デート・ア・ペドー   作:ホワイト・ラム

88 / 88
さてさて、今回も投稿ですよ。
10月は逃しましたが、なんとか11月の序盤には間に合いましたかね。
今年中にあと2話位は……


邂逅Ⅱ:遥か空へ

1月9日。ペドーの通う高校、来禅高校に3学期がやってきた。

約2週間ぶりに顔を見合わせる友人同士の挨拶に新年を祝う挨拶の言葉が混じる。

 

ひさしぶりー。

 

おはよう。

 

あけおめー。

 

学校ダリ―。

 

もう1週間くらい休んでたいわー。

 

はぁー、寒、寒い……。

 

そんな、内容は無くとも温かさ差を感じさせる挨拶が交わされて僅か1時間足らす――

教室は極寒の空気を醸していた。

 

「皆さーん、明けましておめでとうございます。

去年の宿題は全部済ませましたか?

後悔の無い、一年にしましょうね~。

すこし、話題が変わりますが先生、良い事があったんですよー?

先生の高校時代の友達が、今度結婚するそうですー。

いやー、おめでたいですねー。

お相手は医者の息子で本人も外科の先生をしているみたいなんですよー

『世界で一番のドクターに成る人』って先生の友達の口癖みたいになっちゃってるんですよー、いやー、友達の結婚はすごくめでたい事ですねー」

眼の死んだタマちゃん(賞味期限切れ)が祝いの言葉を吐く。

表面上は祝っているハズなのだが、内面からはどす黒い呪いの言葉に聞こえてならない。

延々長々と呪詛の言葉を吐き出し続けたタマちゃん(賞味期限切れ)は不意に正気に戻ると何時もの笑顔を取り戻した。

残念ながら、その身に纏う負のオーラは一切衰えてはいなかったが……

 

「じゃー、皆さん。宿題の回収をしますねー。

持ってきてくださーい」

タマちゃん(賞味期限切れ)の言葉に、生徒たちがまるで刑務所の囚人の様に静かに従う。

表面張力、まさに並々とコップの水が注がれた状態での精神的拮抗。

誰かがほんの僅かでも刺激を与えると、タマちゃんの中の水があふれてしまう。

そんな感覚がクラスメイト全員の心の中を支配していた。

一人一人、皆極力刺激しない様に順番に宿題の教壇に提出しに行く。

そんな生徒の中で、ペドーが不意に――

 

「あ、先生、明けましておめでとうございます!

3学期と言えば、先生もう少しで誕生日ですよね?

忘れちゃうといけないから、今の内に言っておきますね。

誕生日おめでとうございます」

 

提出ついでの、余計な一言。

 

「ぴ!?」

ペドーのお祝いの言葉。

悪意など在りはしない本人の、心からの祝福の言の葉に教室が音を失う。

何か、脳の回路に異常を来したのか、タマちゃん(賞味期限切れ)の上げた小さな奇声がやけにクリアに聞こえた。

 

永遠にも思える一瞬の沈黙が流れ――

 

「い、五河君!?あ、ありがとうございますね!!!

けどぉ!!!まだ、まだ、先生、タンジョウビじゃ、ナイから!!

もうすこし、後で、おイワイしてくれれれれれれるかナ?」

壊れた。タマちゃん(賞味期限切れ)が壊れた。

 

「あれ?俺またなにか、やっちゃいました?」

 

「うわぁああああん!!!!私の次の誕生日来る前に、地球滅べー!!!」

 

――っドォん!!

 

タマちゃん(賞味期限切れ)の声と共に、凄まじい揺れと衝撃波が校舎を襲う。

 

「え、なになになに!?

悪しき願いが神様に届いてしまったのか!?

ラグナロク始めましたなのか!?」

空間震ともウィザード達の攻撃とも違う、揺れにペドーが混乱する。

 

教室の内外からも混乱の声が聞こえる。

さっきまで騒いでいた、タマちゃん(賞味期限切れ)本人はこの衝撃で気絶してしまっている。

一体誰が言いだしたのか、隕石、隕石と声がし始める。

確認してみると、確かに校庭のド真ん中にクレーターが出来上がっていた。

 

「まじか……」

目の前で起きた信じがたい出来事に、ペドーが冷や汗を流す。

こんな、奇跡起きるハズが無い。

これはつまり――

 

案の定というべきか。

ポケットの携帯が琴里からの着信を知らせ、ペドーが無言でインカムを付ける。

 

『ペドー、精霊よ。新たな精霊が現れたわ』

 

「知ってるよ、琴里。

タマちゃん(賞味期限切れ)が精霊だったんだろ!?」

 

『いや、違うけど?』

 

「っはぁ~~~まじ?今年始まって一番安心したわ……」

ペドーが深く、深くため息を着いた。

 

 

 

 

 

「いや~新年早々に隕石が落ちて休校になるとか、マジ意味わかんないよな?」

隕石騒動から約30分後、ペドーは〈フラクシナス〉の車に揺られていた。

 

「非常に貴重な体験」

隣に座る折紙が呟く。

彼女にも精霊出現の一報は届いており、というよりも半場、勘ついてはいたのだが。

 

「したいかしたくないかで言えば、したいより?」

 

「私とシたい?意外と積極的」

二人の何時ものじゃれ合いを得て、二人がビルの前に降りる。

 

「じゃーな、折紙また後でなー」

 

「了解した」

ペドーがビルの地下へ歩を進める。

タイルを踏み体重チェック、扉ののぞき穴に見立てた網膜チェック。

 

「おっすオラ、ペドー!ムラムラすっぞ!」

 

ピピーッ

 

『音声認識確認』

 

ガチャ

 

機械音を聞いたペドーがドアノブに手を掛けた。

 

ピピーッ

 

『指紋認証確認』

 

「コレ、トイレ我慢してる時、不便だよなー」

くだらない呟きをしながら〈フラクシナス〉の緊急時地下作戦室にペドーがはいっていく。

 

「よく来たわね、ペドー」

既にその中央の椅子の上で琴里がチュッパチョップス片手に、ペドーを待っていた。

 

「さっそくだけど見てくれないかしら?」

琴里が背後のモニターを親指で指さす

 

「どれどれ……」

ペドーが琴里のスカートの前にしゃがみ――

 

「モニターよ!!バカ!!」

琴里の蹴りがペドーの顎にフルスイングされる。

 

「主語言えよ、主語ぉ」

それをペドーが華麗に回避する。

残念ながら、パンツは見えなかった。

 

「~~~っ!!説明を始めるは、今から約38分前。

この地球に計48発の『攻撃』が有ったわ。

場所はまぁ、言ってしまえば『世界中』。

ぼほ同時タイミングで隕石がASTやDEM社の拠点に打ち込まれたわ」

 

「おいおい、48個の隕石?一発じゃ無かったのかよ……」

ペドーが戦慄した。

町を破壊する精霊たちは何度も見て来た、だが隕石を落とすとは今までとは明らかにスケールが違う。

 

「で、世界中を攻撃した『精霊』はドコにいるんだよ?」

 

「上よ」

 

「うえ?」

琴里が空を指さした。

 

「隕石の攻撃ルートを計算した結果が、コレ」

パチンと指を鳴らすと共に、メインモニターの画面が切り替わる。

 

黒い空に瞬く星々、そして無残に散らかされた何かの機械のパーツ、その破片にペドーは僅かに既視感を覚えた。

 

「DEM社のバンダースナッチか?」

その事に気が付いた瞬間、ペドーの脳裏に瞬発的にイメージが連鎖的に繋がる。

 

「そうか、ウェすちゃまの野郎が精霊の場所を調べて、バンダースナッチを送り込んだのか。

そんで、速攻で失敗して逆に『精霊』を怒らせたって事だな。

行動力のある変態は何をするか分からんから、マジ困るぜ。

普通、精霊に会いに宇宙まで行くか?」

ペドーが納得しながらも、うんうん唸る。

 

「精霊、姿出ます!」

クルーの言葉通り、大量の残骸が突如開いた『穴』に吸い込まれて消える。

そしてきれいさっぱり残骸の無くなった宇宙の『ソレ』はいた。

黒と白の宇宙を彩る様に大量の金糸の髪が豊かにたなびいていた、そしてくるりとその子はこちらを見た。

身に纏う星座の様な物が描かれたドレス、手にする鍵の様な形の錫杖。

そして、()()()()()()()

 

「イェス!!イェェス!!いぇえああああああ!!!

琴里!!宇宙!!宇宙行こうぜ!!宇宙幼女に会いに宇宙行こ!!」

その場でペドーが激しく興奮する。

先ほどのウェすちゃまへの批判も何のその、ペドーは既に画面に映る幼女精霊にしか興味が無い様だった。

 

「「「「「…………」」」」」

琴里を含め、メンバーが何時ものペドーの発作を見守る。

最早見慣れた光景、何時もの日常。

なにも可笑しくない。

 

「や、やる気をだしてくれたみたいで嬉しいわね……

分かってる事はあの『鍵』みたいなので、ブラックホールみたいな空間を『開ける』能力ね。多分、あの残骸を能力で地球に送り込んだのよ。

データベースにも無い精霊だから、便宜上〈ゾディアック〉って私たちは呼んでるわ」

琴里が苦笑いを浮かべ若干早口で精霊の情報を伝える。

 

「いぇぇ――アレ?」

突如、ペドーの動きが止まる。

先ほどまで、あれほど荒ぶっていたペドーの豹変に皆が気が付く。

 

「あれ、あれ、あれれ?」

画面の向う、宇宙を漂う〈ゾディアック〉。

大量の髪が広がり、画像が引きで全体像が見えた時ペドーが固まる。

 

鮮やかな黄金色の長い髪――Good(良い)

 

薄桃色の星座の踊る中華風ドレス――Good(良い)

 

少し眠そうに見えるロリフェイス――Very good!!(すっげー好き)

 

だが、その胸部。

ドレスを持ち上げる巨大な二つの存在が多大な自己主張をしていた。

 

「う、うわぁああああああああ!!!」

ペドーが頭を抱え、その場でうずくまる!!

 

 

 

大気圏外よりもたらされた『ロリ巨乳』が引き起こした『宇宙堕肉(スカイウォール)』の惨劇から10秒!!

ペドーの脳内は『ロリならOK(東都)』『巨乳は無理(西都)』『人格次第じゃね?(北都)』に別れ、混迷を極めていた――!

 

 

 

「えっと……ペドー君、大丈夫ですか?」

一体何時から居たのか、神無月が心配そうにこちらを覗きこんでいた。

そしてその手にはヘッドギアの様な物を持っていた。

 

「い、いや、大丈夫です……一応保留ではありますが、ともかく前向きに検討という事で脳内会議は決定しましたから……」

良いとも言えない。しかし、駄目とも言えない。

そんなアンビバレンツな状況にペドーは酷く困惑していた。

 

「何を迷ってるかは知らないけど、とりあえず指を加えているだけじゃ始まらないわ。

第一に接触を持つことね」

琴里がチュッパチョップスの棒をピンと立たせる。

 

「精霊との接触に今回はコレを使います」

神無月がそう言いながら、さっきから手に持っていた機械を見せる。

 

「VRゴーグルですか?」

 

「確かに似ているかもしれないですが、ちょっと違います。

これを使ってペドー君の視界のこの映像を撮っているカメラとリンクさせます」

 

「あ、そっか……映像が有るって事はコレを撮ってる機械が有るって事ですよね?」

今更だが相手は宇宙の映像だ。超望遠レンズか何かで撮っていると言う訳ではないらしい。

 

「こうなる事を予測して、小型のリアライアを積んだカメラを近辺の宙域に送り込んでいたのよ」

 

「へぇ、宇宙って意外と簡単に行けるんだ……」

当たり前の様にやって見せる〈フラクシナス〉にペドーが声を漏らした。

 

「ではとりあえず……」

ペドーの頭に機械を乗せた、神無月が合図を送ると他のメンバーたちがコンソールを操作する。

 

トウエイ!!

 

妙にテンションの高い音声の後、ペドーの目の前にもう一人のペドーが映し出された。

 

「うぉ、すっげー」

 

『うぉ、すっげー』

一瞬遅れてのもう一人のペドーが声を発する。

 

「いえーい!やっほー」

 

『いえーい!やっほー』

 

「俺はもう、鏡の中の虚像なんかじゃない」

 

『俺はもう、鏡の中の虚像なんかじゃない』

 

「あそぶな!!うっとおしい!!」

調子に乗り出したペドーを琴里が叱り飛ばす。

 

「なるほど、このトウエイ!装置で、宇宙の精霊に声をかけるって事ですよね!

あれ、けど宇宙って空気が振動しないから音とか無いんじゃ――」

 

「五月蝿いわね!精霊のいる宇宙ではあるのよ!

呼吸するのに必要でしょうが、穴から空気だけ送ってるのよ!」

ペドーの指摘に琴里が乱暴に声を荒げる。

そのようすから、ペドーはこの話題はあまりつついてはいけないと理解した。

 

「話が一向に進まないから、急ぐわよ。

あの〈精霊〉がこれ以上何かをしないとは限らないんだから」

琴里の言葉に、メンバーが再度機械を操作し始める。

 

「ペドー君、これを。

映像のペドー君とほぼ同じ位置にいるドローンのカメラと視界を共有できるVRゴーグルです。

さっきの奴と合わせれば、まるで実際に会ってるかの様な形になります」

 

「ありがとうございます。神無月さん。

俺、行ってきます」

ゴーグルをかけたペドーの視界に飛び込んできたのは星々の瞬き。

 

「手元のリモコンで、カメラの位置を操作できます」

神無月の言葉に促されペドーが動かしてみると青く浮かぶ水の惑星が遥か眼下に見えた。

 

「すっげ……地球だ……本物は初めて見た……」

若干矛盾した表現と分かりつつも感嘆の声を漏らす。

そして背後に広がるのは無限の闇と光の世界。

 

「スッゲ!!宇宙だ!!リアル宇宙!!初めてきた!!

テンション上がるなー、まるでテーマパークに来たみたいだぜ!!」

実際には投影されてるだけなので、ペドーは宇宙には行っていないがテンションを上げるなという方が無理であろうことは想像に難くないだろう。

 

「ちょっと、目的忘れてないでしょうね?」

小さ指揮官様にせっつかれ、再度ペドーがカメラを動かす。

そして見つけた。

 

宇宙に浮かぶ、一人の少女――

 

「よ!」

 

「…………」

その少女がペドーの存在を認知した瞬間――!

 

シュッバッ!!

 

一条の光線がペドーの頭の有った場所を貫いた。

 

「ファッツ!?初手でヘッドショット!?マジか!!殺意クッソ高けぇ!!」

映像のペドーは当然、ダメージなど入りはしない。

だが、反射的に身を構えてしまうのはどうしようも無い。

 

余談だが、ヘッドショットされたペドーを見て琴里が小さくガッツポーズするのを神無月は見逃さなかった。

 

「いきなりDEM社に攻撃されたから、気が立ってるのよ。

まずは此方に敵意が無い事を証め――――あああああああああ!!!!

なんで、脱いでるのよ!!なんで、自分の下着に手を掛けてるのよ!!!」

 

「ふっ、敵意が無い事をを証明するには、まずはコレだろ」

手早く服を脱ぎ始めたペドーが琴里に言い返す。

その姿は上はシャツで下はズボンが半脱ぎという変態スタイルだった。

 

ロリコン・イン・ザ・スペース!!

 

『落ち着いてくれ、君を攻撃する意思は無いんだ』

コンソールに映ったペドーが精霊に向けて半脱ぎのままキメ顔をする。

そして、それを見た精霊は――

 

『ムチャクチャ攻撃してくるやん……』

立体のペドーの胸や首、顔面など明らかに致命傷になる位置を狙って金属片を飛ばしてくる。

まぁ、服装的に仕方ない。

むしろ当然の行為である。

 

「ペドー、変質者のままじゃ話てもらえる訳ないじゃない。

そろそろ学習しなさいよね。

全くあなたは!ちょっと、幼い系の子をみるとすぐに脱ぎだすんだから。

そのアクションを取って基本物事が好転しない事は分かってるでしょ?」

 

「……はい、反省します」

久々のガチ説教にペドーがシュンと項垂れる。

脱ぎ捨てた服を着なおしてその場で正座して反省を示す。

なお、いまだに映像は宇宙に飛ばされており、精霊の目の前ではシュンとしたペドーが宇宙空間で正座するという非常にシュールな絵が流れている。

 

「えっと……そろそろ、話聞いてくれない?」

次に精霊に話しかけた時、ペドーの股間を重点的に焼いていた極太ビームが消える。

 

「不思議じゃ、ヌシはなぜ死なぬのじゃ?」

眠そうな眼をペドーに向けて、初めて攻撃以外のリアクションを取る。

 

「うっほ、のじゃロリ!!」

 

「…………」

精霊がペドーの首を掴む。

 

ゴギッ(首の折れる音)

 

「死なぬなぁ……」

精霊は目の前の摩訶不思議な生物を眺めて改めて呟いた。




宇宙って声しないらしいですね。
びっくりです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。