デート・ア・ペドー   作:ホワイト・ラム

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大変お待たせしました。
待っていてくださった読者の皆様、ありがとうございます。

人によっては、「逮捕されたか……」「ついに友人にバレて、社会から抹殺されたか……」なんて心配をした人もいるかもしれませんが、私は大丈夫です。



Pが止まらない/精霊or準精霊

キュッ……キュ……

 

シャー……

 

とあるホテルの一等室。

シェリ・ムジーカがシャワーを浴びる。

 

「ふぅ……」

さっきまでの嵐、外にいたシェリは当然下着までびしょぬれだった。

温かい湯が、体で跳ね零れていく。

 

「……聞かれて、ないよね……」

シェリが不安げにつぶやいて、手を突き出す。

 

「〈炎魔虚目(セメクト)〉……」

その無銘天使は音もなく、シェリの手に現れた。

虫眼鏡型をした無銘天使はシェリの最強の武器、そして人ではない者の証。

この天使は、この世界に来る前の世界――『第10領域(マルクト)』を生き抜ぬ為の武器だった。

 

「……」

憂い気に自身の無銘天使を見る。

自身は、この道具で沢山のほかの準精霊を殺した。

 

分かるだろうか?この虫眼鏡のレーザーで火達磨にするのだ。

 

『いやぁあああああ!!』

 

「!?」

不意に悲鳴が聞こえた気がして、頭を両手で抑えつける!!

自分の殺した準精霊の声はまだ脳裏に焼き付いている。

自分が燃やした準精霊の肉の焦げる臭いが鼻の奥に残っている。

 

「はぁ……何をやってるんだか……」

自嘲気味にシェリが笑う。

 

何を否定することが有るのか?

他者の悲鳴?肉の焦げる臭い?大いに結構!!

 

第10領域(マルクト)』は戦いの世界。

飢えも疲れも無い世界のただ一つのルールはただ『戦って勝つ』事。

戦わなければ、消えるだけの世界。戦う事だけがシェリの生き残る唯一の方法だった。

そして、それはシェリの性格によく合ったルールだった。

それはこの世界でも変わらないハズだった。

 

「奪って逃げるだけでしょ……今回も……」

何が起きたのか、自分はこの世界にいた。

自分は人間よりは強い存在。力で支配する事は簡単なはずだ。

なんの積りか、自分を助けたあの男を殺し金を奪い、逃げるのは簡単だ。

 

この世界に精霊がたまに現れるのは、少し厄介だがおおむね問題はない。

どうせ、そう遭遇することは無いのだ。

あとはASTとか言うやつに気を付ければいい。

 

キュッ……キュ……

 

蛇口を閉めて、シェリが着替えてから部屋を歩く。

 

「ゲド?もういいのかゲド?」

パソコンで何かをしていた男が振り返った。

自分を拾ったこの男、特に何かをする訳でもない。

ただ、着替えを与え眠る所を与えた酔狂な男。

 

「うん、もう大丈夫……」

後ろ手に、シェリが〈炎魔虚目(セメクト)〉を構える。

 

「そうゲドか、風邪をひいたら大変だったゲドね」

そう言って、頭を撫でてくれる。

今がチャンスだ。〈炎魔虚目(セメクト)〉で――

 

「うん、ありがと……」

結局何もできず、隣を通り過ぎてしまう。

 

「……なんで……今更……」

やりきれないと言いたげな声で、シェリがベットに飛び込んだ。

この世界、この国は優しすぎた。

血を血で洗う、死と戦いと、絶望と悲鳴の中に身を浸しすぎたシェリには、あまりにも優しすぎたのだ。

 

 

 

 

 

時は過ぎ、時刻は18時50分。

旅館の中をペドーがだらりと歩いていた。

その表情は、ひどくけだるげだ。

せっかくの修学旅行だというのに、突然現れた精霊の勝負の審判役になってしまったのだ。

楽しい旅行の最中に、コレでは心労がたまるばかりである。

おまけにフラクシナスと連絡が取れず、現在頼りになるのは令音だけだという。

 

「はぁ……あのシェリって子を攻略したい……

というかスパッツの中に、顔突っ込みたい!!

寧ろあのスパッツをマスクにして一日中かぶっていたい!!」

事情を知らない人も、事情を知ってる人も速攻で通報しそうな独り言をつぶやきながら歩く。

なんの意味があるのか、なぜか女性下着が入ったクレーンゲームが有り、一部男子が熱心にそれを取ろうとしていた。

 

『手に入れるぞ!!俺たちの(パンツ)を!!』

 

『「「「「「「おー!!」」」」」」』

 

 

 

 

 

「はぁ……俺のクラス変態度高くないか……」

変態の筆頭ともいえるペドーが一人ため息をついた。

 

「んあ?」

ペドーの視界の中、二つのオレンジの髪が揺れていた。

間違いなく、あの年増精霊二人だろう。

というか、耶倶矢と目が有った。

 

「……かえるか」

ペドーが小さくそう呟いて、くるっと振り返って去っていこうと――

 

「なんで帰るのよ!?気が付いたわよね!!私と目が有ったわよね!!」

 

「追従。待ってください。なぜかえるのですか」

耶倶矢、さらには夕弦が走って追いかけてきた。

 

「めんどくさそうだからー」

 

「くくく……アレを見てもまだそう言えるかな?」

 

「提示。あれを見せられた男は我慢が出来なくなると言います」

二人の指さす方向。そこには『男』『女』と書かれた青赤2色の暖簾。

そして、夕弦の手にはタオルと着替えの浴衣が。

 

「温泉だったか?」

そういえば、旅館のパンフレットに天然露天温泉がどーのこーの掛かれていた気がする。

 

「なるほど、読めた。お約束のお風呂回というやつか……」

 

「何を言っておるのだ?(棒読み)」

 

「呆然。たまにペドーはよくわからないことを言います(視線そらし)」

二人して、口笛を吹いて誤魔化す。

恐らく、暖簾を入れ替えて一緒に入る等の策略を考えたのだろう。

 

「ふーん?ちょっと前、こっちに来た時と暖簾の位置が逆だな?」

確証を得ないペドーがカマをかけてみることにした。

 

「ぎくぅ!?」

 

「驚愕。そんなことはありません」

二人が激しく反応して見せる。

その態度で応えは十分見えた。

ペドーがため息をついて、そこから立ち去ろうとするが――

 

「あれは!?」

視界の端、ペドーが有る者を見つけクワッと目を見開く!!

 

「ふふふ、そうか……そういう事か!その案、ノッてやるぜ!!」

夕弦の持つ浴衣とタオルを受け取りペドーが風呂場に向かって駆け出した。

 

 

 

 

 

「ふぅ~……景色がいいな~」

シェリが露天風呂に入って、足を伸ばす。

ゲドーがサプライズをすると言って、近くの旅館に突撃することにしたらしい。

シェリもその連れとして連れてこられた。

だが、仕事は無いので許可をもらい風呂に入れてもらえることに成った。

本来まだ風呂に早い時間だ。自分以外の使用者は居ない。

 

「ゲドーのヤツ、ボクを心配しすぎなんだよねー。

ちょっと雨に濡れたくらいでシャワーを浴びさせたり、潮風に当たっただけでワザワザ風呂を貸し切ったり……」

そう言って少々下品だが、浴場の中で泳ぎ始めるシェリ。

少し熱い位のお湯が心地よい。なるほど、シャワーを浴びる以上に良いものがある。

 

がらら……

 

その時シェリの後ろで、扉が開く音がした。

貸し切りと言っていたが、我慢できずに入ってきた人が居るのだろか?

シェリがそちらに目を向けると――

 

「やぁ!確かシェリちゃんだったっけ?意外なトコで会うよね!」

 

「うわぁあああ!!??!?なんで、ここにお前が居るんだ!?」

湯煙の向こうから現れる全裸の男!!

キメ顔をしているが、それ以外は完全に無防備!!

不自然な湯煙と、不自然な逆光のせいで大切な部分は見えていないが、それでも危険!!

 

「なにって、ここ男湯だよ?男が居るのが普通。全裸なのが普通。

ドューユ~アンダースタァン?」

ペドーが八舞によって、暖簾の入れ替えられた女湯(実際は男湯)に入っていくシェリを目撃していた!!

このままでは危ない!!そう思ったペドーがシェリを助けるために、自ら男湯に飛び込んだのだった!!

 

「で、出るから!ボクもう出るから!!」

 

「まぁ、待ちたまえよ。裸の付き合いだよ?

お互いの夢を語り合おうぜ!!」

お湯から出ようとするシェリをガードする様に、ペドーが立ちふさがる!!

 

「んな!?こんなことが許される訳――」

 

「大丈夫、大丈夫。ちっちゃな子が性別の違うお風呂に入ってることってたまに有るからさ!」

 

「それでも――」

 

がららー

 

「オ~ウ!ペドー殿、先にニューヨークしてたんでス~ね!

残念デース、一番風呂入り損ねマーシタ!」

扉が開くと同時に、インチキッポイ日本語を話しながら、マインが風呂に入ってくる。

それと同じようにゾロゾロと3~5人のクラスメイトも入ってくる。

どうやら、言い争ている内に入浴可能時間になったらしい。

 

ざっぱーん!!

 

どんどん増える男の視線に耐えかね、シェリが風呂に飛び込んで身を隠した!!

 

「ヘェイ!そこのキッズ!ニューヨークは静かに!

他の人の事も考えるんデース!」

 

「あ、ごめんなさい……」

シェリがお湯の中に、顔を鼻下まで沈める。

 

「まぁまぁ、マイン。そう目くじら立てるなよ。

小さい時は誰でも間違いを犯すものさ。

さ、一緒に温まろうね?」

そう言ってペドーが湯舟に漬かり、シェリの肩を抱く。

 

「い――!?」

 

「(しーッ、静かに、さっきのみんなの反応……

キミの性別に気が付いていないみたいだな。

幸いお湯は白濁しているし、体のラインが分かんなければ、バレることは無いんじゃないか?

俺がバレない様に協力してやる)」

 

「……うん」

無理やりな感じではあるが、シェリはしぶしぶ了承した。

シェリとて羞恥心が無い訳ではない。

知らない男に体を見られたくないし、頼れるのは悲しい事にこの変態だけだ。

 

「俺の名は五河 士道よろしくな!」

まるで少年誌の主人公の様な、キラキラしたさわやかな顔で自己紹介する。

 

「え?さっきはペドーって――ああ!ペド野郎って事か!」

今更納得したシェリがポンと手を叩く。

わずかに水面で揺れた鍛えられた鍛えられた腕が見えた。

 

「ああ!そういう意味でみんな言ってたのか!」

同じくペドーも手を叩いて、納得の表情を見せる。

 

「気が付いてなかったの?

まぁいいや。ボクはシェリ・ムジーカ……よろしくね」

不承不承と言った感じのシェリとひどく興奮した顔のペドーが手を取り合う。

全裸同士の二人が手堅く握手をする。

 

「おう、よろしく!

さてと……脱出の方法だが、一番手堅いのは全員が風呂から出るのを待つことだな」

 

「それって、どれだけ時間かかる?」

 

「俺の予想ではザッと、2時間!!」

シェリは無言で頭に手を置いた。

 

「だ、大丈夫!俺が付き合ってやるから!お前を一人になんかしない!!」

 

「むしろ一人にしてほしいんだよ!!」

シェリの言葉がむなしく浴場に響き渡った。

 

 

 

隣の女湯にて……

 

『むしろ一人にしてほしいんだよ!!』

隣から聞こえてくるシェリの声に、耶倶矢、夕弦両名が顔を合わせる。

 

「くっそー、失敗じゃない……」

 

「羨望。あの準精霊の位置に夕弦が居れば確実に勝利でしたのに」

酷く落ち着いた感じで夕弦がつぶやく。

 

「ちょっと!あっち男湯よ!?行くつもりなの?」

 

「否定。行くわけありません。耶倶矢とは違い私は思慮深いので」

 

「はぁ!?何よ!く、くくく……まぁいい。ペドーとはいえ、我の色香の前に本来ならケダモノと化していたところよ。

むしろその危機を回避できたと思い、幸運に思うべきだな……」

 

「嘲笑。色香(わら)耶倶矢にそんな物が備わっていると初めて聞きました」

 

「はぁ!?無いわけないでしょ!?スレンダーでモデル体型で――」

 

ぎゃあ!ぎゃぁ!ぎゃあ!!

 

二人がはげしく言い争う。

 

 

 

 

 

「いやー、あの二人仲が良いなー」

 

「あづー……のぼせてきた……」

八舞の二人の声を聴きながら、ペドーがつぶやく。

 

「お?」

シェリの言葉通り、少し彼女は調子が悪いようだった。

仕方ないとペドーが立ち上がり……

 

「なぁ、知ってるか?この女湯、裏の崖からのぞけるらしいぜ?」

近くに居る男子数名に、声をかけた。

 

ざばぁ!

 

数人の男たちが一斉に立ち上がった。

 

「お前たち……男の本能を見せる時だ!!()ち上がれ!!

男たちよ!!エデンはすぐそこだ!!」

 

「「「「「おー!!」」」」」

ペドーの掛け声に、いろいろ溜まっていた男子たちが一斉に旅館の宿のがけ下を目指す!!

 

「おい……簡単に追い払えるんじゃ……ない……か……」

シェリがふらつき、湯舟に倒れる。

 

 

 

 

 

「……ハッ!?ここは!!」

目の前には、ペドーの顔がドアップでこちらを覗き込んでいた!!

目の前わずか数ミリ先にペドー!!

 

「何をする気だ!?」

突発的に、シェリがペドーの鼻を殴る!!

 

「いでぇ!?」

鼻を抑えペドーが涙目になる。

 

「ここは、脱衣所?」

シェリがあたりを見回すと、確かに脱衣所だった。

そして、恐るべきことにさっきまで自分はペドーに膝枕をされていたらしい。

彼の濡れた浴衣の膝が、それを物語っている。

 

「湯あたりしたっぽいから、上がらせて着替えさせといたぞ?」

 

「え……うそ!?」

一瞬呆然とした後、シェリが自身の下半身を抑える!!

鏡で自分の姿を見ると、自身の持ってきていた浴衣だった。

きちんと()()()()()()いる。

その事実にシェリの顔が真っ赤になる!!

 

「ボ、ボクに何かしてないよな!?

ケダモノの本性を現してないよな!?

場合によってはコレだからな!!」

顔を真っ赤にして、微妙に涙目になりながら虫眼鏡を構える。

 

「大丈夫だ。全身を拭いて着替えさせただけだよ?」

 

「!?~~~~ッ」

シェリが体を震わす。

倒れたのは仕方ない、ペドーがわざとやった訳ではないのも分かっている。

だが、見ず知らずの男に自分の体を懇切丁寧に拭いてもらい、着替えまでさせられたのだ。素直に割り切れるハズが無い!!

 

「俺は、強姦魔じゃないんだ。意識を失った子にそんなひどい事はしない!!

幼女を傷つける様な事は絶対にしない!!」

酷くまっすぐした目で、ペドーがシェリの肩をつかんだ。

 

「ペドー……」

真剣なまなざしに、シェリが態度を改める。

 

「ところで、オマエの後ろのそのペットボトルと、何かを絞ったような形をしたタオルはなんだ?」

シェリがペドーの後ろの物を指摘する。

 

「ギクッ!……た、タダのスポーツドリンクだよ?」

 

「へぇ?」

ペドーの後ろのペットボトルの中身は、5分の2ほどの中身が残っている。

その液体は、微妙にだがうっすらと白濁しており何か小さな物が浮いている。

 

「そうだー、用事を思い出したー。俺帰んな――きゃ!?」

 

ジュン!!

 

ペドーの足元、歩こうとした先に10円玉サイズの焦げ跡が付く!!

シェリの〈炎魔虚目(セメクト)〉だ。

 

「ボクも喉が渇いたんだ。それを置いておけよ。

その『シェリ100%』って書かれたジュースをよ!!」

 

「断る!!これは、鑑賞用だ!!

け、決して『湯上りシェリちゃんの汗prpr』とか考えていた訳じゃ――」

 

「燃やせ!〈炎魔虚目(セメクト)〉!!」

 

ジュン!!

 

ペドーの持っていた怪しいペットボトルが、中身ごと焼失した!!

 

「ふふふ……この、このペド野郎は……一瞬でも、見直したボクがバカだったよ!!」

 

「うおー!こうなったら、直接prprしてくれるわ!!」

理性を失ったペドーが襲い掛かる瞬間!!

 

ジりりりりり!!

 

けたたましアラームと共に、スプリンクラーが作動する!!

 

「うわっぷ!?水!!なんで!」

当然ここは、屋内!!シェリの燃やしたペットボトルに反応してスプリンクラーが作動した!!

 

「うっひょ!シェリちゃんのぬれ浴衣サイコー!!

生きててよかったー!!」

 

「見るトコそこかい!!」

ペドーの歓喜とシェリの悲鳴が響き渡った。




シェリのメイン回。いつもよりも大分長くなりました。
サービス?いいえ、違います。作者が書いてて楽しくなりすぎた結果です……

八舞は犠牲となったのだ。幼女の犠牲にな……

次回『悪夢のB/ロリコンの憂鬱』

コレで決まりだ!!

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