まった!》

《会長と伊奈帆仮説通り!》

《来た来た来た‼︎俺のじd……》

《 《オコジョ(バカ)(うるさ)い‼︎》 》

「《…………》」

 

そしてスピーカー越しに聞こえてきた韻子達の歓声とツッコミに、一帆と伊奈帆は安堵しつつもその余りの緊張感のなさになんとも言えない感覚にも包まれる。

 

─── コホン……原作(予測)通りだな。奴は機体性能で好き勝手に暴れてはいるが、本質は臆病で調子に乗りやすい、精神的に未熟な新兵以下(馬鹿)

 

一帆からの評価はボロクソだが事実だから仕方ない。実際、ソーヴォグの火星兵は昨日伊奈帆達を弄んで取り逃がした挙句その後は結局じっと朝まで街に何をするでもなくこちらが動き出すのを馬鹿みたいに待ち続けていた。そんな事する暇があるなら手当たり次第街や基地を破壊して回れば良かったのだ、それだけで一帆達は確実に詰んだのにである。

 

───これじゃ完全に哀れな道化(ピエロ)だな

 

内心「怯えろ!竦め!M○の性能を活かせぬまま、死んでゆけ!」と、何処か大佐の誰かさんみたいな台詞(セリフ)を連想しつつ市街地を走り抜けていると何発もの発煙弾で煙のベールが張られている新芦原上空に一瞬の影が差し煙幕にムラが生じる。

 

───あれは……火星の輸送機か

 

一帆や伊奈帆達の頭上、新芦原市上空を飛ぶ黒い機影は一帆の記憶がたしかならば火星のカタフラクト輸送用の()()()()()*1である。おそらくあの飛べそうにないソーヴォグをここまで運んだであろう機体であり、奴の回収か近接航空支援にでも来たのだろう。そしてそのパイロットは……。

 

「バードアイからハンター全機へ、聞こえるか?」

《こちらハンター1、どうしたの?》

 

輸送機パイロットが一体誰か、そして何のためにわざわざこんなところに再び現れたのかについて一帆は一方的に相手の事情について識っているが、だからといって()()()()味方ですらない敵相手に同情こそすれど手を抜くつもりはさらさらない。全体に向け通信を開き、作戦第二段階から第三段階への移行と輸送機の存在を宣言しようとする。

 

《あいつ無茶苦茶!》

 

だがその前にソーヴォグが動き出したようだ。このタイミング、輸送機から座標誘導のバックアップでも受けているのだろう。

 

───どんだけ少女1人に固執してんだよ……確かにすごい秘密握られてるけどさ

 

《こちらハンター2、上空に火星の輸送機を目視で確認》

《ハンター2、4、援護してくれ!あのコウモリ!》

《ちょっとハンター3⁉︎》

《あいつの気流で煙幕が乱れる。落とさねーと!》

「バードアイよりハンター2から4へ、お前達は作戦通り第三段階に移行。コウモリはこちら(バックアップ)で対処する」

《くっ……ハンター3、了解》

 

一帆の指示に銃口を空に向けて構えていたカームはやや不服そうではあったが、3人は素直に機体の向きを輸送機(コウモリ)から目的地に向き直し動き出す。ついでにコウモリに散らされた煙幕をしっかり張り直しながら走って行く辺り、中々彼らも戦場で戦うことが板に付いてきたといったところだろうか。

 

「さて、キャリア1のセラムさん。聞こえますか?」

《はい、カズホさん聞こえます》

「あの戦術輸送機について()()を読み上げて下さい」

《分かりました。ヴァースの戦術輸送機でスカイキャリアと言います、機銃やミサイル以外の特殊な装備・能力は有していないと聞き……あります》

《……あれには弾が当たるの?》

《はい……みたい……です》

 

アセイラムの知識を資料()として言い換えて説明してもらったのだが「言いにくそうだな……」と思いながらも一帆は手に持つ小銃を一度背部兵装架に戻し代わりに携行型120mm滑腔砲を手に構え、弾種をAPFSDS弾(装弾筒付翼安定徹甲弾)からHEAA弾(対空破片調整弾)に切り替えてターゲットスコープを覗く。散々ジャミング効果のある発煙弾を撃ち上げた所為で一帆を含む味方でさえもロックオンシステムは使えないので全て手動(マニュアルで)制御するしかないが、むしろ転生特典(置きミサイルを当てる技量)故に一帆は訓練でもロックオンなんてろくに使った事がないのでいつも通り手動で標準を合わせる。

 

「……下手に当たって墜落はしてくれるなよ?スレイン・トロイヤード(コウモリ)

 

一帆は引き鉄(トリガー)を引く。

 

44口径──分かりやすくm(メートル)に表記し直すならば5.89mもの長さの砲身から撃ち出された120×570mmのHEAA弾は吸い込まれるように輸送機の進路上かつその目前まで飛翔し炸裂、一定方向への強い指向性のもたらされた破片群が後退翼の輸送機右翼に直撃し黒煙と炎を上げる。

 

───流石火星製、距離や弾種にもよるが翼に艦砲や戦車砲クラスの弾を受けてへし折れないとは恐れ入る

 

地球製の輸送機ならばまず間違いなく1撃で主翼ごと機体がへし折れて墜落しているであろうダメージを主翼に受けた火星製輸送機──スカイキャリアは高度を落として海岸に向け飛んで行く。これで一帆の不安材料は1つ減った。

 

《こちらキャリア1およびハンター1、中継地点に到着》

「よし、バードアイより全体へ。作戦第四段階に移行する。煙幕追加、遠慮なくぶちかませ!」

《了解‼︎》

 

伊奈帆の機体の起動を隠蔽する為にさらに煙幕追加、既に先程まで直掩ですぐ側にいた韻子達ハンター隊は先の作戦計画(ミッションプラン)第三段階に基づいて護衛から次の配置場所へと移動中であるので輸送車自身(同乗しているアセイラム)にも回転弾倉式擲弾発射器(グレネードランチャー)で煙幕をばら撒いて貰いつつある程度距離を稼いで一度車両を停車させる。

 

《電圧チェック、油圧チェック、温度チェック、回転数ノーマー

フォースフィールドバックチェッキングプログラムスタート

エジェクションシート正常、IFF確認

戦術データリンク、アクティベート

システムオールグリーン、ホールドオープン》

 

ものの数分程度で伊奈帆の敵味方識別信号(IFF)の発信を確認。これからは伊奈帆とは()()()()()()()()()()()ことになるがこれで作戦第四段階の要点はクリア、あとは囮を無事に最終誘導地点まで無事に送り届けるのみ。コウモリを追い払った上に追加煙幕のおかげで完全に敵の目を気にしなくとも良くなったのもあって、一帆も自身の配置となる目的地に急ぐために安定翼を展開しスラスター全開で走る。

 

───港湾地区まであと3分……このままいけるか?

 

“新芦原市港湾地区”

 

そこは「厄災」によって芦原隕石孔(アワラ・クレーター)の一部として吹き飛んだ旧芦原市港湾地区跡地を覆い隠すようにつくられた巨大人工浮地盤(メガフロート)エリアであり、増え続ける欧州からの避難民受け入れの受け皿に都市再開発計画の真っ最中のため既存の建物やまだ建設工事の途中の建造物群が混在して密集しているエリアでもある。

 

───ハンター2達はもう配置に着いたか、あとは囮のキャリア1以外は俺と伊奈帆だけ。急がないと

 

所々港湾地区内には工事中の看板やカラーコーンの柵などが乱立しているが、その最終誘導地点はそれらを無視して蹴散らし越えた先にある。現状先行していた韻子達は既に指定の配置場所に待機しており、残すは囮役のキャリア1を除けばバックアップの一帆と別行動の伊奈帆のみ。

 

《最終誘導地点まで600を突破、予想到着時刻は作戦予定時間より+12秒後です》

 

アセイラムの状況説明に耳を傾けながら一帆は全速力で海岸線への橋を渡り切る。ソーヴォグの腕を蛇行しながら二度三度と避けながらもキャリア1もほぼ同時に市街地から海岸線へと抜けたが、それに苛立ったのかソーヴォグが急に腕を横に薙ぐ。

 

───マズイっ

 

それによって堤防沿いの路肩に立てられていた街灯の残骸が数本纏めて輸送車に向かって飛ばされる。単純に振られる腕一本ならともかく5~6mの複数の金属の棒や瓦礫の残骸は躱せない。観測機越しに映された映像によると幾本かの残骸が輸送車のタイヤをパンクさせ、運転席付近にもその内の何本かが激突し輸送車は数mを横滑り(ドリフト)で滑るように走って停車してしまった。

 

「っ⁉︎セラムさんにライエさんっ‼︎」

《……っ、くぅっ……》

 

思わず通信機越しに叫んでしまった一帆だが、なんとか2人は無事とはいえずど死んではいない様だ。それにしっかりとライエさんは最終誘導地点までトレーラーを到達させている……だが時間が足りない。

 

───決行を早めるか?いやまだ1分以上ある。最悪肝心の伊奈帆がまだ配置に着いてないかもしれない

 

一帆はまだ良い、配置につけているに越したことはないがつけていなくとも一帆の役割は指揮と()()()()()()()であり、最悪場所には拘らなくて良い。だが作戦の要である伊奈帆が配置につけていなかった場合作戦そのものが瓦解する可能性がある。

 

「っ、バードアイより全体に告げる。作戦中si《いいえ……まだです》……なんだって⁈」

 

故に作戦中止を宣言しようとした一帆をアセイラムは止める。彼女はトレーラーから降りて敵カタフラクトを見つめていた。

 

《作戦予定時刻まで32秒……あとは私が》

「セラムさん、駄目です」

《いいえ、トレーラーが動かない以上、走って逃げても私達の足では逃げ切る事は出来ません。なら……私はカズホさん達の可能性に賭けます》

《見苦しいな。今になって命乞いとは》

 

大破した輸送車に追い付いたソーヴォグの外部スピーカーから慢心したような男の声がこちらにも聞こえる。さっさと攻撃でもすれば良いところをわざわざ外部スピーカー起動して話し出すところをみるとどうにも詰めが甘い……だがその甘さに縋らねばならない一帆達にとってソレは救いであり、屈辱でもあった。

 

《控えなさい!この目に余る狼藉、許しません!このヴァース第一皇女のアセイラム・ヴァース・アリューシアの名に置いて!》

 

アセイラムの、お姫様の胸元にあるペンダントが閃光を放ち光学迷彩を解除すると彼女は本来のドレス姿に戻る。

 

《なっ!?……アセイラム・ヴァース・アリューシア姫殿下!?まさか!?》

 

そしてそんな彼女の姿を見たソーヴォグの動きは完全に静止した。

 

───まったく賭けに勝ったから良いものを……これじゃ原作と殆ど変わらない結局は姫様頼りの綱渡りじゃないか

 

《下がりなさい!無礼者!!》

《馬鹿な……そんな馬鹿なぁっ⁉︎》

 

───でもなんだかスゲー効果覿面過ぎて寧ろ笑えるな

 

とはいえ彼女が身を挺して時間を稼いでくれたおかげで作戦予定時間には十分間に合う。万全を期すため、武装と仕掛けの最終チェックを素早くしていると警報装置とメインモニターに映したレーダースクリーンに反応があった。

 

───攻撃信号?それにレーダー上に複数の侵入者(ブリップ)だと?

 

海の方からソーヴォグに多数のブリップ──正確には何発もの艦対ミサイル(SSM)が放たれる。バリアがある以上SSMに効果はない、だが無意味ではない。

 

《くっ!》

 

無人観測機の高感度カメラで発射元を確認する。カメラに映ったのは自らが放ったSSMの引いた白煙を蹴散らして洋上をこちらに向かって全速航行する強襲揚陸艇(LCAC)が一隻。

 

───あれは連合のLCAC(エルキャック)……ってことは友軍か?

 

LCACが放ったそのSSM群はバリアによって大半は消えてはしまったが、標準がズレて地面に着弾したものやそれによって巻き上がった爆炎も含めて何発ものSSMは良い陽動になった。

 

「作戦第五段階への移行を宣言する‼︎セラムさんとライエさんは輸送車かもしくは遮蔽物の陰に退避‼︎ハンター2から4、カウント省略、今‼︎」

《 《 《了解‼︎爆砕ボルト点火()‼︎》 》 》

 

《なあ⁉︎》

 

一帆の号令とともに韻子とカーム、そして起助の3人がそれぞれ担当の地下にある工事中の人工地盤の爆砕ボルトに着火したことよりソーヴォグの足元のコンクリートの地面と地盤がブロック丸ごと完全に崩壊。足場を崩されたソーヴォグは意味も分からずに成す術もなく海面に水没する。

 

《クソォっ⁉︎このクソネズミ共がぁっ⁉︎》

「……おお、凄いな。海水がぐんぐん減ってるぞ……」

 

ソーヴォグの表面に触れた海水が即消滅し、吸い込まれるようにしてなんとソーヴォグ周りでは芦原隕石孔内の水嵩が2m程下がる。今回一帆達が贅沢に1ブロック(50×50m)丸ごとパージした人工浮地盤は、元々再開発計画や老朽化した人工地盤の補修工事で封鎖中の道路であったこともあって基部を残して甲板層のみを分離すれば地下にある海面との空洞あるいは直接芦原隕石孔の海面に落下させる事が出来るのだ。

 

《無駄だ!我がニロケラスは鉄壁の防御!貴様らなんぞに》

 

───はいはい、分かった分かった。でも良い事を教えてあげよう、鉄の壁であろうと手を尽くせば突破できる。覚えておけ、人の手が造ったものは、人の手で必ず壊せるんだ

 

「ハンター1、()()()()は無人観測機越しに確認した。チェックメイトだ」

《こちらハンター1、了解。作戦を最終段階に移行》

 

そして同じく地下にカタフラクトごと潜んでいた伊奈帆がクレーター内の水嵩の減った海水を蹴り飛ばしつつ対装甲(高周波振動)ナイフを手に突っ込む。狙うのは背面装甲、インテーク右下、爪の隙間。

 

《貴様ぁ……いつの間に⁉︎》

《お前のバリアに穴があるのは既に分かっていた》

 

こちらから打ち出した弾丸だけでなく赤外線や音波・電波でさえエコーが戻らない時点でソーヴォグの表面を覆うエネルギーフィールドがおよそあらゆる物質や物体、挙げ句の果てには運動エネルギーさえも吸収し無効化するものであることは既に突き止めていた。そしてその上で伊奈帆が疑問を抱いたのは「どうやってアイツはバリアのこちら側を見ているんだろう?」ということだ。

 

《例とするなら接地面、そこまで覆ってしまえばお前は立つことすらできない》

 

外部からのあらゆる情報がバリアで遮断(シャットアウト)されている状態でその向こう側にいる伊奈帆達を捕捉する方法はどうしても限られる、そこで伊奈帆が目をつけたのは先ほど一帆が伊奈帆達の輸送車を捕捉した手段つまり無人観測機などによる三人称・第三者視点の確保である。

 

《その鎧は強すぎるが故に全身を覆い尽くす事が出来ない》

 

であるならばバリアのどこかにその無人観測機や外部の味方などとの通信のやり取りを行うための「穴」がどうしても必要なはずなのだ。

 

《そして、光すら遮断するために目の代わりとなる外部カメラのデータ送受信部。それもバリアの隙間の1つだ》

 

伊奈帆はナイフで装甲を抉る様にしてソーヴォグが抱える唯一にして致命的な弱点、バリアの穴となっている部分の装甲を抉じ開けアサルトライフルの銃口を差し込む。

 

《これで……終わりだ》

 

AP弾だけでなくオマケとばかりグレネードまでゼロ距離でぶち込み続ける伊奈帆の徹底具合……余程この逃走生活はストレスになっていたのだろう、あとここまで加減も容赦もないのはユキを怪我させた実行犯でもあるからか。そして伊奈帆が1弾倉(ワンマガ)分の弾薬を打ち切っての沈黙の後、唐突にソーヴォグ──あの火星兵曰く正式名称は「ニロケラス」らしいが──の肩から光を放たれ機体全体が一瞬だけ黒くなる。

 

───あれがバリアの内側、光すら飲み込まれた暗闇か?その光学迷彩か偽装が剥げたってことはバリアが解けたか

 

そのままソーヴォグは既に前のめりに倒れ込み元の水嵩に戻りつつある海面へと没する。徹甲弾とグレネードの破壊の雨だ、確実に内部はスダズタになっているだろうしパイロットもそのまま死んでしまっている可能性は高い。できれば後々のことを考えて機体ごと鹵獲(回収)したいところだがそれには専用の作業車と人員が必要になる、現状これ以上の収穫は望めないだろう。それに伊奈帆にはアセイラムの正体は確実にバレたと見てもいい。

 

《みんな、無事?》

《ユキさん!》

 

海上のLCACからの通信が入る、やはり海上からの援護射撃(SSM)の正体は救助隊のものだったらしい。通信機越しに聞こえてきたユキの声からして、どうやらLCACの救助隊は本隊である避難民を回収してすぐにこの作戦概要を把握している彼女に情報を貰って返す刀でそのままここまで直行して来たようだった。

 

《全員、被害状況を報告!それと死んでるやつは返事しろ!》

 

通信機越しの鞠戸大尉の相変わらず古典的な無茶振りに一帆は苦笑する。

 

《こちら界塚伊奈帆、損傷はありません》

《こちら網文、問題ありません!》

《こちらクラフトマン、同じく》

《こちら箕国、生きてます》

「こちら八朔および民間人2名、無事です」

《バカ野郎、お前達は生きてるだろうが》

「死んでる奴は返事なんかできませんよ?鞠戸大尉」

《ジョークが分かってないな……八朔》

「わざとです」

《尚更だ‼︎》

《あははは……》

 

空気はようやく和んだらしい。いつまでも張り詰めてたら気が持たないからな、大切なのは適度な緊張である。

 

《艇を接岸できる岸につけます。合流ポイントは戦術データリンクを参照してください》

「了解です。バードアイより作戦参加全体に通達、全作戦を終了を宣言。だがここにいる全員が無事にここから脱出するのが作戦目的だ、LCACとの合流するまで気を抜かないように。全員が帰還したら作戦成功を宣言する」

《 《了解》 》

「あと伊奈帆、後で話がある。それとセラムさんとライエさんを運ぶの手伝って」

《分かった》

 

地下から上がって来た伊奈帆にそう頼むと伊奈帆はすぐ近くにいたライエをスレイプニールの手に乗せる。一帆の方もすぐ側まで来ていたアセイラムを手に乗せてできるだけ揺れない様に気を付けつつ合流地点に向け歩き出した。

 

《カズホさん……》

「何ですか?」

《パイロットの方は……》

「……分からない、地球製のカタフラクトなら確実に駄目だろうけど火星製は……」

 

これは本当に分からない。まさか当てずっぽうにもう当てにならない原作知識を(生きているなんて)言う訳にはいかないし、それにそんな辛そうな顔をしている人に確証のない事を話すのは気が引ける。

 

「アセイラムさん、貴女はやはり優しい人です。だから貴女はこんな場所に来るべきじゃなかった……貴女が暗殺派の火星のパイロットの事さえ心配してしまえる程優しい、優し過ぎる人だと分かっていたのに……」

《でも私は……貴方と共にここに来て良かったと思っています。ここに来なければカズホさん達がいる戦場を理解する事なんて出来なかった、私の理想(ユメ)が決して間違いなんかじゃなかったのを理解できましたから》

 

アセイラムは言う。

 

《だから……ありがとうございます、カズホさん》

 

彼女の微笑みは冬に咲く桜の花の様に綺麗で、そしてとても澄んだ凛としていたのだった。

 

 

 

 

 

*1
▶︎スカイキャリア

火星のヴァース帝国が運用する三発式の大型戦術輸送機。熱核バーストタービンエンジンを搭載し、機体後部が下に展開することで機体後部にある双発エンジン上部がステップとなり、このスペースにカタフラクトを直接搭乗させることで大気圏内の何処へでも輸送可能な輸送機形態となる。

機体の全容としては巨大な鳥のような尾翼らしい尾翼を持たない全翼機でかつ胴体部の左右から前方に向けて伸びる大型の前進翼を持った機体であり、やや被弾投影面積が広いために被弾しやすくステルス性もほぼ皆無。機首先端部に単座式の操縦席(コックピット)を持ち、操縦席内はアルドノアドライブを搭載していないからか重力や慣性制御などはされておらずキャノピーは全天周式モニターで覆われ通信や機体のコンディションなどを表示する計器類は空間に立体投影される仕様。

主な武装は機首両側に榴弾を装填した可動式の機銃に、空対空と空対地ミサイルが装填されたミサイルポッドと輸送機としては過剰だが戦闘機としては標準的。性能面においても速度性能はそれほど高くないものの機動性や安定性が極めて高く、機体は頑丈でステップ展開による制動を利用した垂直上昇やカタフラクトを載せた状態での失速(ストール)下でも立て直しが可能など輸送機以前に航空機としてもかなりの無茶がきく変態性能。よって本機の火星側の基本的な扱いとしては、「長大な航続距離と輸送機にしては過剰な自衛力を活かした単機での前線までのアルドノアドライブ搭載カタフラクト輸送と輸送後はそのまま前線での友軍の近接航空支援に移行する運用思想なのでは?」と一帆は予想している。

またカタフラクトでなく兵員・兵器輸送用コンテナをステップに装備することで兵員を輸送する兵員輸送機やミサイルや爆弾を搭載した武装コンテナを装備することで大型攻撃機や爆撃機への転用が可能にもなるといった汎用性が高い機体。

カラーリングは黒を基調に差し色に赤が入っており、特に所属を示す国籍表示やエンブレムが入ってはいないものの主に火星本国ではなく衛星軌道上に点在していた軌道騎士たちの揚陸城に多くが配備されている。





……やっぱり戦闘シーン難しい。

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