漸く、本作再会です。
お詫びという訳ではないのですが、今回はちょっとだけ長くなっています。
カチャ……キィィィィ……
「誰も居ない」
陸上自衛隊天央第二保管倉庫。
裏口のカギをかけ忘れたドアから折紙が侵入する。
事は今から、およそ2日ほど前。
嫌味でしょっちゅうトイレに行っている外国人たちが、天央祭で精霊及び、
以前ペドーはイフリートの力を顕現させている、それどころか他の力も多数見せている。それがDEM社に分かっていたのなら、貴重なサンプルとして回収指令が下っていても不思議ではない。
因みに『様だ』というのは実は折紙に対して
以前の自分がホワイトリコリスで暴走した件と、ペドーが自身の恋人だという事を加味して仕方ないと言えるだろう。
だが――
「ペドーを渡しはしない!!」
強い意思を持ち折紙が、拳を握る。
「――――ん」
ワイヤリングスーツに伸ばす手が止まる。
リアライザの無断使用は当然だが厳禁だ。
今回の事は後々自分に必ずマイナスに成る。
そう、自身はこの戦いの後、記憶を消され精霊を知らない生活に戻るだろう。
それはつまり、自身の両親の仇である精霊を殺せなくなることを意味していた。
それは今まで復讐に捧げてきた自分を捨てる事に成る。
自身の過去と両親の仇、それと今を生きる自身の恋人。
それが天秤に掛かる。
「ううっ!」
ワイヤリングスーツに伸ばす手が震える。
揺れる自身の心。
今を救うために、過去を捨てる。
それは簡単に選べる物ではなく――
だが――
「私は、ペドーを守る」
確固たる意思を持って、折紙がワイヤリングスーツに手を掛けた。
「はい、士織さんはストロベリークリームでしたわね」
「あ、ああ……」
美九が可愛くデコレーションされた、クレープをペドーに差し出した。
『ちょっと、ちょっとは楽しそうにしなさいよ。
こんなチャンス滅多にないんだから』
インカムから、琴理の声が飛ぶが――不快な感情は全くなく成らない!!
分かるだろうか、この不快感!!
気に食わない、気に入らない、視界に居れたくない、年増を口説かなくてはいけない不快感!!
正直な話、今すぐにクレープを投げつけスタッフに落ちたクレープをおいしくいただかせ、さっきまでいた四糸乃とくるみとシェリを引き連れデートに繰り出したい!!
「んん~、たまらないですね~。
このままお店出せちゃいますぅ!」
「あっそ」
酷くこざっぱりした、感想を述べてペドーがクレープを全部胃袋へと押し込む。
「ああん、一口貰いたかったんですけどぉ……
けどいいです。
食いしん坊な士織さんに、私のを少し上げますわね。
さ、どうぞ」
口元へ、カスタードクリームのクレープを差し出す。
『ほら、がぶっと行きなさいよ』
「いや、要らない」
きっぱり断り、ペドーが離れる。
ギャンギャンとインカムから、琴理の声が聞こえるが気にしない。
残念そうな顔をする美九をしり目に背伸びする。
「けど、一体どうして急にこんなことを?」
今の自分と美九は所謂敵対状態。
笑みを浮かべて、会話する間柄ではないハズ。
――いや、正確にはこの後、デレさせてキスして霊力を封印しなくてはならない。
そうなれば、必然的にある程度の好感度が必要となる。
このデートも、無意味ではないのだが……
「なぜ、デートに誘ったかですかぁ?
簡単ですよぉ。この後の勝負が終わった後、士織さんが――」
「ええ!?迷子?友達とはぐれたの?」
「ぐす、えぇん……まどかどこぉ……」
キメ顔をしている美九を無視して、ペドーは近くに居た小さな女の子に掛かっていた。
ペドーの好きそうな中学生位の年で、驚くことに分相応な豊満なバストを誇っていた。
俗に言うとロリ巨乳と呼ばれるタイプである。
「だいじょーぶだよぉ?おにーさ、じゃなくておねーさんが探してあげるからね?」
「あの、士織さん?」
「あー、堕肉はそこで大人しくしててくれ。
俺、困った子は見逃せないんだ!!」
「絶対見た目でしょ!?」
あんまりな言い分に遂に美九がブチ切れる!!
「まぁ、いいですぅ。ステージの後の約束さえ――あら?」
美九が気が付くとすでに、ペドーの姿は無かった。
ただ一人、袖にされ立ち尽くす寂しい美九が一人。
「あ!いた!!おね、おに?、おにねーさんありがと!!」
「うん、じゃあ、気を付けてね」
ペドーが友達を見つけたその子を見送る。
「ふぅ、たまにはロリ巨乳も悪くない……」
一仕事終えた気持ちでペドーが一息つく。
「あ、ここに居たんですねぇ」
「げぇ、ダメな方の堕肉!!」
追ってきた美九に対して露骨に嫌な顔をするペドー
美九もその顔に気が付いた様で。
「もぅ!私をほおっておくなんて、なんなんですかぁ?
もうぷんすかですよぉ。
まぁ、私の物に成る前の最後の抵抗という事で、見逃してあげますぅ」
「ふぅん、ありがと」
せっかくの文化祭を何でこんなことに……
ペドーの機嫌が悪くなる。
正直言って、父兄に連れられた幼女と触れ合ったり、友達を誘って遊びに来た幼女と触れ合ったりしたかった。
「あ!士織さん、輪投げですって。
何か取ってあげますよ?何が良いですか?」
「うーん、じゃアレで!!」
そこに有ったのは、うさぎのぬいぐるみ。
このぬいぐるみ数年前に全国の女児に流行った、ニチアサアニメのキャラクター。
現在でも人気が強く、コレを持っていれば幼女に好かれる可能性が――
「わかりましたぁ。あれですね。
ほいやぁ!せいや、ほおっと!」
おかしな掛け声と共に、3つのプラスチックリングが投げられるが……
「全部ハズれー!!ざっこ、しょっぼ」
「ろ、露骨に煽りますね……」
指を指しゲラゲラ笑いだすペドー。
しかし――
【ぬいぐるみをください】
「は、はい、おねーさま……」
美九の言葉を聞いた瞬間、店員の女学生の目がトロンととろけ、ふらふらと歩きだし美九にぬいぐるみを差し出した。
「ええ……」
「私の【声】に掛かればこんなものですよ」
「良いのかよ。輪っかが入んなきゃ商品は貰えない。
それが人間のルールだぞ?」
ペドーが少しむっとしながら、注意をする。
「あはっ、何を言っているんですか?
それじゃ失敗したらもらえないじゃないですか?」
「自分が欲しくても、ちゃんとルールに――」
「何でですかぁ?私が欲しいって言ったんですよ?
私の声に従うべきなんですよぉ?私が幸せならば、周りの人間も幸せでしょ?」
その言葉は明らかに周囲とずれが生じていた。
美九の声を聴いた者は、自分を置いて逆らえなくなる。
全て彼女の思い通り、誰も彼もが彼女の言いなりになる。
「なんか、悲しいな。
人間としっかり話した事が無いんだな……」
それはここにきて、始めてペドーの見せた憐憫の感情だった。
傲慢で、自身ありげなむかつく豚がこの時初めて可哀そうに見えた。
「何を言っているんですかぁ?人間とはちゃんと話してあげてるでしょ?」
常に上から目線。
そう、彼女はそう言った能力を持ってしまったのだろう。
だから――
「人間はお前の駒やおもちゃじゃない。
今に足元救われるぞ?」
ペドーの言葉に美九が一瞬だけわずかにたじろいだ。
「何を言っているんですかねぇ?
どーせ、愛玩するくらいしか、価値が無いんですからぁ。
価値のあるのは、私が選んであげた数人だけ、お気に入りの子達だけですね。
けど、そこまで言うなら試してあげましょうかぁ。
ステージ楽しみにしていますね」
最後に意味深な言葉を残し美九が人込みへと帰っていく。
「――――――」
ぽつりとペドーが声を漏らす。
なんと言ったのか、自分でも分からない。
ただ、美九を心の底から哀れに思った言葉だったのは確かだ。
そうだろう。
誰しも本当に心からぶつかることが無かったのだ。
ただただ、一人自由に他者を操れる能力。
それはまさに――
「一人きりの理想郷か……」
なぜか去っていく背中に哀愁を感じたペドー。
しかし!!
「けど、声だけで他の子を言いなりに出来る……
はぁはぁ……言いなり、言いなりかぁ!!」
クヨクヨタイムは速攻終了!!
声だけで相手を自由に出来る!!
あまりにエロゲチックな能力にペドーが大興奮する!!
(え、ええ?だって、声でどんな命令も出来るんでしょ?
プライドの高いお嬢様系幼女をくっ殺させたり、オカタイ委員長系幼女にエロイ事を普通の事と思わせたり、無知シチュ系幼女を自分好みに調教――ふぅおおおおおお!!)
非常に、非常に危険な顔をしてペドーが鼻血をこぼして笑みを浮かべる。
その心!!非常にゲスな妄想を繰り広げる!!
その心にブレーキなどない!!
欲望のままに進み続けるのみぃ!!
「うふふ、俺の幼女のラブラブタイムの為に、是非とも封印しないとな!!」
相手の事など気にしない!!
と言うか幼女以外に興味のないペドー!!
怪しい笑みを浮かべたまま、去っていく。
(やばい……!非常にやばい!!)
出し物をするメンバーの控室の中、ペドーが小さく汗をかく。
「なぁ、ペドー他の奴らはどこに行ったのだ?」
ポクポクと木魚を叩き続ける十香しかメンバーが居ない!!
亜衣麻衣美衣の余分三年増はもとより、折紙までもが朝から居ない。
「呼び出すか……?」
折紙に電話を掛けたが電源が入っておらず、出てはくれない。
まぁ、彼女の仕事を加味するとそれは仕方ない事かもしれない。
恐らく、一番の実力者である折紙が居ないのは仕方ないが、ない物ねだりしていても事態は進展しない。
仕方なく、亜衣に電話を掛ける。
「あ、藤袴さん?一体今どこに?他の二人も居ないんですけど――」
『あ、士織ちゃんじゃーん』
『麻衣もー』
『美衣もー』
『こっちに居るよー?』
電話の向こう側、3人の声が聞こえてくる。
「早く戻ってきてください。ステージが始まりますから!!」
ペドーが急かすが――
『あー、ごめん。やっぱうち等ステージ止めるわ。
おねー様が出るなって言うからさー』
『おねー様なら、仕方ないよねー』
『お願いされちゃったしねー』
3人ののんびりした声が聞こえてくる。
「やりやがった……あの豚!!」
たたきつける様に電話を切る、ペドー。
その目前に、件の女性が姿を見せた。
「あらあらぁ?一体どうしましたぁ?
可愛い顔が台無しですよぉ?」
美九の言葉に、ペドーが掴みかかろうとすら思うが――
此処で問題を起こしても意味もないと、あきらめる。
「私のステージ、楽しみにしてくださいねぇ?」
心底バカにしたように、美九が部屋を去っていく。
「なぁ、ペドー一体何がどうしたのだ?」
尚もポクポクと、木魚を叩き続ける十香。
自体は全く理解できていない様だ。
その時、部屋で楽器の準備をしていたスタッフが近づいてくる。
「ペドーさん、指令から言葉を預かっています」
見るとそのスタッフにも、インカムがあり、彼がフラクシナスの工作員だと理解出来た。
『ペドー、大変な様ね。
少し前、さっきの3人と美九が接触していたから、まさかと思ったんだけど……
最悪が当たってしまったわね』
「琴理……」
ペドーが力なく、声を出す。
『情けない声出してんじゃないわよ。
音楽は楽しむ物よ?追加要因がそろそろそっちにつく頃だから――』
ガチャ
「くくく……ペドーよ。我力を頼る時が来たようだな!!」
「誇示。我ら八舞の力を見せる時です」
扉を開けて現れるのは、八舞の二人!!
『どう?備えあれば、憂いなしでしょ?
八舞の二人がある程度楽器が出来るのは、調査済みよ』
琴理が自信ありげに話す。
が――
「あー、ごめん琴理。
学校側の規則で他のクラスはダメなんだよ」
『え』
「え……」
「絶句。え」
「えーと、ほら、ここ見てみ?」
ペドーは3人に見える様に、年増3人衆からもらった、規定を見せる。
「ほら、ルールその5。『各クラスの出し物ステージは、他クラスの生徒、他高校の生徒の合同であってはならない。また、クラスや個人が支出してプロを雇っては成らない』ってあるだろ?」
八舞の二人は、ペアで行動させておけば問題ないと、琴理が判定したためペドーとはクラスが違うのだ。
そう、つまり八舞の2人とペドーが同じステージに立つ事は出来ない。
『く、一体どうすれば――』
ガチャ――
「やぁ、シン。この後ステージだろ?3人がどうしてもって言うから、無理を言って控室に入れてもらったんだ――ん?どうしたんだい?」
扉を開け、令音が姿を現す。
その後ろには、当然――四糸乃、くるみ、シェリの幼女3人衆が!!
「これだ!!ねぇ、みんなって、楽器なんかできない?
今、丁度メンバーが足りないんだよ。出て欲しい、って言うか幼女とステージ超立ちたいんだけど!!」
すさまじい勢いで、ペドーが3人の手をつかむ。
『ちょ、ちょっと!?なんで、この3人なのよ!!!
出れる訳ないじゃない!!さっきの、規則だって――』
「他のクラス、他の高校生はダメだけど、幼女はダメって書いてないぞ!!」
そう!!禁止しているのは、他クラス、他高校の生徒のみ、そしてプロのみ!!
まさか運営側も、幼女を連れてくるとは予想していなかった!!
まぁ、予想しようなどほぼ無理だが……
「しかし、楽器は出来るのか?」
令音の言葉通り、そこが一番のポイントだ。
楽器が出来なければ、ステージに立って勝つ事は不可能だ。
「ぺどーさん!わたし、ぴあのはひけますわよ?」
くるみが自信満々と言った顔で、手を上げる。
「なるほど、お嬢様っぽい見ためだから、幼少期にピアノを習っていても不思議ではないんだな!!」
多分現在持って幼少期だろうが、そこは気にしないペドー!!
キーボード役は決まった!!
「ふぅ、なるほどねー。ゲドーがやってるの見て、ボクもちょっとだけならイケるよ?戦いはリズムも大切!手と足を全部使うコレはボクの得意分野だ」
シェリがドラムを叩いて見せる!!!
重厚で、地面を響かせるようなヘヴィーなサウンドが流れる!!
ドラムも決まった!!
「あとは、ベース……四糸乃、出来るか?」
「ご、ごめんなさい……わたし」
びくっと肩を震わす、四糸乃。
目にはみるみるウチに涙がたまるが――
『よしのんならイケるよ~』
パクパクと左手のパペットが口を開く。
「え!?なんで!?」
『いや~、この前、TVでデスメタルバンドって言うの?
その人が、顔でベース弾いてるのみてさ~、ちょっとやってみたんだよね~。
四糸乃、あのベース取って?』
「う、うん……」
四糸乃がベースを取ると、よしのんを右手に持ち替え――
ギャルるるるん!!るるぅ~ン!!
すさまじい勢いで、四糸乃がベースをかき鳴らしす!!様に見える、実際はよしのんの顔面ベース。
「ま、まぁいいか!!
兎にも角にも、コレでメンバーは揃った!!
後は――服だな」
『ああ、それがあったわね。どっかで購入するか――』
「まぁ、昨日作ったメイド服でいっか!!」
ペドーが昨日の夜、自作した3種類のメイド服を取り出す。
「いいですわね」
「げー、それ着るのか?」
「か、可愛いと思いますよ?」
三者三様のリアクションを見せながらも、結局着替えは終わった。
「さー、行くぜみんな!!もう、負ける気はしない!!」
「「「おー!!」」」
3人の幼女が嬉しそうに手を挙げた。
「ペドー、私の役目はなんだ?」
「応援席で、木魚を叩いて応援してくれ!!」
八舞?出ないよ?
十香?出ないよ?
幼女じゃないと、出番ないなー
彼女たちが好きな人にはごめんなさい。