デート・ア・ペドー   作:ホワイト・ラム

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約4か月……遅れてしまいました。
長い間、放置にも関わらず、励ましのお言葉、ありがとうございます。
読者の皆様には大変ご迷惑をお掛けしています。
すいませんでした!


ペドマン!

「まったく……何なのよ、もうぉー」

自室のベッドの上、二亜が唇を尖らせ手にしていた漫画を閉じる。

数秒の後、再度漫画を手に取り開いてはまた数秒して閉じて、虚空に独り言を投げる。

アキバから帰って以来、二亜はその不毛なサイクルを繰り返している。

 

思い出すのは、さっきまで一緒だったペドー少年。

自身の霊力を封印する為の作戦を取るのは構わない。

寧ろ二亜が自身で望んだ面すらある。

だが、その手段が頂けなかった!

 

「安易な実写化はダメでしょ!ダメ!!」

脳裏に数々のズッコケ実写化映画が浮かんでいく。

 

「芸人を出すな、オリキャラを出すな、設定を改変するな……」

恨み言の様につぶやくが、あのペドー自身の事は嫌いではない。

 

「はぁー、流石にこれは大人げなかったよなぁ」

実写化への怒り、ペドーへの好感がないまぜになってせっかくの漫画に集中できない。

その時――

 

ぴんぽーん

 

「ちわーす、アルファオメガ宅配社でーす」

 

「んあ?……郵便?

なんか頼んだっけ?」

郵便屋の名前を聞いて、二亜がゆっくりと起き上がる。

 

「どうもー、サインお願いしますー」

 

「あー、どうも……ここ、ですね……」

 

「ありあとやしたー」

二亜からサインを受け取り、てきぱきと仕事をこなし、郵便配達員は荷物を渡して帰っていく。

二亜の手に残ったのは、片手で持てるくらいの小さな包み。

 

「なんだろ、コレ?」

 

 

 

 

 

フラクシナス内部にて――

 

「そーれ!みっずぎ!エープロン!みっずぎ!エープロン!」

ペドーが右手にエプロン、左手に水着を装備し琴里の周囲を練り歩く。

事の始まりは、琴里の提案した『アニメキャラコスプレ作戦』。

ペドーを含む他のメンバーからの、無謀という声を無視した結果、事態は二亜を怒らせるという最悪の結果へと進んでしまった。

 

だが、問題はそこじゃない。少なくともペドーにとっては……

 

「作戦が失敗したら、二亜攻略まで水着エプロンの約束だよなぁ?

お兄ちゃん、しっかり聞きましたからね!!」

凄まじくうれしそうな顔をして、デート帰りに買ってきた2着を持ってペドーが決め顔をする。

 

「ま、まだよ……まだ、私の作戦は終わってないわ!!」

琴里がペドーを跳ね除け、勢いよく椅子から立ち上がる。

 

「こんな事も有ろうかと、もう一つのとっておきの作戦を進行中なんだから!」

 

「こういう場合、ロクな結果になった事は無いけど、とりあえず驚いておくか。

ナ、ナンダッテー!?お兄ちゃんびっくりんこー」

 

「…………」

琴里はペドーの視線を受けながら、露骨に視線をそらした。

 

 

 

 

 

「ふむふむ……この度、新作ゲームの体験版をお送りさせていただきます?」

二亜は送られてきた荷物に入っていたカラフルな髪形の少年達の踊る箱と、それに付属していた手紙を確認する。

 

「ほへぇ~、こんな事ってあるんだ!」

通常なら怪しくて仕方ない展開だが、二亜はそんなこと気にせずワクワクさせてディスクを取り出しパソコンに読み込ませる。

 

『恋してマイリトルペドー ~逮捕寸前72時間~編!』

パソコンから、そこそこイケボな声が聞こえ、二亜の期待は否応に高まる。

オープニングが始まり、様々なキャラがボイス付きで紹介されていく。

 

「名前は物騒だけど、キャラはイケメンだし良いんじゃない?

ああ~イケメン成分が補充されていく、イケメンがホイホイ惚れてくれる世界はすばらしいわぁ~」

ゲームを起動させ、名前入力で手早く自身の名前カタカナ入力で打ち込み、カチカチとマウスをクリックしていく。

 

「ほほぉ。デフォネームは無しで入力タイプか……」

 

『よっ!ニア。ようやく退屈な授業の終わりだな!

今日は散々だったぜ。どの先生もどの先生もみんな俺を授業で当てるんだからよ。

「藤道 五樹」って今日だけで、10回くらい聞いた気がするぜ。

こんな日はぱーっと、どっかへ遊びに行かないか?』

 

「ほほぉ、コレが体験版の攻略対象ですか……

今の所、オーソドックスな恋愛ゲームタイプですが、名前の合成がすさまじく滑らか!

技術って、すごいスピードで進化するのねぇ……え”!?」

しみじみとした瞬間、二亜の動きが再度止まった。

 

「マジで?」

画面に広がるのは「何処に行く?」というメッセージウィンドウ。

そして、その先を自由に書き込める空白欄。

()()()()()()()()空白欄。

 

「マジか、マジだ、マジで?

フツー、選択肢から選べません?

え、え?自由に選べるの?何処でもOKとかそんなゴッド仕様じゃないでしょ?」

二亜が腕を組んで考える。

 

「もう、適当に『大阪ナニーワたこ焼きランド』とか『北海道ビゲストパーク』とか『名古屋エビふりゃー味噌ダレ城』とか打ち込んでやろうか?!」

遊び心が疼き、アリもしない適当な観光地っぽい名前を考える。

だが――

 

『お、アキバかー。ニアも好きだなー』

選ばれたのはアキバでした。

 

「やっちまったー!!数時間前に行ってきたばっかりですー!!

あー、結局何時もの場所に落ち着くオタクの悲しきサガ!!」

二亜が自身の頭を押え、じたばたする。

その後急に真顔になって立ち上がる。

 

「ふぅー……まさか自由に選べるとか。

産業革命ってレベルじゃねーよ。

これは真剣に、やらなくては……」

使命感に燃える顔をした二亜が立ち上がる。

一部のオタクにありがちな、ゲームに対して真剣になる現象である。

 

そして二亜が居なくなった画面の向うで五樹が――

 

『ふぅー、疲れ……あ、ヤベ!』

独り言を言った。

 

 

 

 

 

「ちょっと、しくじったらどうするのよ!」

ペドーの背後から琴里の怒声が響く。

フラクシナス内部にある巨大モニターに浮かぶのは、二亜の部屋の映像。

 

「いや、つい緊張しちゃって……」

ペドーがマイクを切ったのを確認して琴里に向き直る。

 

「私の一発逆転の作戦、台無しにしたら許さないんだからね!」

そう、二亜に送り付けられたゲームは〈ラタトスク〉謹製のゲーム。

パソコン画面を通じ、リアルタイムで二亜がプレイするゲームとフラクシナスがリンクし、作中のキャラクターとしてペドーが声を付けているのだ。

 

「3次元に惚れられないなら、ペドーを2次元化させればいいのよ!

そう、二亜が恋したのは少し形をかえたペドー!

これなら絶対に成功するわ!現に好感度も変化しているし、封印まであと少しよ!」

 

「失敗したら、水着エプロンだもんな~

この季節には厳しい恰好……はっ!?

マイクロビキニに前のボタンを閉じないモコモココートもアリかもしれない!

ビキニを着た裸体がコートの熱でしっとり汗をかいて……むわっとコートから琴里の汗の香りが……

アリかもしれない!!」

 

「絶対にゲームで口走るんじゃないわよ……」

始まったペドーの妄想にドン引きしながら、琴里がようやく言葉を紡いだ。

その時、画面外から二亜が戻って来た。

 

 

 

『さーて、いっちょ本格的にやりますか。

このクオリティ、舐めて掛かる訳にはいきませんねぇ……

所で、正式発売はいつなんだろ?』

二亜が虚空から自身の〈天使〉囁告篇帙(ラジエル)を呼び出した。

 

「あ”」「あっ」「あ……」

クルーの声から次々に落胆の声がする。

そして最後に――

 

『あーあ、やっちまった』

画面の五樹が声を漏らした。

 

 

 

 

 

「どんだけ人の純情を弄べば気が済むのよ!!」

ドンと音を立て、二亜がパソコンの開いてあるデスクを殴りつける。

その怒りの目はしっかりと画面向うの、こちらを認知していた。

 

「攻略の為とは言え勝手にカメラ飛ばさないでくれます!?

ニンゲンとしてあり得ないでしょ!!

アンタらの組織、おかしいわよ!!今回だけは我慢してあげるけど、今度やったら接待許さないからね!!

あと、ゲームをしっかり完成させて送りなさいよね!!」

二亜はまくしたてる様に言い放つと、パソコンの電源を切った。

残ったのは、クルーたちの沈黙とペドーの

 

「マイクロビキニコートか水着エプロンか……どうする?」

という問いかけだけだった。

 

 

 

 

 

「みんな……大変な事態になったわ」

五河のリビングで琴里が重々しい空気で尋ねる。

集まったのはペドーと、彼が今まで攻略した精霊たち。

 

「全員呼んだんだけど、何人か居ないわね?

十香はきなこの禁断症状が起きたみたいだから、呼んでないわ」

此処にいない精霊の一人である十香の事を琴里がつぶやく。

 

「あの風の二人なら、無限耐久鬼ごっこ対決とかで疲労と筋肉痛で倒れて動けないって。

たったあれだけなのに、情けないな~」

シェリが手を上げ八舞の二人について言及する。

 

「ッ~~~~あの二人は……!」

 

「美九はアイドルのツアーで来れないってさ」

ペドーが携帯を見ながら告げる。

 

「けっきょくいつものめんばー、ですのね」

くるみが椅子に座り、足をブラブラさせながら話す。

 

「そうなる」

今まで口を閉ざしてた折紙つぶやく。

 

「……まぁいいわ。いないモノはどうしようもないもの。

改めて作戦会議を――へっぷち!!」

琴里がくしゃみをする。

 

「エアコンの温度上げるか?」

ペドーがリモコンを手にして、手早く操作する。

 

「アンタのせいでしょうか!!」

ドンと机に拳を振り下ろし、琴里が立ち上がる。

その恰好は、水着にエプロンという、日常を送るには不便すぎる恰好だった。

 

「っていうか、なんでみんな何も言わないのよ!?おかしいでしょ!!」

琴里が周囲のメンバーに声をかけるが、皆視線をすぐさま逸らす。

 

『いやぁ~、琴里ちゃんの趣味に口出すのも悪いかなって~』

四糸乃の腕に装着されたよしのんがパクパクと口を動かす。

 

「私が!!趣味でこんな格好な訳無いでしょ!!

ペドーよ!!ペドーのせいよ!!」

 

「まぁ、そんな気もしてた」

 

「うんうん」「うんうんですわ」

シェリの言葉に七罪、くるみが同意する。

 

『あやっぱりぃ?うすうすよしのんもそう思ってたんだよねー』

遂にはよしのんまでもが、同意する。

 

「詰まるトコいつも通りって事だな。

よし、作戦会議を続けるぞ」

ペドーが仕切り直しをし、琴里が何か言いたそうな顔をするが大人しく椅子に座る。

 

「ペドーさんは、二亜さんのこと……嫌いじゃないんですよね?

なら、ゆっくり時間をかけてお友達から始めれば……」

 

『ペドー君との相性は悪くないんでしょー?』

 

「うーん、二人の意見は最もなんだけど、DEM社がいつまた先生を捕まえるか分からないんだよな?

ならば、なるべく早めに攻略しておきたいんだよ」

二人の質問にペドーが答える。

 

「あら、珍しく前向きじゃない」

琴里が飴の棒を立たせながら、口を挟む。

 

「ふん、そうだろ?決して先生の新作が楽しみだから、DEMに奪われる訳にはいかないとか、そういう訳じゃないんだからね!」

その言葉に、全員が「あ、やっぱり」という顔をした。

 

「さて、問題は山積みだけど、攻略の切っ掛けが無い訳じゃないわ」

琴里の言葉に、全員が注目する。

 

「ペドーをゲームキャラを演じさせる作戦だけど、データ上で見れば好感度は確実に上がっていたわ」

 

「結局バレたけどな?」

 

「失敗はどうでも良いのよ。この話の肝は――」

 

「2次元の投影された、ペドーなら問題ないという事?」

琴里の言わんとする事に、折紙が先んじて気が付いた様だ。

 

「にじげんに、とーえー、ですの?」

よく分からないと言ったように、くるみが聞き返す。

 

「ペドーのゲーム化は失敗ならば、もっと手軽な映像媒体を使うのよ」

 

「それって、つまり……ペドーを漫画かなんかにするって事?」

七罪がおどおどしながら、答える。

 

「そうよ!ペドー漫画化計画よ!」

パチンと琴里が手を叩く。

 

「おおー、ゲーム化の次は漫画化かぁ。

順序普通は逆なんだけどな!」

 

「今までのペドーの雄姿を漫画にして、二亜に読んでもらうわ!

そして、キャラクターとして紹介され事で、実際のペドーを好きになって貰うのよ!」

琴里の作戦に全員の顔が一気に明るくなる。

 

「なら、ボクたちとの出会いの話とかを……とかを……を?を?」

興奮のあまり立ち上がった、シェリがすぐさま顔を曇らせる。

 

「マンガにした場合、コイツは魅力的か?」

シェリの言葉に、ペドー以外の全員が頬を引きつらせる。

 

『ペドー君との出会いは、雨の中で……全裸ブリッジしてるトコだったよ?』

よしのんの言葉に、事情を知らない組が一斉に戦慄する。

 

「わたしのばあいは、でーとでしたわ。したぎをかうって、あやしいおみせにつれていかれましたわ」

くるみが顔を赤くしながら、もじもじと答える。

 

「ボクの場合は嵐の中でいきなりナンパしてきて、雨でぬれる体を舐める様に見られたかな……」

シェリまでもが、所在なさげに視線を泳がす。

 

「わ、私の場合は、本当の姿を見た瞬間、態度を変えて来たっていうか……まぁ、その、いろいろあったし……」

七罪は後ろめたいのか、ばつの悪そうに話す。

 

「ああ、懐かしいなぁ……どれもこれも素敵な思い出だな!」

肝心のペドーは悪びれる様もなく言い放った。

 

「現段階のストーリーを統合した結果、予測されるのは変態の変態行為を集めた作品になる」

折紙が冷徹に言い放つ。

 

「お、いいやん!」

 

「ンなモノ、漫画に出来るか!!

変態の奇行集めた本で、攻略出来るかぁああああああああ!!!!」

琴里が頭を押さえて叫びだした。




今までを振り返ると、良く攻略出来たよなコイツ……

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