ALDNOAH.ZERO -Earth At Our Backs-   作:神倉棐

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本作品を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
自分にとって処女作となる本作品につきましては長らく未完の状態ではありましたが、突然ではありますが連載再開と現在構想中の作品の実験の為にも一度内容の修正と改善の為に一部改稿させて頂きました。
今後とも一層のご愛顧を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。


3/4 「反攻前夜」

 

 

【日本 芦原市 芦原高校 第二格納庫 11月20日 4時3分】

〈Japan Awara city Awara hight school 2nd Hangar 0403hrs. Nov 20, 2014〉

 

 

第二次惑星(地球-ヴァース)間戦争の開戦から一夜が経った日の朝、正確にはまだ夜の帳に包まれたままの午前4時頃。夜というには明るく、朝というには暗すぎる夜明け前の曖昧な時間帯に一帆は避難民の集まった芦原高校の端にある格納庫にて駐機された数ある練習機の内の1機、とあるカタフラクト(愛機)操縦席(コックピット)の中に居た。

 

“TKG-6B スレイプニール*1

 

それが一帆の愛機であるこの練習機の名前である。このTKG-6B スレイプニールは設計段階から複座の練習機としてだけでなく前線において専任のレーダー員を同乗させ、強力なレーダー火器管制装置を含む電子戦装備による戦闘や友軍の支援を行う構想が設計の段階で組み込まれていた機体である。その上ここ芦原高校に引き渡されるつい最近まで日本国陸上自衛隊(日本・極東支部)の富士教導団で運用されていた機体の内の1機であったこともあって迷彩塗装は濃緑色のまま、さらに搭載されたハードウェアとソフトウェア(パワー・パックや戦術データ・リンクなど)も最新式に更新されているのもあり、それ故に乗り手にもそれなり(同乗者なしの学生レベルでは )の技量を必要とした(まともに使いこなせない)機体だったのだがそれを「丁度都合の良い奴が居る」と鞠戸大尉が生徒会室で仕事をしていた一帆を生徒会室から引っ張り出して来ていつの間にか実技成績最上位だった一帆の専用機に勝手にしていたのだ。

 

「……いや、機体は悪い訳じゃないよ?ただ一人だけ軍事教練の時に機体の色や見た目が違うって目立ち過ぎるんだよね……」

 

確かに単座のA型と複座のB型では部品も大半が共通化されており同じく外見上はその82%が一致しているとはいえ見てすぐ分かる塗装の違いと安定翼やらなんやらの見た目の特徴から三人一組(スリーマンセル)小隊訓練の時は最優先で狙われるので乗っている身からすれば堪ったものではない。考えても見て欲しい、小隊指揮を執っていたらいきなり相手の隊が自分を見つけ次第全火力を注いで撃破を狙ってくるのである。

 

「ふふふ……あの時は大変だった……。確かに人型機動兵器とか男の浪漫の塊だしやむにやまれぬ事情(原作知識)があったから授業を必死に受けてたのもあって成績は良かったし、そもそも俺はどんな機体でもすぐに(どんな機体を選んでもミッション)それなりには乗れるようになる(では十二分に性能を引き出せる)けど流石に鉄の雨に突っ込むことになるのは勘弁して欲しいよ……まったく」

 

お陰で一帆は普通にやれば機体に慣れるのに1ヶ月は掛かるところを何処ぞの不良教官の無茶振りのせいで転生特典の効果込みでたった3日で慣れる事になった件について思い返し乾いた笑い声をあげる。

 

「……貴方何呟いてるの?」

「ん?たしか君は……アリアーシュさんだったかな?」

 

ただそんな一帆の少し心の闇が溢れ出していたところだった操縦席に1人の赤髪の少女が音もなくやって来ていた。

 

───たしかこの娘はユキさんが連れて来てそのままここまでやって来た少女で、名前はたしか……「ライエ・アリアーシュ」だったな

 

さらにいえば原作知識によれば彼女の父親達はお姫様暗殺事件の「実行犯」で彼女は「火星人」である。本来ならまだ知り得ないはずの真実を頭で整理しながら一帆は一応、彼女に名前の確認をとる。

 

「そうよ、ライエでいいわ」

「なら良かった、分かったよ」

 

ただ一帆には色々とお見通しな(プライバシーのカケラもない)状況にあるとは露知らず、そんな彼女はキャットウォークからコックピットを見下ろす形で一帆が機体の最終確認を行っている様子を上から黙って眺めていた。

 

「……ねえ」

「何ですかライエさん?」

 

そしてようやく一帆が一通り確認事項に目を通してからシステムの確認のためにOSに自己診断プログラムを走らせて一息付いたところで彼女は上から声を掛けてきた。

 

「貴方は火星人は嫌い?」

 

搭乗口近くに腰掛けているらしく見上げて見れば僅かにだが彼女の着ているパーカーのフードとそこからこぼれる赤髪が見える。

 

「私は嫌い、アイツは──()()()()はお父さん達を殺した。だから私は火星人なんか大っ嫌い、火星人はみんな敵、絶対に許さない」

 

憎悪、自分の父親を利用するだけしてあっさりと切り捨てた()()()に対する思い。

嫌悪、甘言に乗せられ悪事に加担させられた挙げ句に何も成せずに殺される所をただ見ている事しか出来なかった()()に対する思い。

相手も火星人、自分も火星人、だからより火星人が嫌い、憎い。仲間と言える火星人は地球上で僅か数人しかいなかったがためにある意味同じ火星人である父親達に依存してしまっていた彼女は、それが無くなった今とても不安定になっている。依存対象がいなくなってしまった彼女は「自分もそうである火星人を憎む」という矛盾を孕んだ思いでようやく生きていく事ができている状況だ。……その結果自分の首を絞める事になっているのだと本人も理解していながら。

 

───これは……原作から想像してた以上にマズイ感じだな

 

故に今回答をミスする訳にはいかない、下手な回答をすれば彼女自身が矛盾に潰されてしまう。

 

「……そうだな、伊奈帆と鞠戸大尉にも言ったけど……俺は火星を嫌えない。火星人そのものを嫌いにはなれない。「厄災(ヘブンズ・フォール)」で目の前で両親が死ぬのを見たけど、だからと言って火星だけを嫌えなかったんだ」

 

故に一帆は一言一句、慎重に言葉を選びながら嘘偽りのない本心を語る。

 

「だから嫌うのだとしたら……このロクでもない戦争の始まりを裏で糸を引いていたどっかの火星騎士の軍人か、それか最初に私欲で火星で皇帝なんて名乗り出した初代皇帝とか「厄災」含めて世界を巻き込むだけ巻き込んでぽっくり死んだ2代目皇帝とかだ」

「…………」

「それに……」

 

一帆は操縦席から上がり彼女の隣に立つ。気丈に、なんでもないように装う悲しくて、苦しそうな顔をしたライエの顔を見る。

 

「それに、俺はまだ()()()()()()し何時までも悪意が長続き出来るような性格でもなかったっていう至極簡単で馬鹿らしい理由があったからだよ」

 

本当に、本当に馬鹿らしいと思わないだろうか?憎しみも悪意も、一帆はただ「長続きするような性格じゃないから」とかいう実に馬鹿馬鹿しい理由で持っていないのだ。だが、一帆は憎しみや憎悪なんてものはその程度でも十分だと思う。悪意も憎悪も確かに生きる理由足り得る、一帆はそんな復讐者としての生き方を否定はしない。でも、少しだけ勿体無く感じてしまうのだその生き方が。

 

「…………」

「…………」

「……本当に、馬鹿らしいわね」

「言い返す言葉もないよ」

 

少しの沈黙の後、ライエは立ち上がってそう言う。しかしその顔は少し何処か憑き物が晴れたかのようで、呆れたような……されど少しだけ年相応の微笑みを溢していた。

 

 

*1
▶︎TKG-6B スレイプニール

地球連合軍の旧式カタフラクトであり、芦原高校にて運用されていた複座訓練機。元々日本国陸上自衛隊(日本・極東支部)の富士教導団で運用されていた機体の内の1機であり、あらかじめ複座機として練習機としての相乗りだけでなく前線において専任のレーダー員を同乗させ強力なレーダー火器管制装置を含む電子戦装備による戦闘や友軍の支援を行う構想が設計の段階で組み込まれていたため、通常の単座機と比べてやや後方にコックピットが伸び重心位置が後退することや重量化することが想定されていたことで通常のKG-6と比べてより高出力な推進器と大型化した安定翼(スタビライザー)が装備されている。

なお教導団からの直送品なだけあって一部経年劣化による多少のガタこそ来ているものの、内装やその動力部(パワーパック)は制式採用の量産機(アレイオン)と同一規格まで更新(アップグレード)されている上に新品同然まできっちりと整備はされていた。ただ第二次惑星間戦争の2週間前に芦原高校に供与されたばかりの機体であったことから陸自仕様の内装と陸上自衛隊迷彩塗装のままであり、学生用の練習機仕様(オレンジ色)ではなかったこともあって「目立たないからこれでいいや」と八朔に引っ張り出された機体。


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