あと1、2回ほどで、七罪編も終わりですかね?
「だ、大丈夫……よね?おかしくないわよね?」
謎の施設の廊下の一角、赤いツインテールの少女、琴里が不安そうな足取りで歩く。
急にハッとしかと思えば、ボタンを一個むしり、一瞬の内にそれをチュッパタップスに変え、咥える。
そう、何時も琴里が口にしていた物だ。
「ええと……」
そう、この怯えた不安げな琴里は実は本物の琴里ではない。
彼女は七罪が姿を変えた存在だったのだ。
思い出す事数分前。
「どうしても気になるなら、直接本音を聞けばいいんじゃないかな?
天使使って、化ければ一発だぜ!」
制御不能系ロリコンこと、ペドーが七罪にそう教える。
それどころか、ここ数日七罪を監禁していた部屋の扉まで開けてしまった。
そして、トドメとばかりにペドーは懐から、琴里の写真を取り出した。
「あ、七罪。コイツ俺の妹の琴里。中途半端にかわいくて、男子に対してそっけないくせに、ツインテールとかいうあざとい髪形をしているから、女子に超不人気で友達いなんだよね。良かったら友達になってくれない?」
「は?絶対嫌だけど?」
「だよねー。なら仕方ない。姿だけ無断で借りな?」
と言って、化ける様の写真までくれたのだ。
七罪は手の中に残った、明らかに盗撮したであろう写真をみて何とも言えない苦い顔をした。
「あ、司令、フラクシナスに帰ったはずでは?」
「ひぃあ!?」
突如後ろからかけられる声に、七罪が飛び上がる。
相手はフラクシナスの職員であり、不思議そうに琴里に化けた七罪の顔を覗き見た。
「あ、ちょーっと、ペド野郎に話す事が有って……」
「そうですか、例の七罪ってこの霊力の封印、上手くいくといいですね」
『封印』の単語を聞いて七罪が再度驚く。そう言えば、あのロリコンが言っていたが正確な意味までは聞いていなかった。
だが、今はそれよりも大切な事がある。
「え、ええ……そうね。十香たちを探してるんだけど……
どこにいるか分かる?」
「それなら向こうの休憩室に……あ!残念ですけど、十香ちゃんは『粉がきれた』って言って痙攣したので、地上に返しましたよ」
「そ、そう……ありがと」
一体どんな粉なのかと、七罪は聞きたいと思ったが、どう考えても危険な粉だろうと判断してこれ以上聞くのをやめた。
(このまま、私くすり漬けにされないかしら?)
七罪の脳裏に、探索よりも先に逃げるべきだという意見が湧くが、それより先に件の休憩スペースに出るのが早かったようだった。
廊下の先の空間が広がると同時に、椅子やテーブル、自販機の置かれた場所にでた。
そして、そこにいた3人の幼女たちが同時に、七罪(琴里)を見る。
「ぷはぁ!ペド野郎の相手はほんとうに疲れるよ……」
炭酸飲料を飲み干した褐色肌のボーイッシュ幼女が口を腕でふく。
「ふぅ、やさいせいぶんがほきゅうされますわね……」
ゴスロリ幼女が野菜ジュースを飲み、もう一人はパペット片手にフローズンドリンクを飲んでいる様だった。
『あんれぇ?琴里ちゃんも休憩?ジュースのむ?
今なら、よしのんの幻の左で押してあげるよぉ?』
ウサギをイメージさせるパペットがしゅっしゅと、シャドーボクシングをし始める。
その瞬間、穏やかな空気を纏っていた3人に剣呑な空気が走った!!
「よしのん……それは、ダメ……」
「そうですわ!のこまえぺどーさんにくらわせたら、きりもみかいてんしながらいえのかべにめりこんだのをわすれたんですの?」
「そうだぞー!ボクを助ける為とは言え、走ってきたトラックを全壊させるのはダメって言っただろ?
あのあと、すごい大変だったって言われたじゃないか!」
「あ、え?『幻の左』殺意高すぎじゃない?」
七罪の目の前で、いまだにシャドーボクシングをやめないよしのんをみる。
だたのぬいぐるみなのだろうが、その目にはどこか狂気にも近い物が宿っている様な気がしてくる。
七罪の中に様々な疑問が浮かんでは消えるが、そこはぐっとこらえてどうしても聞きたい疑問を口にだした。
「ねぇ、みんなあの七罪っていう精霊どう思う?なんだかさ、気持ち悪くない?
美人に化けて、自分を偽ってさ。
そのくせ、少しおだてたら調子に乗って……ほんっと、勘違いブスってむかつくよね?」
聞きたいのは、自身への罵詈雑言を持った本性。
七罪の前では何のない様にふるまっているだろうが、きっと心の中ではこちらをひどく馬鹿にしているに違いない。
自身の口で、悪口の火ぶたは切った。ここからは此奴らが自身の心の中の醜い部分を――
「なにをいってるんですの?こうりゃくがうまくいかなくて、いらいらするのはわかりますけど、そんなこといっちゃだめですわ!」
「そうだぞ?第一この前、あったばっかりの奴だし、お互い良く知らないじゃないか」
『けどー、服を選ぶのは楽しかったよねぇ』
「とっても、にあってました……」
「あー、ペド野郎が変な服着せようとして、止めるのやばかったけどな」
3人とパペットは悪口など言わず談笑を続ける。
それは、七罪が想像していた内容とは、180度異なる物で……
「うそよ……こんなの、嘘よ!!
あのペド野郎は私をハメようとしてるだけよ!!」
凝りに凝り固まった『
だから、七罪はそこから逃げ出す事を選択した。
琴里が何も言わずに、七罪の部屋へ帰ってくる。
その様子をベッドの中で暴れまわっているペドーが気が付く。
「うっす!七罪。どうだ、みんなの様子は?
姿を変えて本音を聞きだせ……あれ?」
その時、ペドーが目の前の琴里がプルプルと震えている事に気が付く。
そして一瞬遅れて、更に重要な事を理解する。
「あ、やっべぇ……
「ねぇ?ちょーっと、聞きたいことが有るんだけど、いいかしら?
しまったな。と思った時には琴里の怒りが落ちていた。
「で?私たちの本音を調べるのは、まぁ1万歩譲って作戦としましょうか?
けどねぇ!!私に化けた七罪が他の誰かに化けて、逃げる可能性は考えなかったのかしら?」
お怒りの司令官。だがペドーは自信ありげだ。
「ふん!この俺が策を講じない訳ないだろ?
七罪のにおいは覚えた!!すぐに追えるぜ!!」
そう言いながらペドーは廊下に出て、床のにおいをかぎ始めた。
「くんくん……こっちだな……」
「出来る訳ないでしょ!!」
においをかぐペドーを思いっきり琴里は蹴飛ばした。
「くそぉ……今回はしくじったな……」
家路につきながらペドーが、胸ポケットからチュッパタップスを取り出す。
結局あの後、廊下を七罪のにおいを追ったが手に入れたのは、琴里の落としたと思われるアメのみ。
琴里の心配を他所に、ペドーの臭いで七罪を追跡する作戦はうまくいっていたのだ。
だが……
「あーあ、休憩室でにおいがシャッフルされるのは予想外だったぁ!!
あの時、3人が大人しく足の裏の臭い(匂いではない)をかがせてくれればっ!!」
たどり着いたのは七罪も行ったと思われる休憩室。
そこでは四糸乃、くるみ、シェリの3人がくつろいでおり、においが判別できなくなってしまったのだ。
『みんな!!七罪を、七罪を見つける為に、足の臭いを嗅がせてくれ!!』
「いやです」「いやですわ」「ゼッタイにイヤだ!!」
仕方ないと、覚悟を決めたペドーは3人の土下座を慣行した。だが3人からの反応は薄く……
あっさりと、協力を拒まれてしまったのだ。
「ま、しかたないか……けど、においは覚えたから、近づけば……」
ぶつぶつと失敗のリカバリーを考えつつ、『どうすれば』よかったとか『ああすれば』なんて今さら意味のない後悔が脳裏を駆けていく。
そんな折、ペドーが自身の顔を平手でバシバシと叩く。
「うっし!考えるのは一先ず終わりだ。
まずは、リフレッシュして次の作戦を考える!!
下手な考え休みに似たり。だ!」
何処かで聞いた、意味があっているか分からない諺を使って半場無理やり自分を納得させる。
「ただいまー」
自身の家を扉を開けて、家の中へ入ってくる。
そう、止まってはいけない。常に前に進み続ける。
それがペドーに出した答えだ。
気持ちを新たに、新しい一歩を。そう思いペドーがリビングのドアを開けると――
「え?」
「失礼。お邪魔していますよ?」
リビングには先客がいた。
ブルーの瞳に、プラチナブロンドなヘアー。
それは間違いなく、うぇすちゃまのエレンママだった!!
「エレンママ!?どうしてここに!!」
「なぜって、我々が貴方の家を知らない訳――きゃぁああああああ!!!」
こちらを振り返ったエレンが急に大声を上げる!!
その瞬間、エレンの持つリアライザの効力が発揮され、ペドーの体が動かなくなる。
「イツカ・ペドー!?なぜ、ズボンと下着を履いていないんですか!?」
「え?いや、ちょっとムラムラしたから……誰も居ない内にって……」
ちょっとバツが悪そうに、ペドーが答える。
「~~~~~~ッ!!
すこしの間、エリアを解いてあげます。その間に服を何とかしなさい」
エレンが目をつぶると、ペドーの体が自由になる。
「言っておきますが、携帯で助けを呼ぼうとしても無駄ですよ?
この家すべてが私の力の有効範囲、貴方は逃げられ……なんでさらに脱いでるんですか!?どうして、この局面でさらに脱ぐことを選択したんですか!?」
ついには上着まで脱ぎ捨てたペドーにエレンが声を荒げる!!
今やペドーの装備は靴下のみ!!胸の先端や股間部分に不自然な光が差し込んでいる状態!!
「ふっ……エレンママ。あんたは分かっちゃいねぇよ……
ああ、『ママ』だなんて言っても、男の子の気持ちがちっともわかってんぇよ。
『なぜ』とか、『どうして』なんて、理由は必要ないんだ。
ムラムラしたらぶっこく!!それだけなんだよ!!目の前にBBAがいても関係ねぇ!!」
「な、何なんですか!?」
一瞬だけ、脳裏にうぇすちゃまがよぎるエレン。
制御できない変態という意味で、エレンは彼らに近い物を感じたのかもしれない。
「え、えっと……一応私、貴方の生殺与奪権を持ってるのよね?
動けないでしょ?だからね?あの、武器とかで貴方を殺せるのよ?
うん、そう、殺せるの。あの、交換条件でだけど〈ウィッチ〉の居場所を教えてくれたりなんかしたら……自由にしてあげるんだけど……どうですか?」
「断る!!俺が幼女を売る訳ないだろ!!」
「うっく~~~!!」
恐々としながら交渉を重ねるエレンだが、そのたびにペドーはその条件を蹴ってしまう。
圧倒的にこちらが有利な状況、本来ならペドーが涙して希う立場だが、エレンはどうにも強気になり切れないでいた。
いや、全裸でここまで強気なペドーの方がおかしいのだが……
「こ、これ以上ごねるなら、耳の片方も覚悟してもらう必要がありますよ!?」
「いや、耳位〈カマエル〉と〈ザフキエル〉とフラクシナスのリアライザでどうにかなるだろ?
いや、待てよ……そのケガが原因で入院……ロリ精霊たちがお見舞いに……フルーツ剥きますね……体ふきふきしますね……溜まってるって奴、なのかな?しょうがないにゃ~……
イエス!!ロリロリサキュバスナースが俺を待ってる!!
カモン!!レーザーブレードカモォおおおおおおん!!」
「もぉやだぁ!!!」
脅してもけろっとしているペドーに、ついにエレンが切れて床にレーザーエッジを叩きつけた!!
その時!!
「オマエ、なにしてんだぁ!」
部屋に響くのはシェリの声!!
後ろを見ると、四糸乃、くるみと続き皆驚いたような顔をしている。
「シェリちゃん助けてぇ!!年増のBBAが『うふふ、偶には若い燕も良いわね。ジュルリ……』とか言って、襲ってきたんだぁ!!服まではぎ取られて、無理やりパパにされる5秒前だよ!!」
「はぁ!?貴女が、勝手に脱いだんでしょ!?
第一、私には殿町君――じゃなかった!うぇすちゃまが――」
まさかのペドーの裏切りに、エレンが驚愕に顔をゆがませる。
「コイツー!!少し、借りるぞ!」
「は、はい……どうぞ!」
シェリが一言、断ってから四糸乃の手からよしのんを引き抜いた。
「よしのん!!幻の左を見せてやれ!!」
『よしのんにおっまかせー!!』
「え、ちょ……ぐぇ!?」
シェリの投げたよしのんの左パンチが、エレンの腹に突き刺さった一瞬。
エレンが消えた。
そして、けたたましい音と共に部屋の窓が吹き飛び、大穴が開く。
ペドーは一瞬遅れて、エレンがよしのんの手によって殴り飛ばされたのだと理解した。
『ふぅ……今日はちょっと本気出しちゃたかな?』
「よしのん、超こえぇぇぇ……」
ペドーの腕に装着され、再度シャドーボクシングを始めるよしのんをみて、格闘技にパペット持ち込みありのルールがない事を始めて残念に思った。
「ミスターマードック。例の機構が完成しました」
宇宙からの通信をDEM社の一室でマードックが聞く。
今は失われた、超兵器の完成図。悪魔と呼ばれた科学者すら自らの手で『無かった事』にした、最悪の兵器の起動準備が完了した。
「よし、起動開始」
DME社の重役室で、マードックが小さく声をかけた。
その瞬間、部屋の中の人間がどよめいた。
マードックには、一切の躊躇が無かった。
死刑執行人ですら、死刑者に刑を執行するのはためらう。
殺処分所の職員も、ガス室のスイッチを押すには良心の呵責がある。
だが、マードックにはそれが無かった。たった一人の人間を殺す為数万単位の人間が暮らす街に、兵器を落とそうというのだ。
「さぁ、諸君。うぇすちゃま亡き後のDEMの今後を考えようじゃないか」
まるで、日常の会話の様にマードックが笑った。
よしのんの幻の左の威力は、家の壁をぶち抜き、走ってきたトラックを叩き壊し、エレンママを一撃で沈める力があります。
弱点は、短すぎるリーチ。
ペドーさんの全裸+不自然な光は、お隣に心の壁を作られ、子供が走って逃げだし、エレンを一撃で沈める不快感があります。