今回は彼女の、タァアアアアアアン!!
といわんばかりの、活躍です。
「あー、眠い……」
9月9日の朝、ペドーはあくびをかみ殺しながら横で小競り合いをする十香と折紙を連れ、文化祭の合同会議に出席するべく歩いていた。
因みに十香と折紙は亜衣麻衣美衣マインの4人組の代理らしい。
精霊と出会たのは昨日の話。
なぜか、ASTの一部がこちらに攻めて来たが突如――
『はぁう!?お、お腹が、居たい!?』
『おおう、やばいデース……』
『す、スーシーに合ったッタノーか!?』
外国人っぽいメンバーがほぼ全員、お腹を押さえて蹲り始めた。
会話の内容から読み取るに、寿司に当たった様だ。
確かに9月といえどまだ暑い、前日買った寿司などの生ものを、冷蔵庫に入れ忘れたらこうも成るだろう。
「えーと、トイレはあっちだってさ」
WCのマークを指さすペドーと、走っていく外国人たち。
「文化の違いって大変だなー」
フラクシナスに回収されながらペドーが小さく漏らす。
豪奢な門を抜け、学校の中に入っていく。
待ち合わせ場所の会議室に行くと、すでに数名の他の学校の実行委員が集まっていた。
あたりを見回すと、ペドーの後ろ。
入り口から声が聞こえてきた。
『失礼しまぁす』
そう言って入ってきたのは、濃紺な色をしたセーラー服の集団。
そして、その先頭に居る少女にペドーと折紙が目を見開いた。
「な」
「あ……」
「こんにちはー、皆さんよく来てくれましたね。
竜胆寺女学院、天央祭実行委員会長、誘宵 美九ですぅ」
その姿は、まぎれもなく昨日見た精霊だった。
「誘宵 美九ね。彼女が精霊だったなんて……」
フラクシナスのモニターに、美九が躍って歌う姿が流れている。
荒い映像、揺れる画面からそれが市販に販売された物で無い事が容易に想像できる。
「過去の経歴を見たわ。
半年くらい前から、彗星のごとく現れた大人気、アイドル……
その圧倒的な歌唱力は見る者を引き込み、『聞く麻薬』とさえ言われ――」
「幼女の方がその表現は合ってるな!!」
琴理の言葉を遮り、ペドーがニヤつく。
「……私の様に、〈ファントム〉に精霊化させられた人間の可能性が出てきたわね」
琴理があごに手を当て、試案する。
「ま、そこは追々考えましょう?
ソレより朗報よ、美九の好感度の上下から実はある仮説にたどり着いたのよ」
そこの言葉と共に、令音がフラグを見せる。
ペドーと会った時は好感度が下がっているが、逆に折紙と会った時はすさまじい勢いで上がっているのだ。
「これは……?」
「これは、美九さんが男嫌いで、女好きである可能性を現しているんですよ!!」
いつの間にか、後ろにいた神無月が女性ものを制服を持ちながら話す。
「……まさか……」
女性物の制服、そして男嫌い――まさか?
「頑張ってね、《《おねーちゃん》》」
ぐっと、琴理がサムズアップしたと同時に、ペドーがフラクシナスのメンバーの連れていかれた。
数時間後……
「ちょっとー、このウイッグ毛が跳ねてるじゃない!
ん、もう!髪は女の命なのよ?」
「誰だお前!?」
琴理が、鏡の前でポーズをするペドー似の女に声を荒げる。
「誰って、貴女のおにーちゃ、じゃなかった。
おねーちゃんじゃない?」
くねくねと鏡の前でポーズを取って見せる。
「な、慣れすぎじゃない!?」
「人って、変身願望があるものよ?」
モデルのようなピシッとした、姿勢でペドーが歩いてくる。
完璧な女性の立ち振る舞いに、逆に琴理が威圧される。
「あら!枝毛発見!だめよ~?
性別の上に胡坐をかいちゃ、すぐに年取ってババァよ?」
「あ、ふん?」
余りの変わりように、琴理が音もなく気絶した。
目覚めよ!!その魂!!
おめでとう!!ペドーは新しい性癖を獲得した!!
ロリコン
露出
女装癖←new!
「いやー、ペドー君?ちゃん?は可愛いなー。
どうです?一回5万で?」
「ウチの息子の嫁に来ない?」
「こんなかわいい子が、女の子のハズが無い!!」
フラクシナスのメンバーに、ペドーが囲まれる。
「げ、月曜日に、攻略をはじめるから……そのつもりで……」
必死に飛びそうになる意識を何とか保ち、琴理がペドーに言った。
月曜日。
放課後に成って、ペドーが大きめのカバンを持って席から立ち上がる。
「ペドー、天央祭の話し合いに行くのではないのか?」
帰ると思ったのか、十香がペドーを呼び止める。
「ちょっと、やることがな。
少し待っててくれ」
そう言って、ペドーが学校の校舎、理科準備室や視聴覚室、被服室などめったに使われない特殊教室が集合している。
という事は、この辺のトイレは滅多に使用されることがない。
「『滅多に人が来ないトイレ』とか、興奮してしまうわ!!」
躊躇する幼女を少し乱暴にトイレに連れ込む妄想を始める。
「おっと、今はこっちだな……」
秘密裏に持ってきた女子制服を見る。
誰も来ない、トイレに女子制服。
なんとなく犯罪っぽい、空気を感じながらペドーが服を着替える。
「ふー、トイレ、トイレ……」
「おっす、殿町!」
「おっす!……え!?え、ええ!?」
偶然通りかかった殿町が驚くが、まぁ問題はないだろう。
そのまま、いつもの4人組をさがす。
「あ、あの……!」
ペドーが例の4人組を見つけ、話しかける。
「ん?誰だっけ?」
「えっと?」
きょとんとした4人の態度に、ペドーは自身の正体がバレていないことを確信した。
「実は、士道君に代わりに会議に行って欲しい言って頼まれて――」
「あ”野郎逃げやがった!!」
「魔女狩りだ!!罪をでっち上げて拷問してやる!!」
「ネビュラガスの人体実験の被験体にしてやる!!」
3人がうるさく騒ぐ、どうやら彼女たちの中に、先日会議のドタキャンを決め込み、折紙と十香を代役にしたことは、記憶から抜けているらしい。
「ペドーは何処へ……」
「分からない、何かが……」
校門の前、十香と折紙が不安そうに話している。
恐らく未だに来ない、ペドーを心配しているのだろう……
その時、音もなく二人の視線が女装したペドーに注がれた。
「ん?ペドー似の……だれだ?」
「……良い」
十香が不思議そうな顔をして、折紙は無言でカメラを取り出し写真撮影を始めた。
「皆さん、よろしくお願いしますね?
私は士織。五河 士織です」
そう言って、まんまとペドーは学祭のメンバーとして会場へと潜り込んだのだった。
「どこへ行くんだよ……」
会議を適当な理由で抜けたペドーが、美九の後を付け回す。
今いるのは仮説ステージの裏、「立ち入り禁止」の看板を無視してずんずんと美九が入っていく。
それに倣って、ペドーも同じくステージの裏へ走る。
「!?」
仮設ステージの真ん中、美九が立っている。
その姿は、数日前のシチュエーションと酷似しており……
『話す前から、緊張してんじゃないわよ』
「馬鹿言うなよ。俺だって不安なんだぜ?
女装して、レズ女攻略って、冷静に考えたらバカすぎるだろ?」
インカムから聞こえてきた声に、ペドーが思わず悪態をつく。
「あらー?あなたは……」
「ッ――しまった!」
思わず漏れた悪態を、美九に聞かれてしまった。
こちらの存在に気が付いて様で、視線を投げかけてくる。
「あなたは?」
「俺は――」
「俺?」
美九に指摘されて、思わずペドーが再び舌打ちしかけた。
ミス、痛恨のミスだった。これでは男とバレて――
「変わった言葉使いですねー、けど個性としては全然ありですねー」
『機嫌度変化なし!!成功です!!』
クルーの誰かが言った言葉を聞き、ペドーが安心する。
男の様な言葉使いを個性と認識したらしい。
『さて、運がいい事に丁度選択肢も出たわ。
というか、もう選択自体終わってるから、お願い』
とんでもない言葉の指示が提示され、一瞬ペドーが固まる。
「い、今、履いてるパンツ……5万で売ってくれませんか?」
ペドーとしては、非常に、非常にきついセリフなのだが、指令なら仕方ないと自分を無理やり安心させる。
「うーん、お金は嫌ですけど……交換なら良いですよ?」
『良い訳ないだろ!このでぶぅ!!』
ペドーの口からそんな言葉が出そうになったが、必死になって押しとどめた。
その姿は美九には恥ずかしさを我慢している様み見えた様で――
「あははー、冗談ですよぉ。
それ、むしろ私のセリフじゃないですかぁ?」
「は、はは……」
美九の言葉にペドーは顔が引きつらない様に気を付け、笑みを浮かべた。
「本当はここ、入っちゃダメなとこなんですぅ。
二人とも、悪い子ですね。
だから、お互いないしょにしましょうね?」
優しい声音、そして優し気な動作。
コレがこの前会った精霊なのだろうか?
性別一つで、ここまで態度が変わるとは驚きだった。
それまでに、彼女は見た目しか気にしてないんだろう。
「その服、来禅さんですかぁ?
私は誘宵 美九。今回の天央祭、成功させましょうね?」
「あ、ああ。五河 士織だ。よろしく」
そういうと、美九がペドーの手を優しく握った。
「あれ、たくましい手。何かスポーツでも?」
「ば、バレーボールを少々?」
誤魔化すようにペドーが言う。
正直部活なんてやっていないし、どっちかというとバスケの方がスキだったが、ソレっぽいのでバレーと言っていた。
「ああ、道理で。背が高くてかっこいいと思いましたよ」
「あ、ありがとうございます……」
明らかにこっちを狙った、会話にペドーが手を払うようにひっこめたが――
「つぅ!?」
物が散乱するステージの裏、そこの機材の一部にひっこめた指を当ててしまったらしい。
確認すると、指から血が零れている。
「まぁ!大変。少し待ってくださいね?」
美九が自身のポケットからハンカチを取り出し、ペドーの指に巻く。
「そんな、良いのに……」
「スポーツ選手が、指先を労わらなくてどうするんですか?
もっと、自分を大切にしてくださいね?」
本気で心配する、美九の姿にペドーがもう何度目に成るか分からない、悪態を自身の中でついた。
『見事にエスコートされちゃってるわね』
インカムから、琴理のこちらを小ばかにした声が聞こえる。
結局その日は、それ以上の進展はなかった。
だが、美九がただの男嫌いだと分かっただけで十分だと、ペドーは自分を納得させる。
翌日、ペドーは再び、女物の制服を着て竜胆寺女学院の前にいた。
手に持っているのは昨日巻いてもらった、ハンカチ。
『せっかく、口実が出来たんだから、このチャンス生かしなさいよ?』
「……ああ」
何度目か分からない琴理の言葉、こっちが女装までして色々と戦っているのに、椅子でふんぞり返っていると思うとなんだかむかむかしてくる。
心の中で、ひそかに今日の夕飯は琴理の大好き()なグリーンピース尽くしにしてやろうと歪んだ笑みを浮かべる。
「あれぇ?士織さんじゃないですか?」
邪悪な想像をかき消すように優し気な声が響く。
その声の主はたった今、自分を困らせている美九の物で――
「あ、は、ハンカチを返しに来ました……」
「まぁ、うれしい。今時間あります?
良かったら、私のお家でお茶でもしません?」
『やったわ!これはチャンスよ!』
耳を震わす、不快な声。
「い、いいですねぇ……」
苦虫を噛み潰して、さらに追加で口いっぱいに頬張ったような顔をペドーがした。
非ロリの活躍になんの意味があるんだ……
幼女分が足りない……
ロリぃ……ロリは、どこ?
という感じの今回。
うーん、どうしよ?