原作でのシュザンヌ様、強いなあ……。
私は息を吐いた。出会ってそうそうこの態度はさすがにまずいことをちゃんと理解はしている、だが、どうしても。
アラヤ。
私があなたの奴隷であることは自覚もあるが、なんだってこんな世界へと飛ばしたんだ。いや、それは構わない。構わないんだ。
私の答えではない、あの分霊の答えを私は知っている、そしてそれをなぞったものである。私の英霊としての身本体がこちらへ来ていると考えてよかろう。
そんな私に、この少年の手助けをせよというのだな。
しかし、なぜ私の側にマスターの記憶が流れ込んできていたのかが疑問ではあった。
理解するには情報が足りない。
「ガイ、といったかね」
「おう」
「マスター、ガイ。マスターは、一体何だ?」
「「!」」
その情報は行ってないんだな、とガイは言う。マスターはフッと笑った。
「俺、レプリカなんだ。レプリカっていうのは、フォミクリーっていう技術で作られる、複製品。俺は生体フォミクリーで作られた人間のレプリカ」
「なっ!? 人の命を何だとっ……!」
いかん、つい熱くなった。マスターが自嘲気味に笑った。
ん?
「エミヤ、それでも俺、生まれてよかったって思ってるんだ。エミヤは認められないかもしれないけれど」
「そんなことはない!」
私は慌ててマスターの言葉を否定する。
人工的に作られた命を認めないなんてそんなことはない、私にはそんなことはできないしそもそもする気がない!
「ルーク、大丈夫ですよ。エミヤさんの姉も、ホムンクルスという、人工生命体の一種なんです」
「へっ?」
「ああ、マスター。私はレプリカの命を否定したりしない。生まれた命は皆、否定などされてはならない」
いきなりのことで驚いたものの、我がマスターは人間ではなかった。
だがそんなこと今更だ。
イリヤスフィールや凛、桜を思い出した。
無論、あの出来損ないの私自身も。
「……あり、がと」
ああ、そんな顔をするな。
私が見たのが正しいならば、マスターはまだ7年しか生きていないのだ。そして、死んだのだ。世界を守って。
アラヤ。
私にどうせよというのだ。
私よりもよっぽど彼の方が。ああ、なんて情けない。だが、私の進んだ道よりも、世界が違うとはいえ、彼の方がいいと思ってしまった。だが私は自分が選んだ道を後悔などしていない。もう何も。
「マスター、大丈夫だ。私にはまだ何を手伝えるかはわからん。だが、できる限りの補助を行う」
「うん……あと、ルークでいいよ」
「マスター命令とあらば」
「うーん……命令っていうより、お願い」
「了解した」
凛との会話を思い出した。彼女ともこうだったな。
それからしばらく現状把握のためにギルガメッシュとも情報交換をして、話は終わった。
はずだった。
♢
「まあ、あなたがルークのサーヴァント、なのですね」
「はい。エミヤと申します」
な ぜ こ う な っ た。
私は現在、ルークの母、シュザンヌという女性と面会しているのだが。
「ガイとともに、あなたをルークの世話係に任命します!」
「……謹んで拝命いたします」
な ん で さ。
王族相手ということでこちらが下手に出ているから、ではない。断じて違うのだ。
何かこの女性からは感じてしまうものがある。
そう、なんというか……とても懐かしい感覚だ。
「じゃあルーク、お部屋自由に使っていいからね」
「はーい」
なぜこう、微笑んでいるだけなのに私たちに対しての強制力が強いんだこの女性は。ギルガメッシュも似たような反応してたな、とガイが言っていた。
ラムダス殿と話し合った結果、私は執事服を着ることとなった。
「ぶはっ、エミヤお前執事服似合いすぎだろ!」
「ふむ。だがやはり着慣れている分やりやすそうだ。ルークの護衛は任せるぞ、ガイ」
「任せとけ。ついでだルーク、ヴァンをゆっくり弄り倒そうじゃないか」
「師匠に何するんだよ、ガイ……」
ルークの部屋へと戻り、着替え、小さなルークを見て思った。
私が始まったのも、これくらいの歳だった。
似たような道を進み、得たものが全く違った私とルーク。私の姿を見たら彼はなんというだろうか。
彼の記憶を見て知った。
私には居場所があった。それを自分の意思で捨てて進んだのだ。温かい帰って来るべき場所があったにもかかわらず、顧みず、突き進んで、死んでいったのだ。裏切られて死んだのだ、それ自体に悔いはない、だが、裏切られて、それでもその仲間に縋って進んでいって最後に死んでいった彼は?
世界に死ねと言われた彼は?
死に急ぎだの胸糞悪い自己犠牲精神の塊だの言われていた私ですらこの歳まで生きているのに。彼は幾つだった?
感傷的になるのは、彼がマスターであるせいか。
構わん、悩むな。
私は彼を守ろう。
手段は選ばない。
だからヴァンという人物は私の中では既に敵だ。だがまだ行動を起こしていないのだ。行動を起こした時、引導を渡してやろう。
彼の思念は私に流れ込んでいる。
「ルーク、今一つ問う」
「うん?」
「君は、ヴァンを殺す気はないのかね」
「……うん。俺は、ヴァン先生にも生きていてほしい。まだ、諦めたくは、ないんだ」
諦めが悪いのも、同じか。
ふっ、私と彼を重ねてみるなど失礼極まりないが、似ていると思ってしまった。
私は、私がそんな風に生きるのは別に構わない。
だが、彼にそんな表情をこの先させることを、私自身に許さない。
「ルーク、おかしなことを聞いてしまったようだな。ルークのやりたいことのために私を使ってくれ」
「うん、そうする」
ルークがようやく、笑った。
私はようやく、ほっと息を吐いた。
子供の扱いには慣れない。なんだってこんな役に立ちそうなときにはいないんだ、あの狗は。大馬鹿者、ホットドックでも持って行ってやろうか、嫌がらせに。
「一番役に立ちそうなサーヴァントがここにいなくて何がサーヴァントですか、青いタイツのお兄さん酷いですよね」
子ギルの辛辣な、かつ私も思っていたことを聞いて、私は答えた。
「そう言うな、子ギル。ガイの先ほどの話を鑑みるに、マルクト側にランサーがいる可能性は高い。ルークが最後に生まれるのだろう?」
「ああ」
「うん」
ガイとルークの答えは肯定だった。私は情報を改めて整理する。
「子ギル、少し寂しい思いをさせることになるが、英雄王に代わってくれないか」
「あ、はい」
子ギルにギルガメッシュに代わってもらい、用件を伝える。
「何の用だ、贋作者」
「英雄王、エルキドゥにマルクト側へ行ってもらうことはできるだろうか」
「……貴様、覚悟はあるか……?」
うむ、やはりキレられてしまったな。
「もしもマルクトにクー・フーリンがいる場合、エルキドゥならばしっかり探知もしてくれると思ったのだ。彼はかなりの霊力を持ち合わせているはずだからな」
「それだけか」
「……ルークの記憶にいた、魔物に育てられたという少女が気になった」
「! アリエッタか……」
ほう、あの桃色の髪の少女はアリエッタというのか。
小さなアリア、か。
「アリエッタのこと、どこまで……?」
「……ルークたちを、“ママの仇”と言っているところだ」
「……うん」
ルークとガイは彼女の話を皮切りにこれからすべてが動くという5年後の話をしてくれた。
まず、この世界にあるローレライ教団とその本拠地ダアトについての知識はサポートとして送られてきているので問題ない。
ダアトにいる、導師イオン。彼が5年後、亡くなる。まずそこが問題点らしい。
アリエッタは導師イオンの導師守護役ですぐ傍にずっと居たらしい。だが、5年後、アリエッタはイオンと別れることになる。イオンはその後、レプリカと入れ替わり、オリジナルイオンは死に、7番目のレプリカイオンがルークたちと冒険をし、最終決戦前に、亡くなった。アリエッタは最期までイオンがレプリカと入れ替わったことに気付かず、イオンの死を知らず、そして死んでしまった。
ルークの仲間が殺したらしい。
「ルークは、彼女も救いたいんだな?」
「うん……アリエッタだけじゃないんだ。イオンだって、オリジナルイオンだって、シンクだって! シンクは絶対に、なんとしても、生き延びたいって言わせてやるんだ」
ルークがそう言った時、私は息をのんだ。
ギルガメッシュが私の方をじっと見ていた。
救うことは、命を救うことと考えていた。
違うのだろうか。
ルークを見ていると、たった今会ったばかりだからということ以前に、ずっとずっと、遠くの存在のように思えてきた。
そして理解した。
ルーク、彼は、英雄なのだ。
私のような、正義の味方になりたいと理想を追い求め続けた者の慣れの果てが、思うのだ。
この世界を救った記憶を持つ、これからこの世界を救う者たち。
私は、遠い、煌く世界を見ているかのようだった。
正義の味方と英雄。
戻れなかった温かい居場所。
贋作品と複製品。
借り物の夢と押し付けられた責任。
背負ったのは世界。
結構エミヤとルークは似てるところがあると思います。
この主従、ちゃんと幸せになってくれるかな……
作者は槍弓コンビとアシュルクガイトリオが仲が良ければこいつらは救われると思っている。精神面だけの話。
肉体的に救われないからレプリカって怖いんですよね。