Fate of the ABYSS   作:黄昏翠玉

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やらかしてます。
逆行してくる人を当ててみてくださいw


ルークとナタリア

僕です、子ギルです。

無事に何とかガイ、マリィベルさん、ペールさんの3人を公爵家へ入れることに成功しました。

大きい方だったらたぶん無理だったろうなー。僕あんまり戦わないから、ペールさんいてほんとによかったなー。

 

しばらく働いていたから、それなりの常識はあの慢心王の方も持っている――いや、そもそも英霊本体が来ているからちょっと違うんだけれど。

まあ、この世界で過ごすのはとても楽しいのだけれど、デジカメないんですかね。分霊じゃないからいいけど、世界を渡っても大丈夫という確信はないし。ガイア、応えてくださいよ。

 

ルークとナタリアはガイの丁寧な対応に、何かが違う、と首を傾げていたのだけれど、それをガイに報告したら、その話をちょっと聞いてみたいなあ、とガイは言った。

その結果、設けられたのが、今日のお茶会なのだけれど。

 

「……ええと。ギルガメッシュ、です」

「初めまして、ギルガメッシュ。ギルとお呼びしてもよろしいでしょうか?」

「はい」

「……」

 

僕、これでも王様なんですよ。

慢心王だと確実にオールフォーワンとか言い出すから。

ナタリア、そしてルークと呼ぶようにと言われた。僕はギルと呼ばれることになった。

 

お茶会にはガイも出席しているのだけれど、ガイはルークとナタリアから何か相談を受けていたようだ。

 

「ルーク、ナタリア、あれから夢は変なのとか見たか?」

「そう、そのことについてのことなのですけれど、随分と生々しいものだったんですの」

「ルークもか?」

「……ああ」

 

彼らによると、ガイに最初相談していた夢は、今ぐらいの年齢の自分たちのことを夢に見ていたのだと言う。

 

僕も、ガイの記憶を夢として見ている。サーヴァント側の記憶をマスターが見ることはあるけれど、まさかサーヴァント側がマスター側の記憶を見るとは、なんて思っていたけれど、今ならわかる。

 

おそらく、彼らは英雄だったのだ。

しかも、それを認められない英雄だったのだ。

ガイの記憶に鮮烈に残る、朱と紅。短い朱の髪と、長い紅の髪。その内の片割れ、紅の髪の持ち主は、この、ルークだ。

でも、朱の髪の方をガイはルークと呼んだ。紅の方をアッシュと呼んだ。

 

アッシュは記憶で見るだけでもわかる、死んでいた。

そしてこの感覚を僕らはよく知っている。

そう――ルークは、帰ってこなかったんだ。

死んだのは、ルークの方だったのだ。

 

一瞬、大きい方の僕が、ざわめいた。エルキドゥが死んだときのことを思い出したのだろう。彼は半身とも呼べる親友を、神々の恨み辛みで亡くしてしまったのだから。

 

そのころ僕の意識はまだなかった。だって大きい方の僕は、宝具を使ってくれなかったんだもの。

 

「僕も実は、妙な夢をみます」

「まあ。ギルもでしたの?」

「……うん、僕は、この夢を、ガイの視点で見ているんだ」

 

僕側から言ってみる。ルークが目を細めた。

 

「俺は気味が悪かった。目の前に死んだ自分がいるんだからな」

「!」

 

まずいんじゃないか、とガイが心の内で叫ぶのが分かった。

 

「……私は、誰かを誰かと見送っている夢でした。ガイがいたのはよく覚えていますわ」

 

僕はガイから何も聞いていない。でも、ガイの表情は険しかった。それだけでよく分かった。ガイは“前回”から来ている。この2人は逆行はしていない。

けれど、2人は、夢として、最後の場面を見ているのだ。

 

「……ああ、そういえば、夢の中のガイは、女性恐怖症だったんですのよ」

「……あ、はは」

「そういやそうだったな。……ガイ、ここだけでの話として、聞き流せ」

 

ナタリアの言葉に、ガイは苦笑していた。そこでルークが少し声を潜めた。

 

「ガイ、お前、マルクトの貴族だったのか?」

「……まあな」

「「!!」」

 

ホド戦争のことはまだ記憶に新しい。2人は一気に身を強張らせた。けれど、問題はない。ガイがガルディオス家の人間であり、住む場所もないのであるからいとこのジョゼットのセシル家を頼ってきたが、セシル家もお取り潰しになってしまった、という事情を、公爵夫人の方に通してあるためだ。

 

「ルーク、ナタリア、黙ってて悪かったな。でも、ほら。ホド戦争、まだ記憶に新しいから」

「……ああ」

「ええ……」

 

ガイの言葉に事情を察したルークとナタリアは不器用にも、笑った。

 

「この夢、正夢みたいであんまり気分良くねえな」

「そう、ですわね。でも、本当だったら、私……この、赤いひよこさんみたいな方に、会っていませんわ」

 

それはこれから生まれるからな、って。

ガイは、言いたかったはずだ。

これから俺が育てなくちゃいけない、攫われたルークの代わりをさせられる、何も知らない幼い子。外見だけはいっちょ前で、中身はただの赤ん坊。

 

同じ夢を別の人視点で見るなんて、こんなおかしな夢があるだろうか。

でもナタリアとルークは、僕を見て、言った。

 

「でもきっと違うものになってくれるはずだ」

「ええ、きっとそうですわ。だって、夢の中では、ガイがそんな立場だってことは知らなくって、ギルは居もしなかったのですもの」

 

それと、マリーもな、といって、2人は笑った。ガイが冷めてしまった紅茶を淹れ直す。無茶言うなっていうかもしれないけど、エミヤの方が上手い。エミヤの紅茶飲み慣れすぎたかもしれないよ。まだ味を覚えているだなんて。

 

「でもそれだと、ヴァンって敵じゃないか」

「私、もしかしてお父様と血の繋がりが……」

「ヴァンは敵でいい。ナタリア、養子って親子じゃないのか?」

 

素早いガイのフォローに、ルークは納得、ナタリアは目を見開いた。

 

「ヴァンには懐かねえようにしとく……」

「……養子は、確かに親子ですわ。でも、王族が……」

「……じゃあ、ナタリア。娘として11年育ててくれたインゴベルト陛下は? 父親じゃないのか?」

「そんなことありませんわ!」

 

ナタリアのはっきりした言葉に、ガイは満足そうに笑った。

 

「なら大丈夫だろ。さっさと解決してこいよ。俺たちの知ってるナタリアは、ナタリアしかいないんだからさ」

 

 

 

 

 

「おい、ギル」

「なに、ルーク」

「……お前は、何者だ?」

 

ルークの問いかけに、僕は小さく笑って、宝具を解く。

 

「僕は、サーヴァント。ガイのサーヴァントだよ」

 

そして、大きい方の僕に入れ替わる。おや、エルキドゥもいるじゃないか。

 

――ふん。今更代わりおって。まあいい。あの雑種の夢で見たものはこちらとしても憤りを覚えるには十分すぎた。そして、彼奴が己をその上で英雄と称賛されることに甘んじたならば、そのようなマスターは願い下げ、殺してでも離れようとしたことだろう。

 

「我はギルガメッシュ。先ほどのものとは人格そのものが異なるが、同じ英霊だ。まあ、我が本体であるがな」

「その口調で納得した。ようは、周りに打ち解けやすい人格を出していた。そうだな?」

「頭が回るようだな、焔の灰」

「!」

 

アッシュ、未来ではそう呼ばれるらしいこいつに、ちょっとした意趣返しをしてやる。雑種とは呼ばん。だが道化でもない。我がルークと呼ぶのは、あの髪の短い、本物の英雄の方だ。奴ならば、やり方こそ違えども、贋作者と同じように、胸糞悪い、無我夢中で駆け抜ける人生であり、時間が圧倒的に足りなかったとしても、それでも英雄なのである。

 

英雄王と呼ばれた我の前に立つことを許せるのは、こやつではない。故に、我はこやつを灰と呼ぶ。燃えカスで十分である、夢に出てくるような、八つ当たりを年甲斐もなく生まれて10も数えぬ子供に押し付けた愚か者。我は今マスターとしているこの愚か者も嫌いだ。見限ったとしか言いようのない姿を晒し、簡単に手の平を返す下らぬ雑種だ。だが、憎しみを抱きながらもあの英雄を育てようとした、育てた、道化である。故に我はまだこの者を見限りはせん。

 

まあ、小さい方の我が、この2人を愚か者にせぬためにいろいろ頑張ってきたのだがな。

何より、焔の灰は時たまこの屋敷から出ていくことがある。ベルケンドとやらに行っているらしいが、人体実験か。下らん。

超振動?

サーヴァントの身体はどういうものなのだろうな?

もしかすると、超振動で崩壊させられても復活するやもしれんぞ?

 

ふむ。

一瞬あの青い駄犬を思い浮かべたが、奴は確か、ひどく人間の扱いが上手かった――正しくは、おそらく奴のこざっぱりした性格と物言いのためだろうが、参考にするには丁度よかろう。

 

「焔の灰よ、我が貴様を見捨てた時には貴様を雑種と呼んでやるわ。それと――」

「……?」

 

焔の灰は、眉間にしわを寄せていたが、我を見上げた。

 

「化け物が貴様だけであると思うでないわ。我は貴様らの“譜術”とやらは痛くも痒くもないと言っておいてやる。ふむ、貴様がこれくらい使えるようになったら相手してやろう」

 

我はずっと喋らずに待ってくれているエルキドゥを見た。エルキドゥはどうやら身体をこちらの世界に合わせて最適化されたらしく、譜術が使える。

 

「うん!」

 

エルキドゥが詠唱を始める。

 

「これはエルキドゥ。我が親友にして、神々に作られた土人形だったものだ」

 

たったその説明の言葉のあとに、放たれた。

 

「サンダーブレード」

 

的に一体何を使ったのやらと思っていたが、どこから来たのやら、鳥の羽を消し炭にしたらしかった。

 

「なっ……!」

「エルキドゥ、やり過ぎだ!」

「えー、でも威力見せるならこれでしょ?」

「そりゃそうだが!」

 

焔の灰は唖然としていた。ガイの叱責、その他音に慌てて駆け付けたシュザンヌやらその夫やら、白い雑種の集まりやら。だが、エルキドゥが出ているのを見て事情を理解したらしいシュザンヌが笑みを浮かべ、全員お咎め無しの上、きっちり詳しく話を聞かせよとのことだった。

 

シュザンヌに対して腰が低い?

ないない、我は英雄王ギルガメッシュであるぞ。

 

まあ、数日後、手紙を残して焔の灰は消えた。それを読んで、我は思った。

焔の光の横に立つことくらいは、許してやらんこともない、と。

 

 

 

『俺に片割れが生まれるというのなら、とりあえずあの夢を正夢にしないようにする。でも、会ってみたい。灰と呼ぶがいい、ギルガメッシュ。第六譜石の俺の関わる秘預言を知った。俺はまだ死にたくない。あいつを糾弾しない。あいつなら預言から外れることができるかもしれない。望みを託す。俺は表面上ヴァンの側に着く。ガイ、ナタリア、後は頼む。半身にはガーネットのペンダントを渡しておきます。

 

追伸

父上。人体実験に嫌気がさしたのでダアトに逃げます。俺の半身をないがしろにしたらファブレ家へ戻りませんからね。

ルーク・フォン・ファブレ 未来名 アッシュ』

 




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