デート・ア・ペドー   作:ホワイト・ラム

44 / 88
ずいぶん長い間お待たせしました。
漸く、本作再会です。
お詫びという訳ではないのですが、今回はちょっとだけ長くなっています。


三・者・離・反!!

カチャ……キィィィィ……

 

「誰も居ない」

陸上自衛隊天央第二保管倉庫。

裏口のカギをかけ忘れたドアから折紙が侵入する。

 

事は今から、およそ2日ほど前。

嫌味でしょっちゅうトイレに行っている外国人たちが、天央祭で精霊及び、()()()を捕獲するという計画に出る事に成っている様だ。

以前ペドーはイフリートの力を顕現させている、それどころか他の力も多数見せている。それがDEM社に分かっていたのなら、貴重なサンプルとして回収指令が下っていても不思議ではない。

 

因みに『様だ』というのは実は折紙に対して()()かん口令が敷かれていたからだ。

以前の自分がホワイトリコリスで暴走した件と、ペドーが自身の恋人だという事を加味して仕方ないと言えるだろう。

だが――

 

「ペドーを渡しはしない!!」

強い意思を持ち折紙が、拳を握る。

 

「――――ん」

ワイヤリングスーツに伸ばす手が止まる。

リアライザの無断使用は当然だが厳禁だ。

今回の事は後々自分に必ずマイナスに成る。

そう、自身はこの戦いの後、記憶を消され精霊を知らない生活に戻るだろう。

それはつまり、自身の両親の仇である精霊を殺せなくなることを意味していた。

 

それは今まで復讐に捧げてきた自分を捨てる事に成る。

 

自身の過去と両親の仇、それと今を生きる自身の恋人。

それが天秤に掛かる。

 

「ううっ!」

ワイヤリングスーツに伸ばす手が震える。

揺れる自身の心。

今を救うために、過去を捨てる。

 

それは簡単に選べる物ではなく――

 

だが――

 

「私は、ペドーを守る」

確固たる意思を持って、折紙がワイヤリングスーツに手を掛けた。

 

 

 

 

 

「はい、士織さんはストロベリークリームでしたわね」

 

「あ、ああ……」

美九が可愛くデコレーションされた、クレープをペドーに差し出した。

 

『ちょっと、ちょっとは楽しそうにしなさいよ。

こんなチャンス滅多にないんだから』

インカムから、琴理の声が飛ぶが――不快な感情は全くなく成らない!!

 

分かるだろうか、この不快感!!

気に食わない、気に入らない、視界に居れたくない、年増を口説かなくてはいけない不快感!!

正直な話、今すぐにクレープを投げつけスタッフに落ちたクレープをおいしくいただかせ、さっきまでいた四糸乃とくるみとシェリを引き連れデートに繰り出したい!!

 

「んん~、たまらないですね~。

このままお店出せちゃいますぅ!」

 

「あっそ」

酷くこざっぱりした、感想を述べてペドーがクレープを全部胃袋へと押し込む。

 

「ああん、一口貰いたかったんですけどぉ……

けどいいです。

食いしん坊な士織さんに、私のを少し上げますわね。

さ、どうぞ」

口元へ、カスタードクリームのクレープを差し出す。

 

『ほら、がぶっと行きなさいよ』

 

「いや、要らない」

きっぱり断り、ペドーが離れる。

ギャンギャンとインカムから、琴理の声が聞こえるが気にしない。

残念そうな顔をする美九をしり目に背伸びする。

 

「けど、一体どうして急にこんなことを?」

今の自分と美九は所謂敵対状態。

笑みを浮かべて、会話する間柄ではないハズ。

――いや、正確にはこの後、デレさせてキスして霊力を封印しなくてはならない。

そうなれば、必然的にある程度の好感度が必要となる。

このデートも、無意味ではないのだが……

 

「なぜ、デートに誘ったかですかぁ?

簡単ですよぉ。この後の勝負が終わった後、士織さんが――」

 

「ええ!?迷子?友達とはぐれたの?」

 

「ぐす、えぇん……まどかどこぉ……」

キメ顔をしている美九を無視して、ペドーは近くに居た小さな女の子に掛かっていた。

ペドーの好きそうな中学生位の年で、驚くことに分相応な豊満なバストを誇っていた。

俗に言うとロリ巨乳と呼ばれるタイプである。

 

「だいじょーぶだよぉ?おにーさ、じゃなくておねーさんが探してあげるからね?」

 

「あの、士織さん?」

 

「あー、堕肉はそこで大人しくしててくれ。

俺、困った子は見逃せないんだ!!」

 

「絶対見た目でしょ!?」

あんまりな言い分に遂に美九がブチ切れる!!

 

「まぁ、いいですぅ。ステージの後の約束さえ――あら?」

美九が気が付くとすでに、ペドーの姿は無かった。

ただ一人、袖にされ立ち尽くす寂しい美九が一人。

 

 

 

「あ!いた!!おね、おに?、おにねーさんありがと!!」

 

「うん、じゃあ、気を付けてね」

ペドーが友達を見つけたその子を見送る。

 

「ふぅ、たまにはロリ巨乳も悪くない……」

一仕事終えた気持ちでペドーが一息つく。

 

「あ、ここに居たんですねぇ」

 

「げぇ、ダメな方の堕肉!!」

追ってきた美九に対して露骨に嫌な顔をするペドー

美九もその顔に気が付いた様で。

 

「もぅ!私をほおっておくなんて、なんなんですかぁ?

もうぷんすかですよぉ。

まぁ、私の物に成る前の最後の抵抗という事で、見逃してあげますぅ」

 

「ふぅん、ありがと」

せっかくの文化祭を何でこんなことに……

ペドーの機嫌が悪くなる。

正直言って、父兄に連れられた幼女と触れ合ったり、友達を誘って遊びに来た幼女と触れ合ったりしたかった。

 

「あ!士織さん、輪投げですって。

何か取ってあげますよ?何が良いですか?」

 

「うーん、じゃアレで!!」

そこに有ったのは、うさぎのぬいぐるみ。

このぬいぐるみ数年前に全国の女児に流行った、ニチアサアニメのキャラクター。

現在でも人気が強く、コレを持っていれば幼女に好かれる可能性が――

 

「わかりましたぁ。あれですね。

ほいやぁ!せいや、ほおっと!」

おかしな掛け声と共に、3つのプラスチックリングが投げられるが……

 

「全部ハズれー!!ざっこ、しょっぼ」

 

「ろ、露骨に煽りますね……」

指を指しゲラゲラ笑いだすペドー。

しかし――

 

【ぬいぐるみをください】

 

「は、はい、おねーさま……」

美九の言葉を聞いた瞬間、店員の女学生の目がトロンととろけ、ふらふらと歩きだし美九にぬいぐるみを差し出した。

 

「ええ……」

 

「私の【声】に掛かればこんなものですよ」

 

「良いのかよ。輪っかが入んなきゃ商品は貰えない。

それが人間のルールだぞ?」

ペドーが少しむっとしながら、注意をする。

 

「あはっ、何を言っているんですか?

それじゃ失敗したらもらえないじゃないですか?」

 

「自分が欲しくても、ちゃんとルールに――」

 

「何でですかぁ?私が欲しいって言ったんですよ?

私の声に従うべきなんですよぉ?私が幸せならば、周りの人間も幸せでしょ?」

その言葉は明らかに周囲とずれが生じていた。

美九の声を聴いた者は、自分を置いて逆らえなくなる。

全て彼女の思い通り、誰も彼もが彼女の言いなりになる。

 

「なんか、悲しいな。

人間としっかり話した事が無いんだな……」

それはここにきて、始めてペドーの見せた憐憫の感情だった。

傲慢で、自身ありげなむかつく豚がこの時初めて可哀そうに見えた。

 

「何を言っているんですかぁ?人間とはちゃんと話してあげてるでしょ?」

常に上から目線。

そう、彼女はそう言った能力を持ってしまったのだろう。

だから――

 

「人間はお前の駒やおもちゃじゃない。

今に足元救われるぞ?」

ペドーの言葉に美九が一瞬だけわずかにたじろいだ。

 

「何を言っているんですかねぇ?人間(アレ)にそんな感情は無意味ですよぉ?

どーせ、愛玩するくらいしか、価値が無いんですからぁ。

価値のあるのは、私が選んであげた数人だけ、お気に入りの子達だけですね。

けど、そこまで言うなら試してあげましょうかぁ。

ステージ楽しみにしていますね」

最後に意味深な言葉を残し美九が人込みへと帰っていく。

 

「――――――」

ぽつりとペドーが声を漏らす。

なんと言ったのか、自分でも分からない。

ただ、美九を心の底から哀れに思った言葉だったのは確かだ。

 

そうだろう。

誰しも本当に心からぶつかることが無かったのだ。

ただただ、一人自由に他者を操れる能力。

それはまさに――

 

「一人きりの理想郷か……」

なぜか去っていく背中に哀愁を感じたペドー。

しかし!!

 

「けど、声だけで他の子を言いなりに出来る……

はぁはぁ……言いなり、言いなりかぁ!!」

クヨクヨタイムは速攻終了!!

声だけで相手を自由に出来る!!

あまりにエロゲチックな能力にペドーが大興奮する!!

 

(え、ええ?だって、声でどんな命令も出来るんでしょ?

プライドの高いお嬢様系幼女をくっ殺させたり、オカタイ委員長系幼女にエロイ事を普通の事と思わせたり、無知シチュ系幼女を自分好みに調教――ふぅおおおおおお!!)

非常に、非常に危険な顔をしてペドーが鼻血をこぼして笑みを浮かべる。

その心!!非常にゲスな妄想を繰り広げる!!

その心にブレーキなどない!!

欲望のままに進み続けるのみぃ!!

 

「うふふ、俺の幼女のラブラブタイムの為に、是非とも封印しないとな!!」

相手の事など気にしない!!

と言うか幼女以外に興味のないペドー!!

怪しい笑みを浮かべたまま、去っていく。

 

 

 

 

 

(やばい……!非常にやばい!!)

出し物をするメンバーの控室の中、ペドーが小さく汗をかく。

 

「なぁ、ペドー他の奴らはどこに行ったのだ?」

ポクポクと木魚を叩き続ける十香しかメンバーが居ない!!

亜衣麻衣美衣の余分三年増はもとより、折紙までもが朝から居ない。

 

「呼び出すか……?」

折紙に電話を掛けたが電源が入っておらず、出てはくれない。

まぁ、彼女の仕事を加味するとそれは仕方ない事かもしれない。

恐らく、一番の実力者である折紙が居ないのは仕方ないが、ない物ねだりしていても事態は進展しない。

仕方なく、亜衣に電話を掛ける。

 

「あ、藤袴さん?一体今どこに?他の二人も居ないんですけど――」

 

『あ、士織ちゃんじゃーん』

 

『麻衣もー』

 

『美衣もー』

 

『こっちに居るよー?』

電話の向こう側、3人の声が聞こえてくる。

 

「早く戻ってきてください。ステージが始まりますから!!」

ペドーが急かすが――

 

『あー、ごめん。やっぱうち等ステージ止めるわ。

おねー様が出るなって言うからさー』

 

『おねー様なら、仕方ないよねー』

 

『お願いされちゃったしねー』

3人ののんびりした声が聞こえてくる。

 

「やりやがった……あの豚!!」

たたきつける様に電話を切る、ペドー。

その目前に、件の女性が姿を見せた。

 

「あらあらぁ?一体どうしましたぁ?

可愛い顔が台無しですよぉ?」

美九の言葉に、ペドーが掴みかかろうとすら思うが――

此処で問題を起こしても意味もないと、あきらめる。

 

「私のステージ、楽しみにしてくださいねぇ?」

心底バカにしたように、美九が部屋を去っていく。

 

「なぁ、ペドー一体何がどうしたのだ?」

尚もポクポクと、木魚を叩き続ける十香。

自体は全く理解できていない様だ。

 

その時、部屋で楽器の準備をしていたスタッフが近づいてくる。

 

「ペドーさん、指令から言葉を預かっています」

見るとそのスタッフにも、インカムがあり、彼がフラクシナスの工作員だと理解出来た。

 

『ペドー、大変な様ね。

少し前、さっきの3人と美九が接触していたから、まさかと思ったんだけど……

最悪が当たってしまったわね』

 

「琴理……」

ペドーが力なく、声を出す。

 

『情けない声出してんじゃないわよ。

音楽は楽しむ物よ?追加要因がそろそろそっちにつく頃だから――』

 

ガチャ

 

「くくく……ペドーよ。我力を頼る時が来たようだな!!」

 

「誇示。我ら八舞の力を見せる時です」

扉を開けて現れるのは、八舞の二人!!

 

『どう?備えあれば、憂いなしでしょ?

八舞の二人がある程度楽器が出来るのは、調査済みよ』

琴理が自信ありげに話す。

が――

 

「あー、ごめん琴理。

学校側の規則で他のクラスはダメなんだよ」

 

『え』

 

「え……」

 

「絶句。え」

 

「えーと、ほら、ここ見てみ?」

ペドーは3人に見える様に、年増3人衆からもらった、規定を見せる。

 

「ほら、ルールその5。『各クラスの出し物ステージは、他クラスの生徒、他高校の生徒の合同であってはならない。また、クラスや個人が支出してプロを雇っては成らない』ってあるだろ?」

八舞の二人は、ペアで行動させておけば問題ないと、琴理が判定したためペドーとはクラスが違うのだ。

そう、つまり八舞の2人とペドーが同じステージに立つ事は出来ない。

 

『く、一体どうすれば――』

 

ガチャ――

 

「やぁ、シン。この後ステージだろ?3人がどうしてもって言うから、無理を言って控室に入れてもらったんだ――ん?どうしたんだい?」

扉を開け、令音が姿を現す。

その後ろには、当然――四糸乃、くるみ、シェリの幼女3人衆が!!

 

「これだ!!ねぇ、みんなって、楽器なんかできない?

今、丁度メンバーが足りないんだよ。出て欲しい、って言うか幼女とステージ超立ちたいんだけど!!」

すさまじい勢いで、ペドーが3人の手をつかむ。

 

『ちょ、ちょっと!?なんで、この3人なのよ!!!

出れる訳ないじゃない!!さっきの、規則だって――』

 

「他のクラス、他の高校生はダメだけど、幼女はダメって書いてないぞ!!」

そう!!禁止しているのは、他クラス、他高校の生徒のみ、そしてプロのみ!!

まさか運営側も、幼女を連れてくるとは予想していなかった!!

まぁ、予想しようなどほぼ無理だが……

 

「しかし、楽器は出来るのか?」

令音の言葉通り、そこが一番のポイントだ。

楽器が出来なければ、ステージに立って勝つ事は不可能だ。

 

「ぺどーさん!わたし、ぴあのはひけますわよ?」

くるみが自信満々と言った顔で、手を上げる。

 

「なるほど、お嬢様っぽい見ためだから、幼少期にピアノを習っていても不思議ではないんだな!!」

多分現在持って幼少期だろうが、そこは気にしないペドー!!

キーボード役は決まった!!

 

「ふぅ、なるほどねー。ゲドーがやってるの見て、ボクもちょっとだけならイケるよ?戦いはリズムも大切!手と足を全部使うコレはボクの得意分野だ」

シェリがドラムを叩いて見せる!!!

重厚で、地面を響かせるようなヘヴィーなサウンドが流れる!!

ドラムも決まった!!

 

「あとは、ベース……四糸乃、出来るか?」

 

「ご、ごめんなさい……わたし」

びくっと肩を震わす、四糸乃。

目にはみるみるウチに涙がたまるが――

 

『よしのんならイケるよ~』

パクパクと左手のパペットが口を開く。

 

「え!?なんで!?」

 

『いや~、この前、TVでデスメタルバンドって言うの?

その人が、顔でベース弾いてるのみてさ~、ちょっとやってみたんだよね~。

四糸乃、あのベース取って?』

 

「う、うん……」

四糸乃がベースを取ると、よしのんを右手に持ち替え――

 

ギャルるるるん!!るるぅ~ン!!

すさまじい勢いで、四糸乃がベースをかき鳴らしす!!様に見える、実際はよしのんの顔面ベース。

 

「ま、まぁいいか!!

兎にも角にも、コレでメンバーは揃った!!

後は――服だな」

 

『ああ、それがあったわね。どっかで購入するか――』

 

「まぁ、昨日作ったメイド服でいっか!!」

ペドーが昨日の夜、自作した3種類のメイド服を取り出す。

 

「いいですわね」

 

「げー、それ着るのか?」

 

「か、可愛いと思いますよ?」

三者三様のリアクションを見せながらも、結局着替えは終わった。

 

「さー、行くぜみんな!!もう、負ける気はしない!!」

 

「「「おー!!」」」

3人の幼女が嬉しそうに手を挙げた。

 

 

 

「ペドー、私の役目はなんだ?」

 

「応援席で、木魚を叩いて応援してくれ!!」

 

 




八舞?出ないよ?
十香?出ないよ?
幼女じゃないと、出番ないなー

彼女たちが好きな人にはごめんなさい。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。