ALDNOAH.ZERO -Earth At Our Backs-   作:神倉棐

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本作品を読んで頂きまして誠にありがとうございます。
自分にとって処女作となる本作品につきましては長らく未完の状態ではありましたが、突然ではありますが連載再開と現在構想中の作品の実験の為にも一度内容の修正と改善の為に一部改稿させて頂きました。
今後とも一層のご愛顧を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。


EPISODE.03/ 【戦場の少年たち -The Children's Echelon-】
3/1 「戦いの前」


 

【日本 新芦原市 国道305号線 新芦原トンネル 11月19日 16時19分】

〈Japan Sinawara city Japan National Route 305 Sinawara tunnel 1619hrs. Nov 19, 2014〉

 

 

伊奈帆達避難民が逃げ込んだ国道305号迂回路(バイパス)「新芦原トンネル」にて、

 

「取り敢えず、カズ兄に言われた通り他の人達を連れて「学校(芦原高校)」に向かおう」

 

伊奈帆は韻子とカーム、起助に向けてそう言う。なお、ソラはユキの診察をしてくれている耶賀頼先生のお手伝い中なので今この会話の中には居ない。

 

「確かに八朔会長の言った通り共同溝の(ロック)解除()されてたけど、会長の手際が良過ぎない?」

「いわれてみれば確かに……な、それになんか担架とか応急処置用の包帯とかも置いてあったし」

 

「「「……手際良過ぎない?会長(手際良過ぎだよカズ兄)」」」

 

3人の呟きがシンクロした。まるでユキが気絶するのを読んでいたかのような準備の良さに伊奈帆達は驚く。ただまあ、あらかじめ一帆の無事を知らなかった伊奈帆以外の韻子達からすれば行方不明なった昨日から一帆は何をしてたんだって所から余計に謎なのだろう。と、そこにユキの診察が終わったらしく耶賀頼先生がソラを伴って歩いて戻って来た。

 

「界塚准尉の容態についてですが、左腕を少し痛めてこそいますが命に別状は無いと思います。今は気を失っているだけですね」

「良かった……、なら担架に……」

「ソラさんともう既に乗せました。すぐにでも運べますよ」

「耶賀頼先生もなかなか手際が良いですね」

「一帆君ほどではないですよ?」

 

───ですよねー

 

耶賀頼先生の言葉に伊奈帆は苦笑いを溢すが確かにまったくな話である、返す言葉も無い。

 

「それじゃあ移動しよう。カーム、先頭を、韻子とソラ、先生は他の人の引率と怪我人がいないか確認して下さい。あとオコジョ、僕と一緒にユキ姉運ぶよ」

「分かった、手早く行こうか」

「行こう」

 

そして伊奈帆達避難民一行はカームを先頭に埃っぽい共同溝を進む、普段使われない共同溝は誰かが先に通ったらしく通路には薄っすらとだが足跡が残っていた。

 

───ま、十中八九扉のロックを外しに来たカズ兄のだろうけど

 

また少々どうでもいい話だが、あれだけ火星のカタフラクトが街で暴れ回ってたというのに流石「避難経路」兼「塹壕」として設計されていただけあって非常灯の灯った共同溝にはヒビひとつ入っていない。訓練以外で使うことになろうとはカケラも思ってもいなかったが、実際に使うこととなった現状に頭を痛めつつ、そんな事を考えながら伊奈帆は2学期頭に配られたっきり手元の学生手帳に挟まったままでいた防災マップを見ながら進んでいく。

 

「カーム、そっちじゃない。次は左折だよ、薄暗いから見えにくいけどさっきの案内に書いてあったじゃないか」

「あ、悪い」

 

地下に掘られた共同溝は途中幾つかの道に分岐しているとはいえ要らん所で方向音痴を発揮したカームに冷めた目を向けつつ、地面にペンキで書かれた「芦原高校行き」の案内通りに左に曲がる。共同溝に入っておよそ10余分ほどでようやく辿り着いた学校側の突き当りには扉があり、全体的に明らかにトンネル側よりもより強固なしっかりした構造の出入り口となっている。しかし……

 

「やっぱ流石会長、このくそ面倒くさそうな暗証番号(コード)の鍵外してやがるな」

 

カームの言葉通り電子鍵の扉は無抵抗に開く。力技(バールやら何やら)で無理矢理こじ開けた形跡もない辺り、一帆は本当に鍵の16桁の暗証番号を解読するなり入手するなりして開けたのであろうが生徒会長であるからとはいえ一介の生徒がそう簡単にどうこうできるものなのか。

 

───カズ兄が言った通りに来たけどやっぱりカズ兄って手際良過ぎない?未来でも読めてるのかな?

 

当たらずとも遠からずの推理をする伊奈帆だがその答えを知る術は今の彼には無い。ただ、今回の鍵の件であれば一帆はただただ単純に防災訓練関係と生徒会の関係上(鞠戸大尉に全部仕事を投げられたせい)で鍵の番号をあらかじめ知っていただけである。

 

「確か……正面玄関奥の所に出るんだっけか?」

「そうだったと思う。2学期頭のにあった避難訓練で使ったから」

「韻子とソラは他の人達に窓とか外から見えるところに近づかない様にって言っといて」

「分かった」

「了解だよ」

「他の怪我人の治療もありますから、階段を上ったらとりあえず保健室に行きましょう。界塚准尉も今は寝かしておいた方が良いでしょうから」

 

共同溝の出口に向かって金属製の階段を足早に上る、先を歩いているカームが学校側の扉を開けてようやく伊奈帆達は芦原高校の校舎内に入る事ができた。

 

「怪我をされている方は僕と一緒に保健室に来てください手当てします」

「それ以外の人はそうだな……食堂に向かって下さい。韻子とソラ、案内お願い」

「「ラジャ‼︎」」

「カームは職員室に行って教室とかの鍵全部回収して来て。多分カズ兄が先にやってるだろうけど確認に、全部使えるものは使おう」

「分かった、なんか犯罪ぽくってワクワクすんな!」

 

テキパキと指示を出す伊奈帆に対しワクワクするのは理解できなくもないがそれでも何故か変なテンションと化したカームに冷めた目を向けておいて、怪我や病気の無い避難民とその誘導役の韻子とソラを除いた伊奈帆達は保健室に向かう。保健室は伊奈帆達が来る少し前まで使われていたらしく、ダルマストーブは消えているものの上に乗ったヤカンからは湯気が漂っている。診療台(ベッド)のひとつのカーテンが開いているしシーツが歪んでいるので誰かがここに寝ていたのは間違いない。

 

「ついさっきまで誰かここに居たみたいですね」

「おそらくカズ兄でしょう。人が一晩明かすのにこの学校の中で最適なのは保健室ですから」

 

ともかく伊奈帆と耶賀頼先生の2人で隣の診療台(ベッド)にこの避難中の人間の中では1番の重傷者であるユキを寝かせる。取り敢えず目が覚めるまでは絶対安静、例え目が覚めても先生曰く腕を痛めているらしい彼女はしばらく戦場には立つことはできないだろう。──ところで起助もといオコジョはどうしたって?あの変態にユキ姉を触らせる訳にはいかないじゃん。今ここで男で触って良いのはかかりつけ医の先生かカズ兄くらいだし、オコジョならその辺でノックアウトされて膝抱えてんじゃないの?

 

「それでは界塚准尉が起きましたら状況の説明をしておきます。君たちはやることがあるのでしょう?」

 

耶賀頼先生は伊奈帆達に退出を促す。他にも怪我をしたり、気分を悪くしている人もいる、怪我のない伊奈帆達がここにいても出来る事など無いし、それに伊奈帆はまず()()()()()()()()()()()()()()。そして何よりこれからユキ姉を着替えさせるらしい、肉親の伊奈帆はともかく変態(起助)にいさせる訳にはいかなかった。

 

 

〈*〉

 

 

そして伊奈帆は起助に格納庫に向かうよう指示を出しつつ1度別れて今、一帆がいるであろう軍事教官室に向かっていた。武器弾薬庫とカタフラクトの練習機格納庫のカードキーもあそこに有るので一帆が伊奈帆が先に来る事を見越しているなら確実に居るだろう。

 

「カズ兄、入るよ」

 

ノックして返事が返って来てはいないが扉を開ける。案の定というか予想通りというか、やはりそこには一帆がいた。

 

「伊奈帆、俺はまだ入って良いとは言ってなかったんだがな……」

「カズ兄、そんなことよりこれからのこと。カズ兄ならこれから《すること》と《すべきこと》を何か考えてあるんでしょ?」

「……買い被り過ぎじゃないか?」

「ない、何年カズ兄と一緒に居たと思ってるのさ?」

 

伊奈帆は一帆の目を見ながらそう言う。やはり何度もいうが伊奈帆から見て「八朔一帆」という人間は、やたら悪運の強い巻き込まれ体質なのもあるが実に不可思議だが頼りになる存在なのだ。

良くも悪くも悪運が強く、歳のわりには大人びていて、成績優秀の文武両道で生徒会長な優等生でありながら問題児。意外と腹黒で色々考えてはいるが、根が善人気質なせいで考えるより先に助けに身体が動くお人好し……etc

とまあ探して数え出せばキリがない何かとチグハグな特徴の持ち主といえる一帆であるが、特にここ最近は何処か達観したかのような意見や思考(前世の経験と原作知識に基づいた未来予想)をするかと思えば、時には何かに執着した意思やこだわり(原作知識に基づいた問題回避策の思案)を見せていた一帆に、伊奈帆は薄々こうなる事態を予測して色々と悩み考えていたのではないかと考えていた。

 

「はぁ……流石は自慢の弟だ。一応だが考えてある、だが幾つか確認事項がある。それが確認できない限り駄目だ」

「確認事項?」

「まあな、と……今はそんな事より先に格納庫に行くぞ。さっきからカーム君が格納庫のクソ硬い扉をスコップか何かで殴り続けてるから止めさせないと」

「カズ兄、鍵は?」

「ほい、ここだ」

 

一帆は2枚のカードキーを伊奈帆に向け器用に手裏剣のように回転するよう投げて寄越す。それを特に驚くこともなく綺麗に2本の指(人差し指と中指)で挟むように受け止めた伊奈帆も伊奈帆だったが、そのカードが何故か一帆の胸ポケットから出てきたことに疑念の目を向けると一帆はあっけらかんに答える。

 

()()使ったんだよ。まあ格納庫の方をだけどな」

 

その確認事項についてや昨日についてもう少し聞きたかった伊奈帆だが、今はまだあまり追求されたくはないのかさっさと軍事教官室の扉に手を掛けた一帆に続いて彼もまた部屋を出る。

 

「伊奈帆、お前は鍵を開けに行け。俺は少しやる事がある、無線機は持ってるから共同回線を使えば連絡は取れるし後で会議室で全員を集めて作戦会議(ブリーフィング)をしよう」

「どこ行くの?」

「輸送車に乗っかったアレイオンまで、あと……ユキさんの所かな」

「先にユキ姉の所に行って。じゃないと僕は鍵を開けに行かない」

 

とはいえ伊奈帆もタダで一帆の独断専行を見逃すつもりはない。対価はユキのお見舞い、せめて昨日から散々に心配を掛けた上に怪我までしてしまった実の姉──しかも憎からず一帆のことを想っている──のことを思えばいくら他人の好意に鈍感な伊奈帆であれそれくらいのことは一帆がするべきだと考えていた。

 

「分かった。ユキさんの所に先に行くよ」

 

一帆は少し微笑んで伊奈帆の頭撫でる。わしゃわしゃと余り丁寧な撫で方ではないし気恥ずかしくもあるが、伊奈帆は一帆のこの撫で方が今や記憶の彼方にしかいない父の面影を思い出すようで好きだった……ただちょっとまだ子供扱いされているようで内心少し複雑でもある。

 

「ありがとう伊奈帆、じゃあ行ってくる」

「行ってらっしゃい」

 

伊奈帆は兄の背中を見る。その背中は変わらず彼がいつも目にしてきた小さくも大きい憧れた背中であり、そしてどこかそう……まるで誰にも言えない秘密を抱えた何処までも孤独(ひとり)な英雄の背中のようで。伊奈帆にはまだ自分達の伸ばした手は届かないのだと思い少し悲しく映った。


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