手ごわいあの精霊が相手です。
さて、どう攻めるか。
攻略計画第一手
「さてと……どうすっかな?」
自室のリビング。
検査を終えたくるみを自身の膝にのせて、ペドーは試案にふけっていた。
あの後、真那も折紙をASTに回収され、十香をはじめペドーが見捨てた学校のみんなも全員無事が確認された。
唯一の心配は琴理だけ。
「アイツ精霊だったのか……」
緋色の和服に、鬼のような角の飾り。
まるでお姫様にも鬼にも見える炎を纏ったその姿――!
そして、ペドーに向かって振るったその力。あれはまさしく――
「中二病末期……ってわけじゃないよなー」
「ぺどーさん、なにをぶつぶついってますの?」
テレビを見ていたくるみが心配そうに聞いてくる。
「あー、大丈夫だよー?ちょっとした考え事だからねー?」
誤魔化すように、ペドーがテレビに視線を移す。
そこでは主人公のヒーローがピンチに陥っていた。
『ううっ……印籠が汚れて力が出ないよ……』
『印籠マン!!新しい印籠よ!!』
『権力100倍!!!印籠マン!!頭が高いぞ!!下々の者ども!!』
新しい印籠を手に入れ、権力を復活させた印籠マンがセコセコと計画を立ててきた悪党どもをぼっこぼこにする。
「ふぅ、やっぱり今の時代は『才能』『血筋』『権力』だよな~」
友情とか、努力とかがなくなってきた今の時代を嘆きながらペドーが立ち上がる。
「ぺどーさん、どこにいきますの?」
「ん~?幼女を襲いに行くだけだよ?」
「そうですの?おまわりさんにきをつけてくださいませ」
くるみを後にして、インカムを指先でつつく。
「令音さん、琴理に会えますか?」
『ああ、丁度今容体が安定した所さ。庭に出てくれるか?フラクシナスで回収する』
令音の声にペドーが小さく答えた。
空中艦フラクシナス。
その中でもペドーの行ったことのない部屋に琴理はいた。
「よぅ、元気そうだな」
「あら、いらっしゃい」
まるでシェルターの様な厚い壁に覆われたその部屋。
小さな、シンプルな部屋で琴理はミルクティをかき混ぜていた。
「お前、精霊だったんだな?」
「……私は、人間よ……少なくとも私は人間だと思ってる。
けど、数値上はそうじゃないみたい」
自嘲気味に笑う琴理。
優雅にティーカップを持ち上げるが――
グシャカン!!
「あ……」
力の扱いがうまくいかないのか、ティーカップを握りつぶしてしまった。
「ははッ……こりゃぁ、不便ね……」
悲しそうな顔をして、琴理が笑った。
「覚えてる?5年前の同時多発空間震事件」
琴理の言葉に、ペドーがわずかに頭痛を感じる。
その事件は有名だ、何せ自分の住んでいた町もその被害の一つだったからだ。
「あ、ああ……確か俺たちの町と、日本海の方――それもかなり本州に近い場所で大型の空間震が有った事件だろ?
海上の方に、多くの援助者が向かったせいで、こっちの町の救助がおろそかになったっていう――」
「そう、その日。その日私は――精霊になった」
「そして俺は――ロリコンに――」
「そっちはもっと前からでしょ!?」
ペドーの言葉に突っ込む琴理が、机を軽く蹴ると同時に勢いよく吹き飛び壁に当たりティーセットを粉々にした。
「力の制御ができない――壊したいのよ!!
叫んでるの……私の中の私が、壊せって!!殺せって!!」
自らの手を見て、琴理が不安そうに自分自身を抱く。
「大丈夫だ、絶対大丈夫だから――」
「来ないで!!」
近づくペドーを琴理が手で制す。
「今のペドーは簡単に死ぬわよ。私の力に触れたらそれこそ!!」
「そこまでだ!!」
半分叫ぶ琴理に対して、令音が部屋に入ってくる。
そして何かの薬を飲ませる。
「すまない、シン……今日は此処までだ」
令音に連れられ、ペドーが琴理の部屋から出る。
「さてと、今は薬を使っているが、何時まで持つかはわからないな……」
部屋を出た令音がペドーに話す。
「やはり――」
「ああ、そうだ。琴理を攻略して封印するしかない」
「マジか、義理の妹に手を出すとか……背徳感ですごい興奮する……!!」
鼻息を荒くするペドーをみて、令音が冷や汗を流す。
この男は事の重要性を全く理解していないのではないだろうか?そんな不安が来る。
「それにしても、俺の周りって精霊多くありません?
その内折紙が精霊になったり、令音さんも『第ゼロ精霊 零音』とかになったりしません?」
「何を言ってるんだペドー君。
そんな事より二日だ、期限は二日。それまでに琴理を攻略してくれ。
じゃないと、きっと君の知ってる琴理じゃなくなる」
「な、なんだって!?」
令音の言葉にペドーがショックを受ける。
(ふむ、兄妹がそうなると分かれば、仕方ないか……)
令音が落ち込むペドーを見下ろすが……
(俺の知ってる琴理じゃなくなる……つまり積極的でお兄ちゃん大好きな琴理になる可能性が!?
『おにーちゃんすきー、琴理とお風呂入ろー!!私の体でお兄ちゃんを洗ってあげるー!!』
無知シチュ幼女が俺のジャスティス!!いや、待てよ……逆に――すさまじくアグレッシブになる可能性も!?
『はぁい♥お・に・い・ちゃん♥ねぇ?ちっちゃい子が大好きなおにーちゃんはぁ?
私の事ぉ、どぉう思ってるのかな?キャハ☆ケダモノの目してるぅ、こわーい!私何されちゃうのぉ?』
これはコレでありだな!!)
そのイメージは煩悩10000%!!まず考えるのがそこだ!!
そんなペドーを野太い声たちが現実に戻す!!
「ペドーさん!!聞きましたよ!!」
「指令とデートするんですよね!?」
目の前に現れたのは、フラクシナスのメンバーたち。
すべての人員が琴理の為を思って、集まっている事はすぐに分かった。
「みんな……」
「我々は、指令の事を思っています。
その指令が困難に立ち向かっているのであれば、それを救うのが我々の務め!!」
「そうだー!!」
「やるぞー!!」
神無月をはじめ、メンバーたちとペドーが会議室に集まる。
議題は、琴理とのデートプランだ。
「指令のクラスメイトの加奈ちゃんからの情報です。指令は最近携帯アプリの――」
「え?友達を売ったのかよ?」
名も知らぬ子に、ペドーが嫌悪感を覚える。
「ああ、彼女は実はお母さんが知らないおじさんと浮気してまして、夫はそのことにまだ気が付いてないんですけど、その子自身がその男に、母親と別れる代わりに『母親の代理』をすることを持ちかけれれまして――家族と自分、どっちを取るか迷ってるみたいなんですよ……それを援助する約束で情報を貰いました」
「大至急その男の玉を2個ともここへ持ってこい!!」
数名のクルーが、暗殺者の様な恰好をして街中へ向かっていった。
「ペドーさん、何か指令が、以前行きたがっていた場所を知りませんか?
指令は、素直にではないので遠回しのいう事が多いんです。
何気ない日常にヒントが有る筈なんです」
神無月の言葉に、ペドーが数週間前の琴理の言葉を思い出す。
「そう言えば――
『あーあ、偶にはデラックスキッズプレートが食べたいわね』
って」
「普通の会話じゃないですか……」
「いや!!違う!!これは、琴理のメッセージだ!!」
あきれるメンバーに、ペドーが力説する!!
「デラックスキッズプレートが食べたい」→「キッズプレートは子供用、中学生の琴理は食べられない」→「子供なら食べられる」→「おにいちゃん、子作りしよ♥」
「これだぁあああああああ!!!」
「しれぇええええええええ!!なんて大胆なんだぁああ!!!」
「さすがだぁあああああああああ!!!」
ヒートアップする会議室!!
暴徒と化した、メンバーは止まらない!!
ロリコンの体は止まらない!!ロリコンの心は止められない!!
「早速攻略に行ってきます!!」
バッと上着を脱ぎ棄てたペドーが、走ってく!!
「行ってらっしゃいペドーさん!!」
「カメラの数を増やせ!!今すぐにだ!!」
「指令、おめでとうございます!!」
メンバーの声援をうけ、ペドーが走る!!
「琴理ぃ!!」
ビクッ!「ど、どうしたのよペドー!?」
扉を開け、勢いよく入ってきたペドーを見て琴理が固まる。
「琴理……琴理ぃ!!マイスイート、シスタァアア!!
お前の事をずっと愛していた!!!気丈な所も凛とした所もよかった……
けど、ここでは……ここでは俺を独り占めしていいんだぞ?」
「え。えっと!?どうしたの、きゅうに、どっか頭でも――」
「うぉおおおお!!!琴理ぃ!!お前の事……宇宙で誰よりも愛してる」
「ちょ、ちょっと――むぐ!?」
ペドーは琴理の前に、膝立ちになり琴理の頭に手をまわし――そっと自身の唇を彼女の唇に当てがった。
その瞬間、体に暖かいものが流れ込んでくるのがわかる。
もう何度も行ってきた精霊の封印だ。
「え、ちょ、うそでしょ!?」
封印されていることに気が付いた琴理が慌てる!!
「そ、そんな!?ま、まだデートも、してないのにぃいぃぃぃぃぃ!!!」
ペドーとデートに行く約束を楽しみにしてたのに。
封印されてしまえば、その必要はなくなる。
そんなことは琴理が一番よく知ってた。
「よし、封印完了だな」
「ま、待ちなさいよ!!あれくらいで封印できた訳ないでしょ!!
ちゃんと、ちゃんとデートして攻略しなさいよ!!!」
立ち去ろうとするペドーを琴理が必死になって止める。
「えー?もう終わったでしょ?行きたいのデート?」
「い、行きたいに決まっるでしょ!?どんだけ楽しみにしたと――ハッ!!」
自身の唇を抑える琴理。
どうやら自分が何を口走ったか、理解してしまったようだ。
耳まで顔が真っ赤になる。
「ふぅ~ん?琴理は俺とデート行きたいんだぁ?行きたいんだ?」
にやにやしながら、ペドーが笑う。
「い、行きたくないわよ!!そんなの興味なんて――」
ペドーを殴ろうと伸ばした手を、ペドーがつかむ。
「本当にいいの?ねぇ、本当に興味ないの?
チャンスだよ?これが最期かもしれないぜ?」
真剣な顔で、ペドーが琴理の瞳を覗き込む。
「うぐ……そ、そこまで行きたいってなら行ってあげても――」
「んん?そうじゃないだろ?お前はどうしたいかだ?そうだろ?」
「ちょ、調子に乗らないで!!別に封印の必要がないなら――」
最期のプライドとばかりに、琴理がペドーを突き放す。
「そっか、じゃあね?一人ボッチで楽しく過ごしてね?俺は四糸乃とくるみと遊んでくるから~」
手を振り、部屋から出ようとする。
この部屋のロックは琴理を出さない為のロック。
この後検査があるとして、今このタイミングを逃せばしばらくペドーとは会えない。
そのことを知ってか知らずか、ゆっくりゆっくりとペドーは歩いていく。
「ま、待ちなさいよ!!!待ってよ!!」
琴理の声に、扉を開け出ていこうとしたペドーが立ち止まる。
「なに?俺、幼女のイチャ付く系の仕事があって忙しいんだけど?」
「わ、私を……私をデートに連れて行ってください!!」
デートに行きたい!その思いが琴理のプライドをへし折った!!
「よし、じゃ。プランは俺に任しておけ!!」
「うん、デート楽しみにしてるから!!」
笑顔で琴理がペドーを見送った。
この時は年相応の無邪気な顔だった。
暗い部屋、一台のパソコンで折紙が何かを見る。
「……見つけた……炎の精霊……私の両親の……仇!!」
その目に宿るのは怨嗟の炎。折紙が復讐を胸に立ち上がる。
お前は5手で詰む。
1手……むむ?4手早かったな。